交通事故被害の基礎知識

交通事故における眼の後遺障害

交通事故における眼の後遺障害

交通事故における「眼」の後遺障害には、障害等級表上「眼球障害」と「まぶたの障害」があります。

「眼球障害」は、視力障害、調節機能障害、運動障害・複視、視野障害の4つに分けられ、「まぶたの障害」は欠損障害と運動障害の2つに分けられ、合計で6種類あります。

ここでは、それぞれの障害の内容や後遺障害の等級について解説し、障害等級表に定めのないその他の後遺障害2つについてもご説明します。

この記事の内容

眼球障害について

はじめに、眼球障害の内容について説明します。

視力障害

交通事故による視力障害は、眼を打撲する・眼に事故で飛んだ物の欠片が刺さるなど、眼球そのものが損傷すると起こります。

また、眼そのものに傷がなくとも、頭部にケガを負ったことにより視神経が損傷した場合にも生じます。

メガネやコンタクトレンズを用いても、矯正できない視力低下について、後遺障害が認定されます。

失明及び視力低下に関する後遺障害等級の障害の程度・認定基準は、次に示した表の内容となります。

眼の障害と障害等級

等級 障害の程度・認定基準
第1級1号 両眼が失明したもの
第2級1号 1眼が失明し、他眼の視力が0.02以下になったもの
第2級2号 両眼の視力が0.02以下になったもの
第3級1号 1眼が失明し、他眼の視力が0.06以下になったもの
第4級1号 両眼の視力が0.06以下になったもの
第5級1号 1眼が失明し、他眼の視力が0.1以下になったもの
第6級1号 両眼の視力が0.1以下になったもの
第7級1号 1眼が失明し、他眼の視力が0.6以下になったもの
第8級1号 1眼が失明し、又は1眼の視力が0.02以下になったもの
第9級1号 両眼の視力が0.6以下になったもの
第9級2号 1眼の視力が0.06以下になったもの
第10級1号 1眼の視力が0.1以下になったもの
第13級1号 1眼の視力が0.6以下になったもの

参照ページ

失明

失明とは、眼球を失ったもの、明暗がわからない及びようやく明暗がわかる程度のものをいいます。完全に何も見えない状態のみならず、光覚弁(暗室において、対象者の眼前で照明を点滅させて明暗弁別ができる視力、明暗弁ともいいます)または手動弁(検査者の手を対象者の眼の前で上下や左右に動かして、動きの方向を弁別できる能力)が含まれます。

視力の測定について

障害等級表にいう「視力」とは、矯正視力をいいます。これは、眼鏡やコンタクトレンズ、眼内レンズによる矯正を行った上で、視力の低下が認められるかどうかを測定し、後遺障害の認定を行います。

視力計測は、基本的には万国式試視力表(ランドルト環の切れ目の方向を答えさせる一般的な視力表、アラビア数字)によって測定されます。

被検者は、万国式試視力表から5メートルの位置から、ランドルト環の切れ目の方向を答えます。そして、一番大きいランドルト環が見えない場合、徐々に距離を近づけて測定をします。この方法で視力0.01までは測定できますが、視力が0.01未満だと、万国式試視力表では測定することができません。このような場合、指数弁による視力を測定します。

指数弁とは対象者が検査者の指の数を答え、正答できる最長距離により視力を表すもので、1m、50cm、30cmなど、距離別に判定します。

被検者が指の数を判別できない場合には、手動弁・明暗弁を測定しますが、ここからは失明の検査になります。

調節機能障害

眼の構造を示したイメージイラスト

私たちの眼において、カメラのレンズの役割をしている部分が「水晶体」です。水晶体は近くを見るときに厚くなり、遠くを見るときに薄くなることでピントを調節しています。水晶体自体に筋肉はありませんが、毛様体小体(チン小帯)という糸のような靭帯で、筋肉(毛様体)とつながっており、この靭帯と筋肉の働きにより厚みを調節することができます。

眼を打撲するなどして負傷すると、この毛様体小体が切れて、水晶体がズレたり(水晶体亜脱臼)、外れてしまったり(水晶体脱臼)することがあります。水晶体の脱臼・亜脱臼が生じると、もはや厚みを調節することができなくなるため、眼のピントを調節する機能に障害が生じるのです。

眼の調節機能障害に関する後遺障害等級の障害の程度・認定基準は、次に示した表の内容となります。

眼の調節機能に関する障害と障害等級

等級 障害の程度・認定基準
第11級1号 両眼の眼球に著しい調節機能障害を残すもの
第12級1号 1眼の眼球に著しい調節機能障害を残すもの

参照ページ

眼球に著しい調節機能障害を残すものとは、調整力が通常の場合の2分の1以下になった状態をいいます。水晶体を摘出して人工水晶体を入れた場合も、調整力が全くなくなっているといえるため、著しい調節機能障害に当たります。

なお、両眼に障害が生じている場合や、障害が生じていない眼の調節力に異常が認められる場合、次に示した年齢別の調節力に関する表により判断されます。

調節力は、明視できる遠点から近点までの距離的な範囲(調節域)を、レンズに換算した値で表し、単位はジオプトリー(D)です。

年齢別の調整力

年齢 調整力(D)
15 9.7
20 9.0
25 7.6
30 6.3
35 5.3
40 4.4
45 3.1
50 2.2
55 1.5
60 1.35
65 1.3

調節機能の検査について

調節機能の検査は、アコモドポリレコーダー等の調節機能測定装置を用いて行われます。

調節力は年齢に密接に関係しており、水晶体(レンズ)は年齢とともに弾力性が失われ、だんだんと硬くなるため、水晶体を薄くしたり厚くしたり(ピント合わせ)が難しくなります。45歳頃より水晶体の弾力性はかなり失われ、近くを見る為に必要な調節ができなくなります(老眼)。年齢別で調整力が区分されているのはこのためです。

ケガをしていない眼の調整力が1.5D以下の場合、実質的な調節機能は失われた状態と判断されるため、後遺障害として認定されません。

また、両眼にケガをした場合やケガをしていない眼にも異常がある場合には、年齢が55歳以上の被害者は、後遺障害等級認定の対象にはなりません。

運動機能障害

眼球の運動は、眼の周りにある6個(3対)の筋肉によって支配されています。正常な状態であれば、6個の筋肉は一定の緊張を保つことで眼球を正常な位置に保持し、眼を上下左右に動かすことができます。

この6個の筋肉の一部や、これらの筋肉を動かす神経が損傷すると、その筋肉が担当していた方向に眼球を動かすことができなくなり、眼球の運動機能障害が生じます。

眼の運動機能障害に関する後遺障害等級の障害の程度・認定基準は、次に示した表の内容となります。

眼の運動機能に関する障害と障害等級

等級 障害の程度・認定基準
第10級2号 正面を見た場合に複視の症状を残すもの
第11級1号 両眼の眼球に著しい運動障害を残すもの
第12級1号 1眼の眼球に著しい運動障害を残すもの
第13級2号 正面以外を見た場合に複視の症状を残すもの

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「眼球に著しい運動障害を残すもの」とは、眼球の注視野(頭部を固定、眼球を運動させ直視できる範囲。)の広さが2分の1以下になった状態をいいます。個人差はありますが、正常範囲は単眼視で各方面に50度、両眼視で各方面に45度となります。

「両眼の眼球に著しい運動障害を残すもの」は、単眼視での注視野について、両眼ともに2分の1以下になった場合を指します。

複視

複視とは、物が二重(二つ)に見えることをいいます。単眼での複視は片眼性複視、片眼で見たとき複視が起きず、両眼で見たときに複視になる場合を両眼性複視といいます。

このうち、両眼性複視が運動機能障害として評価され、単眼性複視は視力障害として評価されます。

複視には、頭痛やめまいが伴うことが多いですが、これらは複視の後遺障害等級の中で評価され、神経症状としての別個の後遺障害等級の認定はされません。

複視の認定基準
  • 本人の自覚
  • 眼筋の麻痺等複視を残す明らかな原因があること
  • ヘススクリーンテストにより、患側の像が水平方向又は垂直方向の目盛りで5度以上離れた位置にあることが確認されること

このほか、開散麻痺、輻輳痙攣、眼球が物理的に動かないなども、運動機能障害として評価されます。

視野障害

網膜は、光や色を感じ取り、視神経を通じて脳に伝達する役割を果たします。カメラでいえばフィルムに当たる場所です。

網膜剥離や網膜出血といった網膜そのものの損傷が生じたり、網膜から脳へ情報を伝える視神経を損傷したりすると、視野障害が生じます。

眼の視野障害に関する後遺障害等級の障害の程度・認定基準は、次に示した表の内容となります。

眼の視野障害と障害等級

等級 障害の程度・認定基準
第9級3号 両眼に半盲症、視野狭窄又は視野変状を残すもの
第13級2号 1眼に半盲症、視野狭窄又は視野変状を残すもの

参照ページ

「視野」とは、眼の前の1点を見つめているときに、同時に見ることのできる外界の広さを指します。

V/4指標という指標を用いた場合の日本人の視野の平均値は以下のとおりです。

V/4指標による日本人の視野の平均値

方向 視野の角度
60(55−65)
上外 75(70−80)
95(90−100)
外下 80(75−85)
70(65−75)
下内 60(50−70)
60(50−70)
内上 60(50−70)

この8つの視野の角度の合計が、正常な視野の角度の合計の60%以下になった場合には、その視野の欠け方により、半盲症・視野狭窄・視野変状のいずれかの視野障害が認められます。

半盲症

半盲症は、頭部の外傷などにより、視神経繊維が、視神経交叉部かそれより後方で障害されるときに生じます。視神経交差は、視神経が脳の中でクロスしている部分です。

視神経に障害が起こると、網膜そのものに傷がなくとも、視野の右半分または左半分が欠けてしまいます。両眼とも右(左)の視野が欠けることを「同側半盲」、左右の眼で逆の視野が欠けることを「異名半盲」といいます。

視野狭窄

視野が周辺から、あるいは不規則に欠けてしまい、視野が狭くなる状態を視野狭窄といいます。

視野の中心は鮮明に見えるのに、周辺が見えなくなる症状を「同心性狭窄」といいます。同心性狭窄が強くなると、よく見えるのは視野の中心のみになるため、周囲の状況がわからなくなり、視力に問題がなくとも、階段昇降などの日常動作も困難になることがあります。

視野が不規則に欠けて狭くなるものを「不規則狭窄」といいます。

視野変状

視野変状には、「視野欠損」と「暗点」が含まれます。

視野欠損は、いわば虫食い状に不規則に視野が欠けるものです。

暗点とは、視野の中の見えないスポット(点)を指します。人間には、「マリオット盲点」という生来的な暗点がありますが、これは視神経が目から脳に向かう入り口には元々視細胞がないために生じているものです。事故後に、マリオット盲点以外の暗点が出る場合、本来的にはないはずの病的な欠損に当たり、暗点により視野が障害されていれば後遺障害となります。

視野の検査について

視野の検査には、ゴールドマン型視野計を用います。これは、中心にある1点の光を見ている状態で、どのくらいの範囲が見えるかを調べる検査です。動いている光を用いるので、「動的視野検査」ともいいます。検査結果は、等高線のような図に表され、視野の異常の有無や場所がわかります。

事故の外傷以外では、緑内障の検査にも用います。

まぶたの障害について

次に、まぶたの障害の内容について説明します。

まぶたの欠損障害

眼の周辺を打撲した場合などには、まぶたを負傷することがあります。まぶたの皮下出血や腫れの場合には、治癒することも多いですが、切り傷・裂傷の場合には、まぶたに後遺障害が残ることがあります。また、切り傷・裂傷の場合、同時に視力に影響が及ぶことがあるので注意が必要です。見えにくい場合や鼻血を伴う場合には、速やかに眼科を受診しましょう。

切り傷・裂傷などから、まぶたに欠損が生じた場合には、後遺障害となります。

まぶたの欠損障害に関する後遺障害等級の障害の程度・認定基準は、次に示した表の内容となります。

まぶたの欠損障害と障害等級

等級 障害の程度・認定基準
第9級4号 両眼のまぶたに著しい欠損を残すもの
第11級3号 1眼のまぶたに著しい欠損を残すもの
第13級4号 両眼のまぶたの一部に欠損を残し又はまつげはげを残すもの
第14級1号 1眼のまぶたの一部に欠損を残し又はまつげはげを残すもの

参照ページ

「まぶたに著しい欠損を残すもの」とは、閉瞼時に角膜を完全に覆い得ない程度のものをいいます。目を閉じてもくろめの部分が覆いきれていない状態です。

「まぶたの一部に欠損を残すもの」とは、閉瞼時に角膜を完全に覆うことができるが、球結膜(しろめ)が露出している程度のものをいいます。

「まつげはげを残すもの」とは、まつげの生えている周縁の2分の1以上にわたってはげを残すものをいいます。

まぶたの欠損障害がある場合、同時に顔の醜状障害が認められることがあります。傷痕の面積が10円銅貨大以上または長さが3センチメートル以上の場合、「外貌に醜状を残すもの」として第12級14号が認定されます。顔のまぶた以外の場所にも傷痕が残っている場合、顔の傷の面積・長さを合計して後遺障害等級の判断をします。

まぶたの運動障害

まぶた自体の切創で筋肉や腱膜を損傷した場合や、顔や頭部を打撲して視神経や外眼筋を損傷した場合には、まぶたを開けたり閉じたりする運動に障害が生じることがあります。

まぶたの運動障害に関する後遺障害等級の障害の程度・認定基準は、次に示した表の内容となります。

まぶたの運動障害と障害等級

等級 障害の程度・認定基準
第11級2号 両眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの
第12級2号 1眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの

参照ページ

「まぶたに著しい運動障害を残すもの」とは、開瞼時に瞳孔領を完全に覆うもの、または閉瞼時に角膜を完全に覆うことができない状態をいいます。

眼を開いたときにまぶたが瞳孔に被さっていると、視野が狭くなり上の方が見えにくくなる他、眼が疲れやすくなるなどの症状が出ます。

一方、眼をとじても、くろめ部分が覆いきれない場合、強いドライアイが進むため、角膜の炎症などにより視力を失うこともあり得ます。

その他の眼の後遺障害

最後に、その他の眼の後遺障害の内容について説明します。

ここでご説明する後遺障害は、後遺障害等級表に記載のない症状ですが、障害の程度(どの程度労働能力を喪失するのか)を考慮して、他の後遺障害の等級が準用されています。

外傷性散瞳

虹彩は、眼に入る光量を調節する機能を持ち、カメラでいうしぼりに当たる部分です。虹彩の働きで、眼に光が当たると瞳孔が収縮します。

眼のあたりを打撲することで虹彩を絞る筋肉や神経が損傷したり、頭部の外傷により脳や視神経が損傷したりすると、光に対する反応がなくなったり、弱くなってしまったりします。これが「外傷性散瞳」で、明るいところにいると、まぶしさや見える像のぼやけといった症状が生じます。

外傷性散瞳に関する後遺障害等級の障害の程度・認定基準は、次に示した表の内容となります。

散瞳の障害と障害等級

等級 障害の程度・認定基準
両眼・第11級相当
単独眼・第12級相当
瞳孔の対光反射が著しく障害され、著明な羞明を訴え労働に支障を来たすもの
両眼第12級相当
単独眼第14級相当
瞳孔の対光反射は認められるが不十分であり、羞名を訴え労働に支障を来たすもの

参照ページ

散瞳(病的)とは、瞳孔の直径が開大して対光反応が消失または減弱するものをいい、羞明は「まぶしい」状態です。

流涙

目尻の側の上部で作られた涙液(なみだ)は、眼を潤したのち、目頭の上下にある涙点から涙小管、涙嚢、鼻涙管を通って鼻腔へ排出されます。このなみだの通る経路を「涙道」といいます。

目頭を深く切ったり、鼻涙管周辺を骨折したりすると、涙道が断裂してしまい、なみだを適切に排出することができなくなります。この結果、排出されない涙が眼からあふれてしまうのが「流涙」です。

なみだは眼球を潤すとともに清浄に保つ作用があるものですが、正常な排出ができなくなることにより、清浄化作用も正常に働かなくなり、結膜炎などの炎症が生じやすくなります。

なお、流涙の生じた眼に、同時に失明などの視力障害が生じた場合、視力障害のみが後遺障害認定の対象となります。

また、流涙は、鼻篩骨(びしこつ)を骨折した際にも生じるので、鼻の後遺障害が同時に残ることもあります。

流涙に関する後遺障害等級の障害の程度・認定基準は、次に示した表の内容となります。

流涙の障害と障害等級

等級 障害の程度・認定基準
両眼・第12級相当
単独眼・第14級相当
常時涙流を残すもの

参照ページ

眼の後遺障害の等級認定に向けた留意点について

ここまで眼に関する各後遺障害について見てきましたが、後遺障害の等級認定に向けた留意点をご説明します。

症状を放置せずに必ず病院を受診すること

眼の周りは、細かな筋肉や神経が集中している繊細な部分です。ケガからの回復のためには初期の治療が重要になることも多く、症状の放置が失明リスクにつながることもあります。事故後少しでも眼に異常がある場合、軽視せずに必ず眼科を受診しましょう。

また、頭部の外傷から眼の障害が生じることもあります。頭を打った場合には、救急隊などに申告し、脳神経外科を受診しましょう。

事故から時間が経ってから眼の障害が判明すると、予後が不良になるばかりでなく、後遺障害の認定の点でも、事故との因果関係が否定されるなどの不利益を生じることがあります。

後遺障害認定のため必要な検査を全て受けること

眼の後遺障害は、症状ごとに等級が細分化されており、それぞれの等級によって、認定のために必要な検査が異なります。

1つのケガが複数の等級に該当することもあるので、後遺障害に該当しうる症状については、すべて検査を受けましょう。必要な検査を受けきれているかなど、眼の後遺障害について不安がある場合には、後遺障害申請を行う前に弁護士に相談してみましょう。

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この記事の監修

交通事故の被害者の方は、ただでさえケガの痛みで苦しい思いをされているなかで、初めての諸手続きの大変さや先の見通しの不安を抱えて生活されています。弁護士は医者と違い、ケガの痛みを癒すことはできませんが、不安を取り除くともに、適正な賠償を受ける手助けをできれば幸いです。

弁護士三浦 知草

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