事務職における未払い残業代請求に向けた準備について

事務職は、業種によってさまざまな形態があり、一般的なものとしては、人事・労務や総務が挙げられます。専門分野の事務として、経理・会計事務、営業事務、医療事務や法律事務などがあり、その他にも、受付や秘書、データ入力オペレーターやコールセンターなどがあります。

事務職は、比較的残業も少なく定時もしくはそれに近い時間で退社でき、デスクワークが中心となるので重労働のイメージもないため、安心して働ける業種という印象があるかもしれません。実際多くの事務職の方が、無理のないかたちで勤務できているかと思います。

しかし、大企業であれば同じ事務所でも総務や経理、人事など、部署が明確に分かれているものが、中小企業ではこうした一般事務全般を担うケースもあり、複数取り扱うかたちになると日常的に残業が発生する可能性もあります。

ここでは、比較的残業が少ないと言われている、事務職における残業状況や残業代請求に向けたポイントについて解説します。

この記事の内容

事務職で未払い残業代回収に向けての有効な証拠とは?

事務職は比較的残業が少なく、多いときでも1日1時間程度の残業があるかないかという事務職の方もいると思いますが、季節的要因や月末などによる一時的な繁忙であったり、慢性的な人手不足による常態的な残業をされているケースもあります。

事務職で残業が常態化しているようなケースで残業代が未払いになっている場合、過去の残業代を回収するにはどのような証拠の収集が必要になるか、具体的な内容をお伝えします。

タイムカードをはじめとした出退勤の記録

タイムカードは出退勤を明確に記録しますので、一斉打刻などの悪質な運用がなければ、残業の状況を確認する上で重要な証拠となります。可能な限り控えをとっておきましょう。

特に事務所の場合、ICカード等を利用した勤怠管理システムを利用しているケースも多く、こうしたデータによる出退勤の記録は、残業の状況を確認する上で重要な証拠となります。可能な限りデータの控えをとっておきましょう。

その他、webブラウザ上で出退勤の記録をとり、システム管理している企業も多く見られます。出退勤記録のデータや画像キャプチャなどのデータは、きちんと保管するように努めてください。

就業規則・雇用契約書

ご自身が勤務されている会社の就業規則と雇用契約書には、給与及び雇用形態が記載されており、時間外労働に関する手当内容が記されていることもあるため、未払い残業代を割り出す上で重要な資料となります。

パソコンのログ記録

事務職では多くの方がパソコンを使用しての業務が中心となっており、テレワークなどご自宅で業務される場面も多いことから、パソコンのログ記録も重要な証拠となります。

打刻後に業務を行っていても、パソコンのログ記録は残りますので、残業実態を示す有効な証拠となります。

メールやチャットの送受信履歴

業務に関する会社内での情報共有や、企業や顧客との取引に関するメールやチャットの発信など、時間の記録が残りますので、残業の証拠となります。

実労働時間を記録したメモ

事務職においては、営業職と違いこうした記録を手帳などにつける習慣はないと思いますが、人員不足などで残業が常態化し、残業代が未払いになっている状況であれば、ご自身でも退勤の記録をメモし、そのときの業務状況などの詳細も記載しておくとよいでしょう。

ただし、記入した出退勤時間が正確であること、記録を行った日時が客観的に明らかであることが必要です。後からまとめて出退勤時刻を手書きするような方法では、証拠になりません。

ここまでお伝えした資料を準備しておくことで、残業時間をきちんと把握することにもつながり、未払いとなっている残業代も正確に割り出すことができます。

近年は事務職でも、ここまで述べてきた証拠資料についてデータで管理していることが多く、面倒でも勤務時間の一覧データなどを画像キャプチャで保存し、データを残すようにしましょう。

事務職における残業の状況について

事務職においては、残業がほとんど発生せずワーク・ライフ・バランスのとれた企業もある反面、人手不足を補うため、他部署との兼任で残業が多く発生している事務職の方もおります。事務職においてはどのような状況で残業が発生しているのでしょうか。

季節事由や月の中での繁忙期(月末・月初)に残業が発生している

企業が取り扱っている商品特性により特定の時期に繁忙期がある、営業に関する受発注や経理上の都合による毎月の月末・月初に残業が増えるなど、事務職でも会社により残業の状況はさまざまです。

会社の事情による一時的な時期に残業が集中するだけでしたら、大きな問題にはなりませんが、残業代が支払われていないようでしたら未払い残業代として請求できる可能性があります。

事務職であれば、裁量労働制などの特殊な雇用契約を結んでいるケースはほとんどないと思いますので、労働条件通知書や雇用契約書を確認し、残業代が未払いで退職を機に回収したいとお考えでしたら、弁護士へご相談されることをおすすめします。

人手不足により事務職以外の業務を兼任しているため残業が発生している

中小企業で多い事例ですが、会社の雑務全般をはじめ、他部署の応援や兼務により、事務全般だけではなく、オールラウンドに業務対応している事務職の方もおります。

こうしたケースでは、他部署の業務状況により残業が集中することもあり、事務職とはいえ残業が常態化してしまう可能性があります。

事務職とは別の部署の業務を行うことから、企業によっては職務手当や職能手当などの支給でカバーしていることもありますが、こうした手当に残業代が含まれていることもあります。

残業代が支給されず、職務・職能手当などの手当に残業代が含まれていると主張されたら注意が必要です。

職務手当に残業代を含むことは問題ないのですが、いくらでも残業をさせてよいわけではありません。手当を上回る残業をしている場合は、残業代を請求できる可能性があります。

人手不足で残業が常態化しているにも関わらず残業代が支給されない、職務手当など、何らかの手当に残業代が含まれていると言われたが、残業代としては明らかに足りていないなど、残業代のあり方に不満や不信感がある、残業代が未払いで退職を機に回収したいとお考えでしたら、弁護士へご相談されることをおすすめします。

雑務的な業務がサービス残業になっている

事務職の方のなかには、始業前や終業後に、事務所内や事務所回りの掃除やゴミの処理をはじめとした雑務を行う方もいるかと思います。こうした業務が就労時間に含まれず、サービス残業になっているようでしたら、対応している時間の記録をとり、チェックされることをおすすめします。

毎日15分程度のことだからと気に留めない方もおりますが、2年3年と続けば残業代としては予想以上の金額となる可能性もあります。

事務職で未払い残業代の請求を検討している方は弁護士へ相談をする

冒頭でも触れましたが、事務職は業種によってさまざまな形態があり、業務多忙な時期もまちまちです。一時的に残業が多く発生したり、平均して残業がほとんどなかったり、月末・月初は残業が発生するが、月中旬は残業がほとんどないなど、形態により残業の状況も異なります。

コロナ禍により、事務職においてもテレワーク勤務が行われるケースも出てきましたが、特に介護・病院で業務に携わる事務職の方は、感染に最大限の注意を払いながら緊張感のある状況下で業務にあたることが日常的となり、仕事量も増え、残業が多く発生している業種もあるかと思います。

事務職においては特殊な雇用契約を結んでいることも少ないため、時間外労働をしたら、その時間にあわせて残業代が支給されていれば大きな問題にはなりにくいと思います。

しかし、事務職でも残業代が未払いになっている、何らかの手当で補填されているが、残業時間を考えると内容が見合わないなど、疑問・不満に感じることがあれば、今後の対応を検討してよいかもしれません。

未払い残業代の請求については、ご本人で行うこともできますが、会社側が前向きに対応してくることはまれです。また、在職中の残業代請求は、会社側との関係性が悪化する恐れもあり、正当な要求であってもトラブルになることがあります。

そのため、未払い残業代の請求は、退職前に証拠集めの準備を進めておき、退職後に未払い残業代を請求する流れが多くなっています。

なお、弁護士を代理人に立てて残業代請求を行えば、会社側は無視しづらくなるため、ご自身で対処するより適切な残業代の回収・交渉を進めることができます。

事務職の方で、未払い残業代を請求したいと考えているときは、まず弁護士へ相談し、依頼をするべきかどうかを含め、検討されることをおすすめします。

未払い残業代の請求は弁護士へご相談ください

初回相談は無料です

この記事の監修

小湊 敬祐

Keisuke Kominato

  • 弁護士
  • 上野法律事務所
  • 東京弁護士会所属

働き方改革やテレワークの導入による在宅勤務など、社会情勢の変化により企業の残業に対する姿勢が変化しつつあります。一方で、慢性的な人手不足により、残業が常態化している企業もあり、悪質なケースでは、残業代の支給がされていないこともあります。ご依頼者の働きが正当に評価されるよう、未払いとなっている残業代の回収を目指し、活動を行っています。

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