労災保険の仕組みについて
労災保険とは、正式名称を「労働者災害補償保険」といい、事業主(会社など)のもとで業務に従事している労働者が、仕事が原因によるケガを負ったり、通勤途中で事故に遭い、負傷または死亡した場合に、さまざまな保険金が労働者やご遺族に支払われる保険制度です。
この労災保険制度は、労働者が安心して働けるよう、国により設置された制度で、労働者を一人でも雇用している事業所では、正社員はもとよりパートやアルバイト、週20時間未満の従業員など、雇用形態に関わらず、すべての労働者が加入対象になります。(5人未満を雇用する農林水産業は除く)
ここでは、事業主(会社など)のもとで働く従業員が万一業務の中でケガを負っても、経済的な負担を抱えず補償を受けることができる労災保険制度について、その仕組みを解説します。
- この記事の内容
労災保険制度の意義とは?
先に事業主(会社)が労働者を一人でも雇用したら、労災保険加入の義務があり、雇用形態に関わらず、すべての労働者が労災保険の対象になるとお伝えしました。これはつまり、労災保険制度があることで、労働者は仕事による万一のケガがあったとしても、きちんとした補償を受けられることで、安心して仕事ができるよう配慮されているともいえます。
また、労災保険制度の意義については、労働者災害補償保険法の中にも書かれています。
【引用】
労働者災害補償保険法 第一章 総則 第一条
労働者災害補償保険は、業務上の事由、事業主が同一人でない二以上の事業に使用される労働者(以下「複数事業労働者」という。)の二以上の事業の業務を要因とする事由又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等に対して迅速かつ公正な保護をするため、必要な保険給付を行い、あわせて、業務上の事由、複数事業労働者の二以上の事業の業務を要因とする事由又は通勤により負傷し、又は疾病にかかつた労働者の社会復帰の促進、当該労働者及びその遺族の援護、労働者の安全及び衛生の確保等を図り、もつて労働者の福祉の増進に寄与することを目的とする。
つまり、労災保険制度があることにより、万一ケガを負っても必要な補償が用意されていることで、労働者の社会復帰の促進・労働者の安全と衛生の確保等といった、より安心して働くことができる環境の構築につながっているといえます。
労災保険で受けられる給付とは?
万一、仕事中に労災事故に遭った場合、労働基準監督署に労災認定申請を行い、認定されることで、状況に応じた労災保険の給付を受けることができます。実際に労災保険でどのような補償を受けることができるのか、主な給付例をご紹介します。
療養(補償)給付
ケガや病気が治るまで間にかかる治療費全般(薬、手術、診察、入院、看護等)が給付されます。
休業(補償)給付
労災事故による傷病のため休業し、賃金が支払われなかった場合の補償として、一定額(給付基礎日額)が支払われます。
- 給付基礎日額とは、原則として事故が発生した日または、医師の診断により疾病の発生が確定した日の直前3か月の間に、その労働者に対し支払われた賃金の総額(賞与等は除く)を、その期間の暦日数(休日・休暇を含めたカレンダー上の日数)で割った、1日当たりの賃金額をいいます。
障害(補償)給付
労災事故により後遺障害が残ったとき、障害補償年金または障害補償一時金が給付されます。
遺族(補償)給付
労災事故が原因で労働者が死亡した場合、その遺族に対していくつか条件はありますが遺族補償年金が給付されます。
詳しくは、下記「労災保険で受けられる補償と内容について」で解説しています。
会社は労災保険加入の義務がある
労災保険の仕組みの中で、補償の内容とあわせて大切な点が、労災保険の加入は会社の義務であるということです。
労災保険は普段あまり馴染みのない保険かもしれませんが、日本の社会保険は大きく5つあり、「健康保険」「介護保険」「厚生年金保険」「雇用保険」「労災保険」に分けることができます。このうち、「雇用保険」と「労災保険」は、ふたつあわせて「労働保険」とも呼ばれています。
会社の給与明細を見ると、5つの社会保険のうち、労災保険以外の保険は総支給額より控除されていると思います。労災保険が控除を受けていないのは、労災保険の保険料は会社が全額負担しているためです。馴染みがないのはこの点にあるかもしれません。
労災保険は、事業主(会社など)が一人でも労働者を雇用した場合、原則として加入が義務付けられています。そのため、会社は「労働保険」と呼ばれる「雇用保険」と「労災保険」の労働保険料を年度ごとに取りまとめ、管轄の労働基準監督署に納付する必要があります。
労働保険料は、労働者に支払う賃金の総額と保険料率(労災保険率+雇用保険率)から決まり、雇用保険は労働者と会社双方の負担になりますが、労災保険は全額会社負担となります。
保険料率については3年に一度見直しが行われ、労災事故が度々起こっているような企業になると、見直しのタイミングで保険料率が上がる確率が高くなります。
会社が労災保険に未加入で労災事故が発生した場合
事業主(会社など)が労働者を一人でも雇用した場合、労災保険の加入が義務付けられているとお伝えしましたが、万一会社が労災保険に加入しておらず、保険料の支払いをしていなかった場合はどうなるでしょうか。
労災保険未加入の会社で労働者が労災事故に遭った場合、必要な補償を受けられないのでは?と心配になりますが、このような場合でも労働基準監督署に申請し、労災と認定されれば補償は受けられる仕組みになっています。
ただし、会社側が労災保険未加入であった場合、労災事故が明るみになることで、過去に遡って保険料の徴収を受けることとなります。また、労災未加入に対する罰則を避けようと、労災を隠そうとする可能性があります。そのため、労災未加入の会社における労災事故では、会社の協力を得ることが難しいこともあります。このような場合には、会社が労災保険未加入であることを労働基準監督署に伝え、指示を仰ぎながら、労災の申請手続きを行うとよいでしょう。
以上のように、仮に会社が労災保険未加入であっても労働者は保護され、労災申請を行うことができる仕組みになっています。
なお、会社が労災保険に加入しているかどうかは、厚生労働省のwebサイトで確認することができます。
関連リンク
労災保険の仕組みを支えているのは会社・事業主である
ここまで労災保険の仕組みを説明してきましたが、仕組みについて主なポイントは2つあります。
- 労災保険により、ケガの状況に応じた補償を受けることができる
- 事業主(会社など)は1名でも労働者を雇用したら、労災保険の加入が義務付けられている※
- 5人未満を雇用する農林水産業は除きます。
会社が労災保険に加入し、保険料を納付する義務をしっかり果たすことで、労働者が適切な補償を受けることができます。つまり、労働者が安心して働くことができるのは、会社が労災保険制度を支えているからといっていいでしょう。
会社が労災保険に未加入であることは本来あってはならないことで、自動車に例えるならば、無保険で自動車を運転していることと変わりないことなのです。万一仕事中に事故に遭い、会社が労災保険に未加入であった際は、早めに労働基準監督署などへ相談し、指示を仰いで対応するようにしましょう。
労災事故による損害賠償請求は弁護士へご相談ください
この記事の監修
小湊 敬祐
Keisuke Kominato
- 弁護士
- 上野法律事務所
- 東京弁護士会所属
労働災害をはじめ、交通事故、未払い残業代請求や相続紛争業務を中心に、ご依頼者の心情に寄り添いながら、さまざまな法律問題でお悩みの方に対し、解決にむけたサポートを行っている。