残業が常態化しているにも関わらず、残業代が適切に支払われていない場合、会社が従業員のことをどのように考えているのか、労務管理体制に疑問を抱く方もいらっしゃるでしょう。このような状況に陥ると、転職や退職を意識される方の割合が増えると思われます。
転職・退職を意識するようになると、過去にさかのぼって未払いの残業代を請求できないかと考え、請求する方法や手順について調べたり、弁護士に相談される方も増えてきています。当事務所でも、退職前にご相談される方が多数いらっしゃいます。
では、実際に未払いとなっている残業代を請求したいと考えたとき、どのようなタイミングで会社へ請求するべきでしょうか。
「在職中に残業代を請求すると会社で肩身が狭くなり、仕事に支障がでそう…。」
「退職後だときちんと支払ってもらえるか不安…。」
こうした不安を抱え、請求するタイミングがわからず、行動に踏み切れない方も多いのではないでしょうか。
ここでは、未払い残業代をいつ、どのタイミングで請求するのがよいのかについて解説します。
残業代が未払いで会社に請求したいと考えたとき、どのタイミングで行うべきでしょうか?
請求のポイントとしては「退職直後」がひとつのタイミングと当事務所では考えております。
その理由として、退職直後であれば残業代請求(残業代を含む賃金請求権)の時効が3年※ですので、権利を最大限行使できることがあげられます。
その他にも、退職後であれば会社との関係がなくなるため、色々なしがらみがある在職中よりも気持ちの上で請求しやすいことと、事前の証拠収集を行いやすい点があります。
こうした観点から、未払い残業代請求のタイミングは「退職直後」が望ましいといえるでしょう。
ただ、退職直後でもご自身で会社側と交渉する場合、会社が取り合ってくれなかったり、会社によっては法務・労務の担当者や顧問弁護士と話し合いを行わなければなりません。未払い残業代に対するご自身の主張をうまくかわされてしまう恐れもありますので、事前に弁護士へ相談した上で準備を進めることをおすすめします。
退職直後での残業代請求のメリット
退職直後での残業代請求のデメリット
なお、在職中に残業代の請求を行うと、会社の給与制度などを理由にまったく取り合ってもらえなかったり、悪質なケースでは退職勧奨などを行う会社もあるなど、職場に居づらくなってしまうことがあります。
会社が労務管理体制の整備をしているタイミングであれば、従業員の声にしっかり耳を傾け、未払い残業代問題について整備される可能性もありますが、こうしたケースは極めて稀です。
在職中での残業代請求は多くのリスクが伴うことになりますので、退職・転職が視野にない段階では無理をせず、証拠収集の準備を進めることが無難かもしれません。
在職中の残業代請求のデメリット
未払い残業代請求には時効があるため、退職してから請求しない状態でいると、その期間の残業代が消滅時効により請求できなくなってしまいます。
残業代請求の時効は、給与の支払い日の翌日から3年※のため、例えば、2020年4月入社/2023年3月に退職し、最終勤務月の給与が2023年4月25日に支払われたケースで、2023年10月18日に残業代請求を行った場合、すでに6か月分の残業代について時効が成立しているため、残業代を請求できるのは2年半となってしまいます。
このように、未払い残業代の請求が遅くなればなるほど、消滅時効により請求する権利を失ってしまいます。未払い残業代の請求をお考えの場合は、時効に注意し退職後速やかに請求を行う必要があります。
退職後の残業代請求では、消滅時効に注意しなければなりません。このような問題を回避するため、法律には時効の進行を止める「時効の中断(完成猶予)」という方法があります。中断(完成猶予)すると、時効期間がリセットされ、再開されたときから再度カウントが始まります。
法律では、時効を中断させる方法として。主に「請求」「差押え、仮差押えまたは仮処分」「承認」の3つの方法があります。
従業員が行う中断方法としては「請求」がスタンダードですが、この「請求」は裁判所で労働審判の申し立てをしたり訴訟を起こすことを指すため、準備に時間がかかります。
そこで、暫定的措置として残業代を請求する旨の内容証明郵便を送る「催告」を行います。催告は仮の時効中断方法であるため、効力は「6か月間」しかありません。そのため、催告を行ってから6か月以内に労働審判や訴訟を起こす必要があります。
弁護士であれば、催告の内容証明郵便も正確かつ迅速に作成することができるので、時効を中断したいとお考えの方は、弁護士に相談することをおすすめします。その後の労働審判や訴訟においても、労働問題に強い弁護士であればきちんとしたサポートが受けられるでしょう。
退職・転職をするので「未払い残業代を請求しよう」と決意をしたら、請求に備えて退職までに押さえておくべきポイントがあります。どのような点に注意し、行動するべきかについて解説します。
一般的な企業であれば問題はありませんが、悪質な企業では退職に対して非協力的となることがあります。例として、代わりが見つかるまでは退職させない、離職票も出さないなど、嫌がらせのようなことが起こることもあるため、法律的には2週間前に退職の意思を伝えていれば会社を辞めることができるのですが、1か月以上前に退職意思を伝えておくのがよいでしょう。スムーズに退職できないような場合は、弁護士に相談することをおすすめします。
未払い残業代請求には「残業をした証拠」が必要になるため、在職中にできるかぎりタイムカードの控えや勤怠管理ソフトの記録データのコピー、就業規則の写しなど、実労働時間を把握できる証拠資料を集めておきましょう。
会社に入退室ができる間に、就業規則やタイムカードの控えなど、実労働時間を把握できる証拠資料を収集するようにしてください。
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未払いになっている残業代を請求するにあたり、「退職直後」が消滅時効の問題も回避できるため、ここがひとつのタイミングと考えます。
退職予定日の1か月前に退職の意思を会社に報告し、退職までの間に実労働時間を示すタイムカードや就業規則などのコピーを準備して証拠を控えておくようにしましょう。
有給消化で予定退職日よりも早く休みに入ってしまう場合は、早めに証拠資料の収集を行い、漏れのないよう対応を進めてください。
「未払い残業代を請求したい」と思ったら、まずは弁護士に相談してみるのもひとつの解決方法です。残業代が回収できる可能性や請求できるおおよその金額がわかるのはもちろんのこと、証拠資料の収集などご自身がやるべきことも請求するための方法も知ることができます。
また、退職後に段取りよく残業代請求を行いたいと考えるのであれば、事前に弁護士に相談して実際に残業代請求できるかどうかをはじめ、証拠資料の収集などアドバイスを伺っておくのもよいでしょう。
ご自身で交渉を進めることもできますが、会社が取り合ってくれなかったり、弁護士をたててきた場合、交渉が行き詰まってしまうこともあります。
そのため、事前に相談をして弁護士への依頼が未払いとなっている残業代回収への近道だと判断できれば、同時に弁護士へ依頼をすることで、より的確に対応できると思います。
リーガルプラスでは、未払い残業代請求に関して初回無料相談を行っておりますので、残業代請求でお悩みがあればお気軽にお問い合わせください。
小湊 敬祐
Keisuke Kominato
働き方改革やテレワークの導入による在宅勤務など、社会情勢の変化により企業の残業に対する姿勢が変化しつつあります。一方で、慢性的な人手不足により、残業が常態化している企業もあり、悪質なケースでは、残業代の支給がされていないこともあります。ご依頼者の働きが正当に評価されるよう、未払いとなっている残業代の回収を目指し、活動を行っています。