残業代コラム
残業代コラム
「残業代」を検索などで調べていくと、かなりの確率で「割増賃金」という言葉に行き着くと思います。
漢字の意味や言葉のイメージから、従業員が残業すると、「会社は通常の給料に上乗せして賃金を支払わなければいけない」といったイメージを持たれるかもしれません。
法律上も、おおよそこの捉え方で問題ありません。労働者が残業をすると基本時給にプラスし、状況(深夜残業、休日出勤、時間外労働)に応じて一定割合を増額して支払う賃金のことを割増賃金と呼んでいます。
ここでは、割増賃金とはそもそも何なのか、割増賃金とはどういった仕組みでどのように計算するのかを解説します。
使用者は、労働者に法定時間外労働・法定休日労働・深夜労働をさせた場合、割増賃金(わりましちんぎん)を支払わなければなりません。
割増賃金とは、1時間当たりの賃金に残業種別ごとの割増率と残業時間数を掛けて計算される残業代のことです。
割増賃金の計算の際には、まず1時間あたりの賃金を算出します。1時間あたりの賃金は、1か月の基礎賃金を1か月の所定労働時間で除した金額になります。基礎賃金は基本給の他、職務手当等を加えたものです。家族手当や通勤手当等、基礎賃金に含めないものもありますのでご注意ください。
1か月の所定労働時間数について、月給制の場合、月によって所定労働時間数が異なるときは、1年間における1月平均所定労働時間数で計算します。
たとえば、1日8時間勤務、週40時間勤務の場合、1か月の所定労働時間数は173.8時間(≒365日÷7日×40時間÷12か月)となります。
1時間あたりの賃金に掛ける割増率は、法定時間外労働の場合25%以上、法定休日労働は35%以上、深夜労働は25%以上です。法定時間外労働・休日労働に深夜労働が重なった場合にはそれぞれの割増率(25%以上・35%以上)に深夜労働の割増率(25%以上)を加えて計算します。
1時間あたりの賃金に掛ける割増率
時間外労働には、「法定時間外労働」と「法定時間内労働」があります。
法定時間外労働とは、1日8時間または週40時間の法定労働時間を超える労働をいい、割増率25%以上の賃金対象となります。
それに対し、法定時間内労働は、1日の所定労働時間が8時間未満であり、所定労働時間を超えるものの1日8時間未満かつ週40時間未満の労働をいいます。
法定時間内労働については、1時間あたりの賃金をもとに計算され、割増率は付加されません。
例として、勤務時間が9時から17時、昼休憩が1時間(所定労働時間7時間)の方で、1時間あたりの賃金が1,000円の場合で見てみましょう。
この方が20時まで3時間残業した場合、17時から18時には法定時間内労働として1,000円の残業代が発生し、18時から20時には法定時間外労働として1時間当たり1,250円、2時間分の2,500円の残業代が発生します。
法定休日労働とは、1週1日又は4週4日の法定休日における労働のことをいいます。このケースでは、35%以上の割増賃金の対象になります。
週休2日制など、週に1日以上の休日が定められている場合、法定休日は1日のみです。それ以外の休日は法定外休日なので、法定外休日における労働は、法定休日労働(割増率35%以上)ではなく、1日8時間又は週40時間を超える場合のみ法定時間外労働(割増率25%以上)として計算されます。
では、法定休日を振り替えて代休をとる場合、どうなるでしょうか。法定休日を事前に別の日に振り替えた場合(いわゆる「振替休日」)、もともと法定休日であった日に労働したとしても法定休日労働ではなくなるので、35%以上の割増賃金の対象にはなりません。
これに対し、法定休日を事後に別日に振り替えた場合(いわゆる「代休」)、すでに法定休日労働をしていることに変わりありません。そのため、法定休日労働となり、35%以上の割増賃金の対象です。代休を事後に付与したとしても変わりません。
深夜労働とは、午後10時から午前5時の労働をいいます。割増率は25%以上です。
深夜労働の場合、法定時間外労働や法定休日労働の割増率に重ねて計算をします。つまり、法定時間外労働かつ深夜労働の場合、割増率は50%以上(法定時間外労働25%以上+深夜労働25%以上)となります。また、法定休日労働かつ深夜労働の場合、割増率は60%以上(法定休日労働35%以上+深夜労働25%以上)です。
ここまで見てきたように、残業代計算の際、それぞれの残業の種別ごとに割増率が異なります。法定時間外労働の割増率は25%以上、法定休日労働は35%以上、深夜労働は25%以上です。
また、法定時間外労働かつ深夜労働の場合、割増率は50%以上(法定時間外労働25%以上+深夜労働25%以上)となります。法定休日労働かつ深夜労働の場合、割増率は60%以上(法定休日労働35%以上+深夜労働25%以上)です。
残業代計算において、大企業と中小企業では異なる点があります。そのため、ご自身の勤務先が大企業であるか、中小企業であるかをご確認ください。
大企業とは、下の図の中小企業以外の企業をいいます。例えば、製造業であれば資本金または出資金が3億円を超えるか、常時使用する従業員数が301人以上の企業を大企業といいます。
業種の分類 | 中小企業基本法の定義 |
---|---|
製造業その他 | 資本金の額又は出資の総額が3億円以下の会社又は常時使用する従業員の数が300人以下の会社及び個人 |
卸売業 | 資本金の額又は出資の総額が1億円以下の会社又は常時使用する従業員の数が100人以下の会社及び個人 |
小売業 | 資本金の額又は出資の総額が5千万円以下の会社又は常時使用する従業員の数が50人以下の会社及び個人 |
サービス業 | 資本金の額又は出資の総額が5千万円以下の会社又は常時使用する従業員の数が100人以下の会社及び個人 |
関連リンク
大企業では、労働者に月60時間を超えた法定時間外労働をさせた場合、60時間を超えた部分について1時間当たりの賃金に50%以上の割増率を加えた割増賃金を支払わなければなりません。
また、月60時間を超えた労働であり、かつ深夜労働であった場合には、深夜労働の割増率(25%以上)を重ねて割増率75%以上で計算します。
中小企業については、現行では大企業と同様の割増率の適用を猶予されています。つまり、月60時間を超える労働について割増率50%以上を加えず計算することとなります。
もっとも、2023年4月1日からは、中小企業も大企業と同様に月60時間を超える労働について、同様の運用がなされることが決定しています。
割増賃金の計算例
Aさんは土日祝日がお休みの会社で、平日(月〜金)は10時〜19時定時(お昼休憩1時間)の勤務、月給は30万円で通勤手当が毎月1万円、住宅手当が3万円含まれています。平均して毎月22日勤務しています。法定休日は日曜日です。
まず、1時間当たりの賃金を計算します。給与明細の項目のうち、基本給に加え、職務手当・能力給・営業手当・役付手当・皆勤手当等の金額を加算することが一般的です。このとき、家族手当・通勤手当・別居手当・子女教育手当・臨時の賃金・賞与・住居手当等は加算しないことが通常です。どの手当が含まれ、どの手当が含まれないかについては、やや複雑な問題になりますので、正確に知りたい方は弁護士に相談してください。
Aさんの場合、月給30万円に通勤手当1万円と住宅手当3万円が含まれていますので、1時間当たりの賃金を計算する際には除外します。つまり、Aさんの1か月の基礎賃金は26万円です。
次に、基礎賃金を月の所定労働時間で除します。Aさんの場合、1日8時間/週40時間勤務し、月ごとに勤務日数が異なっていますので、1年間における1月平均所定労働時間数を求める必要がありますが、上記の例では1月平均22日勤務していますから、月の所定労働時間は176時間(=8時間×22日)となります。そうすると、Aさんの1時間当たりの賃金は約1477円(=26万円÷176時間)です。
Aさんが法定時間外労働、法定休日労働、深夜労働などをした場合には、1時間当たり次の割増賃金が発生します。
では、Aさんの毎日の残業が2時間(1月合計44時間)、1日だけ土曜日に出勤し、10時〜深夜24時まで勤務した場合の1か月の割増賃金を計算してみましょう。
毎日2時間残業(21時まで)した分の割増賃金
1477円×1.25×2時間×22日=8万1235円
1日だけ土曜出勤(10時から24時)・した分の割増賃金
10時から22時の労働に対する割増賃金は、週40時間を超える法定時間外労働ですから、1477円×1.25×12時間=2万2155円です。
22時から24時の労働に対する割増賃金は、法定時間外労働かつ深夜労働ですから、1477円×1.5×2時間=4431円です。
したがって、Aさんの土曜日の割増賃金は2万2155円+4431円=2万6586円です。
以上のことから、Aさんのこの月の割増賃金は8万1235円+2万6586円=10万7821円です。
先にご紹介した計算事例のように、残業代請求・割増賃金の計算においては細かな計算が多く、手間もかかります。また、基礎賃金に含める手当を区別する必要があり、こういった点も注意しなければなりません。
未払いとなっている残業代を会社へ請求するには、根拠に基づいた正確な残業代の計算が求められることから、大変な作業になってしまいます。
こうした残業代の計算も、弁護士にご相談・ご依頼いただければ、法律知識に基づいた正確な個別計算・検討が可能となり、手間もかかりませんので、未払い残業代の請求をお考えであれば、まず弁護士へご相談されることをおすすめします。
小湊 敬祐
Keisuke Kominato
働き方改革やテレワークの導入による在宅勤務など、社会情勢の変化により企業の残業に対する姿勢が変化しつつあります。一方で、慢性的な人手不足により、残業が常態化している企業もあり、悪質なケースでは、残業代の支給がされていないこともあります。ご依頼者の働きが正当に評価されるよう、未払いとなっている残業代の回収を目指し、活動を行っています。