交通事故に関する解決事例 29

自賠責の後遺障害等級審査では非該当であった件について、後遺障害慰謝料に相当する示談金を求め、後遺障害慰謝料の一部が認められた事案

解説弁護士
谷 靖介

M.Eさん・80歳代・主婦

受傷部位
体幹
後遺障害等級
非該当
傷病名
胸椎圧迫骨折
解決方法
紛争処理センター
弁護士費用特約
なし
取得金額
340万円

ご依頼者の事故発生状況

事故態様
(加害者)自動車/歩行者(被害者)

ご依頼者のM.Eさんは、自宅近くにある信号のない横断歩道を通行中、信号待ちをしていた相手方車両がM.Eさんの通行を見落として発進してしまい、M.Eさんに衝突。この事故により、胸椎圧迫骨折・骨盤骨折等のケガを負われました。

解決に向けた弁護士の活動内容

ご依頼者のM.Eさんは、胸椎圧迫骨折・骨盤骨折等の傷害を負われて、その痕跡が残っている状態でしたが、後遺障害の等級審査(保険会社による事前認定)では、非該当となりました。

かかる審査結果は、本件事故以前にM.Eさんが胸椎圧迫骨折を起こしていたため、既存障害と比べて重い後遺障害等級に当たらない場合(加重)、自賠責の制度上は非該当になってしまうことがあるためでした。

その後M.Eさんは、相手方の保険会社から示談金の提示を受けたものの、提示された金額が適正なのか疑問に思われ、当事務所へご相談に来られました。

本件では、既存障害との関係で加重に当たりにくいことから、後遺障害等級審査の異議申し立てを行ったとしても、審査結果が覆る可能性は低いと思われる事案でした。

もっとも、当職としては、後遺障害等級の制度的理由から非該当であったとしても、M.Eさんが脊椎の圧迫骨折の重傷を負っており、その痕跡が残っている以上、相応の後遺障害慰謝料は認められるべき事案ではないかと考えておりました。

受任後、相手方保険会社との交渉をスタートさせましたが、後遺障害慰謝料について、非該当であっても後遺障害慰謝料があり得ると考えて、最大限有利な賠償額の計算を行い、計算した損害額をもとに相手方保険会社との示談交渉を開始しました。しかし、相手方保険会社からの回答は決して十分な水準とは言えませんでした。

また、保険会社としては、後遺障害慰謝料を認める内容の示談をすることに抵抗があり、必ずしもいい回答は得られませんでした。

こういった場合、本来であれば訴訟を提起して、被害の実態に即した裁判所の判断を仰ぎたいところです。しかしM.Eさんは、ご年齢のこと等を考えると、訴訟はどうしても避けたいとのご希望がありました。

そこで当職は、訴訟を提起しないで少しでも賠償額を増加させるため、交通事故紛争処理センターでのあっせん手続を提案させていただきました。

交通事故紛争処理センターのあっせん手続では、当職から事案の説明や当方の主張についてアピールを行いました。あっせん委員の助力もあり、あっせん手続は1回で無事解決と至り、示談金額についても交渉時の金額よりも増額することができました。

後遺障害等級が非該当となった場合の損害賠償について

自賠責の後遺障害審査制度上、「加重」という考え方があります。これは、既存障害がある場合には、事故によって重くなった障害が、従前の既存障害よりも重いレベルに達していないと、新たな後遺障害としては評価しないという考え方です。

この考え方が合理性を有し、当てはまるケースもありますが、中には、事故による障害の内容は相応に重度で一定の後遺症が残っているのに、制度上の理由だけで非該当として何ら後遺症に関する補償を受けられないケースもあります。

こういった例外的なケースにおいて、非該当を前提とした賠償額では、被害者側としては疑問が残る事態もありえると考えられます。

そういった場合、本来は訴訟を提起して、裁判所に実態に見合った損害額の審理・認定をしてもらうことが望ましいと考えています。

もっとも本件では、ご依頼者のM.Eさんのご希望を踏まえ、訴訟提起をしない中で最大限結果を出せる方向で活動いたしました。増額の幅は必ずしも大きくはなかったかもしれませんが、M.Eさんのご希望に沿った活動をさせていただけたかと思います。

弁護士による事例総括

後遺障害等級認定の有無は、最終的な賠償額に大きく影響します。

そして、本件のように、後遺障害の重さに応じた等級認定が受けられないケースもあれば、異議申し立てをすることで等級認定を是正することが考えられる場合もあります。

後遺障害等級審査に関する方針を検討するには、後遺障害の種類に応じて、等級の認定基準や治療経過を踏まえて分析する必要がございます。

後遺障害等級の審査結果に疑問がある場合や、異議申し立てをするべきかの方針に悩まれた場合には、一度弁護士に相談されることをおすすめします。

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