残業代コラム
残業代コラム
「人手不足も重なり長時間残業が常態化しているが、残業代が支払われていない」
このように、残業が日常的になっていると、残業代が支払われていないことに不満を持ち、会社は法律に則ってきちんと残業代を支払ってほしいと考えた方もいるのではないでしょうか。
しかし、このような事情を社内の労務管理担当者や上司には相談しにくいことが多く、相談したことをきっかけに、会社に居づらくなってしまうこともあります。
では、こうした未払い残業代をはじめ、労働に関する問題やトラブルは、どのような機関に相談するべきでしょうか?
一般的に、労働問題の公的な相談機関として、労働基準監督署(労基署)が挙げられます。労基署では、未払いとなっている残業代に対し、実際に回収までの対応ができるのか、また、どの程度介入して対処してもらえるのか、気になるところかと思います。
未払い残業代の請求は、弁護士へご依頼することで回収できる可能性が高まると言われますが、残業代の回収において、労基署と弁護士の違いはどのようなところにあるのか、あわせて労働基準監督署の役割について解説します。
単刀直入にお伝えすると、労基署には「調査」や「是正勧告」と行った一定の権限はありますが、是正に関しては強制力がありません。つまり、未払い残業代について是正勧告を出すことはできるのですが、「支払いなさい」と命令をすることはできないのです。
そもそも労基署は労働者のために残業代の回収を代行してくれる機関ではありませんから、「私のために残業代を請求してください」と依頼しても、大きな期待はできません。
労基署の是正勧告により、会社が素直に是正に応じ、未払いとなっている残業代を支払えば問題ないのですが、労基署の指導や勧告を事業主が無視した場合、強制力のない労基署では対応することができなくなります。こうなると、いくら労基署に訴えかけても、現実に未払い残業代を回収することは難しくなります。
労基署は未払い残業代の支払い命令を出せないことから、強制的な回収はできません。では、弁護士に相談・依頼するとどうでしょうか?
未払い残業代を会社から回収したい場合、弁護士に相談することで解決につながる可能性があります。弁護士は労働問題に関して専門的知識を活用しながら、労働者にかわって残業代請求を行うことはもちろん、会社の違法な対応の改善を促すことができます。
また、労働基準法などの労働関係の法律に限定することなく、様々な法律に基づいて会社の違法性を追及することも可能です。
トラブルの内容や証拠の状況次第では、労基署では対応に限界のあった残業代の支払いに対しても、スピーディーに対応することができます。
より確実に、未払い残業代の回収・解決を求めるのであれば、弁護士への相談・依頼を検討するといいでしょう。
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労働基準監督署は、未払い残業代の支払い命令を直接出すことはできませんが、労基署が労働問題に関する重要な機関であることに変わりはありません。では、労基署とはどのような機関になるのでしょうか。
労働基準監督署とは、厚生労働省の出先機関です。労基署の窓口は全国にありますが、各都道府県、各自治体で管轄地域が決まっています。労基署は、日本に事業所を置く事業主(会社や個人事業主など)が、労働基準法、労働安全衛生法、最低賃金法などの労働関係の法律を守っているかどうか、指導・監督しています。
また、労働災害(労災)の認定や労災保険の申請・給付の手続きも、労基署が行っています。
職場で起こっているトラブルを労基署に相談できるかどうかは、そのトラブルが労働関係の法律違反にあたるかどうかがポイントです。なぜなら、労基署が事業主(会社)を監督する基準が、労働基準法などの労働関係の法律になるからです。労働関係の法律に違反していれば、労基署は積極的に動いてくれます。
ここに掲げたケースについては、違法性の高いケースとなります。会社の法律違反に対して労基署がどのような対応をするかは、この後の「労働基準監督署に相談すると得られるメリット」で説明いたします。
一方で、職場で起こるトラブルの中には、労基署に相談をしても解決が難しいケースがあります。
ここでもポイントは、事業主が労働基準法などの労働関係の法律違反をしているかどうかにあります。例え職場で起こった問題であっても、労働関係の法律違反にあたらない事象や、法律違反とは言い切れないグレーゾーンのトラブルであれば、労基署へ相談して対応してもらうのは難しいでしょう。
例えば、次のようなケースの中には、世間でよく耳にする職場のトラブルもありますが、労働基準法などの法律に違反していることが明らかとは言えないため、労基署は動けないことがほとんどです。
もちろん、パワハラやセクハラは民法上の不法行為に該当する可能性がありますし、雇用契約上、使用者の安全配慮義務違反となることもあります。
しかし、これらの行為が法律に抵触するとしても、それが労働基準法等に関係するもの以外の法律であれば、労基署が動く根拠にはなりません。解決及び相談をすることも難しいといえます。
労働関係の法律には抵触しないけれど、職場で問題となっている事象の相談は、労働局が対応しています。労働局は労基署の上部機関で、労使間で生じた個別の紛争を交渉で解決するために助言や指導(援助)を行います。
労働関係の法律に違反するトラブルに限らず、法律違反とは言い切れないグレーゾーンのトラブルも対象で、中立の立場で労使間の交渉を促すのが主な役割です。
ただ、労働局の援助には会社への強制力がありません。会社の対応を改善するには限界があるという一面も指摘されています。
ここまで労基署で相談できること、相談しても解決がむずかしい内容について説明してきましたが、相談できる内容であれば主に3つのメリットがありますので、それぞれ説明いたします。
労基署は、法律違反のある会社を調査し、是正勧告ができます。というのも、労基署には「労働基準監督官」という専門の職員がおり、彼らには臨検監督(事業会社を調査できる)・司法警察権(警察同様に逮捕や捜査ができる)という権限があるからです。
例えば、労基署に未払い賃金の相談があった場合、賃金の未払いは労働基準法違反ですので、労基署は相談内容に信憑性があれば調査に入り、事業主の賃金未払いが明確になれば、賃金を支払うよう是正勧告※をすることができます。
事業主が調査や捜査に応じない場合は、法律上は逮捕することも可能です。ただし、実際に逮捕権が行使されるケースはほとんどありません。
このように、労基署には一定の権限があるので、是正勧告を受けた会社がすみやかに対応すれば、労働環境の改善につながることもあります。
労基署は厚生労働省という公的組織の機関なので、相談は無料で行えます。相談に応じる職員は、労働基準法などの専門的な知識が豊富です。日常的に企業を監督していますので、現場に精通した知識と経験に基づいたアドバイスを受けることができます。
全国の都道府県に合計300以上の窓口があり、トラブルが起こっている事業会社の所在地を管轄する事業所が担当になります。
例えば、本社が東京でも、福岡支社でトラブルが起こっている場合は、福岡支社の所在地を管轄する労基署に相談しましょう。相談したことを会社に知られることが心配であれば、匿名で相談することもできます。
お仕事が忙しい方や、労基署へ直接伺うことに抵抗がある方は、メールや電話での相談も可能です。ただし、メールの内容は調査の参考にする程度で、基本的に返信はありません。電話の場合も、訪問して相談する場合と比べれば労基署の対応が見えにくく、労基署が動く優先度は低くなる可能性があります。
調査や是正勧告を求めるほど事態が深刻であれば、管轄の事業所に直接行って相談することをおすすめします。状況がスムーズに伝わり、労基署が深刻な事態と判断すれば、事業主への対応が早くなる可能性もあります。
労基署は事業主からの相談にも対応しています
労基署が相談を受ける対象は労働者に限っていません。事業主から次に挙げる相談にも対応しています。
労基署に相談しても、状況によっては対応が難しい場合もあります。どのような場合に注意すべきなのかご説明します。
労基署は、事業会社の行為に対し、労働基準法など、法律に違反している可能性があると判断できないと具体的に動くことができません。相談の内容がどんなに深刻なものでも、それを立証できる証拠がないと、労基署には違法性を認めてもらえず、調査や是正勧告ができない可能性があります。
労基署の相談で解決を求めるのであれば、事業主の違法行為について第三者も納得できるような明確な証拠が必要です。
労基署は、会社に対して強制力のある命令を出すことができません。そのため、未払い残業代に対する調査や是正勧告はできても、そこに「未払いになっている残業代を支払いなさい」という強制力のある命令はできないのです。
事業主がきちんと反省し、指導に従えば労働環境の改善は期待できます。ただし、勧告を受けた事業主が、労基署に強制力がないことを見越し、指導されても開き直って無視するような場合は、問題が解決されないままとなってしまいます。現在の法制度では、労基署でこれ以上踏み込んだ対応を行うことは難しいでしょう。
労基署の取り締まりは人命が関わる悪質な案件が優先されるので、ただちに人命に関わることのない案件は、すぐに対応してもらえない可能性があります。
労基署には、労働関係の法律違反に関して、警察と同様に捜査や逮捕ができる強い権限があります。それだけ悪質で深刻な案件を取り締まるのが労基署の果たす役割でもあるので、例えば「未払い賃金がある」「労働時間が長い」といった相談は、事態が人命にすぐには影響しないと判断されると、後回しにされてしまうおそれもあるでしょう。
また、近年では労基署と労働局に年間100万件以上の相談があり、相談件数が高止まりしています。当然ですが、労基署が対応できる案件数には限界があるので、相談の内容によっては、思うように対応してもらえないことも十分想定されます。
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冒頭でお伝えしましたが、労基署は会社へ未払い残業代の支払いを命じることはできません。しかし、会社が労務管理の不備を改善し、コンプライアンス遵守する意識が高まっているようなときは、労基署の調査または是正勧告ですぐ改善することもあります。
この数年、少子化の影響など職種・業種によっては人材不足も目立つようになり、人材確保の観点から、企業の労務管理に対する意識も高まっています。
まず労基署で未払い残業代の相談をしたいと考えている場合、どのような準備が必要になるか説明します。
もし、割増賃金や残業代の未払いが発生している場合、労働基準法違反にあたりますので、会社側は労基署より是正勧告を受ける可能性があります。そのため、残業代が未払いになっている状況そのものを改善したいのであれば、労基署への相談・申告により対応してもらえるよう、事前の準備を進める必要があります。
ただし、前述のとおり、労基署・労働局への年間相談件数が100万件を超え、人命が関わる悪質な事案が優先されるため、すぐに対応してもらえない可能性も高いことから、弁護士への相談も視野に入れておくとよいでしょう。
労基署へ相談に行く前に、まずは根拠となる証拠を準備することが大切です。証拠がないと、労基署からアドバイスを得ることはできても、未払い残業代を解決する具体的な対応には至らないでしょう。
未払い残業代が発生している場合、それを労基署が確認できる客観的な証拠が必要となります。未払い残業代に関する客観的な証拠として、次のようなものが挙げられます。
会社側が残業代を支払っていないという証拠を複数提出できれば、違法と認められる可能性が高まります。労基署が速やかに是正勧告を行えるよう、できるだけ複数の証拠を提示できるよう準備を進めてください。
また、弁護士へ相談・依頼を検討するときも、これらの証拠を事前に収集をしておくことで、早期解決の糸口となる可能性があることから、事前に準備しておくことをおすすめします。
しっかりした証拠があれば、労基署が会社の是正勧告に動く可能性が高くなります。相談の上、申告の手続きをしましょう。
申告する際には所定の用紙の記入が必要です。書類には、申告者の名前(匿名も可)、違反者名、場所等(会社名等)、労働基準法違反の事実、申告の主旨(調査と是正を求める等)、添付書類(証拠)などを記入します。
「会社に申告者名を伝えないように」といった要望を記入することもできます。
申告をした後は、労基署の対応を待ちましょう。違法性があれば、労基署は会社を調査し、調査結果に基づいて是正勧告を行います。
労基署による調査・是正勧告で、会社が未払いとなっている残業代を支払い、労務管理体制をきちんと見直せばよいのですが、労務に関する社会状況が変化しているとはいえ、無視をしてまったく応じない企業もあります。
違反が是正されたかどうかを確認する「再監督」の際に改善が見られない(残業代が支払われない)場合は、事業主には罰則が科せられます。ただし、実際に罰則が科せられるのは違法行為の程度が相当悪質な場合に限られます。
労基署が対応しても、会社が真摯に反省して改善する姿勢を見せるかどうかがポイントです。もし会社が未払い残業代を支払う姿勢がなければ、弁護士に相談して解決を図るべきといえます。
もっとも、労基署に相談し、是正勧告があったとしても、会社が反省の意を示さなければ未払い残業代の回収も難しく、労基署が調査に入るまで時間を要することもあることから、未払い残業代の時効を考慮すると、結局は早めに弁護士へ相談・依頼することが回収の一番の近道と言えるかもしれません。
労働基準監督署は、会社の労働環境を改善するために調査や勧告などをする公的機関です。また、無料で労働問題に関する専門家に相談できる便利な一面もあります。
ただし、労基署が会社を監督するには、監督の対象となる会社が、労働基準法などの労働関係の法律に違反している事実がなければなりません。また、せっかく相談しても、対応を後回しにされたり、会社には改善命令ができなかったりなど、取れる解決策には限界があるのも事実です。
一方で弁護士は、専門的な知見からアドバイスができることはもちろん、労働者に代わって残業代請求を行い、交渉や裁判を行うことが可能です。会社側と問題の解決に向けて、よりスピーディーな対応も期待できます。
特に未払い残業代をきちんと回収したいと思っている方は、請求が可能なのか、できるとしていくら請求できるのか、まずは弁護士に相談してみるとよいのかもしれません。
小湊 敬祐
Keisuke Kominato
働き方改革やテレワークの導入による在宅勤務など、社会情勢の変化により企業の残業に対する姿勢が変化しつつあります。一方で、慢性的な人手不足により、残業が常態化している企業もあり、悪質なケースでは、残業代の支給がされていないこともあります。ご依頼者の働きが正当に評価されるよう、未払いとなっている残業代の回収を目指し、活動を行っています。