「遷延性意識障害」とは?
「遷延性意識障害(せんえんせいいしきしょうがい)」とは、交通事故による頭部外傷などによって、脊髄反射以外の反応がない「昏睡状態」になり、目を開けることはできるものの意思疎通ができない身体症状のことを指します。一般的には「植物状態」といわれます。

「遷延性意識障害」の診断
医学的に、以下の6項目が3か月以上続いた場合を「遷延性意識障害」といいます。
- 自立移動ができない
- 自立摂食ができない
- し尿失禁がある
- 声を出しても意味のある発語ができない
- 簡単な命令にはかろうじて応じることはできるが、意思疎通はほとんどできない
- 眼球は動いていても認識することはできない
「遷延性意識障害」の原因とメカニズム
「遷延性意識障害」は、交通事故の頭部外傷などによって脳に広範囲の損傷や断裂(びまん性軸索損傷)が起きることで発症します。会話や一緒に食事をすることができず、介助や介護が必要となります。
ご家族の悲しみは想像以上に深く、また、生活への影響も非常に大きいため、被害者ご本人やご家族が現実に向き合い、受け入れることは大変なことでしょう。そのためにも被害者ご本人、ご家族の将来を見据えて、適切な賠償金を受け取ることが非常に重要となってきます。

「遷延性意識障害」と「脳死」の違い
「脳死」とはその名のとおり「脳機能の死」を指します。脳波が平坦で、自力で呼吸ができずに昏睡状態が続いている状態を指し、人工呼吸を外すと亡くなってしまいます。「遷延性意識障害」は脳波もあり、自力で呼吸もできます。朝に起きて夜に眠るケースもあり、「意識はあるが、体が動かず言葉も発せないため、自分の考えを示すことができない」状態です。
点滴などで栄養をしっかりとって健康状態に気を配ればすぐに亡くなるものではありません。可能性は高くありませんが、少しずつ回復して意思疎通ができる、言葉を発することができるようになった例もあります。

「遷延性意識障害」の具体的な治療
「遷延性意識障害」は、現在の医療技術では有効な治療方法がまだ確立されていません。そのため、一般に回復の見込みは非常に厳しいといわれています。
1980年代より以下のような治療法が開発されてきましたが、有効率は高くありません。同じように見える症状でも、脳の障害度にはいくつか段階があり、十分に検査しなければ障害度に応じた治療の適応が決定できません。
しかし、これらの治療やリハビリを続けることによって、食事や車椅子での散歩、排泄を時間どおりにできるようになる、瞬きでのコミュニケーションができる、脳スキャナーによって簡単な質問であれば回答できるなどの回復例もあるようです。

「遷延性意識障害」の治療方法
脊髄後索電気刺激 | 心臓のペースメーカーに似た刺激装置を体内に埋め込んで、弱い電流で脳を刺激するという治療方法です。 |
---|---|
脳深部電気刺激療法 | 脳深部の覚醒に関する核を電気で刺激する方法です。 |
正中神経刺激法 | 手の正中神経を電気で脳を刺激する方法です。 |
迷走神経刺激法 | 頚部で迷走神経を電気で刺激する方法です。 |
「遷延性意識障害」の看護と介護
現状の身体状況や健康状態を維持することを中心となります。
1肺炎予防、誤嚥(ごえん)の防止
菌を含んだ唾液が気管に入ってしまうと肺炎の原因になるため、歯磨きなどの口内ケアが必要です。
2褥創(じょくそう)が発生しないようにするための体位交換
寝たきりだと血流が滞り、皮膚の一部がただれたり傷ができてしまいます。同じ部位を長時間圧迫しないように、定期的に体位を交換します。
3関節拘縮(かんせつこうしゅく)の予防
寝たきりだと関節を動かさない状態が続くため、関節が固まり動かなくなってしまいます。そのため、定期的に介護者が身体を動かして予防します。
4経管栄養
鼻あるいは口から胃まで挿入されたチューブで栄養剤を送る方法です。
5痰吸引
口中、のど、気管にたまった、痰やつば、鼻水などを機械を使って吸い出します。
6体位変換、シャワー、オムツ、清潔ケアなど
そのほか、適宜身体状況や健康状態を維持するための介護が必要となります。
「遷延性意識障害」の介護の注意点
「遷延性意識障害」は入院から3か月程度で「転院」をすすめられることが多いとされます。さらに症状固定後には入院し続けることが困難となり、在宅介護や介護施設の入所を考える必要があります。在宅介護の場合、ヘルパーや訪問介護を利用しながらとはいえ、ご家族が24時間の介護を行わなくてはなりません。
そのためにも住居の改造や介護費用などを確保するために、、適切な賠償金を受け取ることが非常に重要となってきます。
