教育・保育関連勤務の方の未払い残業代請求に向けた準備について

塾講師、保育士、幼稚園の保母・保父、私立学校の教職員など、教育・保育関連では、労務管理や職場環境面でさまざまな問題を抱えているといわれています。

保育士などの幼児保育・教育に携わる方においては、子どもを預かる責任の重さの割に給与等の待遇が低いことも影響し、人手不足に陥る状況にあることは、近年の保育園・幼稚園の実態報道が過熱していたことからも、多くの方が理解されたのではないでしょうか。

令和3年5月26日に発表された厚生労働省子ども家庭局保育課による「保育を取り巻く状況について」の“保育士の状況について”を見ると、保育士の退職理由として、職場の人間関係に次いで、「給料が安い」「仕事量が多い」と続いていることからも、待遇面や業務環境に問題があることを伺わせる内容となっています。

関連リンク

厚生労働省子ども家庭局保育課:保育を取り巻く状況について(48ページ)

私立学校の教職員においても、子どもと向き合う時間のみならず、教材準備や研修、保護者対応や部活動への対応など、多数の業務を抱えており、「子どものために」という想いから、残業が常態化しているといわれています。

公益社団法人私学経営研究会は2017年に実施した「第3回私学教職員の勤務時間管理に関するアンケート調査報告書」を公表しましたが、退勤時間の管理意識が低く、36協定の締結においても締結する予定がないと回答している私立学校が全体の28%近くにもなるなど、多くの問題を抱えていることを伺わせる内容でした。

ここでは、私立学校の教職員をはじめ、塾講師、保育士、幼稚園の保母・保父など、教育・保育関連に従事している方の残業状況や残業代請求に向けたポイントについて解説します。

この記事の内容

教育・保育分野(塾講師、保育士、幼稚園の保母・保父、私立学校の教職員など)に勤務されている方で未払い残業代回収に向けての有効な証拠とは?

塾講師、保育士、幼稚園の保母・保父、私立学校の教職員などをはじめとする教育・保育関連事業に勤務されている方は、保育園や幼稚園、学校や塾などでお仕事をされていると思います。

保育士や教員の慢性的な人手不足と過大な業務が残業に繋がっているといわれ、公立学校教員の勤務状況も社会問題となっている教育・保育業界で、残業代が未払いになっている場合、どのような証拠の収集が必要になるか、具体的な内容をお伝えします。

タイムカードをはじめとした出退勤の記録

タイムカードは出退勤を明確に記録しますので、一斉打刻などの悪質な運用がなければ、残業の状況を確認する上で重要な証拠となります。可能な限り控えをとっておきましょう。

勤怠管理システムを導入している場合、データで出退勤を明確に記録しますので、こちらも残業の状況を確認する上で重要な証拠となります。可能な限りデータの控えをとっておきましょう。

私立学校教職員の場合、出勤管理簿への押印も見受けられますので、記録のコピーとあわせて実際の出退勤時間を明確に記録しておくとよいでしょう。

就業規則・雇用契約書

ご自身が勤務されている学校や塾、保育園・幼稚園などの就業規則と雇用契約書には、給与及び雇用形態が記載されており、時間外労働に関する手当内容が記されていることもあるため、未払い残業代を割り出す上で重要な資料となります。

ここまでお伝えした資料を準備しておくことで、残業時間をきちんと把握することにもつながり、未払いとなっている残業代も正確に割り出すことができます。

教育事業に従事している方は、面倒でもこれまでにお伝えした資料を残すようにしましょう。

教育・保育分野でトラブルになりがちな「勤務形態・給与体系」について

塾講師、保育士、幼稚園の保母・保父、私立学校の教職員などをはじめとする教育・保育関連で、未払い残業代を請求する際にポイントとなる証拠資料を紹介しましたが、これらの資料を事前に収集しておくことで、単に残業の事実を示すだけではなく、保育園や学校・塾側と意見対立した際に、より有効な証拠となり得ることもあります。

次に、保育園や学校・塾側と意見対立しがちな勤務形態や給与体系について解説します。

固定残業代制を採用しているケースについて

固定残業代、または定額残業代、みなし残業代は「いくら残業しても残業代は固定」という意味ではありません。「一定時間分の時間外労働、休日労働および深夜労働に対して定額で支払われる割増賃金」のことです。

そのため、固定残業代に含まれる一定時間分の残業を超えた場合には、別途残業代が発生しますが、一定時間分の残業を超えても残業代を支払わない悪質な事業者もいるため、日々の労働時間はしっかり管理しておきましょう。

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固定残業制(みなし残業制)について

塾の支店長や主任保育士など、管理監督者にあたるため残業代は発生しないと言われているケースについて

学習塾において教室長であったり塾支店長を任されている場合、他の講師への指示や支店塾の運営など、塾全体の管理を任されていることから、すでに管理監督者としての地位を有していると思われがちです。

主任保育士も同様に、他の保育士への指示や保育園の運営管理に携わっていれば、管理監督者にあたると見られているかもしれません。

しかし、管理監督者かどうかは職務内容、責任と権限、勤務態様、待遇を踏まえて判断されます。

管理監督者である場合、残業代は出ない代わりに、出退勤時間や勤務時間を自分の裁量で決めることができ、その地位と責任に見合った給与が支払われなくてはなりません。

そうでない場合、塾の支店長や主任保育士は管理監督者と認められず、残業代を請求することができます。

給特法により公立学校の教員は残業代が支給されない

公立学校の教員においては、公務員にあたることから「公立の義務教育諸学校等の教員職員の給与等に関する特別措置法」、一般に給特法と呼ばれる法律により、時間外手当及び休日勤務手当は支給されませんが、教職調整額として月額給与の4%の支給が定められています。

しかし、近年は公立学校教員の業務量と残業状況の厳しさが報じられるようになり、学校そのものがブラック職場というイメージが定着したため、現在では教員不足も深刻な社会問題となっています。

私立学校教員でみなし残業代を給特法に準じた運用をしているケースについて

私立学校教員は、公立学校教員と違い地方公務員にあたりませんので、給特法の対象外となり、時間外労働及び休日勤務を行うには労働基本法に則り、労使間で36協定を締結する必要があります。

多くの私立学校では「みなし残業(固定残業代制度)」を採用している学校が多く、公益社団法人私学経営研究会が2017年に実施した「第3回私学教職員の勤務時間管理に関するアンケート調査報告書」では、回答した私立学校の74.5%がこの制度を取り入れていました。

しかし、みなし残業代の金額を給特法ベースに基本給の4%としている学校も多いといわれ、さらに先の調査報告書によると、退勤時間の確認をしない私立学校が32.5%もあることから、ケースによってはみなし残業の支給金額を大幅に上回る時間外労働が行われている可能性もあります。

公立学校の給特法に基づいた労務管理を私立学校が行うことは、時間外労働や休日勤務に対して違法となる可能性が高く、実際に労働基準監督署より立ち入り調査及び指導・是正勧告を受けた私立高校があることも、「第3回私学教職員の勤務時間管理に関するアンケート調査報告書」のなかで報告されています。

私立学校の教職員においては、36協定の締結から教職員の勤務時間の正確な把握など、多くの問題を抱えている実態が見えていることから、基本的な労務管理から働き方改革関連法を含め、法令遵守をしっかり行うことが求められているといえるでしょう。

関連リンク

公益社団法人私学経営研究会:第3回私学教職員の勤務時間管理に関するアンケート調査報告書(2017年の調査報告は現在非公開、第2回の調査報告は公開されています)

教育・保育関連勤務で未払い残業代の請求を検討している方は弁護士へ相談をする

コロナ禍で対応を余儀なくされた側面があったにせよ、働き方改革と並行してオンライン授業をはじめとしたIT技術の活用により、時間外労働を多く発生させない工夫が教育関連事業でも進んでおります。

近年教育関連で社会の関心を引いているのは、公立学校教員の時間外労働問題です。公立の学校教員は、給特法により時間外手当及び休日勤務手当が支給されないため、社会状況の変化に対処しながら業務が積み重なることで時間外労働が常態化し、過労死ラインである月80時間を超える時間外労働が発生している教員も増えています。

なお、私立学校教員については、公立学校教員と同様の勤務実態であれば、未払い残業代を請求できる可能性が高いと考えられますので、公立学校教員と同様のケースでお悩みであれば、弁護士へ相談してみるなど、ひとりで抱え込まずに対処されることをご検討ください。

未払い残業代の請求については、ご本人で行うこともできますが、学校や事業者側が前向きに対応してくることは多くありません。

特に在職中の残業代請求は、使用者側との関係性が悪化する恐れもあり、正当な要求であってもトラブルになることがあります。

そのため、未払い残業代の請求は、退職前に証拠集めの準備を進めておき、退職後に未払い残業代を請求する流れが多くなっています。

なお、弁護士を代理人に立てて残業代請求を行えば、学校をはじめとする教育事業者側は無視しづらくなるため、ご自身で対処するより適切な残業代の回収・交渉を進めることができます。

教育・保育関連事業に従事している方で、未払い残業代を請求したいと考えているときは、まず弁護士へ相談し、依頼をするべきかどうかを含め、検討されることをおすすめします。

この記事の監修

小湊 敬祐

Keisuke Kominato

  • 弁護士
  • 上野法律事務所
  • 東京弁護士会所属

働き方改革やテレワークの導入による在宅勤務など、社会情勢の変化により企業の残業に対する姿勢が変化しつつあります。一方で、慢性的な人手不足により、残業が常態化している企業もあり、悪質なケースでは、残業代の支給がされていないこともあります。ご依頼者の働きが正当に評価されるよう、未払いとなっている残業代の回収を目指し、活動を行っています。

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