交通事故における外貌醜状の後遺障害
calendar_today公開日:
event_repeat最終更新日:2023年07月10日
部位別の後遺障害等級認定について交通事故による後遺障害について
「外貌」とは、頭部や顔面部、首(頚部)といった上肢・下肢以外で普段日常的に露出している部位のことを指し、「醜状」とは、一定の瘢痕(「はんこん」といい、擦り傷や切り傷、火傷の傷跡など)や線状痕(線状の傷跡)などの傷痕が残ることをいいます。
「外貌醜状」とは、頭部や顔、首といった普段から人目につく部分に目立つ傷跡が残ることを指し、交通事故から直接生じたもの以外に、事故による手術や治療によって生じたものも後遺障害認定対象となります。
顔や頭部に目立つ傷跡が残った場合、最も人目につく部分でもあることから、被害者ご本人の精神的なショックが強くなることも十分考えられ、今後の生活面に大きな影響を及ぼす可能性があります。
ここでは、外貌醜状をはじめ、上肢・下肢の露出面や日常露出しない部分の醜状を含めた醜状障害の内容や後遺障害の等級について解説します。
- この記事の内容
外貌醜状の程度と後遺障害等級認定について
外貌醜状は、「著しい醜状」「相当程度の醜状」「単なる醜状」の3つに分けられています。それぞれの醜状と後遺障害等級認定について説明します。
著しい醜状
「著しい醜状」とは、原則として以下のいずれかに該当するもので、人目に付く程度以上のものをいいます。
著しい醜状の後遺障害等級と症状
等級 | 障害の程度・認定基準 |
---|---|
第7級12号 | 頭部:手のひら大(指部分は除く)以上の瘢痕または頭蓋骨の手のひら大以上の欠損 顔面部:鶏卵大面以上の瘢痕または10円銅貨大以上の組織陥没 頚部:手のひら大以上の瘢痕 |
「手のひら大」は、被害者ご本人の手のひらで測定します。後遺障害申請の際には、ご自身の手のひらと傷あとを一緒に写真に収めていただき、提出します。
頭蓋骨の手のひら大以上の欠損により、頭部の陥没があってそれによる脳の圧迫による神経症状が残った場合には、神経症状と外貌醜状のいずれか高い方の等級が認定されます。
相当程度の醜状
「相当程度の醜状」とは、以下のいずれかに該当するもので、人目に付く程度以上のものをいいます。
相当程度の醜状の後遺障害等級と症状
等級 | 障害の程度・認定基準 |
---|---|
第9級16号 | 顔面部に残った長さ5センチメートル以上の線状痕 |
単なる醜状
単なる「醜状」とは、以下のいずれかに該当するもので、人目につく以上のものをいいます。
単なる醜状の後遺障害等級と症状
等級 | 障害の程度・認定基準 |
---|---|
第12級14号 | 頭部:鶏卵大面以上の瘢痕、頭蓋骨の鶏卵大面以上の欠損 顔面部:10円銅貨大以上の瘢痕、長さ3センチメートル以上の線状痕 頚部:鶏卵大面以上の瘢痕 |
外貌醜状の等級判断をする上でのルール
外貌醜状の等級判断にあたって適用されるルールをご説明します。
人目につく程度以上のものであることが必要である
眉や髪で隠れる部分の傷あとについては、醜状として取り扱われません。
また、顎の下の正面から見えない部分に残った傷あとも除外されます。
2つ以上の傷あとがある場合の処理
2個以上の瘢痕または線状痕が互いに隣り合っていたり、2個以上の傷あとが相まって1個の傷あとと同程度の醜状になっている場合には、2個以上の傷あとの面積や長さを合算して等級を判断します。
醜状障害に含まれる症状
事故そのものでついた傷あとは、もちろん醜状障害に含みますが、それ以外にも、手術痕などの治療過程でついた傷も含まれます。
また、やけどが治癒した後の黒っぽい色素沈着や、逆に色素が脱失した白斑なども醜状障害として含みます。
さらに、傷ばかりでなく、顔面神経マヒによる口の歪み、鼻骨を骨折・脱臼した後の鼻の変形(斜鼻、鞍鼻)なども醜状障害として申請できます。
眼、耳、鼻の欠損障害と醜状障害の関係について
眼、耳、鼻の欠損障害は、これらの欠損障害の等級と醜状障害のどちらか上位の等級により認定することになります。
耳の欠損については、耳介軟骨部の2分の1以上を欠損した場合には、欠損障害(第12級4号)と同時に「著しい醜状」に当たり、上位等級である第7級12号が認定されます。2分の1未満の欠損の場合には、欠損障害には該当しませんが、単なる「醜状」の認定を受けます。
鼻の欠損については、鼻軟骨部の全部または大部分を欠損し、かつ鼻呼吸困難または嗅覚脱失の症状が残った場合には、欠損障害(第9級5号)と同時に、「著しい醜状」に当たり、上位等級である第7級12号が認定されます。
大部分の欠損があるが、鼻呼吸困難・嗅覚脱失のいずれもない場合には、「著しい醜状」のみ、一部の欠損にとどまる場合には単なる「醜状」のみが認定されます。
耳および鼻の欠損に関する醜状の扱い
障害の内容 | 障害の内容程度 |
---|---|
・耳介軟骨部の2分の1以上を欠損した場合 ・鼻軟骨部の全部または大部分を欠損した場合 |
著しい醜状 |
・耳介軟骨部の一部を欠損した場合 ・鼻軟骨部の一部または鼻翼を欠損した場合 |
醜状 |
眼については、まぶた(眼瞼)の欠損障害の定めがあります。両目のまぶたに著しい欠損を残すものは第9級4号、片目の場合は第11級3号、両目のまぶたの一部に欠損を残す場合又はまつげはげを残す場合には第13級4号、片目の場合は第14級1号が認定されます。「著しい欠損」は、まぶたでくろめが覆いきれないもの、「一部に欠損」は、しろめが覆いきれないものを指します。
耳や鼻のように外貌醜状との対応関係はありませんが、欠損の程度を判断し、欠損障害と外貌醜状のいずれか高い方の等級が認定されます。
上肢・下肢の露出面の醜状について
「露出面」とは、上肢では上腕部と肩の付け根から指先までの部分、下肢では大腿部と足の付け根から足の背部までの部分です。それぞれ1つずつ等級が定められています。
なお、労災保険における等級認定では、「露出面」の定義が異なり、上肢は肘以下、下肢は膝以下となります。
上肢・下肢の醜状の後遺障害等級と症状
等級 | 障害の程度・認定基準 |
---|---|
第14級4号 | 上肢の露出面に手のひらの大きさの醜いあとを残すもの |
第14級5号 | 下肢の露出面に手のひらの大きさの醜いあとを残すもの |
また、障害等級表に直接の記載はありませんが、上肢・下肢の露出面の醜状障害が以下に当たるような、より重いものであれば、12級相当の後遺障害として扱われます(準用)。
等級 | 障害の程度・認定基準 |
---|---|
第12級相当 | ・上肢の露出面に手のひらの大きさを相当程度超える瘢痕を残し、特に著しい醜状であると判断されるもの ・下肢の露出面に手のひらの大きさを相当程度超える瘢痕を残し、特に著しい醜状であると判断されるもの |
「手のひらの大きさを相当程度超える瘢痕」とは、具体的には、手のひら(指部分以外)の3倍程度以上の大きさの瘢痕を指します。
日常露出しない部位の醜状について
日常露出しない部位とは、胸部・腹部・背部・臀部を言います。
この部位に傷あとが残った場合、面積に応じて2等級があります。
日常露出しない部位の醜状の後遺障害等級と症状
等級 | 障害の程度・認定基準 |
---|---|
第12級相当 | 胸部及び腹部、または背部および臀部の全面積の全面積の1/2以上の瘢痕 |
第14級相当 | 胸部及び腹部、または背部および臀部の全面積の全面積の1/4程度の瘢痕 |
外貌の醜状障害に性別差(男女差)はあるのか
かつては醜状障害の等級は男女で分けられ、同じ程度の醜状でも、女性の方が男性よりも重い等級が認定されていました。
しかし、2010年にこの男女格差を違憲とする裁判所の判決(京都地判H22.5.27判例時報2093号72頁)が出された結果、男女の醜状障害を平等にする改訂が行われました。
現在では男女を問わず同一の後遺障害等級が認定されています。
外貌醜状による逸失利益の認定について
後遺障害が残った場合、その障害によって労働能力が低下したことの損害である「逸失利益」の賠償を受けることができます。労働能力が低下した程度である労働能力喪失率について、等級ごとに基準があり、例えば、第12級なら14%、第14級なら5%が原則になります。
もっとも、外貌醜状の場合、身体機能や知的機能が障害されているわけではありません。そのため、無条件に「外貌醜状によって逸失利益が生じた」とはいいにくく、相手方保険会社も逸失利益の発生を否定してくるのが普通です。
裁判例では、男女ともに外貌醜状による逸失利益を肯定するものがありますが、必ずしも等級通りの逸失利益の金額を認めているわけではありません。
裁判所が外貌醜状による逸失利益を判断する際には、
- 被害者の職種(接客業など対人業務が多い仕事か、モデルやホステスなど容姿が重要な仕事か等)
- 被害者の年齢(若年で今後の就職・転職に影響があるといえるか等)
- 醜状痕の場所(目に留まりやすい場所か等)
- 化粧や髪型の工夫で醜状を隠せるか
- 醜状の部位に、知覚鈍麻や痛みなど労働の支障になる症状を伴っているか
といったことを総合的に判断しています。
ご自身に逸失利益が生じていることを裁判所に認めてもらうためには、丁寧な主張と証明が必要です。
外貌醜状の等級認定に向けた留意点について
ここでは、外貌醜状の等級認定に向けた留意点を解説します。
症状固定後速やかに申請する
外貌醜状の場合、傷口が塞がってから6か月程度で症状固定(症状が一進一退で治療効果が出なくなる状態)の目安時期です。症状固定になれば、後遺障害申請ができる状態になります。
外貌醜状の場合、症状固定後も時間が経つにつれ、徐々に傷あとが小さくなったり、薄くなったりして目立たなくなっていくことがあります。
そのため、後遺障害申請が遅くなると、本来症状固定時であれば認定されたはずの等級よりも、等級が軽くなってしまう可能性があります。
特に、複雑な骨折や高次脳機能障害など、症状固定までに年単位の時間がかかるようなケガが同時発生している場合には注意が必要です。全てのケガが症状固定に至るのを待ってからまとめて申請すると、外貌醜状の等級が不当に低くなってしまい、損害額にも影響が出ます。
このように、外貌醜状については、他のケガの治療が終わっていない場合でも、後遺障害申請を先行させることが望ましいケースがあります。申請のタイミングに不安を感じる場合には、弁護士に相談してみましょう。
面接調査を必ず受ける
外貌醜状の等級審査では、まず傷あとの写真を資料として提出し、その後、担当者との面接調査を行って等級を決定します。
特にコロナ禍以降、自賠責調査事務所から、「写真を見たところ非該当だと思うので、面接調査は省略してもよいか」という打診がなされる場合があります。
しかし、色素沈着・色素脱失などの醜状は、本来認定の対象であるにも関わらず、写真からはわかりにくい部分です。実際に当法人でも、上記のような打診を受けたご依頼者に、下肢の醜状が認定されたケースがあります。
「非該当だと思う」と言われてもあきらめずに、面接調査をしっかり受けるようにしましょう。
交通事故被害による示談交渉は弁護士にご相談ください
この記事の監修
交通事故の被害者の方は、ただでさえケガの痛みで苦しい思いをされているなかで、初めての諸手続きの大変さや先の見通しの不安を抱えて生活されています。弁護士は医者と違い、ケガの痛みを癒すことはできませんが、不安を取り除くともに、適正な賠償を受ける手助けをできれば幸いです。
弁護士三浦 知草
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上野法律事務所
- 東京弁護士会
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