交通事故被害の基礎知識

交通事故によるケガの治療で注意すべきこととは?

交通事故によるケガの治療で注意すべきこととは?

交通事故被害でケガを負った場合、まずは整形外科などに通院してケガの回復に努めていただくことがなにより大切なことですが、後に加害者側の保険会社と示談交渉を行うときに、治療中の対応がもとで納得できない示談提示を受けるなど、トラブルになることがあります。

多くの方はケガの回復を目指して治療に専念されていると思いますので、後の保険会社との示談交渉まで意識が回りにくいことはしょうがないことではあります。しかし、交通事故被害で弁護士が対応を進めていると、ご相談者・ご依頼者の方が事前にこのことを知っていたら…と、忸怩たる思いに至ることもあります。

ここでは、加害者側の保険会社とトラブルにならないために、治療の段階から留意してほしい点について解説します。

この記事の内容

【重要】交通事故に遭ったら早めに整形外科などに通院してケガの状況を確認する

一見して大きなケガがない場合でも、交通事故に遭ったら必ず通院しましょう。可能なら事故当日中、なるべく早期の受診が望まれます。

交通事故で最も一般的な、むち打ち症や打撲症状の場合には、整形外科を受診しましょう。事故から数時間経って痛みが出てくることがあります。事故直後に強い痛みがなくても軽傷とは限らず、数か月治療をしても痛みが消えずに後遺障害が認定されることもあるのです。

また、初診の際には、痛みや違和感の出ている部分をすべて医師に伝え、レントゲンやMRIなどの画像検査を受けましょう。

事故当初に検査画像を撮らず、時間が経ってから骨折などのケガが見つかると、事故との因果関係が認められないおそれがあります。

交通事故のケガの治療で「整骨院」に通うことの問題点とは?

仕事のご都合などで整形外科になかなか通えず、整骨院、接骨院、整体といった病院以外での治療を希望される方がいらっしゃいます。しかし、弁護士の立場からすると、リハビリ治療は整形外科で受けるべきであり、整骨院などでの治療は避けることが望ましいです。

まず、整骨院での治療は、医師によるものではないので、症状が残ってしまった場合の後遺障害の認定にとって、プラスに働きにくいです。

また、整骨院の治療費が多くかかることで、保険会社から、結果的に早期に治療費支払いの打ち切りがなされることにもつながります。

どうしても整骨院などに通いたいのであれば、できれば整形外科の主治医の同意を得ましょう。そして、同意を得て整骨院に通う場合にも、あくまでも治療のメインは整形外科であり、整骨院は補助的なものにとどまることにご留意ください。

通院において留意すべき点について

交通事故に遭った際は、できるだけ早めに整形外科などの病院で診察を受けることと、整骨院での治療を避けることについて説明しましたが、この点を踏まえて次は通院開始後に注意・留意すべきことについて解説します。

ケガの状況とお身体の状態について医師に正確に伝える

診察時には、ご自身の感じているすべての症状を医師に伝えましょう。

特に、痛み・痺れといった神経症状は、被害者ご自身が訴えない限り、医師に認識してもらえません。

仮に事故当初から存在した症状だとしても、事故から時間が経った時点で伝えてしまうと、事故との因果関係が不明だということになりかねません。場合によっては、事故による傷病として扱ってもらえないことがあります。

診察時には、症状のある部位と、それぞれの部位の症状の状態を漏れなく伝えてください。後遺障害申請や治療期間が争点になる場合に備え、改善してきている部分と、まだ症状が辛い部分の両方を伝えることが重要です。

また、痛みや痺れが後遺障害として認められるためには、特定の動作をしたときだけでなく、常に痛みがあることが1つの目安になります。例えば、首のむち打ち症(頸椎捻挫)であれば、下を向いたときに痛みが増大することが多いですが、「下を向くと痛い。」ではなく、「常に痛いけれど、下を向いたときに特に痛みが強くなる。」などというように、正確に伝えましょう。

通院の頻度にも留意する

相手方保険会社による治療費の打ち切りが早まったり、適正な後遺障害等級認定が受けられなくなることを避けるためには、適切な頻度での通院を継続することが重要です。ここでは、弁護士の目から見た適切な通院頻度についてご説明します。

むち打ち症などの場合

週2〜3回のペースで通院し、リハビリ治療を受けることが望ましいです。

たくさん通院した方が慰謝料も増えると考えて、毎日のように通院される方もいらっしゃいます。しかし、次の理由から、多すぎる通院はおすすめできません。

被害者に治療費などの賠償金を支払った場合、保険会社は、120万円を上限に、自賠責保険から支払分を回収することができます。毎日通院をすると、それだけ治療費が多額になり、早期にこの120万円の枠を超えてしまうことになります。そうすると、保険会社は、自社の負担を抑えようと、早期に治療費支払いを打ち切ることが多いのです。

また、裁判基準の慰謝料は、通院日数ではなく通院期間を基準に算出されます。そのため、短い期間に集中して毎日通院するよりも、適正な頻度で通院し、通院期間を十分に確保することが、適正な額の慰謝料を受け取る上でも望ましいといえます。

他方、通院頻度が少なすぎる場合にも、保険会社から「軽いケガだからあまり通院していないのではないか」と主張され、打ち切りをされることがあります。また、通院が少ないと、適正な後遺障害の認定もなされにくくなります。多忙でなかなか通院ができない場合にも、通院の間隔を2週間以上は空けないようにしましょう。

重傷の場合、リハビリを要さないケガの場合

骨折でギブス固定をしている場合などの重傷の場合、月1回程度の通院となるケースが多くなります。このような場合には、主治医の指示通りのペースで通院を継続しましょう。

整形外科以外の診療科で、リハビリ治療を要さないケガも同様です。

ご自身の判断で通院を中断・やめたりしないこと

治療に関しては主治医の指示に従い、ご自身の判断で通院を中断したり、やめたりしないようにしましょう。特に、後遺障害が残ることが見込まれる場合にこの点が重要となります。

医師の指示によらず通院をやめてしまうと、必要十分な治療期間が確保できない結果、後遺障害の適正な等級が認定されないことにつながります。また、後遺障害申請や裁判の際に、医師から診断書や意見書を書いてもらうといった協力が得られにくくなってしまう場合もあります。

さらに、自己判断で通院を中断し、また症状が出て通院を再開するという形をとってしまうと、再開後の通院は、事故によるケガの治療のための通院として扱ってもらえない可能性が高いです。そうなると、治療費や交通費などの実費が自己負担になるばかりか、入通院慰謝料が少なくなってしまう可能性が高くなるのです。

転院の注意点について

主治医からの指示や、治療上の必要があって転院することには、もちろん問題はありません。

しかし、治療上特段の必要がない転院を繰り返すことは、治療費打ち切りのきっかけとなりやすいです。転院を希望される際には、現在の主治医とよく相談し、できれば紹介状をもらって転院しましょう。

そして、事故から数か月経ってからの転院が、打ち切りのきっかけになることがあります。むち打ち症・打撲などの比較的軽傷の場合、特に転院がきっかけとなることが多いです。救急搬送された病院が自宅から遠方にある、リハビリ設備が不十分などの理由で、リハビリ治療のための通院がしにくい場合には、早めに転院の申し出をしましょう。

また、複数の病院に並行して通院することにも注意が必要です。診療科・部門が異なる病院に通う場合や、行う治療がそれぞれの病院で異なる場合には、複数の病院を利用しても問題はありません。一方、並行して同じような治療内容で複数の病院に通院することは、打ち切りのきっかけになることがあります。

診断書が必要になった際の注意点について

痛み・痺れといった神経症状は、ほとんどの場合、検査画像からはわかりません。そのため、診断書に記載されていない症状は、基本的に事故によるケガや後遺障害として扱ってもらえないことになります。また、交渉や裁判で、ケガの内容や治療期間が争点になった際にも、診断書の記載内容が重要になります。

症状を遺漏なく医師に伝え、診断書の記載を充実させるようにしましょう。可動域制限(関節の動く範囲の制限)がある場合などには、検査が必要になりますので、しっかり検査を受けるようにしましょう。

また、作成された診断書の内容が、ご自身の自覚症状とずれている場合には、遠慮せずに修正を申し出ましょう。

通院はいつまで行うべきか

ケガが治癒するか、症状固定に達するまで治療を続けましょう。

「症状固定」とは、ケガによる症状が一進一退の状態に達し、治療をしても改善が見られない状態になることをいいます。

ケガが症状固定の状態に達しているかどうかを判断するのは、実際に治療に当たっている主治医です。治療を継続するか、終了するかについては、主治医と十分に話し合うようにしましょう。

治療途中で保険会社から治療費打ち切りを告げられたら

保険会社は、被害者がまだ治療が必要な状態にあるにも関わらず、「もう症状固定に至る時期であるはずだ」と主張して、治療費の支払いを打ち切ることがあります。

先ほどご説明したとおり、症状固定の判断をするのは、保険会社ではなく主治医です。

打ち切りの連絡がきたら、まずは主治医にいつまで治療を続けるべきか相談しましょう。主治医が、今後も治療を継続すべきと判断する場合には、その旨を保険会社の担当者に伝え、打ち切り時期を延長するように交渉してみましょう。それでも打ち切りがなされる場合には、労災保険や健康保険を利用しながら、いったん自費での治療を続けましょう。症状固定に至るまで適切に治療を続けることが、お身体を治すという意味だけでなく、のちの後遺障害申請や裁判に備える意味でも大切です。

交通事故のケガの治療における通院で不安があれば弁護士に相談する

交通事故被害に遭われてケガを負った場合、完治することを優先して対応にあたることがなにより大切なことですが、ここまでお伝えしたように、治療にあたっては留意してほしい点が多くあります。

そのため、普通に治療を進めていたにもかかわらず、こうした点に気づくことができず、後に保険会社との示談交渉でトラブルとなることもあります。

治療開始の段階でご不安があれば、事前に弁護士に相談することで治療中の留意点についてお伝えすることもできますので、弁護士へご相談されることをおすすめします。

交通事故被害による示談交渉は弁護士にご相談ください

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この記事の監修

交通事故の被害者の方は、ただでさえケガの痛みで苦しい思いをされているなかで、初めての諸手続きの大変さや先の見通しの不安を抱えて生活されています。弁護士は医者と違い、ケガの痛みを癒すことはできませんが、不安を取り除くともに、適正な賠償を受ける手助けをできれば幸いです。

弁護士三浦 知草

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