残業代請求に関する解決事例 09
残業代請求に関する解決事例 09
解決事例09
担当弁護士
谷 靖介
ご依頼者 N.Uさん
ご依頼者のN.Uさんは、ある人材会社の営業部の課長職でした。多数の営業社員のチームリーダーを務めており、早朝から午後9時頃まで、毎日3時間以上の早出や残業が続いていました。給与には役職手当があり、また、みなし残業代の支払いがありましたが、実際の労働時間に応じた残業代の支払いはありませんでした。
弁護士の交渉代理人就任から4か月の時点で、会社から残業代の具体的な金額の回答はありませんでした。しかし、当職が粘り強く書面や電話などで何度も法律的な根拠や証拠を会社側の弁護士に伝え、また、交渉がまとまらない場合は、訴訟によって決着を図ると会社側にプレッシャーをかけていきました。
こちらの強い姿勢に会社側が折れ、当方提示と会社側提示額の調整を進め、約300万円の支払いとなりました。
会社側の労働時間管理システムには、毎日定時どおりの労働時間しかない形式的な記録だけでしたが、この記録は、ご依頼者の労働の実態を全く反映していないものでした。実際の労働時間を表したタイムカードや日報もなく、PCと電話中心の業務であったため、ご依頼者のN.Uさんには、社内・社外関係者宛のメール履歴に書かれた時刻や、社内SNSなどの労働時間やPC操作時間を裏付ける資料をできるだけ集めてもらいました。それら資料から労働時間の分析を進めた上で、残業代を計算しました。
会社側は弁護士をつけて、交渉の当初、これら資料による労働時間計算の点を強く争ってきました。また、課長職であることを理由として、管理監督者の主張を行い、残業代の支払い義務がないとの回答もありました。会社側の回答に対しては、メール履歴やSNSの資料が労働時間を裏付けていること、N.Uさんには出退勤の自由や人事採用への関与など、労働基準法にいう管理監督者としての実質を備えていないことなどを中心に、反論を行いました。
労働時間の管理は本来使用者側(会社側)の義務です。管理監督者の実態がない課長職でもあり、労働時間を適切に管理していない会社側の落ち度は大きいといえます。
この事例では、会社は弁護士をつけた上で、交渉の当初は残業代を1円も払わないという態度でしたが、粘り強く、書面や電話などで何度も法律的な根拠や証拠を会社側の弁護士に伝え、会社には200万円を超える残業代の支払い義務があること、また、交渉がまとまらない場合は訴訟によって決着を図る姿勢を伝えたところ、最終的には会社側が支払いに応じました。
タイムカードがなく、時間管理システムが労働の実態と合っていない時でも、決して請求を諦めず、様々な証拠からできるだけ真実に近い労働時間を検討し請求することが重要です。また、会社が用いる管理監督者などの主張には安易に屈せず、会社側に残業代の支払い義務があることを強く主張し続けたことで、交渉での解決が奏功した事例といえます。