残業代コラム

退職後に未払い残業代請求を検討する際の注意点とは?

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会社を退職した後、「一生懸命働いてきたけど、よく考えたら残業代はほとんどでなかった」「それなりに残業もして会社の売上に貢献したつもりだけど、退職して振り返ってみると残業代はまったく払ってもらえなかった」など、退職後にこれまでの会社の残業代のあり方に対し、疑問や不満がこみ上げてくる方も多くいるのではないでしょうか。

同時に、退職前に残業代請求の準備をせず退職しているので、残業代請求できないのでは?と不安に思う方がいるかもしれません。

当事務所では、多くの場合退職後に残業代請求を行っており、退職後に前職の会社に対して残業代請求することは可能です。ただし、事前の準備がなく退職後に思い立って残業代請求を検討し始めたケースでは、時効の問題をはじめ、いくつかの注意点もあります。

ここでは、退職後に残業代請求を決意された方に向けて、準備すべきことや注意点について解説します。

この記事の内容

退職後の残業代請求でもっとも注意すべき点は「時効」

残業代を請求するにあたり、最も注意しなければならないのは、残業代請求権が時効にかからないうちに請求を行うことです。

残業代請求権は、請求できる日から3年で時効にかかります。毎月の給料日が過ぎるたびに、3年前の同じ月の残業代が消滅してしまうのです。例えば、令和6年4月の給料日が経過すると、令和3年4月に支払われるべきだった残業代が消滅してしまいます。

そのため、特に勤続年数が3年以上の方は、早めに残業代請求をすることが望ましいといえます。

3年以上お勤めだった方に、月5万円の未払残業代が発生しているケースで考えてみます。退職後最初の給料日が来る前に請求を行った場合、5万円×36か月=180万円の残業代が請求できます。対して、退職から1年後に請求できる金額は、5万円×24か月=120万円となります。残業時間が同じでも、請求する時期で大きな金額の差が生じるのです。

催告で時効がストップできるのは6か月間

残業代請求権が時効にかかることを防ぐ(時効の完成を猶予する)方法の1つとして、「催告」を行う方法があります。内容証明郵便などを用いて、会社に請求を行う方法が一般的です。

催告は、裁判などに比べて簡便に時効をストップできる方法です。もっとも、催告によって時効をストップさせられる期間は6か月間のみです。この6か月のうちに示談合意をするか、裁判や労働審判などの時効を更新できる手続きをとらなければ、6か月分の残業代請求権が一気に消滅してしまいます。

ご自身で内容証明郵便を送って請求をしたという場合には、再び時効が進行する前に、早めに弁護士に相談することをおすすめします。

残業代請求で重要になるのは「証拠」

残業代請求では、何よりも「残業したこと」、つまり、1日8時間・週40時間を超えて働いた時間が何時間あったのかを証明できる証拠が重要になります。

実際に働いた労働時間がわかる証拠としては、タイムカード、運送業のタコグラフ、時間を記録した日報や週報、PCのログといったものが代表的です。

労働時間以外の証拠で必要なものとしては、労働条件を知るための労働条件通知書や就業規則、残業代の単価を割り出すための給与規程、給与明細、賃金台帳などが代表的です。

弁護士による開示請求

「会社には証拠があるけれど、自分の手元にはない・一部しかない」という場合、弁護士から会社に開示を要求し、資料を出してもらう方法があります。

弁護士が請求しても開示を拒否される場合には、裁判の中で証拠開示を求めていくことになります。裁判官から提出を促してもらうことで、交渉では開示されなかった証拠が提出されることも多くあります。なおも会社が開示を拒否する場合には、裁判所から「文書提出命令」を出してもらい、証拠の提出を強制することも可能です。

また、裁判を待っていたのでは、証拠を廃棄されたり隠されたりするリスクが高い場合には、「証拠保全」という予め証拠を開示させる裁判所の手続きを取ることもできます。

ただ、裁判対応や証拠保全対応をご自身で行うことは大変ですので、一度弁護士に相談されることをおすすめします。

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残業代請求で必要となる証拠について

証拠収集の状況により、残業代請求が難しいケースもある

「自分の手元に証拠はないが、会社には残っている」という場合には、証拠を確保して残業代請求を行うことが可能です。

一方で、実際に働いた時間についての証拠がそもそも存在しない・弱い証拠しかないという場合には、残業代請求が難しいこともあります。

会社によっては、働いている人の労働時間の管理を全く行っておらず、タイムカードや日報などがはじめから存在しない場合もあります。また、タイムカードはあるけれど、退勤打刻を押してからサービス残業をしており、実際に働いた時間が反映されていないといったこともあります。これらのケースでは、残業時間の証明が困難なことが多いです。

労働者自身の手控えのメモや日記なども証拠にならないことはありません。もっとも、労働者側だけで作成できるものは、証拠としての力が弱く、記録された時間がそのまま残業時間として認定してもらえない可能性が高くなります。

退職後の残業代請求の流れについて

残業代を請求する場合、交渉のはじめに内容証明郵便での請求を行うことが一般的です。これにより、6か月間時効をストップされるとともに、資料の開示を求めます。

会社が資料開示に応じた場合には、資料に基づいて残業代の具体的な金額を計算し、交渉を行います。時効が再び進行し始める6か月以内に合意ができる場合には、示談を成立させ、会社から残業代を支払ってもらいます。

合意がまとまらない場合や、そもそも会社が請求を無視したり、資料開示を拒否する場合には、交渉は不成立となります。この場合、労働審判や裁判を起こして残業代を請求します。裁判所の手続きの中で裁判官主導の和解がまとまるケースも多くあります。和解ができない場合には、裁判所に判決(労働審判であれば審判)を出してもらって、残業代の支払いを命じてもらいます。支払いを命じる判決が出ても会社が残業代を支払ってくれなければ、差押えなどの強制執行の手続きによって、支払いを確保することが必要です。

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未払い残業代請求の解決に向けた流れ

退職後に思い立っての残業代請求は早めに弁護士に相談する

残業代は退職後早めに請求しなければ、時効にかかって消えてしまいます。

また、労働者自身で残業代を請求しても、誠実に対応してくれる会社は残念ながら多くないのが実情です。

弁護士が代理人になれば、適時に時効の対応がとれますし、訴訟も見据えながら適切に交渉を進めていくことができます。

退職後に残業代を請求しようと思い立ったら、早めに弁護士に相談するようにしましょう。

未払い残業代の請求は弁護士へご相談ください

初回相談は無料です

この記事の監修

三浦 知草

Chigusa Miura

  • 弁護士
  • 上野法律事務所
  • 東京弁護士会所属

これまで多くの方から残業代に関する相談を受けてきましたが、会社の勤務体系に関する仕組みはおかしいと感じつつ、在職中は長時間労働に耐えてきたという方が多くいらっしゃいました。本来残業代は働いた対価として受け取るべき正当な権利です。弁護士として未払い残業代の回収に向けて徹底対応しますので、ご自身にも未払い残業代があるかもしれないと感じる場合にはご相談いただければと思います。

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