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労働災害(労災)に関する基礎知識

労働災害(労災)とは?労災認定の基準について

労働災害とは一般的に「労災」と呼ばれ、会社での業務中に病気やケガを負ったり、死亡事故が発生した場合や、通勤・退勤途中に交通事故などでケガをした場合のことを指します。
会社のお仕事中に大ケガをされ、入院などで業務ができなくなった場合、通院費をはじめ、ご自身の生活のことなど、経済的な不安を抱えることになります。このような負担を抱えることのないよう、万一仕事で災害に遭われた場合でも申請が認められると、労災保険制度により治療にかかる費用や、お仕事ができない期間の休業補償を一定程度受けることができます。労災の対象となるのは、正社員やアルバイト・パート・派遣といった雇用形態及び年齢や性別、国籍に関わらず、一部例外を除いたすべての労働者です。
万一の事故に備え、業務上の事故や災害に遭った従業員を守る観点から、労働者を雇用している企業は、原則として労災保険の加入と保険料の納付が義務付けられています。
さらに企業は労働者が安全に働くことができる環境を整える「安全配慮義務」を負っています。2008年(平成20年)3月に施行された労働契約法第5条には、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」と規定され、会社は職場の安全や労働者の健康を守る義務があります。
その他にも、労働安全衛生法により労働者が労災に遭わないための規定がいくつもありますが、ここでは、労働災害(労災)について一般的なことから、万一労災に遭った場合の労災認定の基準などを中心に解説します。

この記事の内容

労災の種類について

労災は主に2つの種類に分けられ、通勤中に発生したケガについては「通勤災害」、業務中に発生した事故によるケガや病気は「業務災害」と呼ばれ、いずれも労災保険によって通院費用や生活費の補償を受けることができます。それぞれの制度や違いについてみていきましょう。

業務災害とは?

業務災害とは、会社でのお仕事の中で事故に遭い、大ケガをしたり、病気になったり死亡したケースを指します。あくまで業務中による事故が対象ですので、勤務時間内であっても業務に関係のない、私的な行動による事故やケガは対象になりません。
また、ケガを負った労働者の事故原因が「業務上」であると認定されることが必要で、仕事のなかでの業務が原因で起きた事故の場合、業務状況とケガの原因が密接に関わっていると判断(「業務遂行性」と「業務起因性」の2つの要件を満たした場合)されれば、「業務上」と認定され、労災給付を受けることができます。

業務遂行性とは?

業務遂行性とは、ケガをした労働者が仕事をしている状態にあったかどうかを指します。すなわち、ケガをした労働者が労働契約に基づき、事業主(使用者)の支配下にあることを指します。
例えば、労働者が職場内で仕事(業務)をしている場合は当然ですが、休憩時間などで実際の仕事から離れている場合でも、職場内で活動しているのであれば、事業主(使用者)の管理下にあるとされる場合が多いと言えます。
たとえば、職場での休憩中に携帯でゲームをするなどの私的行為は、事業主(使用者)の管理下にあっても仕事に従事していないので業務災害になりませんが、職場の施設・設備の管理不備が原因でケガをした場合は、業務災害が認められます。
その他にも、営業が外出または出張などで取引先と打ち合わせをしたり、運送業者のように外へ出て配送業務を行っている場合、事業主(使用者)の管理下から離れて仕事をしていますが、この場合でも事業主(使用者)の支配下から外れていることにはならず、業務遂行性は認められると考えられます。

業務起因性とは?

業務起因性とは、仕事が原因でケガや疾病が発生し、事故と業務の内容に因果関係が認められることを指します。とくに「過労死」や「過労自殺」、「うつ病」といった、仕事の激務が続いたことによる心疾患などは、この業務起因性が問題とされます。

業務災害と認められる可能性について

万一仕事中に大ケガをした場合、その事故がご自身のミスによるものであっても、同僚のミスによる巻き込み事故であっても、業務災害と認定されれば補償を受けることができます。ここでは、業務災害と認定される可能性について事例を紹介します。

業務災害と認められる可能性が高い例
  • 足場業者の従業員がマンションに足場を組んでいた際、誤って転落し大ケガをした
  • 居酒屋のアルバイト店員が包丁で魚を捌いていた際、誤って指を深く切り大ケガをした
  • 工場勤務の従業員が作業中、別の作業員のミスで機械に巻き込まれ、大ケガをした

これらの事例は、業務中に起こった事故で、使用者の管理下にあると考えられることから、業務災害と認められる可能性が高いと考えられます。

業務災害と認められない例
  • 仕事中にも関わらず、プライベートに関することを行い、それが原因でケガをした
  • 仕事の合間の休憩中、不注意によりタバコの火でヤケドを負った
  • 営業で外出中、過去に遭ったトラブルで恨みを持たれている方と偶然遭遇し、暴行を受けてケガを負った

これらはすべて仕事中に負ったケガではありますが、「業務が原因で起こった災害」にあたらないため、労災と認められません。

通勤災害とは?

通勤災害とは、労働者が通勤で自宅と会社を往復している際、「通勤途中に電車と接触事故を起こして大ケガをした」「自動車で職場に向かっている途中に接触事故を起こしケガをした」といった事故が該当します。
ただし、通勤災害が認められるのは、業務・就業と関係のある往復で、合理的な経路であることが重要です。
仕事帰りにスポーツ観戦や友人との飲み会など、業務に関係のない寄り道によって通勤経路を大きく逸脱し、そこで事故に遭ってケガをした場合は、通勤災害と認められません。
ただし、「通勤途中に自動販売機で飲み物を買う」、「会社を早退し、そのまま病院に向かって診察を受けた」、「仕事帰りに保育園に預けた子どもを迎えに行った」、「通勤途中にある公園のトイレで用を済ませた」といった、日常的な行為において事故でケガをした場合、通勤の中断・逸脱にはならず、「通勤中」に判断されると考えられます。
また、会社との往復が合理的な経路であることについては、必ずしも最短距離である必要はありませんが、イベントや工事等で通行できないなど特別な事情がない限り、大幅な遠回りルートでの通勤は該当しないため、注意が必要です。

通勤災害と認められる可能性について

通勤災害によくある例として、通勤退勤途中での交通事故によるケガがあげられますが、ここでは、通勤災害と認定される可能性についての事例を紹介します。

通勤災害と認められる可能性が高い例
  • 通勤途中で子どもを保育園に預け、そのあと出社した
  • 通勤途中にあるコンビニに立ち寄り、お昼の弁当を買って出社した
  • 仕事が終わり帰宅途中に歯医者へ寄って治療を受け、そのまま自宅に帰った

これらの事例は、日常的な行為の範囲と考えられ、このなかで事故に遭ってケガをした場合、通勤災害が認められる可能性が高いと考えられます。

通勤災害と認められない例
  • 仕事が終わったあと、プロ野球観戦で球場に寄り、試合終了後に帰宅した
  • 仕事が終わったあと、友人とレストランで飲食をして帰宅した
  • 仕事が終わったあと、友人とカラオケ店に寄り、歌と飲食を楽しんで帰宅した

これらの事例は、明らかに通勤という行為から逸脱していると判断されるため、帰り道に交通事故などでケガを負っても労災認定は難しいといえます。

業務災害・通勤災害が発生した場合の対処について

万一仕事中や通勤途中で事故や災害に遭われた場合、ケガの状況にもよりますが、すぐ病院での手当が必要と判断される場合、近くにある労災指定病院に行き、治療を受けるようにしましょう。労災病院が近くになければ最寄りの病院でもかまいません。
労災病院で治療・診療を受けた場合、病院窓口での医療費の支払いは必要ないので、ご自身の金銭負担はありません。ただし、労災指定外の病院で治療を受けた場合、一旦窓口で自己負担しなければなりませんが、後に療養(補償)給付を国に請求することで、かかった分の医療費は戻ってきます。

労災と認定された場合に受けられる補償とは?

労災申請し、労災と認められた場合、状況に応じてさまざまな補償を受けることができます。ここでは、代表的な給付例を紹介します。

療養補償給付

ケガや病気が治るまで間にかかった治療費全般(薬、手術、診察、入院、看護等)の費用が給付されます。

休業補償給付

ケガや病気が原因でお仕事をすることができず、給与を受け取ることができない場合、休業してから4日目以降より、給付基礎日額※の60%が支給されます。

  • 給付基礎日額とは、原則として事故が発生した日または、医師の診断により疾病の発生が確定した日の直前3か月の間に、その労働者に対し支払われた賃金の総額(賞与等は除く)を、その期間の暦日数(休日・休暇を含めたカレンダー上の日数)で割った、1日当たりの賃金額をいいます。

障害補償給付

労災事故により後遺障害が残ったとき、障害補償年金または障害補償一時金が給付されます。

遺族補償給付

労災事故が原因で労働者が死亡した場合、その遺族に対していくつか条件はありますが遺族補償年金が給付されます。

この他にも、介護補償給付や傷病補償年金、葬祭料などがあり、状況に応じて適切な補償を受けることができます。

万一労災に遭ってしまったら…

ここまで労働災害(労災)についての概要を説明してきましたが、万一お仕事の中でケガをしたり病気になっても、さまざまな制度や法律により、労働者が守られるための仕組みは整ってきています。
このような状況においても、利益だけを追求して労働者の健康を顧みず、職場の安全配慮義務に対する意識が低い事業主もいます。労災を隠そうとしたり、適切な補償をせず労働者に責任を押し付けたりする会社であることがわかった場合、ケガを負われたこと以上にショックは大きいと思います。
ケガの状態が重く、後遺障害認定された場合など、会社に対してきちんと補償を求めたいとお考えの際、ご自身が会社と交渉して誠意ある回答があれば問題ありません。しかし、もし会社が不誠実な対応をしてきたり、争う姿勢をみせてきた場合には、労災問題を取り扱っている弁護士に相談したうえで対処されることをおすすめします。

労災事故による損害賠償請求は弁護士へご相談ください

初回相談は無料です

この記事の監修

小湊 敬祐

Keisuke Kominato

  • 弁護士
  • 上野法律事務所
  • 東京弁護士会所属

労働災害をはじめ、交通事故、未払い残業代請求や相続紛争業務を中心に、ご依頼者の心情に寄り添いながら、さまざまな法律問題でお悩みの方に対し、解決にむけたサポートを行っている。

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