交通事故被害の基礎知識

交通事故における鼻の後遺障害

交通事故における鼻の後遺障害

交通事故における「鼻」の後遺障害には、鼻の欠損(鼻軟骨部の全部または大部分の欠損)と機能障害(呼吸や嗅覚機能に著しい障害を残すもの)の両方を残すものの他、鼻の欠損はないが機能障害があるもの、鼻の欠損などの傷あとにより見た目に大きな変化(醜状)が及ぶ「外貌醜状」があります。

ここでは、それぞれの障害の内容や後遺障害の等級について解説します。

この記事の内容

鼻の構造について

鼻は、呼吸や嗅覚等を司る器官で、外鼻と鼻腔とに分けられます。

外鼻は下3分の2が軟骨(鼻軟骨)、上3分の1が骨(鼻骨)で出来ており、堅く薄い鼻骨は骨折しやすい部位です。

鼻腔は鼻中隔(びちゅうかく)という骨と軟骨で出来た壁によって左右に分けられています。鼻腔は粘膜で覆われており、空気を温める機能や加湿の機能があります。粘膜の粘液や表面の線毛でほこりや微生物などの異物を吸着・除去したりします。鼻腔上部を覆う嗅上皮には、嗅細胞があり、においの情報を脳に伝達する機能を持ちます。

鼻の障害について

鼻に障害が生じるケースは、鼻そのものを損傷した場合と、頭部に外傷を負った結果、鼻の機能が障害される場合とに分けられます。

等級が認定される障害としては、鼻の欠損と機能障害が生じたもの、機能障害、外貌醜状があります。

障害等級表に定めのある鼻の後遺障害

鼻の後遺障害として、障害等級表に定められているものは、以下の1つのみです。

鼻の欠損の後遺障害と障害等級

等級 障害の程度・認定基準
第9級5号 鼻を欠損し、その機能に著しい障害を残すもの

鼻の欠損とは、鼻軟骨部の全部または大部分の欠損をいい、その機能に著しい障害を残すものとは、鼻呼吸困難または嗅覚脱失をいいます。

この第9級5号に当たるためには、鼻の欠損と機能障害の両方の要件を満たす必要があります。

機能障害がなく鼻の欠損のみがある場合や、鼻の一部を失っているが欠損には達していない場合には、醜状障害が認定されます。機能障害のみがある場合には、神経障害に準じた後遺障害等級が認定(準用)されます。

機能障害(嗅覚障害・鼻呼吸困難)の後遺障害

事故で頭部にケガをすると、脳に様々な障害が残ることがあります。嗅覚の異常もその1つです。

また、頭部にケガをした際に、においの刺激を伝達する嗅神経が切れたり、嗅細胞が傷ついたりした結果、においを感じなくなることもあります。

嗅覚の障害については、局部の神経障害(痛み・痺れなどが典型です。)の等級が準用され、嗅覚の失われた程度によって、以下の2つの等級に区分されています。

嗅覚障害と障害等級

等級 障害の程度・認定基準
第12級13号相当 完全な嗅覚脱失
第14級9号相当 嗅覚の減退

上記の嗅覚脱失と嗅覚の減退の区別は、T&Tオルファクトメーターによる基準嗅力検査により区分されます。

T&Tオルファクトメーターとは、嗅覚機能を検査するキットで、嗅覚障害の程度を調べたり、労災の補償判定にも用いられています。

バラの香り・焦げたにおい・腐敗臭・甘い香り・糞臭の5つのにおいを被検者に嗅いでもらい、どの程度までにおいの濃度を上げればにおいを感じられるか・区別できるかをテストし、5つのにおいにおける平均値を算出します。においの濃度は、5段階でテストされ、最も高い5の濃度でもにおいを感じられない・区別できない場合には、6という評価になります。

基準嗅力検査の認知域の平均嗅力損失値が5.6以上は嗅覚脱失、2.6以上5.5以下は嗅覚の減退となります。

T&Tオルファクトメーターの基準

平均嗅力損失値 嗅覚能力の程度 患者の訴え
-1.0~1.0 正常 においを正常に感じると思う。
日常生活に支障はない。
1.1~2.5 軽度低下 においを感じるが弱い感じ、しかし日常生活に支障はない。
2.6~4.0 中等度低下 強いにおいはわかる。
4.1~5.5 高度低下 ほとんどにおいがしない。
5.6以上 脱失 まったくにおいがしない。

完全な嗅覚脱失とは?

T&Tオルファクトメーターによる基準嗅力検査の認知域の平均嗅力損失値が5.6以上の状態を、嗅覚脱失といい、においをまったく区別できない状態です。

例えば、バラ香・腐敗臭・甘香について、最高濃度にしたにおいでも感じられず、焦臭・糞臭について、最高濃度にするとようやく区別できる方の場合、

(バラ香6+焦臭5+腐敗臭6+甘香6+糞臭5)÷5=平均値5.6

となり、嗅覚脱失と認定されます。

嗅覚の減退とは?

嗅覚の減退は、T&Tオルファクトメーターによる基準嗅力検査の認知域の平均嗅力損失値が2.6〜5.5の状態です。強いにおいであればわかる状態からほとんどにおいを区別できない状態までを含みます。

例えば、

  • バラの香りは最高濃度でも区別できない
  • 焦げたにおいは1段階濃くすれば区別できる
  • 腐敗臭・甘い香り・糞臭は3段階濃くすれば区別できる

という方の場合

(バラ香6+焦臭1+腐敗臭3+甘香3+糞臭3)÷5=平均値3.2

となり、嗅覚減退と認定されます。

一方、

  • 腐敗臭は最高濃度でも区別できない
  • 他の4つのにおいは正常に感じる

という方の場合

(バラ香0+焦臭0+腐敗臭6+甘香0+糞臭)÷5=平均値1.2

となります。腐敗臭が感じられないという嗅覚の異常は生じているのですが、この場合後遺障害等級は非該当となります。

鼻呼吸困難とは?

鼻に衝撃を受けると、鼻中隔が横にズレて鼻が曲がる「斜鼻」や鼻骨が脱臼・陥没する「鞍鼻」が生じ、鼻が詰まる「鼻閉」が起こることがあります。

鼻閉の症状が残ったまま症状固定に至ると、鼻呼吸困難として後遺障害が認定されます。

等級 障害の程度・認定基準
第12級13号相当 鼻呼吸困難

鼻の外貌醜状

鼻が欠損した場合や、骨折した鼻骨が変形したまま症状固定に至った場合、顔(外貌)の醜状障害として後遺障害の認定を受けることになります。

外貌醜状の後遺障害は以下のとおりです。

等級 障害の程度・認定基準
第7級12号 外貌に著しい醜状を残すもの
第9級16号 外貌に相当程度の醜状を残すもの
第12級14号 外貌に醜状を残すもの

顔面の場合、「著しい醜状」とは、鶏卵大面以上の瘢痕(傷あと)または10円銅貨大以上の組織陥没を、「相当程度の醜状」とは長さ5センチメートル以上の線状痕を、単なる「醜状」とは「10円銅貨大以上の瘢痕または長さ3センチメートル以上の線状痕を意味します。いずれも人目につく程度以上の傷であることが必要です。

鼻の欠損(鼻軟骨部の全部または大部分の欠損)の場合、第7級12号が認定されます。

鼻の欠損があり、かつ嗅覚脱失がある場合には、第7級12号の外貌醜状と、第9級5号の鼻の障害の両方に当てはまることになりますが、この場合、重い方の第7級12号のみが認定されます。

鼻の一部が欠けているが、鼻の欠損にまでは至っていない場合には、顔に残っている他の傷あとと併せて考えて、「著しい醜状」か「相当程度の醜状」か「醜状」かを判断します。

欠損はなくとも、鞍鼻などの鼻の変形が残った場合にも、程度に応じて醜状障害が認定されます。

また、醜状障害の対象となる傷あとには、手術痕も含みます。そのため、斜鼻や鞍鼻を整復する手術を行い、手術痕が残った場合には、手術痕の長さに応じて「相当程度の醜状」か「醜状」の認定がなされます。

なお、鼻骨骨折に合併して鼻骨の後ろの骨(鼻篩骨:びしこつ)が骨折した場合には、流涙(涙を排出する管が断裂して涙があふれるもの)といった眼の障害が同時に生じることもあります。

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鼻の障害は逸失利益が問題となりやすい

後遺障害が認定されると、「後遺障害慰謝料」と「逸失利益」が賠償されます。

逸失利益とは、後遺障害によって労働能力を喪失したことに対する損害を指しますが、鼻の障害による逸失利益には、特有の問題があります。

オフィスワーカーなどの場合、嗅覚がないことによる支障が特段生じない業務も多いといえます。また、鼻の欠損・醜状といった見た目は、労働能力に直接の影響を与えないという考え方もできます。そのため、鼻の障害の場合、相手方から労働能力を喪失させるものではないとの主張がなされ、逸失利益が生じているか否かが争いになることがあります。

嗅覚障害については、料理人などにおいの感覚が重要な職業の場合、自賠責保険の後遺障害等級相当額よりも高い労働能力喪失率が認められています。また、主婦、技術家庭科教師、幼稚園教諭などについても、においをかぎ分けられないことがハンディキャップになるとして、逸失利益を認める裁判例があります。

外貌醜状についても、営業職や接客業の場合には就労に悪影響があるとして逸失利益が認められています。

いずれの場合も、被害者の仕事にとって、鼻の障害が悪影響を与えていることを具体的に証明できることが重要です。

逸失利益の損害賠償について不安がある場合には、後遺障害に精通した弁護士に相談してみましょう。

鼻の後遺障害の等級認定に向けた留意点について

ここでは、鼻の障害について、適正な後遺障害等級認定を受けるための留意点をご説明します。

機能障害について

嗅覚の異常は、頭の外傷によるものが一般的です。脳が損傷すると、嗅覚の障害以外にも様々な症状が同時に発生することが多いため、命にかかわる治療が優先されることがあります。また、「痛い」「動かせない」といった感覚に比べ、嗅覚の異常は繊細で微妙なものですから、自覚するのが遅れることもあります。

事故から時間が経つほど、事故と嗅覚障害との因果関係がわからなくなる可能性が高まります。嗅覚に違和感がある場合には、速やかに医師に伝え、早めに検査を受けるようにしましょう。

また、脳のダメージに由来する症状は、脳の画像所見(検査画像でわかる異常)がないと、適正な認定を受けることが難しくなります。事故で頭を打った場合には、直後に症状を感じなくとも、速やかに画像検査を受けましょう。鼻の障害に限ったことではありませんが、発見までに時間がかかることにより予後が悪くなる危険が増すばかりでなく、事故と症状との因果関係が否定されてしまうリスクも高まります。

醜状障害について

醜状障害は、傷あとの写真や調査員面談とで判定がなされます。欠損・傷あとが残った状態で症状固定になった場合には、傷あとの大きさのわかる写真を撮っておきましょう。手術痕や傷周辺の色素沈着なども対象となりますので、残存している場合には、併せて写真を撮りましょう。

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この記事の監修

交通事故の被害者の方は、ただでさえケガの痛みで苦しい思いをされているなかで、初めての諸手続きの大変さや先の見通しの不安を抱えて生活されています。弁護士は医者と違い、ケガの痛みを癒すことはできませんが、不安を取り除くともに、適正な賠償を受ける手助けをできれば幸いです。

弁護士三浦 知草

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