労災事故発生から解決までの流れ
お仕事で事故などによりケガを負った場合、ケガを完治させることが最優先ではありますが、その他にも解決しなければいけない問題があります。
仕事によるケガの場合、ケガで仕事ができなくなった際の休業補償など、経済的な負担を抱えることもあります。こうした場合、労災認定の手続きを行い、認定・給付を受けることで、適切な補償を受けることができます。
また、ケガの程度によっては、後遺障害認定を受けることや、事業主(会社)に対し慰謝料などの損害賠償請求を行い、適切な補償を受けることも、労災事故の解決にとって重要な要素となります。
ここでは、労災事故が発生してから労災認定され、解決するまでの流れについて説明します。
- この記事の内容
労災事故の発生
お仕事をしているときや通勤途中で労災事故が発生した場合、まずは治療に専念し、回復に努めてください。事故直後、周りに従業員がいるときは応急手当をし、状況に応じて救急車を手配する等、ケガを負った方の安全に配慮し、行動してください。
あわせて、事故発生時の状況を確認した上で、現場を写真撮影し、医師から傷病についての診断書を取得するなど、証拠保全も必要になります。事故によっては警察の現場検証及び事情聴取も行われますので、事故の状況を正確に伝えるようにしましょう。後に会社の安全配慮に問題はなかったか、ケガをされた労働者の過失はどうであったかなどが問題になったとき、不正確な事実を伝えると不利になることがあります。
また、通勤や取引先へ向かう途中で交通事故に遭われた場合、ケガの状況に応じた対応と並行し、保険会社や警察への連絡も必要になります。
労災保険給付の申請
労働災害(労災)が発生したとき、定められた要件に該当する場合において労災保険の給付を受けることができます。療養(補償)給付、休業(補償)給付をはじめとした補償を受けることで、経済的な負担を軽減することができます。なお、この給付を受けるには、労働基準監督署に対し給付申請手続きを行う必要があります。
注意点として、「仕事で負ったケガなので労災だ」と思っても、労災認定基準を満たしていなければ、労災認定を受けることはできません。
認定基準に当てはまらないケースや、認定基準を満たしていても、根拠となる資料や証拠が不足している場合、労災認定されないことがあります。
証拠となる資料の重要性
労災認定基準については、この分野に精通している弁護士などの専門領域になります。先に触れましたが、根拠となる資料や証拠がないために適切に認定されないこともあります。また、労災認定はもちろんのこと、会社に対して慰謝料や損害賠償請求を行うことを想定した場合、証拠となる資料をきちんと収集しておくことが重要になります。
会社が社労士を手配し、労災申請を代行してくれるなど、労災の処理に協力的な場合は大きな問題になりません。ただし、申請内容についてはきちんとご本人が最終確認する必要があります。
一方で、会社側が労災申請に非協力的である場合は特に注意が必要です。
この場合、「労災かくし」が疑われることもあるため、ご自身で申請を進めなければなりません。このとき、労災の申請に不安があれば弁護士などの専門家に相談するとよいでしょう。
労災問題の解決にあたっては、認定に必要とされる資料や証拠をはじめ、初動のしっかりとした調査が重要になることも多いといえます。会社側が労災に非協力と感じたら、早めに弁護士などの専門家に相談するとよいかもしれません。
労災の認定
労災認定された場合、労働基準監督署長より支給決定通知書が届きますので、休業(補償)給付など、申請した労災保険の給付を受けることができます。
労災が認定されなかった場合
労災認定されなかった場合、労働基準監督署長より不支給決定通知書が届きます。
決定に納得できない場合、管轄労働局の労働者災害補償保険審査官に不服の申立て(審査請求)を行うことができます。審査請求を行っても認定内容が変わらず納得できない場合、労働保険審査会に再審査請求を行うことや、裁判所による訴訟手続(行政訴訟)を行うことができます。
ただし、労基署での認定を覆すことは難しく、新たな証拠資料を明示できなければ見通しは厳しいといえるでしょう。
後遺障害等級の認定について
お仕事でケガを負い、治療を継続していたが完治せず、治療終了時に症状が残る場合があります(症状固定)。こうした場合、残存した症状(後遺障害)に応じた後遺障害等級の認定を、労働基準監督署長より受けることになります。
後遺障害等級の認定を受けると、等級ごとに決められた障害(補償)給付を受けることができ、1〜7級は障害(補償)年金、障害特別支給金、障害特別年金が、8〜14級は障害(補償)一時金、障害特別支給金、障害特別一時金が支給されます。
もし、労基署の後遺障害等級認定に納得できない、または後遺障害が認定されず不満がある場合、等級認定及び不認定を受けた日の翌日から3か月以内に、管轄労働局の労働者災害補償保険審査官に対し審査請求を行うことができます。
審査官へ新たな証拠資料等を提出し、適切な等級を主張していくことになりますが、明確な資料や医学的根拠を提示できないと主張が認められることは難しいでしょう。また、後遺障害に関する審査は時間がかかることに注意が必要です。
また、審査請求が棄却され納得できないときは、再審査請求の手続きまたは労働基準監督署長の処分決定に対する取消訴訟を行うこともできます。
会社側との示談交渉及び損害賠償請求
労災認定され、労災保険の給付を受けられることになっても、労働者が被った被害のすべてを金銭的にカバーできるわけではありません。
例えば休業(補償)給付については、休業直前の3か月分の給与を日割り計算した金額(給付基礎日額)の6割が支給されます。このほか、特別支給金として給付基礎日額の2割が補償されますが、全額の支給ではありません。
そこで、労災事故が起こった状況をふまえ、会社側の安全配慮義務を前提として、労働者と会社側における過失割合、労災保険で賄えない部分の補償、慰謝料など、会社側と示談交渉を行う必要があります。
会社側が労災事故に真摯に向きあい、誠意ある態度を見せていれば問題ありませんが、損害額などで折り合わないことも多く見受けられます。
また、会社側の過失が大きいにも関わらず事故そのものの責任を否定したり、提示してくる金額が著しく低いなどの理由で交渉が決裂した場合には、労働委員会のあっせん手続や労働審判のなかで和解を目指したり、損害賠償請求訴訟を起こすことで、最終的な賠償金額を争うこととなります。
労災事故問題の解決に向けて
ここまで、労災事故発生から最終的な解決までの道のりをみてきました。労災事故の問題が解決するまでにしなければならないことは多く、ケガを抱えたままご自身で対応していくことは、かなりの負担となってしまいます。
もっとも、会社側がケガをした労働者ときちんとコミュニケーションをとり、労災認定から補償まで誠意ある対応をしていれば、大きな問題は生じません。労働者は治療に専念し、職場復帰を目指すという、適切な流れによって解決できることもあります。
しかし、労災事故においては、会社側がある程度誠意をもって対応していても、示談交渉のタイミングで慰謝料や損害賠償で折り合うことができずに裁判となるケースもあります。悪質な場合、労災事故そのものを隠そうとしたり、ケガをした労働者に対し、解雇・退職を迫るといった違法行為を平然と行う企業もあります。
労災事故で会社の対応に不信や疑問を感じたら、早めに弁護士などの専門家へ相談されることをおすすめします。
労災事故による損害賠償請求は弁護士へご相談ください
この記事の監修
小湊 敬祐
Keisuke Kominato
- 弁護士
- 上野法律事務所
- 東京弁護士会所属
労働災害をはじめ、交通事故、未払い残業代請求や相続紛争業務を中心に、ご依頼者の心情に寄り添いながら、さまざまな法律問題でお悩みの方に対し、解決にむけたサポートを行っている。