ご自身の業績がよければ給与も上がり、悪ければ給与も下がる成功報酬型の歩合制は、成果のみで評価され、残業代は発生しないように思えますが、状況によっては発生する場合もあります。ここでは、歩合制の内容や残業代発生の仕組みについて解説します。
歩合制は、変動給制または成果報酬型、出来高払い制とも呼ばれ、従業員の業績や成果(契約件数や売上金額など)によって給与額が決まる制度です。
歩合制には「固定給+歩合給(インセンティブ制)」と「完全歩合制(フルコミッション制)」の2種類があり、「固定給+歩合給」の場合は、あらかじめ決まっている固定給に加えて、成果に応じて歩合給が支払われます。「完全歩合制」の場合は、給与のすべてが業績によって決まるので、業績が悪いとまったく報酬が支払われないことになります。
なお、会社と雇用契約を結んでいる従業員の場合、賃金の最低保障がなされないため、完全歩合制は労働基準法、最低賃金法違反となり、適用できません。完全歩合制は、個人事業主が企業と契約を結ぶ場合に採用することができます。
歩合制は、業績の良し悪しで給与が決まるため、仕事の成果を数字などの目に見えるかたちで評価できる不動産や自動車販売、生命保険会社などの営業職、美容業界やタクシーなどの職種で採用される傾向にあります。
従業員に歩合制を適用させる場合、使用者側は労働時間に応じて一定額の賃金の保障をしなければなりません。(労働基準法第27条)
しかし、一定額がどの程度にあたるのかについては定められておらず、厚生労働省が平成元年に出された自動車運転者についての通達に「歩合給制度が採用されている場合には、労働時間に応じ、固定的給与と併せて通常の賃金の6割以上の賃金が保障されるよう保障給を定めるものとすること。」と記載されていたことから、歩合給の賃金保障の金額は、平均賃金の6割を目安とする傾向にあります。
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歩合制であっても、時間外労働や休日労働、深夜労働の考え方は、他の給与形態と変わりません。したがって、歩合制でもそれらの労働が行われていた場合、割増賃金が発生します。
なお、使用者側が歩合給のなかに残業代はすでに含まれているとして、残業代の請求を拒むケースもありますが、歩合給部分と残業代が明確に区別されておらず、法律上算定される残業代の支払いに満たない場合には、残業代を請求することができます。
歩合制の場合は、歩合給の額を総労働時間数で割り、1時間あたりの賃金を計算します。
ここまで歩合制における未払い残業代請求について説明してきましたが、歩合制でも時間外労働や休日・深夜労働が行われていれば、原則残業代が発生します。
成果に対して給与が支払われるという認識から、いくら残業しても成果がなければ残業代が発生しないと誤解する使用者もおり、歩合制において未払い残業代が発生しているケースは多く見受けられます。
歩合制でこうした未払い残業代を請求するには、タイムカードのような労働時間を客観的に示す証拠資料の収集が重要となり、残業代請求の交渉に備えて事前にしっかり準備を行うことが大切です。
会社側が歩合制に対する時間外労働の解釈を誤解し、未払い残業代が発生している場合、まずは弁護士へ相談し、ご自身の状況を確認しながらどのように対応すべきか検討されることをおすすめします。
小湊 敬祐
Keisuke Kominato
働き方改革やテレワークの導入による在宅勤務など、社会情勢の変化により企業の残業に対する姿勢が変化しつつあります。一方で、慢性的な人手不足により、残業が常態化している企業もあり、悪質なケースでは、残業代の支給がされていないこともあります。ご依頼者の働きが正当に評価されるよう、未払いとなっている残業代の回収を目指し、活動を行っています。