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労働災害(労災)に関する基礎知識

労災事故における安全配慮義務とは?

事業主は雇用した従業員に対し、安全かつ健康で働ける職場環境の提供と配慮を行う義務が課されています。つまり、会社側は職場の衛生環境を維持し、従業員が安全に働けるよう努める義務があり、このことを安全配慮義務といいます。安全配慮義務は2008年3月に施行された労働契約法第5条で明文化されました。

【引用】

(労働者の安全への配慮)
第5条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。

労働契約法第5条に関する最高裁の判例としてよく紹介されるのが、川義事件(最高裁昭和59年4月10日判決)です。この事件は、24時間宿直勤務を命じられた社員が会社に侵入してきた元従業員に殺害された事件で、会社が安全配慮義務を怠ったとして、遺族に対し損害賠償責任があるとされました。
これは、会社が宝石や呉服などの高価な商品を取り扱い、保管しているうえ、当時不審な電話や盗難が発生していたという状況のもとで、盗賊(窃盗や強盗)の侵入を予見できたにもかかわらず、宿直人数の増員及び防犯ベルやインターホンなどの設置といった設備対策を怠ったことが安全配慮義務違反とされました。
この判例からも、会社は労働者に対し高いレベルで安全配慮義務が求められているといえるでしょう。

労災事故において会社に損害賠償請求する場合にも、主に会社側の安全配慮義務に問題がなかったかが焦点となります。ここでは、安全配慮義務についての具体的な内容について説明します。

この記事の内容

安全配慮義務の内容について

労災事故において、会社が安全配慮義務をどこまで負っているのかは、職種により違いもあることから抽象的でわかりにくい部分もありますが、特に注意すべき内容について具体的な例をみていきましょう。

職場作業環境の衛生管理が維持・更新されているか

業務を行う上で使用する設備や道具などに不備があり、労働者に危険が及ぶ可能性があった場合、安全配慮義務違反の可能性があります。
例えば、工場作業で注意しないと機械に巻き込まれる可能性がある場所でなんの対策もとらず事故が起こった場合、会社側の安全配慮義務として防護柵を設けるなど、労働者に危険が及ばないようきちんと対策がとれていたかどうかが焦点になると考えられます。

過重労働が放置されていないか

業務過多のため定時で仕事が終わらず、労働者が過労死認定ラインの基準といわれる80〜100時間の残業を毎月行っている状態で、労働者が意識消失や判断力低下による作業ミスで大ケガを負ったり、急性心不全等で突然亡くなるなどの事故が起こった場合、過度な残業を放置していたことが、安全配慮義務違反であると判断される可能性があります。
こうした場合、会社が労働者の勤務状況を把握し、必要に応じて上司や産業医が面談を行いながら業務体制の見直しをするなど、過酷な長時間労働に陥らない体制を構築する義務があり、このような安全配慮が行われていたかがポイントになると考えられます。
労働者としては、タイムカードや家族へのメールなど、勤務実態を示す証拠を押さえておくことが重要です。

職場の人間関係やハラスメント対策がされているか

職場で同僚からの嫌がらせやいじめ、上司の過度な暴言によるパワハラやセクハラでうつ病を発症したり自殺者がでた場合はどうでしょうか。
この場合も、会社側は労働者に対して働きやすい職場環境の整備・維持する義務があり、つまり、職場環境配慮義務を負っています。
いじめ・嫌がらせやハラスメントを起こさせないための啓発や、セーフティーネットとして労働者が相談できる体制を整えているかなど、会社は働きやすい職場の環境づくりを行う義務があります。これを怠り、ハラスメント等が発生した場合、会社に対して安全配慮義務違反を問える場合もあります。

自然災害時における労働者の安全配慮を適切に行うための準備ができているか

冒頭に紹介した川義事件では、盗賊・強盗の侵入を阻止する措置を講じるか、侵入されても労働者の安全が守られるよう、会社側が安全配慮義務を徹底しなければいけないという画期的な判決でした。一般的にみて、強盗や盗賊の侵入をも想定した安全配慮というのは、相当の未来予想ができないかぎり難しいのではと考えがちですが、自然災害のようにいつ起こるかわからないような場合でも、同様に労働者への安全配慮義務が生じます。
例えば、自治体の水害ハザードマップに指定されている地域に会社があり、台風が接近し大雨洪水警報が発出され、河川の氾濫危険のため自治体から避難勧告がでているにもかかわらず労働者を業務に従事させ、結果、河川堤防の決壊により会社が濁流に押し流されて従業員が死亡したり、大ケガを負ったような場合、会社の安全配慮義務に問題があったと考えられ、損害賠償請求できる可能性があります。
極端な例ではありますが、会社は常日頃から万一の自然災害に対しても、労働者の安全を守るための対策を行わなければなりません。自然災害は想定外の出来事かもしれませんが、それほど労働者への安全配慮義務は重たいものなのです。

新型コロナウイルスをはじめとした伝染病などの感染症対策が徹底されているか

新型コロナウイルスなどの感染症についても、労働者に対して安全配慮義務が徹底されていなければ、会社に対して責任を追求できる可能性があります。
マスク着用を徹底せず業務に従事させていたり、労働者が密になる状況が発生する場合において、密集しないような職場環境を提供する義務を怠ってクラスター感染が発生してしまった場合、安全配慮義務違反となる場合も考えられます。
なお、厚生労働省は、業務により新型コロナウイルスに感染した場合、感染経路が業務によることが明らかな場合と、感染経路が不明でも感染リスクが高い業務に従事し、それにより感染した可能性が高い場合において、労災保険給付の対象になると発表しています。

安全配慮義務違反となるポイント

ここまで、労災事故における会社への損害賠償請求を行うにあたり、会社の安全配慮義務がどこまで遂行されていたかが大きなポイントになるとお伝えしてきました。
労災事故に遭い、安全配慮義務違反で会社に対し損害賠償請求するためのポイントは、次の2点に集約されます。

  • 会社が労働者に対して健康被害やケガを負う危険性を予測できたかどうか(予見可能性)
  • 会社が労働者の健康被害やケガを負う危険性を回避できる可能性があったかどうか、危険回避が可能である場合に、対策を怠ったかどうか(結果回避性)

この2点を会社が守っていないと、安全配慮義務違反とされる可能性が高くなります。このため被災労働者が損害賠償請求するためには、この2点についての立証がポイントとなります。安全配慮義務違反に関する請求をご自身で行うのは大変難しいため、弁護士などの専門家に相談し、どのような対応ができるかアドバイスを受けることを検討してみてください。

この記事の監修

小湊 敬祐

Keisuke Kominato

  • 弁護士
  • 津田沼法律事務所
  • 千葉県弁護士会所属

労働災害をはじめ、交通事故、未払い残業代請求や相続紛争業務を中心に、ご依頼者の心情に寄り添いながら、さまざまな法律問題でお悩みの方に対し、解決にむけたサポートを行っている。

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