土木・建設業は慢性的な人手不足が指摘されており、厚生労働省における労働経済動向調査(令和4年2月)のなかでも、「労働者の過不足状況」の項目で、建設業は人手不足感が高いと指摘されています。
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こうした調査結果から、下請けや孫請け業者に雇用されている現場作業員はもとより、元請けの社員である現場監督なども長時間労働が常態化していると考えられます。
年を追うごとに加速している人口減少とあわせ、建設業における29歳以下の就労割合も減少し、さらに就業者の高齢化も進んでいます。国土交通白書 2020の「第1節 我が国を取り巻く環境変化」のなかでは、55歳以上の就業者の割合が大きく上昇し、人手不足の実態が報告されています。
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最近では、新国立競技場建設に際し、大手ゼネコンの下請け建設会社で勤務、競技場建設現場に現場監督として従事していた当時23歳の男性が、過労死ラインと言われる月80時間の倍にあたる月160時間を超える時間外労働が続いたことで、メモ書きの遺書を残して自殺するという大変痛ましい事件も起こりました。
悪質なケースでは、長時間残業をしていながら「現場監督は管理監督者なので残業は出ない」という理由や「技術手当に残業代が含まれる」など、誤った運用・認識で正しく残業代が支払われていないケースも見受けられます。
ここでは、土木・建設業における残業状況や残業代請求に向けたポイントについて解説します。
冒頭でお伝えしたとおり、土木・建設業は人員不足をはじめ、危険な作業や体力を使う場面も多く、また、建設現場の天候により休みが不規則になるなど、労働環境が厳しい業種です。
このような環境で残業時間が増大する場合、会社から残業代を適切に支給されることで、仕事へのモチベーションを保つこともできますが、不適切に処理され支給される残業代が少ない、または残業代そのものが支給されないなどの対応をとられた場合、どのように対応するべきでしょうか。
ここでは、こうした状況に備え、過去の残業代を回収するにはどのような証拠の収集が必要になるか、具体的な内容をお伝えします。
タイムカードをはじめとした出退勤の記録
タイムカードは出退勤を明確に記録しますので、一斉打刻などの悪質な運用がなければ、残業の状況を確認する上で重要な証拠となります。可能な限り控えをとっておきましょう。
勤怠管理システムを導入している場合、データで出退勤を明確に記録しますので、こちらも残業の状況を確認する上で重要な証拠となります。可能な限りデータの控えをとっておきましょう。
また、作業現場へ直行直帰する関係で出退勤の記録を明確にとっていないケースでは、できるかぎりご自身で毎日記録をとることも重要です。
ただしこの場合、記録した出退勤時間が正確であること、記録を行った日時が客観的に明らかであることが必要となります。後からまとめて出退勤時刻を手書きするような方法では、証拠になりませんので注意してください。
パソコンのログ記録
土木・建設業でも現場監督などではノートパソコンを使用している方も多く、作業現場の進捗状況など、パソコンを使用して報告する場面もあることから、パソコンのログ記録も重要な証拠となります。打刻後に業務を行っていても、パソコンのログ記録は残りますので、残業実態を示す有効な証拠となります。
就業規則・雇用契約書
ご自身が勤務されている土木・建設会社の就業規則と雇用契約書には、給与及び雇用形態が記載されており、時間外労働に関する手当内容が記されていることもあるため、未払い残業代を割り出す上で重要な資料となります。
業務・作業日報
その日に行われた現場作業の内容や施工状況の報告など、こうした記録も有効な証拠となります。実労働時間と当日の作業内容の詳細についても記録しておくとよいでしょう。
メールやチャットの送受信履歴
土木・建設業の現場監督の方で、現場の進捗に関するメールやチャットの発信などを行っているのであれば、時間の記録が残りますので、ケースによっては残業の有力な証拠となります。
交通ICカードの乗降車記録
作業現場まで公共交通機関を利用して自宅を往復している場合、乗降車時間の記録を確認・証明できれば、他の証拠資料と組み合わせることで補足資料としての役割をもたせることができます。
ここまでお伝えした資料を準備しておくことで、残業時間をきちんと把握することにもつながり、未払いとなっている残業代も正確に割り出すことができます。
土木・建設業に従事している方は、面倒でもこれまでにお伝えした資料を残すようにしましょう。
土木・建設業の未払い残業代を請求する際にポイントとなる証拠資料を紹介しましたが、これらの資料を事前に収集しておくことで、単に残業時間の事実を示すだけではなく、会社側と意見対立した際に、より有効な証拠となり得ることもあります。
次に、会社側と意見対立しがちな勤務形態や給与体系について解説します。
土木・建設業に従事されている方のなかには、会社から技術手当や職能手当に残業代が含まれていると説明されることがあります。こうした手当に残業代を含むことは、雇用契約書や就業規則への明示があれば問題ないのですが、いくらでも残業をさせてよいわけではありません。技術・職能手当を上回る残業をしている場合は、残業代を請求できる可能性があります。
固定残業代、または定額残業代、みなし残業代は「いくら残業しても残業代は固定」という意味ではありません。「一定時間分の時間外労働、休日労働および深夜労働に対して定額で支払われる割増賃金」のことです。
そのため、固定残業代に含まれる一定時間分の残業を超えた場合には、別途残業代が発生しますが、土木・建設業に従事している方の中には、一定時間分の残業を超えても残業代が支払われないケースもあるため、日々の労働時間はしっかり管理しておきましょう。
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土木・建設業に従事している方は、会社から機材や材料を積んだ社用車を利用して作業現場へ向かい、現地でお仕事をされる方が多いと思います。
この際、往復の移動時間を労働時間に含めず、現場での作業時間のみで給与算出している会社があります。
当然ですが、こうした時間も労働時間に含まれますので、もし労働時間に含まれていないようでしたら注意が必要です。出勤日数の記録や会社から現場までの移動時間の記録をしっかりとっておくようにしましょう。
解決事例
現場監督が管理監督者と認められるかどうかで残業代発生の有無が決まります。
管理監督者かどうかは職務内容、責任と権限、勤務態様、待遇を踏まえて判断されます。管理監督者である場合、残業代は出ない代わりに、出退勤時間や勤務時間を自分の裁量で決めることができ、その地位と責任に見合った給与が支払われなくてはなりません。
そうでない場合、現場監督は管理監督者とは認められず、残業代を請求することができます。
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建設・土木業の労働環境については、3Kと呼ばれる「きつい・汚い・危険」というイメージをはじめ、工期の遵守が求められることから現場や職種によっては残業も多く、若年層が定着しにくい職場環境にあります。
また、建設現場における作業担当について、元請け関係者はわずかで、大部分は下請け・孫請業者となり、さらに曾孫受け・玄孫受けと呼ばれる3次・4次下請け業者が作業の大半を担っていると言われています。
こうした多重請負の構造は、3次・4次・5次と下流になるほど請負費用が少なくなり、残業をしても残業代を払うことができない構造となってしまうことから、問題視されています。
このような状況を改善し、人手不足の解消及び離職率を下げるため、現在ではさまざまな取組が検討されるようになりました。
国土交通省ではこうした問題の解消に向け、国が発注する公共工事などで週休2日制を取り入れたり、無理のない工期日程の設定や、社会保険加入の義務化など、残業の常態化を防ぎつつ、労働環境の整備に関する取り組みも行われています。
人手不足の解消には、建設・土木技術の向上による工数の削減や、ICTの活用による正確・迅速な施行に向けたデジタル技術の導入など、少ない人員でも作業ができる環境を整備していくことが求められています。
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働き方改革関連法の施行により、時間外労働の上限は、原則として月45時間(年間6か月まで)かつ年360時間となり、緊急時・繁忙期など特別な事情がない限り、これを超えることはできなくなりました。
しかし、この時間外労働の上限規制には、一部の業種・職種において猶予期間が設けられており、建設業は2024年4月1日から施行となります。
施行後は違反をすると、事業主に対し30万円以下の罰金または6か月以下の懲役が科される可能性があります。
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時間外労働の上限規制を遵守するため、建設・土木業界は長時間労働や離職率の高止まり、担い手不足を解消し、若年層の就業率向上、3Kイメージの払拭をはじめ、女性も安心して働ける職場環境の整備、福利厚生の充実など、少しでも多くの課題を解決して残業の常態化を防いでいく努力が必要とされています。
土木・建設業に従事している方は、残業も多く、工期に追われて休みも満足にとれず、現場によっては苦慮されている方も多いと思います。
コロナ禍により、土木・建設業でも都道府県をまたぐ作業員の移動が一時的に自粛され、発注の見直しが行われたことによる人員調整も発生するなど、人員不足がより顕在化しました。また、感染した作業者が回復まで現場復帰できず、一時的な人手不足に陥るケースもあり、残された作業員の残業が増えるなど厳しい状況も続いております。
現場の厳しい状況においても残業代がきちんと支給されていればよいのですが、もし残業代が未払いとなっている場合はどうしたらよいでしょうか。
未払い残業代の請求については、ご本人で行うこともできますが、会社側が前向きに対応してくることはまれです。また、在職中の残業代請求は、会社側との関係性が悪化する恐れもあり、正当な要求であってもトラブルになることがあります。
そのため、未払い残業代の請求は、退職前に証拠集めの準備を進めておき、退職後に未払い残業代を請求する流れが多くなっています。
なお、弁護士を代理人に立てて残業代請求を行えば、会社側は無視しづらくなるため、ご自身で対処するより適切な残業代の回収・交渉を進めることができます。
土木・建設業に従事されている方で、未払い残業代を請求したいと考えているときは、まず弁護士へ相談し、依頼をするべきかどうかを含め、検討されることをおすすめします。
小湊 敬祐
Keisuke Kominato
働き方改革やテレワークの導入による在宅勤務など、社会情勢の変化により企業の残業に対する姿勢が変化しつつあります。一方で、慢性的な人手不足により、残業が常態化している企業もあり、悪質なケースでは、残業代の支給がされていないこともあります。ご依頼者の働きが正当に評価されるよう、未払いとなっている残業代の回収を目指し、活動を行っています。