交通事故被害の基礎知識

交通事故被害で専業・兼業主婦(主夫)は休業損害を請求できるのか?

交通事故被害で専業・兼業主婦(主夫)は休業損害を請求できるのか?

専業・兼業主婦(主夫)の家事従事者の方が交通事故被害に遭い、事故のケガが原因で家事や育児を行うことが難しくなることもあります。ケガの状況によっては無理をしながら家事・育児を行う方もいれば、長期入院を余儀なくされたり、ときに家事代行のヘルパーやベビーシッターを利用する場面があるかもしれません。

しかし、会社員のように給与支払いを受けていない主婦(主夫)がそもそも休業損害を受けることができるのでしょうか。ここでは、専業・兼業主婦(主夫)の方が交通事故被害で休業損害を受けるための条件や注意点について解説します。

この記事の内容

主婦(主夫)の休業損害が認められる理由について

家事労働には、現実には給料が発生していません。しかし、家事は、家族以外に外注すれば報酬を支払わなければならない労働であるが、家族であるがゆえに無償で行っているだけであると考えられています。このような考え方から、実際には家事による収入を得ていなくとも主婦(主夫)休損が認められるのです。家族のために家事を行っている人であれば、年齢・性別を問わず主婦(主夫)として休業損害を請求できます。

主婦(主夫)の休業損害が認められるためには?

主婦(主夫)休損が認められるためには、事故によるケガで、他の家族のための家事労働に支障が出ていることが必要です。ご自身のための家事をしているだけでは家事従事者であると認められません。そのため、保険会社から、「家事従事者の自認書」といった、同居家族の構成を申告する書類の提出を求められる場合があります。

同居の家族であれば、必ずしも法律婚は必要ではなく、内縁・事実婚のパートナーの家事を担う方の主婦(主夫)休損も認められます。この場合、パートナー宛に届く郵便や請求書の住所の記載などから、同居の事実を明らかにすることになります。

また、同居の家族の家事については認められるのが原則ですが、別居している親の自宅に通って介護をしていた分の主婦休損を認めた裁判例もあります。

ご自身のケースで主婦休損の請求が可能かどうかは、一度弁護士に相談してみるとよいでしょう。

主婦(主夫)の休業損害の計算方法について

専業・兼業主婦(主夫)などの家事従事者においても、交通事故被害によるケガの治療などで家事労働ができない場合、休業損害として加害者側に請求することができるとお伝えしました。

次に、主婦(主夫)の休業損害の計算方法について見ていきます。

自賠責保険での主婦(主夫)の休業損害の算定

自賠責保険に休業損害を請求すれば、実通院日数に応じて一定額の保険金が支払われます。

計算式ですが、

日額6600円×実通院日数

となります。ただし、自賠責保険からもらえる保険金は、治療費などの他の損害費目と合わせて120万円までです。

保険会社もこの自賠責基準を使用して休業損害を算定することがあります。

裁判基準での主婦(主夫)の休業損害の算定

弁護士が裁判基準を用いて主婦(主夫)休損を請求する際には、

日額(賃金センサス女性全年齢平均学歴計)×家事に支障が生じた日数

で算定します。

日額について

先程弁護士が裁判基準をもとに主婦(主夫)休損を算定する場合の計算式をお伝えしましたが、ここではそのなかにあった日額について説明します。

賃金センサス女性全年齢平均学歴計を用いるのが基本

裁判基準での主婦(主夫)休損は、女性の平均賃金日額を用いて算定します。平均賃金には、賃金センサス第1第1表の産業計、企業規模計、学歴計の全年齢平均賃金を用います。

賃金センサスとは、厚生労働省が毎年行っている「賃金構造基本統計調査」の結果に基づいて出される、労働者の平均収入をまとめたものです。労働者の性別・年齢・学歴などの要素別に金額が算出されています。

例えば令和3年の女性の平均賃金は385万9400円ですので、家事労働の日額は1万574円(385万9400円÷365日。小数点以下四捨五入。)となります。

なお、家事労働について支払うべき対価に男女差はありませんから、男性(主夫)の場合にも、女性の平均賃金を用います。

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日額を減額する場合

通常の主婦(主夫)の方の場合には、全年齢の平均賃金をそのまま日額としますが、次にお伝えするケースでは、日額が減額されることになります。

高齢の場合

一般に、高齢になると家事の労働能力は低下します。そのため、家事従事者が高齢の場合、全年齢平均ではなく、年齢別平均賃金を用いることになります。

事故前から既存障害がある場合・かなりの高齢である場合

事故に遭う前から、家事労働の能力に制限が出るような病気や障害がある場合、その制限の程度に応じて、全年齢平均から何割かを減額した金額を日額とします。かなりの高齢で身体機能が低下している場合なども同様の考え方をします。

同居の家族と家事を分担していた場合

同居の親や子などと事故前から家事を分担していた場合、分担の程度に応じて、平均賃金から何割か減額した金額を日額とします。

休業日数について

家事労働に支障が生じた日について、主婦休損が認められます。入院中であれば、休業していることに争いはありません。一方、通院している期間については、ケガの部位や程度により家事への影響は異なることから、いつまでを休業期間と考えるかについて、問題となる場合があります。

特に、むち打ち・打撲の症状の場合、家事への支障の程度がご本人にしかわからないため、保険会社が短い休業期間を主張してくることが多いです。どのような家事労働に支障が出たかを具体的に記録しておくことなどにより、家事に支障があった期間の証明をするといった対応が考えられます。

なお、主婦(主夫)休損の対象となるのは、事故に遭った日から治癒(症状固定)になって治療が終了するまでの期間です。治療終了後の家事支障については、後遺障害の逸失利益という別の損害項目になります。

具体的な算定の仕方

具体的な算定の仕方には、複数の計算方法があります。どの方法を用いるかは、治療期間・ケガの程度・ケガの部位などにより異なります。

①実通院日数を休業日とする方法

実際に通院した日を休業日と考える方法です。

【むち打ち症状 治療期間6ヶ月間 実通院日数70治療終了後に後遺障害第14級9号(労働能力喪失率5%)が認定された】

という事例で考えてみます。

この方法を用いると、

日額1万574円×70日=主婦休損74万180円

となります。

②割合で考える方法

通常、事故から時間が経つとともに、ケガは回復し、家事労働への支障も軽くなっていきます。そのため、治療期間を数か月ごとに区分し、それぞれの期間ごとに、家事に支障があった割合を乗じて金額を算出する方法を取ることもあります。

上記①と同じ事例で考えてみます。

主婦(主夫)休損の金額は

日額1万574円×(30日×70%+60日×50%+60日×30%+30日×5%)=74万5467円

となります。

上の事例では、最終的に後遺障害が残り、治療終了時点でも5%の家事支障があるため、事故から1か月は70%、2~3か月目は50%、4~5か月目は30%、6か月目から治療終了までは5%の家事支障があるとして計算しています。この家事支障の割合は、ケガの程度や部位などによって変化します。

③上記の①と②を組み合わせる方法

ケガの状況により、上記の①と②を組み合わせて算定する場合もあります。

妊娠中・出産前後の事故の場合

妊娠中であっても、通常の場合と同様、日額には女性全年齢平均賃金を用います。休業の日数については、出産のために入院していた期間を除きます。また、身体の負担が大きい妊娠後期~出産直後は、事故がなくとも主婦労働は困難であるとして、出産前後60日分を休業期間から除いている裁判例もあります。

兼業主婦(主夫)は主婦休損・実際の減収分いずれか一方しか請求できない

ここでは、兼業主婦(主夫)で、家事を担いつつ、パートや自営業などにより収入を得ている方の場合の休業損害の計算方法を説明します。

実収入額が女性平均賃金を超えている場合には、主婦休損ではなく、実際に得ている収入の減額分が休業損害として扱われます。

実収入額が女性平均賃金を下回っている場合には、専業主婦(主夫)のケースと同じように、女性平均賃金を用いて主婦休損を算定します。

どちらの場合にも、実際の減収分と主婦休損の両方を請求することはできないのが原則です。これは、主婦(主夫)業を24時間労働と捉え、その一部の時間が、家事とは別の労働に転化したに過ぎないと考えられているためです。

実収入が少ない場合には注意が必要

上記のように、兼業主婦の実収入が女性平均賃金より少ない場合には、本来は主婦(主夫)休損が請求できます。しかし、仕事を休んでいることを申告すると、保険会社から仕事を休んだ分の休業損害証明書を提出するように指示され、主婦(主夫)休損について説明がなされない場合があります。

むち打ち症状の兼業主婦(主夫)の中には、職場に迷惑をかけないよう、我慢して仕事に出て欠勤を最小限にしているが、痛みが大きく家事はできていないというような方がいらっしゃいます。そのようなケースでは、欠勤分の休業損害を受け取る形では、本来もらうべき休業損害の額よりもかなり低い金額しか賠償されていないということになります。

兼業主婦で休業損害証明書の提出を求められている場合には、一度弁護士にご相談いただくとよいでしょう。

家事代行や育児サービスを利用した場合の休業損害について

主婦(主夫)である被害者のケガが重くて家事・育児が行えず、家事代行(家政婦)サービスや、育児・保育(ベビーシッター)サービスを利用した場合の取り扱いについて説明します。

家事代行(家政婦)サービスを利用する場合

家事代行サービスは、ケガをした主婦(主夫)本人が家事をするのに代わって、家政婦が家事をしたと考えます。そのため、ケガをした主婦本人の休業損害またはサービス利用料のどちらか一方のみが支払われるのが基本です。

もっとも、この点についての裁判所の判断は確立しておらず、ケガにより仕事ができず収入が減った分の休業損害を認めつつ、家政婦に支払った実費も損害と認めた裁判例もあります。

育児・保育(ベビーシッター)サービスを利用する場合

育児が行えないため、育児・保育サービスを用いる場合にも、サービス利用料の実費が支払われると考えられます。また、被害者の入院治療が必要なため、別居の親などの親族に子の監護を頼んだ場合にも、数千円程度の養育監護費用が認められているケースがあります。監護費用が認められる子の年齢は、被害者のケガの程度、被害者不在の期間、他に年上の兄弟といった同居人がいるかなどの事情によって異なると考えられますが、小学生くらいまでの子について認める例が多いようです。

育児・保育サービスについては、休業損害とは別の付添費・監護養育費という項目になるものですが、休業損害との金額調整について、裁判所の判断は確立していません。

家事代行サービス、育児・保育サービスのいずれを利用する場合でも、最も問題になるのが、サービス利用の必要性・相当性です。重傷で入院していたり、寝たきりになってしまったような場合には認められることが多いですが、むち打ち症状などの軽傷の場合には、必要性を認めてもらうのはなかなか難しいと考えられます。

裁判所も個別の事案ごとに必要性や支出額の相当性を判断しているようですので、サービス利用料を請求したいと考えている方は弁護士にご相談ください。

専業・兼業主婦(主夫)の休業損害で保険会社の提案に疑問を感じたら

ここまで専業・兼業主婦(主夫)の休業損害について解説してきましたが、保険会社の休業損害に対する提案が納得できないものであれば、示談をせずに保険会社と交渉しなければなりません。

休業損害については計算方法が複雑で、個々の事故状況に応じた調整も発生するため、休業損害の提案に納得できなければ一度弁護士にご相談されることをおすすめします。

この記事の監修

交通事故の被害者の方は、ただでさえケガの痛みで苦しい思いをされているなかで、初めての諸手続きの大変さや先の見通しの不安を抱えて生活されています。弁護士は医者と違い、ケガの痛みを癒すことはできませんが、不安を取り除くともに、適正な賠償を受ける手助けをできれば幸いです。

弁護士三浦 知草

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