交通事故被害における慰謝料請求の方法について
calendar_today公開日:
event_repeat最終更新日:2023年08月07日
示談交渉・訴訟について
交通事故における損害賠償金(慰謝料)を請求する主な手段には、「示談交渉」「裁判外紛争処理機関(ADR)」「訴訟」の3つの方法があります。被害者にとって「もっともよい解決方法」となるかは、各手続きのメリット・デメリットを知ったうえで、被害状況や被害者ご自身の希望によって選択されることが一般的です。
よりよい条件で和解を目指すのであれば、弁護士に相談・依頼をすることでその可能性は高まりますが、ここでは3つの方法それぞれの特徴について解説します。
- この記事の内容
示談交渉について
「示談交渉」とは、被害者と加害者が直接話し合って賠償金額を決めることです。交通事故の示談交渉は多くの場合、加害者が加入している任意の保険会社が加害者に代わって交渉します。
被害者が交渉を弁護士に依頼していれば、相手との示談交渉は弁護士が行い、増額に向けて交渉を行います。
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交通事故被害の解決は80%が「示談交渉」
当事務所に依頼される交通事故被害の解決のほとんどは、「示談交渉」です。弁護士に相談・依頼することは、すぐ「訴訟」に発展し、大変なイメージをもたれる方も多いのですが、ご依頼された方の約80%は保険会社との直接の示談交渉によって解決しています。
- 示談交渉のメリット
- 直接話し合うため、「早期解決」の可能性が高い。
- 話し合いのため、立証資料が少なくてすむ。
- 話し合いであるため、柔軟な対応が可能。
- 電話や手紙などの交渉が中心のため、自宅にいながらの対応が可能。
- 示談交渉のデメリット
- 感情的な対立や見解の隔たりがあると「早期解決」できない可能性がある。
- お互いに譲歩し、解決を図ることが基本のため、裁判所基準より低い賠償額になる可能性がある。
- 個人で交渉を行う場合、専門知識・ノウハウのある保険会社担当の行う主張が、こちらに不利だと気付けないことがある。
- 個人で交渉を行う場合、こちらが専門知識をもって話し合いをしても、保険会社側に提案を受け入れてもらえないことが多くある。
- 相手が不合理な主張をすると、解決することができない。
示談交渉の流れについて
示談交渉の開始について、人身傷害の場合は「治療終了」「症状固定」のタイミングです。「症状固定」後に交渉を始めるのは、このタイミングで治療費や傷害慰謝料といった損害賠償額の計算の前提となる損害が確定することと、賠償額を大きく左右する「後遺障害」が残るか否かの判断が必要となるためです。
被害者が死亡している場合には、「治療する」「後遺障害の認定を受ける」ということがないため、事故直後から示談交渉が可能となります。
示談交渉がまとまらなかった場合には、「裁判外紛争処理機関(ADR)」「訴訟手続き」にて解決を図ることになります。
裁判外紛争処理機関(ADR)について
裁判外紛争処理機関(ADR)とは、裁判以外の方法で紛争を解決する手続きをいいます。交通事故に関する機関としては、「公益財団法人 交通事故紛争処理センター」と「公益財団法人 日弁連交通事故センター」などがあります。それぞれの機関にはそれぞれ特徴があります。
- 公益財団法人 交通事故紛争処理センター
多くの保険会社や共済と協定を結んでおり、保険会社に拘束力のある仲裁案を出せることが特徴です。また、保険会社が仲裁案に不満があっても裁判を起こすことができません。被害者に不満がある場合は、裁判手続きをとることができます。
裁判よりも簡便な手続きのため、「治療期間について合意できない」「休業損害の金額について争いたい」など、争点が絞りこめる事案の解決に向いている手続きといえます。
全国に支店があるため利用しやすいのが魅力ですが、自転車と歩行者の交通事故では利用できないなどの注意点があります。
- 公益財団法人 日弁連交通事故センター
法律の専門家である弁護士が所属する「日本弁護士連合会」が、交通事故の被害者救済の観点で設立した仲裁機関です。仲裁には、交通事故問題に詳しい弁護士が対応します。
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裁判外紛争処理機関(ADR)を利用するメリット・デメリット
裁判外紛争処理機関(ADR)は、「公益財団法人 交通事故紛争処理センター」「公益財団法人 日弁連交通事故センター」以外にも存在します。それぞれのADRが持つ特徴やメリット・デメリットを理解したうえで利用することをおすすめします。
- 裁判外紛争処理機関(ADR)のメリット
- 手続費用が無料。(資料作成日・医療関係書類の取付費用などは除く)
- 協定締結している保険会社は仲裁案に拘束されるが、被害者は拘束されない。
- 仲裁員が間に入ることで、話し合いにおいて保険会社との知識・経験の差が明確に出にくい。
- 通常は裁判よりも短期間で解決に至る。
- 示談交渉よりも慰謝料額が高くなりやすい。
- 裁判外紛争処理機関(ADR)のデメリット
- 裁判ではないため「時効中断」の効力がなく、時効直前の場合には、中断の手続きを別途とる必要がある。
- ADRと協定締結していない場合、その保険会社は拘束されない。
- 裁判手続きに比べると、賠償額が低くなる可能性がある。
- 複雑な事案・争点が多い事案を扱うことに向いていない。
裁判外紛争処理機関(ADR)手続きの流れについて
裁判外紛争処理機関(ADR)手続きの流れについては、「公益財団法人 交通事故紛争処理センター」と「公益財団法人 日弁連交通事故センター」で違いがありますので、それぞれの流れについてフローチャート図でご紹介します。
訴訟について
示談交渉の項目でも述べましたが、交通事故の解決方法で一番多いの「示談交渉」による任意の解決です。当事務所においてもその割合は80%にのぼります。
しかし、示談交渉の状況などにより、「訴訟」や「裁判外紛争処理機関(ADR)」など、外部の機関を利用する場合もあります。
「訴訟」での解決を選択する理由
「訴訟」による解決を選択する理由としては、「重度の後遺障害である」場合や、「保険会社の提示額が低額で、示談交渉の継続が難しい」場合など、「訴訟」を提起した方が、被害者の利益をより追及できるようなときに「訴訟」を選択します。
「訴訟」において弁護士サポートを必要とする理由
「訴訟」となると、毎月裁判所へ出廷しなければならない、証拠を収集しなければならない、相手方(多くは代理人弁護士)と主張の攻防をしなければならないという、精神的にも時間的にも大きな負担が生じます。
「訴訟」で解決するためには、半年~1年以上の期間がかかります。被害者ご本人、あるいはご家族において、ご自身で裁判手続きを進めることは大きな負担になると思います。
しかし、被害者の症状や障害の程度、これからの生活を考えたときに、経済的な拠りどころとなる「賠償金」を適切に受け取るためには、ときには「訴訟」も必要となります。
司法書士や行政書士も交通事故を取り扱う専門家として活動していますが、訴訟まで見据えた行動ができるのは弁護士だけです。最良の解決方法が「訴訟」であるかどうか、他に最良の解決方法があるのではないか、こうした不安や疑問を払拭するためにも、弁護士に相談されることをおすすめします。
交通事故の「訴訟」にかかる期間
訴訟においては、「さらに揉めるのでは…」「時間がかかるのではないか…」「莫大な費用がかかるのでは…」という不安もあると思います。部分的には正解ですが、実際の訴訟は個別の事案によって変わってきます。
交通事故被害の訴訟は主に、「慰謝料を相場(裁判所基準)に引き上げるための裁判」と「事実から争い、賠償額を引き上げるための裁判」に絞られます。
「賠償金(慰謝料)を相場(裁判所基準)に引き上げるための裁判」は、損害賠償額の算定の前提となる「後遺障害の有無や等級認定」「過失割合などの事故の態様に関する認識」についてはお互いに納得しているものの、「賠償金(慰謝料)」という点については不満があるという場合です。この場合、争うポイントが少ないので、短期間で済むことがあります。
対して、「事実から争い、賠償額を引き上げるための裁判」では、「後遺障害の等級」や「過失割合」など、争うポイントが多くなります。それに伴って、必要な医療記録の取り寄せなどの作業が発生するため、解決までに1年以上の期間を要することになります。
また、日本では三審制を採っており、一審での判決内容に不満があれば控訴を行うことになるので、解決までの期間は自然と長引くことになります。
交通事故「訴訟」の流れ
前項で少し触れましたが、日本では「三審制」を採っており、3回裁判を行うことができます。しかし、3回目の裁判は「事実審」ではなく「法律審(憲法違反、判例違反、法令違反についての判断)」となっています。つまり、事実の認定については控訴審(2回目の裁判)までに決着をつけることとなります。また、控訴審は、わずか1回の期日で結審することが多く、一審と同じだけの時間をかけて改めて審理をしてもらえるわけではありません。したがって、控訴や上告を行う段階になって、初めて弁護士に依頼をしても、リカバリーが難しいケースがほとんどです。初回の裁判手続きから適切に対応して解決を図っていくことが重要といえます。
訴訟の終わり方によって解決期間も変わる
訴訟の終わり方には、「判決」「和解」「取り下げ」などがあります。実際の交通事故裁判では、「判決」や「和解」で終了することが多く、最後まで争う「判決」よりも「和解」を選択することで、早期解決を図ることもあります。訴訟における「和解」で終了する割合は、おおよそ70%程度(当事務所実績)とその多さが窺えます。
また、「和解」といっても、「被害者が譲歩して和解する」というものではなく、裁判官の暫定的な心証(現時点で判決を書くなら、どちらをいくら勝たせるか)を反映した和解案が示されることが多いです。
どちらかというと「被害者側で主張した内容を認める判決」に近い内容であることも少なくありません。
事故状況などを最後まで争った場合、「敗訴」になる可能性が高いケースでは「和解」を選択することも被害者の方の利益となる可能性があります。
訴訟手続きのメリット・デメリット
訴訟においては、「何」を争うかでかかる時間と労力が大きく変わります。改めて訴訟のメリット・デメリットについてまとめました。
- 訴訟のメリット
- 相場である「裁判所基準」で賠償金を獲得できる可能性が高い。
- 裁判官は自賠責保険の判断に拘束されないため、自賠責認定より上位の後遺障害が認められるケースもある。
- 扱える事件に限定がない(加害者無保険の事故、自転車動同士の事故などにも利用できる)
- 判決で、損害賠償額元金の10%程度を弁護士費用として認められる可能性がある。(和解では認められないが、「調整金」として一部が上乗せされることがある。)
- 判決で、損害賠償金について事故日から支払い日まで「年3%」の遅延損害金が認められる可能性がある。(和解では認められないが、「調整金」として一部が上乗せされることがある。)
- 相手方が拒否しても、強制的に解決を図れる。
- 訴訟のデメリット
- 示談交渉やADRに比べると「時間」がかかる。
- 本人訴訟が難しく、弁護士に依頼する「費用」がかかる場合がある。
- 敗訴するリスク、示談の際に出ていた金額よりも賠償額が下がるリスクがあるので、弁護士に依頼する際に説明を受けることが望ましい。
交通事故被害による示談交渉は弁護士にご相談ください
この記事の監修
交通事故の被害者の方は、ただでさえケガの痛みで苦しい思いをされているなかで、初めての諸手続きの大変さや先の見通しの不安を抱えて生活されています。弁護士は医者と違い、ケガの痛みを癒すことはできませんが、不安を取り除くともに、適正な賠償を受ける手助けをできれば幸いです。
弁護士三浦 知草
-
上野法律事務所
- 東京弁護士会
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