交通事故被害の基礎知識

交通事故におけるTFCC損傷の後遺障害

交通事故におけるTFCC損傷の後遺障害

交通事故により、TFCCと呼ばれる手の小指の下方部分と前腕の骨(橈骨・尺骨)を結ぶ三角形の形状をした軟骨・靭帯の軟部組織(三角線維軟骨複合体)を損傷することがあります。

TFCC損傷を負ってしまうと、小指側の手首の痛みや可動域に制限がかかることもあり、状態によっては手術による療法を検討する必要があるのですが、損傷を見逃されると、改善や後遺障害等級認定が難しくなってしまうため、注意が必要なケガです。

ここでは、TFCC損傷に関する後遺障害の内容や等級について解説します。

この記事の内容

TFCC損傷の後遺障害について

TFCC(三角繊維軟骨複合体)は、腕側の橈骨・尺骨と手側の手根骨に囲まれる軟骨組織です。手首の骨を支えるとともに、手首に加わる衝撃を吸収する役割を担っており、膝関節における半月板にあたるものです。

TFCC損傷は、テニスや野球などの手首への負荷がかかるスポーツで生じることが多いですが、交通事故では転倒で手をついた際に発生することが多いケガです。

TFCCが損傷すると、手首の可動域制限、手首の小指側の痛み、握力低下といった症状が現れます。これらの症状が改善しないまま症状固定(治療効果の出ない一進一退の状態)となった場合、手首の可動域制限について「機能障害」、痛みについて「神経障害」の後遺障害獲得を目指すことになります。

TFCC損傷の機能障害

TFCC損傷では、手首の可動域が制限される機能障害が生じることがあります。

TFCC損傷における機能障害の後遺障害等級と障害の程度

等級 障害の程度
第8級6号 1上肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの
・手関節が強直したもの
・手関節の完全弛緩性麻痺またはこれに近い状態にあるもの
・人工関節・人工骨頭を挿入置換した関節のうち、その可動域が健側の可動域角度の1/2以下に制限されているもの
第10級10号 1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの
・手関節の可動域が健側の可動域角度の3/4以下に制限されているもの
・人工骨頭を挿入置換した関節のうち、その可動域が健側の可動域角度の1/2以下に制限されているもの以外
第12級6号 1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの
・手関節の可動域が健側の可動域角度の3/4以下に制限されているもの

手関節のケガがTFCC損傷のみの場合には、手関節(手首)の可動域が、健側(ケガをしていない側)の3/4以下に制限されたものとして、第12級6号の獲得を目指すことが多くなります。

TFCC損傷単体で、手首の強直(可動域0の状態)や弛緩性麻痺が生じる例はあまりないため、用廃(第8級6号)に達するような機能障害が生じている場合には、他に可動域を障害するケガが生じているおそれがあります。

TFCC損傷の神経障害

TFCC損傷が生じると、手首の小指側に痛みが生じ、ドアノブをひねるなどの手首を小指側に動かす動作をすると、痛みが増幅します。

TFCC損傷により、痛みなどの神経症状が残った場合には、神経障害の後遺障害等級が認定されます。

TFCC損傷における神経障害の後遺障害等級と障害の程度

等級 障害の程度
第12級13号 局部に頑固な神経症状を残すもの
第14級9号 局部に神経症状を残すもの

第12級13号と第14級9号は、「他覚的所見」のある痛みやしびれがあるかどうかで区別されます。第12級には「頑固な神経症状」とありますが、痛みの強さを比較して振り分けているわけではありません。

「他覚的所見」とは、レントゲン、MRI、CTの検査画像などの客観的な資料から、症状の原因となる異常が読み取れることを意味します。

軟骨組織であるTFCCの損傷は、レントゲンでは写らないため、MRI画像検査を受けることが必要です。

MRI検査画像から、事故によるTFCC損傷が証明できる場合には、第12級3号が認定されます。画像からはTFCCの異常が証明できない場合でも、これまでの症状経過からして、手首の痛みが一貫して継続していると医学的に説明できる場合には、第14級9号の認定を受けられる可能性があります。

TFCC損傷の等級認定に向けた留意点について

TFCC損傷は、重傷の場合には手術を行わなければ改善しないケガなのですが、単なる手首の捻挫・打撲や、頸椎捻挫(むちうち症)に伴う症状とみなされ、見逃されるケースが非常に多い傷病です。

TFCC損傷の発見が遅れると、損傷と事故との因果関係が否定されてしまう可能性が高く、後遺障害等級の認定を受けることもかなり難しくなります。

手首にTFCC損傷を疑う症状が出ている場合には、次にお伝えする点にご留意ください。

自覚症状を早期に訴えること

TFCC損傷が生じると、ケガをした直後から小指側の手首の痛み、握力低下、手首の可動域制限といった症状が現れます。このような手首における自覚症状を、早期に訴えることが非常に重要です。TFCC損傷が事故直後に発見できていなくとも、受傷直後にTFCC損傷特有の自覚症状があったというカルテの記載を突破口に、等級獲得を目指すことができます。

注意が必要なのは、頸椎捻挫(むちうち症)が同時に生じているケースです。むちうち症では、頸部の痛みだけでなく、肩や上肢の痛み・しびれが生じることがあります。カルテ記載も「上肢痛」などとまとめられて、手首の自覚症状が特段記載されなくなってしまう可能性が高くなります。事故直後は、様々な部分に痛みが出るため、全ての症状を正確に訴えることはなかなか難しいかもしれませんが、手首の症状を自覚した時点で主治医に伝えるようにしましょう。

早期にMRI画像検査を受けること

すでにご説明したとおり、軟骨組織であるTFCCの損傷は、レントゲンには写らず、MRI画像検査が必要です。手首にTFCC損傷を疑う症状が出たときには、なるべく早期にMRI検査を受けるようにしましょう。

事故から時間が経って撮影されたMRI画像からTFCC損傷が発見されても、後遺障害等級の認定を受けられる可能性は低くなります。TFCC損傷は、テニス等のスポーツの他、中華鍋を振るなどの日常動作、加齢による変性といった事故以外の原因から生じることもあるケガです。そのため、陳旧性の(=新鮮な傷でない)損傷の場合、「このTFCC損傷は事故によるものだ」ということを証明しようがなく、事故との因果関係が否定されてしまうことになります。

他方、事故後早期に撮られたMRI画像があれば、万が一主治医がTFCC損傷を見逃していたとしても、等級認定を受けられる可能性が出てきます。

改善が見られない場合には速やかに手の専門医を受診すること

打撲・捻挫などと診断された手首の痛みが数週間経っても改善せず、小指側の手首痛、可動域制限などが継続している場合には、速やかに手の専門医(手外科)を受診しましょう。

早期にTFCC損傷が発見されて、適切な保存療法や手術が行われれば、後遺障害を残さずに治癒する可能性が高まります。また、時間が経つと手術をしても予後は不良ですが、手の専門医に適切な検査を行ってもらうことで、適正な等級が認定されることになります。

TFCC損傷は、様子を見ているうちに発見が遅れてしまうと、回復という面でも後遺障害等級認定という面でも、被害者の方の不利益が大きくなりやすいケガといえます。ご自身のケースで対応に不安を感じている場合には、交通事故に精通している弁護士に相談してみましょう。

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この記事の監修

交通事故の被害者の方は、ただでさえケガの痛みで苦しい思いをされているなかで、初めての諸手続きの大変さや先の見通しの不安を抱えて生活されています。弁護士は医者と違い、ケガの痛みを癒すことはできませんが、不安を取り除くともに、適正な賠償を受ける手助けをできれば幸いです。

弁護士三浦 知草

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