交通事故被害の基礎知識

加害者側の保険会社から示談提案を受けたときに注意すべきこととは?

加害者側の保険会社から示談提案を受けたときに注意すべきこととは?

交通事故被害に遭い、ケガの治療が終わりを迎えるタイミングで、加害者が任意保険に加入していれば、その保険会社から示談の提案に関する連絡を受けたり、示談提案書がご自宅に郵送されます。

多くの方にとって保険会社との示談交渉は初めてのことと思いますので、明らかに示談金額が低いケースでなければ、保険会社の提案が一般的で妥当なものだろうと応じてしまう方もおります。

ところが、交通事故による加害者側保険会社の示談提案の多くは、金額が低く見積もられています。弁護士が交渉することで、当初提案よりも増額できるケースがほとんどのため、保険会社の示談提案をそのまま受け入れる前に、一度弁護士に相談してください。

ここでは、交通事故被害で保険会社から示談提案を受けたときの注意点や、なぜ弁護士が交渉すると増額が可能なのかなど、示談交渉全般について説明します。

この記事の内容

一度示談提案を受け入れサインしてしまうとほぼやり直しができない

人身事故の場合、保険会社からは、示談提案とともに「免責証書」や「承諾書」という書類が送られてきます。
免責証書(承諾書)は、「示談書」の代わりになる書類です。支払いを受ける側(被害者)が、相手方(加害者)に対し、今後の請求をしないこと(免責すること)を約束する書面です。示談書と異なり、加害者本人のサインを要さないので、迅速な取り交わしのために用いられます。

免責証書には、通常「本書面に記載された事項を除き、本件事故に関する一切の請求を行わないことを約束する。」といった清算条項が設けられています。

そのため、いったん免責証書にサインをして保険会社に提出してしまうと、基本的には、その事故について、免責証書に記載された賠償金以外の一切の請求ができなくなります。後から、本来はもっと賠償金をもらうべきだったと気が付いても、原則やり直しはできません。

判例では、示談の当時に「予想できなかつた再手術や後遺症が後日発生した場合」には、改めて後日発生分の損害賠償を請求できるとしており(最判S43.3.15民集22巻3号587頁)、サインをしたら100%やり直しがきかないとまではいえません。しかし、この「予想できなかった」の要件を満たすのはかなり難しいといえます。基本的には、示談にあたって、その事故で生じたすべての損害をカバーしなければならないとご理解ください。

相手方保険会社から示談提案を受けたら弁護士に内容を精査してもらう

保険会社から示談提案を受けたときには、サインをする前に、弁護士に内容を精査してもらうことをおすすめします。また、電話などにより口頭で金額提示がされる場合にも、その場で受諾せず保留にしましょう。

保険会社の初回提案では、後述のとおり、慰謝料などの金額が、本来もらえる額よりも低く提示されていることが多いです。

また、本来であれば後遺障害の認定がされるべき症状が残っている場合にも、後遺障害申請について特段のアナウンスなしに示談提案がされていることもあります。

このような点について、実務の運用をよく知らないと、「これくらいの金額が一般的なのだろう。」と思い込んで、適切な賠償を受ける機会を失うことにもなりかねません。

弁護士が交渉すると多くのケースで増額の可能性がある理由について

多くの事故では、弁護士が交渉することで、賠償額が増額に至ります。

現在は、インターネットなどにも損害賠償額の基準が記載されており、基準を理解していれば、ご自身で交渉できると考える方もいらっしゃいます。

しかし、保険会社は、被害者ご自身の交渉では、ほぼ増額に応じてくれません。交渉でいくらか上乗せしてくれることもありますが、適正な賠償基準には達しないのが通常です。

交通事故の賠償には3つの基準がある

交通事故の賠償には、次の3つの基準があります。特に3つの基準に大きな差が出るのは、慰謝料金額ですが、それ以外の費目にも差が生じることがあります。

自賠責基準

自賠責保険の定める基準です。被害者への賠償額はこの自賠責基準を下回ってはいけないとされており、最低限の賠償を受けるための基準です。

任意保険基準

任意保険会社が独自に定めた基準です。自賠責基準に近い基準としている保険会社が多いですが、保険会社によって独自の増減の基準を設けていることがあります。

裁判基準

裁判で認定される基準で、慰謝料額としては、通常3つの中で最も高額になります。弁護士も基本的にこの基準を用います。

以下のとおり、自賠責基準とは異なり、入通院の期間の長さによって金額が変化します。

保険会社は本人との交渉では裁判基準を用いない

保険会社は、弁護士が代理人として交渉する場合、この「裁判基準」を基本にします。訴外で(=裁判の席でないところで)示談する場合、裁判基準慰謝料の8~9割程度で合意するのが、多くの保険会社の弁護士基準です。

一方、被害者本人の交渉の場合、保険会社内部の決済基準が異なります。仮に被害者自身の損害賠償に関する知識が豊富でも、裁判基準・弁護士基準を用いてはくれません。

そのため、ご自身への示談提案が適正でないと感じたら、弁護士に相談・依頼することをおすすめします。

ケースによっては当初示談金額より大幅な増額となることもある

では、実際に弁護士に依頼した場合、どのくらいの金額の増額が見込めるのでしょうか。ここでは、サンプル事例を用いて解説します。

適正金額より低額な示談提案がなされやすいポイントを集めた架空の事例ではありますが、実際のご相談でもこのような提案がしばしば見られます。

  • ※サンプル事例は、当事務所の弁護士が実際に対応・解決してきた事例をもとに構成しています。

【サンプル事例】交差点での自動車同士の事故で、基本の過失割合が20:80の被害者事例

ご相談内容

「私が交差点を青信号で直進していたところ、右折してきた対向車と衝突しました。相手方は、交差点に入るときに徐行していませんでした。ドライブレコーダーの録画記録があり、保険会社から、過失割合は20:80と言われています。

事故で頸椎捻挫の診断を受けて、月10回病院に通い治療をしていました。最初は保険会社が直接病院に治療費を支払ってくれていましたが、ちょうど事故から5か月経ったところで治療費が打ち切りになりました。

まだかなり痛みがあったので、健康保険を利用して通院を続けました。事故からちょうど10か月で、お医者さんから「症状固定」と言われ、治療が終了しました。打ち切り後の治療での自己負担額は月6,000円です。未だにいつも首が痛い状態が続いています。保険会社から後遺障害の話は特に聞いていません。

事故当時から、家事育児をしながらパートで働いていて、給料の日額は6,000円で、年収は100万円前後です。職場に迷惑がかかるので、10日間だけ休んで復帰しました。しかし、痛みが辛くて家事はとてもできず、家族に代わりに家事をしてもらっていました。

治療を終えたと伝えたところ、保険会社から次のような示談提案が送られてきました。」

提案内容
損害項目 金額 備考
治療費 ¥200,000
通院交通費 ¥10,000 1回200円×通院50回
休業損害 ¥60,000 パート欠勤分6,000円×10日
入通院慰謝料 ¥500,000 治療日数50日。弊社の基準です。
損害額合計 ¥770,000
過失相殺 ¥154,000 過失20%
既払額 ¥270,000 治療費、通院交通費、休業損害お支払済
お支払金額 ¥346,000
適正な治療期間について

保険会社は、まだ治療が必要とされる段階で、治療費の支払いを打ち切ってくることがあります。示談提案では、打ち切り時点を治療の終了時期として治療費、通院交通費、入通院慰謝料などが提示されます。そのため、打ち切り後の治療費や通院交通費といった実費の賠償はなされなくなります。また、入通院慰謝料は、入通院期間に応じて増額しますから、打ち切り時点までとされることで慰謝料も低額になります。

本来的な治療の終了時期は、打ち切り日ではなく主治医の診断した症状固定日です。弁護士は、症状固定日を治療の終了時期として交渉し、必要に応じて主治医意見書など、治療期間の根拠になる資料を取り付けます。

サンプル事例では、本来的な治療の終了時期は事故から10か月後である一方、保険会社からの提示は治療期間5か月を前提にしたものです。したがって、立替分の治療費・通院交通費の他、プラス5か月の慰謝料が裁判基準で請求可能です。

家事従事者としての休業損害について

他の家族分の家事労働をしている「家事従事者」の場合、ケガで家事を休んだ分の休業損害である「主婦(主夫)休損」の請求ができます。

主婦休損は、基本的に女性の平均賃金(賃金センサス)を日額とします。令和3年の女性平均賃金は、385万9400円(日額1万574円)です。

兼業主婦(主夫)が被害者の場合、本来は実収入と女性平均賃金を比較し、高い方を基礎として休業損害を認定することになります。しかし、仕事を休んでいると伝えると、保険会社から休業損害証明書を提出するように言われ、家事への支障について考慮しない休損損害の提案がなされることがあります。

また、主婦休損の提案がなされる場合でも、自賠責保険の基準に合わせ、日額6100円×病院に通院した日数での提示がなされることも多いです。特に後遺障害が残ったケースや重傷のケースでは、家事ができない期間がそれだけ長くなりますから、適正な主婦(主夫)休損の請求が重要です。

サンプル事例では、パート収入が平均賃金を下回るにもかかわらず、実際に欠勤して減収した金額が休業損害として提示されています。治療期間分の主婦休損を請求することで、休業損害の増額が可能です。

入通院慰謝料について

任意保険会社からの入通院慰謝料の提示は、自賠責基準に少し上乗せした金額であることが多いです。

サンプル事例でも、自賠責基準(4300円×打ち切りまでの実通院日数50日×2=43万円)に少し上乗せされた50万円の提示がなされています。

弁護士が交渉する場合には裁判基準を用いますので、現在の提示額よりも慰謝料は増額します。

後遺障害認定について

賠償額に大きな影響を与えるのが、後遺障害の等級認定です。後遺障害が認定されると、上記の入通院慰謝料に加えて後遺障害慰謝料が請求できます。また、後遺障害により労働に支障が生じたことによる損害である「逸失利益」が請求できます。

後遺障害のなかでは最も軽い第14級でも、裁判基準の慰謝料は110万円であり、等級が1つ変わると100万円単位の賠償額の差が生じます。

このように、後遺障害の正しい等級認定がなされるか否かで、受け取れる賠償額には大きな差が生じます。

サンプル事例のように、症状固定後も常に痛い状態が続いているのであれば、示談の前に後遺障害申請を行いましょう。

首の痛みが、後遺障害等級第14級9号(局部に神経症状を残すもの)に認定された場合、後遺障害慰謝料と逸失利益で200万円近い損害額があることになります。

過失割合について

被害者に過失がある場合、損害額の合計から被害者の過失分を差し引いた金額が、被害者に支払われる賠償額となります。この考え方を「過失相殺」といいます。

事故状況について大きな争いがない場合でも、「修正要素」と呼ばれる細かな点について、相手方の主張と食い違いが出ることがあります。修正要素は、5~20%過失割合を上下させるので、損害額全体が大きいほど、修正要素が適用されるか否かにより損害額も大きく上下します。

なお、同一の事故の物損と人身では、原則として同じ過失割合が適用されます。過失割合に疑問がある場合には、物損の示談をまとめる前の段階で、弁護士にご相談いただくのが望ましいです。

サンプル事例では、直進車側(被害者)の基本の過失割合はたしかに20%ですが、相手方の徐行がないことが、被害者の過失を10%下げる要素になります。

弁護士基準を用いた各項目の賠償金額

ここまでお伝えしてきた各要素で適正な増額をした場合、サンプル事例での保険会社提示と、弁護士基準との差額は以下の通りです。

保険会社提示 弁護士基準
治療費 ¥200,000
(5か月分)
¥230,000
(10か月分)
通院交通費 ¥10,000
(5か月分)
¥20,000
(10か月分)
休業損害 ¥60,000
(パート欠勤分)
¥856,470
(主婦休損)
入通院慰謝料 ¥500,000
(任意保険基準・5か月分)
¥1,130,000
(裁判基準・10か月分)
逸失利益 ¥0
(後遺障害なし)
¥835,367
(第14級9号)
後遺障害慰謝料 ¥0
(後遺障害なし)
¥1,100,000
(第14級9号)
損害額合計 ¥770,000 ¥4,171,837
過失相殺 ¥154,000
(過失20%)
¥417,184
(過失10%)
既払額 ¥270,000 ¥270,000
請求額 ¥346,000 ¥3,484,653

このように、「むち打ち症状だけだし、弁護士に頼んでもそれほど大きく増えないのではないか。」とお考えのケースでも、適正な賠償額よりずっと低額な金額が提示されていることがあり得ます。

免責証書にサインする前に、ぜひ一度弁護士にご相談することをおすすめします。

相手方保険会社が示談に応じない場合の手続き

被害者側から適正な賠償額を請求しても、保険会社が請求に応じない場合があります。主張の相異が小さければ、お互いに譲歩して示談合意をすることになりますが、事故状況やケガの程度、後遺障害に関する主張が対立していると、合意することができません。

このような場合には、交通事故紛争処理センターなどのADRや民事訴訟の手続きを利用して、損害賠償を請求することになります。

交通事故紛争処理センター

代表的なADRの1つです。交通事故に精通した弁護士があっせん人として手続きを進行し、原則として3回の期日で合意を目指します。治療期間のみ合意できない、主婦休損の金額のみ合意できない、というような争点が少ないケースを、比較的短期間で解決するのに向いている手続きです。

民事訴訟

過失割合に関わる事故態様、後遺障害の重さなど、争点が複雑な場合に向いている手続きです。賠償金額を最大化できる可能性がある一方で、時間や費用がかかることがデメリットです。

損害ごとの時効・除斥期間について

示談提案を受け取ったら、すぐにサインせずに時間をかけて検討する必要がありますが、時効期間には注意しましょう。交通事故による損害は、それぞれ以下のような時効・除斥期間が定められています。

ケガに関する損害

事故日から5年で時効にかかります。

後遺障害に関する損害

症状固定日から5年で時効にかかります。なお、自賠責保険への請求は、症状固定日から3年で時効となります。自賠責で認定された後遺障害等級に納得できない場合には、3年以内に異議申立をする必要がありますから、注意しましょう。

死亡に関する損害

被害者が亡くなった日から5年で時効にかかります。

物損に関する損害

事故日から3年で時効にかかります。愛犬・愛猫などのペットが亡くなった場合も、物損に含まれます。

加害者がわからない場合

ひき逃げなどで加害者がわからない場合、加害者が判明した時点から各時効が進行します。しかし、事故から20年の「除斥期間」が経過すると、加害者が不明のままでも損害賠償請求権は消滅します。

加害者側の保険会社から示談提案を受けたら一度弁護士に相談する

ここまで加害者側の保険会社から示談提案を受けた際の注意点について説明してきましたが、多くのケースで弁護士が交渉することにより増額できる可能性があります。

当事務所では、示談提案の診断を無料で行っておりますので、実際にどの程度増額する見込みがあるのかなど、内容を精査して丁寧にご説明しています。

交通事故被害において保険会社から示談提案を受けた際は、早めに弁護士へ相談されることをおすすめします。

交通事故被害による示談交渉は弁護士にご相談ください

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この記事の監修

交通事故の被害者の方は、ただでさえケガの痛みで苦しい思いをされているなかで、初めての諸手続きの大変さや先の見通しの不安を抱えて生活されています。弁護士は医者と違い、ケガの痛みを癒すことはできませんが、不安を取り除くともに、適正な賠償を受ける手助けをできれば幸いです。

弁護士三浦 知草

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