残業代は、給与明細では「残業手当」や「時間外手当」と記載されています。給与明細を見て「残業代が出てる・出てない」と思うことはあっても、実際にそれが正しい金額なのか、計算して確かめたことのある人は少ないのではないでしょうか。
1日の法定労働時間は、原則として8時間(週40時間)ですので、これを超えると時間外労働、つまり残業時間として割増賃金(残業代)が発生します。
残業代の計算は、企業の労働条件や就業規則などで異なるため、厳密に行う場合は弁護士などの専門家にお願いする必要もありますが、ここでは基本的な残業代の計算方法について解説しますので、ご自身のおおよその残業代を計算してみましょう。
残業代の概算を割り出すには、上記イラストの式(残業代=残業時間×1時間あたりの基礎賃金×割増率)を用いて計算することで、おおよその残業代を算出することができます。
先の計算式にあった基礎賃金とは、月給から通勤手当や住宅手当などの諸手当や賞与を引いたものを指します。ご自身の月給にどのような手当がついているのかは、給与明細を見るとわかります。
1時間あたりの基礎賃金は、1か月の基礎賃金を1か月の所定労働時間(1日の労働時間×1か月の労働日数)で割ると、おおよその金額が算出できます。
厳密には、月によって日数や土日祝日の数が異なるため、計算する月によって労働時間が異なります。法律上、正確に計算する場合は、1か月の所定労働時間を1年の平均から求めます。
それでは、「月給25万円、1日8時間労働、年間休日数119日」の方を例に挙げて、実際に1時間あたりの基礎賃金を計算してみましょう。
まず、1年間の労働日数を算出します。
1年間の労働日数が246日と算出できましたので、次に1年間の労働時間を算出します。
1年間の所定労働時間が1968時間と算出できましたので、次は1か月の所定労働時間を算出します。
1か月の所定労働時間が164時間と算出できましたので、最後に1時間あたりの基礎賃金を算出します。
このように、まずは1時間あたりの基礎賃金を算出します。
1日8時間、週に40時間以内に収まる残業にはその分の基礎賃金が発生します。しかし、それを超えた残業の場合には割増賃金が発生します。また、深夜帯や休日出勤などの労働では割増率が異なります。
割増率は、労働基準法で最低基準が決められています。就業規則に上回る割増率が記載されている場合は、就業規則に準じます。
ただし、就業規則が労働基準法を下回る場合は無効となり、労働基準法に準じることになります。
法定時間外労働で深夜、休日に及んだ場合や休日出勤が深夜に及んだ場合など、重複した場合は、基本的に割増率を合算します。
ただし、休日労働と時間外労働は合算されず、休日労働分のみの割増率となります。
残業時間が合計して月60時間を超えると、超えた時間の割増率は50%になります。ただし、中小企業は2023年3月31日までは割増率が25%ですが、2023年4月1日からは50%に引き上げられます。
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ここではAさんの実例を用いて、実際の残業代を算出してみましょう。
この勤務実態をもとに、残業代を計算してみましょう。まず、法定時間外労働の内訳を整理します。
上記内訳をもとにそれぞれの残業代を次の計算式にあてはめて算出します。
残業時間×1時間あたりの基礎賃金×割増率=残業代
法定時間外労働(25%割増)/13時間
法定時間外労働(割増率25%)13時間×1,524円×1.25=24,765円
法定時間外労働+深夜労働(50%割増)/1時間
法定時間外労働+深夜労働(割増率50%)1時間×1,524円×1.5=2,286円
休日労働(35%割増)/5時間
休日労働(割増率35%)5時間×1,524円×1.35=10,287円
Aさんの1週間の勤務実態を踏まえたそれぞれの残業代を合計します。
24,765円+2,286円+10,287円=37,338円
つまり、Aさんの1週間の正確な残業代は37,338円となります。
変形労働時間制は、土日出勤の多い仕事や繁忙期と閑散期のある職種で導入されている勤務形態です。
1か月単位や1年単位で労働時間を考える変形労働時間制の場合は、以下のような労働時間の上限があり、それを超えると法定時間外労働として割増賃金が発生します。
また、年単位であっても月単位であっても、週の労働時間が40時間を超えた場合は割増賃金が発生します。さらに、深夜帯や法定休日に労働した場合は、それぞれ深夜労働、休日労働となり、割増賃金が発生することになります。
変形労働時間制の有効性、残業代の計算方法は、非常に複雑になるため、必ず弁護士に相談してください。
1か月の日数31日 | 法定労働時間の上限177.1時間 |
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1か月の日数30日 | 法定労働時間の上限171.4時間 |
1か月の日数29日(うるう年の2月) | 法定労働時間の上限165.7時間 |
1か月の日数28日(2月) | 法定労働時間の上限160時間 |
1年の日数365日 | 法定労働時間の上限2085.7時間 |
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1年の日数366日(うるう年) | 法定労働時間の上限2091.4時間 |
1年あたりの労働日数 | 280日(年間休日85日) |
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1日あたりの労働時間 | 10時間まで |
1週間あたりの労働時間 | 52時間まで |
原則連続で労働できる日数 | 6日 |
従業員自身が出社時刻と退社時刻を決めることのできるフレックスタイム制も、変形労働制のひとつといえます。フレックスタイム制の場合も1か月単位で上限が定められています。
これを超えた場合は時間外労働として割増賃金が発生します。また、深夜帯や法定休日に労働した場合はそれぞれ深夜労働、休日労働となり、割増賃金が発生します。
1か月の日数31日 | 法定労働時間の上限177.1時間 |
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1か月の日数30日 | 法定労働時間の上限171.4時間 |
1か月の日数29日(うるう年の2月) | 法定労働時間の上限165.7時間 |
1か月の日数28日(2月) | 法定労働時間の上限160時間 |
年俸制の場合の残業代は、最初に説明した「残業代の基本公式/残業代=残業時間×1時間あたりの基礎賃金×割増率」で算出することができます。
年俸制の場合、賞与や手当などを除いた年俸を1年間の労働時間で割ると、1時間あたりの基礎賃金がわかります。
年俸に残業代が含まれていることが明らかである場合、実際に残業を行った時間が年俸に含まれている残業時間を超えた場合には、別途残業代が発生します。
また、深夜帯や法定休日に労働した場合は、それぞれ深夜労働、休日労働となり、割増賃金が発生します。
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実際の残業代を計算し、ご自身の未払い残業代がどの程度になるかを確認することは、残業代を請求するうえで大切な作業となります。
当事務所ではおおまかな残業代がわかる「webで簡単!残業代の簡易計算」ページで簡易計算を行うこともできます。
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未払いになっている残業代を会社に請求する場合、残業時間を明確に割り出し、割り出した残業時間をもとに残業代を計算する必要があります。
残業時間の割り出しには、タイムカードや勤怠管理ソフトのデータなど、残業した事実を示すしっかりした証拠をもとに残業代の計算を進めなければなりません。
1か月毎に詳細な残業代を計算することだけでも相当な労力を必要とすることから、事前準備だけでも大変な手間がかかります。
きちんと準備を整えてご自身で交渉を進めても、会社が取り合ってくれなかったり、弁護士をたててきた場合、交渉が行き詰まってしまうこともあります。
このような事態を避けるためにも、まずは一度弁護士に相談し、ご自身の残業代請求に向けた状況などをお伝えしてアドバイスをもらうことも有効です。
弁護士に依頼をすることで、すべての日時の残業代の計算をはじめ、会社との交渉に必要な対応も行いますので、ご自身の手間を省くこともでき、より確実な請求を行える可能性が高まります。
リーガルプラスでは、未払い残業代請求に関して初回無料相談を行っておりますので、残業代請求でお悩みがあればお気軽にお問い合わせください。
小湊 敬祐
Keisuke Kominato
働き方改革やテレワークの導入による在宅勤務など、社会情勢の変化により企業の残業に対する姿勢が変化しつつあります。一方で、慢性的な人手不足により、残業が常態化している企業もあり、悪質なケースでは、残業代の支給がされていないこともあります。ご依頼者の働きが正当に評価されるよう、未払いとなっている残業代の回収を目指し、活動を行っています。