交通事故被害の基礎知識

交通事故で警察へ連絡せずに示談交渉することの危険について

交通事故で警察へ連絡せずに示談交渉することの危険について

交通事故被害に遭われた際、特に軽微な事故で多いのですが、加害者の方から、警察に届け出ずに当事者同士で示談できないかと提案してくることがあります。

ちょっと擦ってしまった、小突く程度の追突で車体も被害者の外傷もほとんどないといった、事故と呼ぶには仰々しいと感じるケースであっても、必ず警察に事故の届け出をしなければなりません。

警察に事故の届け出をしないことは違法行為であり、その他にも多くのリスクがあります。

なぜ警察に事故報告をせずにその場で示談をしてはいけないのか、ここではその危険性について解説します。

この記事の内容

交通事故で警察に届け出をしないことは違法行為となる

交通事故の当事者になった場合、警察へ届け出をしないことは、ひき逃げ(救護義務違反)や当て逃げ(報告義務違反)などの違法行為に当たる可能性があります。

交通事故で人にケガをさせたにもかかわらず、負傷者の救護等の必要な措置を行わない場合には、救護義務違反として、10年以下の懲役または100万円以下の罰金の罪に当たることになります(道路交通法〔以下「道交法」といいます。〕第72条1項前段、同法第117条2項)。

また、事故で相手方にケガをさせることは、同時に過失運転致傷罪(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律第5条)に当たります。

また、ケガ人が出ていない物損事故の場合でも、警察へ事故の届け出をしないことは、報告義務違反として、3月以下の懲役または5万円以下の罰金の罪に当たります(道交法第72条1項後段、同法第119条1項17号)。

交通事故では、必ずしも事故直後に当事者どちらの過失が大きいか明らかでないことがあります。また、その場では「ケガは大丈夫」と判断したとしても後で痛みが出てくることもあります。

「自分は悪くない」「ケガは大丈夫」と判断して、事故現場から立ち去ってしまうと、後でひき逃げ・当て逃げなどで処罰されてしまうことがあります。

事故の当事者となった場合には、速やかに警察へ届け出をすることが必要です。

交通事故で警察に事故の届け出をしないことのリスクとは?

警察へ届け出をしないことには、被害者にとっても、加害者にとっても様々なリスクがあります。

交通事故証明書がもらえない

警察へ届け出を行わないと、「交通事故証明書」の発行を受けることができません。

交通事故証明書は、自動車安全運転センターが発行している書面で、事故発生を確認したことを証明するものです。

交通事故証明書がないと、事故の発生を公に証明できるものがないため、保険対応を受けることができなくなるほか、労災の利用ができなくなったり、紛争解決のための各種ADRの利用が難しくなるなど、様々なデメリットが生じることになります。

保険対応ができない

警察へ届け出をしておらず、事故証明書も発行されていない事故では、保険対応を受けることができません。事故の相手方が加入している任意保険が使えないばかりでなく、ご自身の加入している保険(人身傷害補償保険や搭乗者傷害保険など)の利用や、自賠責保険の利用もできなくなります。

保険が使えないと、治療費などの損害は、加害者本人から支払ってもらうか、被害者自身が支払うしかなくなってしまいます。

加害者が約束した支払いをしてくれない

加害者が、事故当初は「自分が賠償金を支払うから、警察へ届け出をしないでほしい」と言っていた場合であっても、音信不通になってしまったり、約束通りの支払いを行ってくれないことがあります。

また、事故当初は軽傷だと考えていても、むちうち症の痛みなどの後遺障害が残ってしまうこともあります。さらに、骨折や軟部組織の断裂、頭を打った場合の脳外傷といった手術が必要な重傷であったことが判明することもないわけではありません。

後遺障害が残った場合、加害者個人では支払いきれない金額の損害が生じることもありますので、ケガが軽いと思っても、保険対応を受けられるようにしておくことが重要です。

刑事処分を受けるおそれがある

事故の相手方がケガをしていた場合、過失運転致傷罪と救護義務違反の罪に問われる可能性があります。

警察へきちんと届け出をして、過失運転致傷罪のみが成立する場合には、軽傷であれば不起訴になることも多いですし、重傷であっても略式起訴(罰金判決)になる可能性が相当程度あります。他方、ひき逃げをして救護義務違反の罪も犯してしまうと、たとえ相手方のケガが軽くても、正式起訴されて、被告人として公開裁判に出頭しなければならない可能性が高まります。さらに、警察からの出頭要請に応じずにいると、逮捕・勾留されてしまうリスクもあります。

また、相手方にケガがない場合でも、報告義務違反の罪に当たるため、やはり刑事処分を受けるおそれがあります。

免許の取り消しや免許停止の行政処分を受ける

救護義務違反をすると免許取り消し処分になり、交通違反の前歴のない方でも、3年の間は免許の再取得ができなくなります。違反歴がある方だと欠格期間はより長期間になります。

報告義務違反(当て逃げ)は、付加点数5点として扱われ、自身の安全義務違反などによって事故が生じた場合には、免許停止の処分が課されます。免許停止の期間は、その事故での自身の基本点数および交通違反の前歴によって決まります。

後からでも早めに警察に事故報告する

警察に届け出をせずに事故現場を立ち去ってしまった場合には、事故から時間が経たないうちに速やかに届け出をするようにしましょう。

いったんは事故現場を離れてしまった後での届け出の場合、救護義務違反・報告義務違反として処分される可能性はありますが、早期に届け出をしない場合に比べて通常処分は軽くなります。

また、ご自身や相手方に、長期の通院が必要なケガや後遺障害が残った場合に備え、保険を利用できる状態にしておくためにも、警察への事故報告と交通事故証明書の取得が重要です。

さらに、事故態様(過失割合や接触の有無など)が後から争点になることも考えて、警察による実況見分を実施しておくべきであるという点でも、警察への事故報告を早めに行うことが必要です。

万が一警察へ連絡をせずに事故現場を立ち去ってしまったような場合には、できるだけ早期に警察への届け出を済ませるようにしましょう。

交通事故に遭った場合の正しい対処方法とは?

交通事故の当事者になった場合には、警察への届け出以外にも行うべき行動があります。ここでは、事故にあった際の対処方法についてご説明します。

まずは救護活動を行う

事故が起こったときには、直ちに運転を停止して、自分や同乗者、相手方にケガがないかを確認しましょう。ケガをしている人がいる場合には、必要に応じて救急車を呼ぶなど、ケガ人を救護する措置を取りましょう。

なお、事故直後は興奮状態もあって、痛みを感じにくい場合もありますので「ケガはしていない」と即断せずに、現場で必要な処理が終わり次第、病院に行くようにしましょう。

危険を防止する措置をとる

交通量の多い路上や交差点内など、二次的な事故の危険があるような場所で事故が起きた場合には、危険を防止するため、安全な場所に車両を退避させましょう。

車両が損壊して自走できない場合には、ハザードランプを点灯したり、高速道路での事故であれば三角表示板を設置し、発炎筒をつけるなど、二次的な事故を防ぐための措置を取りましょう。

警察へ連絡する

ケガ人の救護と危険防止措置ができたら、直ちに警察へ連絡をしましょう。

相手方の情報を確認する

相手方の氏名や住所、連絡先、加入している保険会社などの情報を確認し、メモをしておきましょう。

証拠を保全する

衝突した車両の位置関係や事故現場の様子、車両の損傷状況の写真を撮影して、証拠を保全しましょう。もちろん、ご自身や他の車両の安全確保が最優先ですので、危険が生じない範囲で行いましょう。

また、事故の目撃者がいる場合には、名前や住所、連絡先を聞いておくと、後で相手方が事故態を争う場合に、ご自身に有利な証言をしてもらえることがあります。

ご自身の保険会社に連絡する

ご自身が車やバイクに乗っているときの事故であれば、ご自身の加入している保険会社に連絡を入れましょう。事故の受付をしてくれると共に、ロードサービスの手配を行ったり、事故の相手と話をしてくれることがあります。

その場で示談や過失割合の決定をしない

事故の現場では、お互いの過失割合も判然とせず、どの程度のケガが生じたかもわからないことが少なくありません。

その場で示談をしてしまうと、後で大きな損害が出た場合に相手方に請求できなくなるリスクがありますので、示談は控えるべきです。

また、ケガをさせた相手方への申し訳なさから、「全て私が悪い。」、「全部賠償します。」などの発言をしてしまう方もおられますが、保険会社は、必ずしも相手方が望むものすべてを賠償してくれるわけではなく、必要性・相当性のある範囲の賠償に限られます。全てを支払うという旨の発言がトラブルにつながることになりかねませんので、現場では相手方のケガへの気遣いのみにとどめ、賠償に関する決定を下さないようにしましょう。

どんなに軽微な事故でも、事故直後にすぐ警察へ連絡をする

ここまで交通事故に遭った際、警察へ連絡せずに事故処理することのリスクについてお伝えしてきましたが、被害者にとってはまったくメリットがないどころか、刑事処分を受ける可能性を含めると、ご自身の将来にとってもデメリットしかありません。

どんなに軽微な事故であっても、交通事故に遭った直後にすぐ警察へ連絡をして、処理を行うようにしましょう。

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この記事の監修

交通事故の被害者の方は、ただでさえケガの痛みで苦しい思いをされているなかで、初めての諸手続きの大変さや先の見通しの不安を抱えて生活されています。弁護士は医者と違い、ケガの痛みを癒すことはできませんが、不安を取り除くともに、適正な賠償を受ける手助けをできれば幸いです。

弁護士三浦 知草

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