営業職における未払い残業代請求に向けた準備について

営業職は、仕事の特性上、法人・個人問わず取引先に伺って営業し、会社の売上を直接的に計上する、企業にとって重要な部署です。新規・ルート営業問わず、つねに外出して活動することも多いため、会社の中でもサービス残業が発生しやすい部署になります。

しかし、コロナ禍によりこれまでの営業活動が難しくなり、今後の業務遂行に大きな課題を抱え、営業職に就かれている多くの方は、その対策に追われることとなりました。

対面での営業活動が難しくなったことから、インサイドセールス(非訪問型営業)による効率的な営業活動の推進や顧客管理ツール、マーケティングツールやオンラインツールを活用しての営業活動オンライン化など、さまざまなwebサービス等を利用し、新たな営業活動を展開する企業も生まれ、対面営業できないことの問題を克服するようになりました。

現在では、社会経済活動も元に戻りつつあることから、再びコロナ禍前のような営業活動も復活してきておりますが、オンラインツールを利用した効率的な活動も並行して行われ、状況に応じた無駄のないセールス活動も展開されています。

一方で、こうした社会変化に対応しても、状況に関係なく数字だけで評価され、残業を重ねてもサービス残業になってしまい、営業手当やみなし残業代を支払っているからなどの理由で、明確に残業代を計算していない企業もあります。

ここでは、営業職における残業状況や残業代請求に向けたポイントについて解説します。

この記事の内容

営業職で未払い残業代回収に向けての有効な証拠とは?

コロナ禍以前・以後に関わらず、営業職では売上の数字が評価に直結していることも多く、売上を立てるまでの過程にかかった時間を正しく評価せず、残業が多く発生していても、サービス残業になっていることがあります。

裁量労働制をはじめとした制度の誤った運用や、営業手当に残業代が含まれている、歩合制であることを理由に残業が支払われないなど、残業に対する考え方が曖昧になりがちな営業職において、過去の残業代を回収するにはどのような証拠の収集が必要になるか、具体的な内容をお伝えします。

タイムカードをはじめとした出退勤の記録

タイムカードは出退勤を明確に記録しますので、一斉打刻などの悪質な運用がなければ、残業の状況を確認する上で重要な証拠となります。可能な限り控えをとっておきましょう。

タイムカードと同様に、ICカード等を利用した勤怠管理システムも出退勤を明確に記録しますので、こちらも残業の状況を確認する上で重要な証拠となります。可能な限りデータの控えをとっておきましょう。

その他、webブラウザ上で出退勤の記録をとり、システム管理している企業も多く見られます。出退勤記録のデータや画像キャプチャなどのデータは、きちんと保管するように努めてください。

就業規則・雇用契約書

ご自身が勤務されている会社の就業規則と雇用契約書には、給与及び雇用形態が記載されており、時間外労働に関する手当内容が記されていることもあるため、未払い残業代を割り出す上で重要な資料となります。

パソコンのログ記録

営業職でもノートパソコンを使用している方は大変多く、最近は駅などに個室ブース型のシェアオフィスも増えており、こうしたサービスを利用して営業の合間に資料を作成するなど、パソコンを使用して業務される場面も多いことでしょう。こうしたパソコンのログ記録も重要な証拠となります。打刻後に業務を行っていても、パソコンのログ記録は残りますので、残業実態を示す有効な証拠となります。

業務日報

訪問またはオンラインで接触した取引先や新規顧客先、営業内容などを日報の形で報告している場合、こうした記録も有効な証拠となります。報告書が改ざんされないよう、ご自身でもデータの控えをとっておくようにしましょう。

メールやチャットの送受信履歴

業務に関する会社内での情報共有や、顧客と取引に関するメールやチャットの発信など、時間の記録が残りますので、残業の証拠となります。

実労働時間を記録したメモ

営業職においては、会社外でのデスクワークや取引先からの直帰をはじめ、必ず職場で退勤できるわけではないため、毎日退勤記録をつけてどのような作業を行ったかなど、ご自身でもメモしておくとよいでしょう。手帳などでスケジュール管理されている方であれば、退勤状況についても記載を加えておくとよいかもしれません。

ただし、記入した出退勤時間が正確であること、記録を行った日時が客観的に明らかであることが必要です。後からまとめて出退勤時刻を手書きするような方法では、証拠になりません。

ここまでお伝えした資料を準備しておくことで、残業時間をきちんと把握することにもつながり、未払いとなっている残業代も正確に割り出すことができます。

近年は営業職でも、ここまで述べてきた証拠資料についてデータで管理していることが多く、面倒でも勤務時間の一覧データなどを画像キャプチャで保存し、データを残すようにしましょう。

営業職における残業代請求でトラブルになりがちな「勤務形態・給与体系」について

営業職において未払い残業代を請求する際にポイントとなる証拠資料を紹介しましたが、これらの資料を事前に収集しておくことで、単に残業代の事実を示すだけではなく、会社側と意見対立した際により有効な証拠となり得ることもあります。

次に、会社側と意見対立しがちな勤務形態や給与体系について解説します。

事業場外みなし労働時間制の取り扱いやその運用と残業について

社外での業務が中心となっている営業職や在宅勤務の方に対して、「事業場外みなし労働時間制」を採用している企業が多く見受けられます。

これは、会社が把握しにくい事業所外での労働が多い場合、予め定めた分働いたものとみなす制度です。

事業場外みなし労働時間制が一般的な雇用形態と違う点は、「みなし労働時間制」の採用です。取引先に出向くことの多い営業職や報道記者、旅行添乗員などは、1日のほとんどを社外で過ごすことも多く、労働時間を正確に把握することが困難になることもあります。

そのため、実際の労働時間にかかわらず「1日あたり○時間働いたこととみなす」のが、事業場外みなし労働時間制です。

関連ページ

裁量労働制について

何時間働いても残業代が発生しない制度のようにも見えますが、時間外労働や深夜労働、休日労働を行えば、事業場外みなし労働時間制でも残業代は発生します。

しかし、企業によっては事業場外みなし労働時間制を採用すれば残業代がまったく発生しないと捉え、誤って運用しているケースも見られます。

例えば、取引先を回って8時間営業活動(昼休憩含まず)を行い、会社に戻って1時間事務作業した場合、合計9時間働いたことになり、1時間分の割増賃金が発生します。また、22時から翌朝5時の深夜労働についても深夜割増賃金が発生します。

このように、事業場外みなし労働時間制を採用すれば残業代が発生しないというのは誤りで、こうした運用を行っている場合、残業代が未払いとなっている可能性があります。

固定残業代制を採用しているケースについて

固定残業代、または定額残業代、みなし残業代は「いくら残業しても残業代は固定」という意味ではありません。「一定時間分の時間外労働、休日労働および深夜労働に対して定額で支払われる割増賃金」のことです。

そのため、固定残業代に含まれる一定時間分の残業を超えた場合には、別途残業代が発生しますが、営業職に就かれている方の中には、一定時間分の残業を超えても残業代が支払われないケースもあるため、日々の労働時間はしっかり管理しておきましょう。

関連ページ

固定残業制(みなし残業制)について

営業手当に残業代が含まれているケースについて

通常、営業手当というのは「営業活動を行うにあたって必要な経費に対する手当」を指し、本来はガソリン代や営業用のスーツ、通信費、取引先との外食費などに当てられるものであるはずです。

営業手当に残業代を含む場合は、労働契約書などに「残業代の何時間分に相当するか」を明記しておく必要があります。明記している場合でも、営業手当に含まれる時間を超えて労働を行った場合は別途残業代が発生します。

会社側より残業代は営業手当に含まれていると言われた場合、その内訳については確認をする必要があります。

営業手当に含まれる残業代の内訳と、実際の残業時間の割増賃金を比較したとき、明らかに割増賃金が上回っている場合、未払い残業代が発生している可能性があります。

歩合給のため残業代が発生しないと言われているケースについて

営業職の場合、成績に応じて固定給にプラスして歩合給が支給されていることがあります。

しかし、「歩合給だから残業代は出ない」というのは間違いで、歩合給であっても時間外労働をすると残業代は発生します。

また、歩合給部分と残業代が明確に区別されておらず、残業代に時間外労働などの割増率が加算されていなければ、残業代を請求することができます。

歩合給の際は、固定給とは残業代の計算が異なるため注意が必要となり、このケースで未払い残業代を請求したいと考えている方は、弁護士に相談されるとよいでしょう。

なお、雇用契約を締結している従業員に対し、完全歩合制を採用することは違法となります。

関連ページ

歩合制について

ノルマ・売上目標未達により残業代が支払われないケースについて

冒頭でもお伝えしましたが、営業職においては売上が評価に直結しているケースがほとんどです。月の売上目標が設定され、そのノルマを達成しているかどうかが評価軸となることから、未達成の場合、懲罰的に残業代を支払わないという悪質な企業もあります。

正当な時間外労働が発生しているにも関わらず、ノルマ未達を理由に残業代を支払わないことは違法となりますので、こうした状況で未払い残業代を請求したいと考えている営業職の方は、早めに弁護士へご相談ください。

営業職で未払い残業代の請求を検討している方は弁護士へ相談をする

営業職に就かれている方は、新規で売上を立てるだけではなく、取引先との打ち合わせやトラブル対応をはじめ、事務処理対応も含めていくと長時間労働になりがちで、苦慮されている方も多いと思います。

取引先との接待など、直接業務が関係しないところでの活動もあり、コロナ禍で状況に変化が起きているとはいえ、こうした面も営業職ならではの仕事かもしれません。

しかし、取引先で何かトラブルが発生すると、まず担当営業の方が駆けつけて状況を確認するか、オンラインツールを使って問題を伺いながらクレーム処理をするなど、時間に関係なく対応を迫られることがあります。

取引先との信頼関係を損なわないよう立ち回ることも営業職の役割として求められるが故に、万一のトラブルにおいては最前線で活動を行い対処していくなど、仕事と私生活が混同してしまう方もいるかもしれません。

コロナ禍をきっかけに、オンラインによるプレゼンや取引先とのミーティングも一般的となり、社会経済活動が戻ってきたことでオンラインツールの活用と取引先訪問を並行しながら、無駄な残業を発生させない体制を構築する企業も増えてきております。

それでも、テレワークを含め自宅に持ち帰っての仕事が増え、サービス残業を助長する結果に繋がっているなら、未払い残業代が発生している可能性もあります。

未払い残業代の請求については、ご本人で行うこともできますが、会社側が前向きに対応してくることはまれです。また、在職中の残業代請求は、会社側との関係性が悪化する恐れもあり、正当な要求であってもトラブルになることがあります。

そのため、未払い残業代の請求は、退職前に証拠集めの準備を進めておき、退職後に未払い残業代を請求する流れが多くなっています。

なお、弁護士を代理人に立てて残業代請求を行えば、会社側は無視しづらくなるため、ご自身で対処するより適切な残業代の回収・交渉を進めることができます。

営業職の方で、未払い残業代を請求したいと考えているときは、まず弁護士へ相談し、依頼をするべきかどうかを含め、検討されることをおすすめします。

未払い残業代の請求は弁護士へご相談ください

初回相談は無料です

この記事の監修

小湊 敬祐

Keisuke Kominato

  • 弁護士
  • 上野法律事務所
  • 東京弁護士会所属

働き方改革やテレワークの導入による在宅勤務など、社会情勢の変化により企業の残業に対する姿勢が変化しつつあります。一方で、慢性的な人手不足により、残業が常態化している企業もあり、悪質なケースでは、残業代の支給がされていないこともあります。ご依頼者の働きが正当に評価されるよう、未払いとなっている残業代の回収を目指し、活動を行っています。

弁護士詳細

関連コンテンツ

未払い残業代の基礎知識一覧に戻る