自宅のインターネット環境の充実やzoomをはじめとしたオンラインツールの進化、チャット機能の利便性が向上していくなか、コロナ禍をきっかけにPCで業務が完結できる業務・業種の企業を中心に、テレワークが普及・定着し始めています。
総務省の「令和3年通信利用動向調査の結果」からも、コロナ禍問題が完全に解決していない現在において、IT情報産業を中心にテレワークは引き続き重要な働き方のひとつとして、金融・保険業や不動産業など、導入可能な多くの企業で進んでいることが伺えます。
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テレワークの普及とともに、実際の労働時間の管理面で課題や問題点も見えてきておりますが、ここでは、テレワークの残業に関する状況や残業代が未払いになっているケースでの対応について解説します。
テレワークとは、「tele=離れた場所」、「work=仕事」をかけ合わせた造語で、ICT(情報通信技術)を活用し、職場から離れた場所でお仕事することを指します。多くの方がイメージされるのはご自宅でのお仕事になると思いますが、広義の意味では「在宅勤務」のほかに、シェアオフィス(サテライトオフィス)での勤務や、移動先の駅などに併設されている個室オフィスを利用した勤務も含まれます。
コロナ禍の有効な働き方とあわせ、働き方改革における多様な働き方のひとつとして、テレワークは注目を集めることになりました。
ICT(情報通信技術)の発展により、テレワークの普及も進んできておりますが、同時に労務管理に対しても、オフィス就労と同様に、労働時間や業務内容の正確な把握に向けた対策を行う必要があります。
厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署からも、平成29年1月20日に「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」が発表され、労働者の労働日ごとの始業・終業時刻の確認と適正な記録を求めています。
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テレワークでは、仕事の内容や進捗をすぐ確認しにくい面もあり、テレワークに関する労務管理内容が就労規則などに反映されず、曖昧に残業されている場合は注意が必要です。悪質な企業では、テレワーク時の残業を禁止し、どうしても仕事が終わらない従業員がサービス残業をして使用者側がそれを黙認しているケースもあります。
テレワークにおける残業について、特別な判断や調整を必要とするのか、残業代は支給されるのかなど、気になる点について解説します。
まず、在宅勤務でもオフィス勤務でも、時間外労働や休日・深夜労働が発生すれば、会社は残業代(割増賃金)を支払わなければなりません。(管理監督者など特殊なケースは除く)会社側が、テレワークでの残業は、労働時間を把握できないから残業代を支払う義務がないなどの理由で残業代を未払いとしている場合、違法の可能性が高いと考えられます。
なぜなら、労働基準法にはテレワークでの割増賃金に関する特別な法令はなく、会社は労働基準法第36条・第37条に規定のある時間外労働に関する内容を遵守しなければなりません。
使用者側は従業員の労働時間と残業時間を把握する義務があり、先にお伝えしたガイドラインにも、使用者に対して労働者の就業時間の把握と適正な記録を求めていることから、テレワークにおける労務管理は、オフィス就業時と同様に、しっかりした運用が求められるといえるでしょう。
使用者側が、テレワークでは残業の実態を把握することが難しいので残業を行わないよう通知を出しているケースがあります。
この対応が、従業員の長時間労働に配慮したものであることや、就業状況の把握に向けたシステム導入までの一時的な措置ということであれば問題ありません。
しかし、単に労働時間や業務内容の実態把握が困難なことを理由に残業を行わないよう指示している場合、残業をしなければ業務が滞るなどの理由で従業員がサービス残業を行っているのであれば、残業代の未支給をはじめとする違法な状態の可能性があります。
このような状況にあるときは、残業している時間の業務内容をしっかり記録し、取引先へのメール送信時間など、業務に関するメール時間の記録も押さえておくようにしましょう。
テレワーク勤務に対する就業規則への明記をはじめ、テレワークで残業する場合は事前に上司へ報告させる、オンラインで行える勤怠管理システムを導入するといった、事前の対策がとられていないケースによるテレワーク残業は、注意が必要かもしれません。
コロナ禍が完全な落ち着きをみせないことや、テレワーク導入によるオフィス固定費の削減など、テレワークによるメリットを活かした勤務体系を構築する企業も増えていることから、労務管理に対する対策も進んできております。
法令遵守の意識が高い企業では、テレワークでの就業体制をしっかり整え、新たな人材確保の武器として見据えているところもあり、業種・業態によっては今後も導入が進み、発展していくと考えられます。
しかし一方で、テレワークを悪用して就業体制を整えず、サービス残業を強いるような企業もあることから、テレワークによるサービス残業が増え、疑問を感じるようなときは、先にもお伝えしましたが、できるだけサービス残業時の業務内容や時間を記録し、残業した証拠として蓄積しておくことが重要です。
会社側がテレワークの勤務体制を整えずにサービス残業が増え続け、未払い残業代を請求したいとお考えであれば、まず弁護士へ相談し、ご自身の状況を確認しながらどのように対応すべきか検討されることをおすすめします。
小湊 敬祐
Keisuke Kominato
働き方改革やテレワークの導入による在宅勤務など、社会情勢の変化により企業の残業に対する姿勢が変化しつつあります。一方で、慢性的な人手不足により、残業が常態化している企業もあり、悪質なケースでは、残業代の支給がされていないこともあります。ご依頼者の働きが正当に評価されるよう、未払いとなっている残業代の回収を目指し、活動を行っています。