下大静脈内に血栓移動防止用のフィルター残存を理由とする、公刊されている裁判例等においては判断された例のない後遺障害が認定された事案
- 公開日:
- 2023年4月18日
- 最終更新日:
- 2023年4月26日
紛争処理センター後遺障害
- 担当弁護士
- 今井 浩統
N.Uさん・30歳代・会社員
- 受傷部位
- 下肢
- 後遺障害等級
- 併合13級
- 傷病名
- 左大腿骨頸部・骨幹部骨折
顔面挫創
- 解決方法
- 紛争処理センター
- 弁護士費用特約
- なし
- 取得金額
- 約780万円
ご依頼者の事故発生状況
- 事故態様
- (加害者)自動車/自動二輪(被害者)
ご依頼者のN.Uさんは、二輪車で交差点を直進中、右折してきた自動車と衝突。ノーブレーキで追突された事故のため、車両は大きく損傷しました。
この事故により、N.Uさんは左大腿骨頸部・骨幹部骨折、顔面挫創により、半年以上もの間仕事ができなくなりました。
治療終了時点において、下大静脈内に血栓移動防止用のフィルターを残置していましたが、当該フィルターの除去手術をすることができないため、後遺障害13級が認定されました。
解決に向けた弁護士の活動内容
ご依頼者のN.Uさんは、およそ1年半の間、弁護士に依頼することなくご自身で交渉を行っていましたが、治療が終了して賠償金の額を交渉する段階にきたこと、これまでの交渉経緯で保険会社担当者の対応に強い不信感を持っていたことから、当事務所に相談に来られました。
ご依頼いただいた後の交渉において、相手方保険会社は自社の主張を中々譲らないという姿勢で、過失割合と逸失利益が争点となり、紛争処理センターのあっせん手続きを利用することにしました。
過失割合について本件は、直進する二輪車と右折する自動車との事故ですので、通常であればN.Uさんの過失割合は15%となるものでした。
しかし、相手方保険会社はN.Uさんが交差点に進入する直前に信号の色が変わり、交差点侵入時には黄色になっていたと主張をしておりました。この場合、N.Uさんの過失割合は原則的に60%となってしまいます。
本件事故現場は丁字路と十字路の交差点が連なったもので、どこまでを一体の交差点とするかにより、N.Uさんが交差点侵入時における信号機の色が異なる可能性がありましたので、交差点の範囲と信号機の色が変わったタイミングが争点となっていました。
関係各所に足を運び、資料等を取り寄せ、信号機のサイクル表等と当事者の主張を照らし合わせ、詳細な主張を重ねた結果、2つの交差点を一体のものとして見るべきという当方の主張と、N.Uさんが交差点に進入する時点における信号機の色は青色であったという当方の主張が全面的に認められる形となりました。
しかし、交差点を一体とみることで、交差点の侵入地点から衝突地点までの距離が長くなってしまうので、注意義務の内容等を一部修正し、過失割合を30%として合意するに至りました。
逸失利益について、後遺障害13級という等級は交通事故実務上、あまり認定されることがない等級で、その中でもフィルター残存というケースは極めて稀なものでした。
当方及び相手方保険会社、相手方保険会社の顧問弁護士、紛争処理センターの嘱託弁護士が調査を尽くしましたが、これについて判断したという裁判例を見つけることはできませんでした。
相手方保険会社は、フィルター残存につき、業務等への直接的な影響がないことを主張し、喪失率5%、喪失期間5年を主張しておりました。
N.Uさんは現場仕事をされている方でしたので、当方はフィルター残存により、業務中の接触に対する配慮の必要性、衝撃等を受けてしまった時のリスク、治療制限等を主張し、喪失率9%、喪失期間34年を主張しておりました。
最終的には、紛争処理センターで扱われていた過去の和解例を参考に、喪失率9%、喪失期間20年という内容で合意するに至りました。
弁護士による事例総括
本件は、交通事故事件を日常的に取り扱っていた弁護士としても、初めて触れた症例であり、相手方保険会社の担当者もどのように対応すればよいか判断しかねているような事例であり、極めて専門的な判断を要する事例であったと思います。交通事故事件を扱うことの少ない弁護士では、双方当事者の主張や簡単な調査だけで、ご依頼者のN.Uさんの過失割合を60%とせざるを得ないと判断してしまう可能性すらあったと思います。
今振り返ると、日ごろから交通事故事件に多く触れているからこそ気づけた問題であり、そのような経験があったからこそ適切な調査をすることができたのではないかと感じています。
私のところへ相談に来られる方の中には、「大した事件じゃないから弁護士に依頼するのもどうかと思ったのですが、周りが勧めるからとりあえず来ました。」とおっしゃられる方がいます。本件においても、もし弁護士に相談していなければ、「既に600万円受け取っているから150万円ももらえるのであれば示談してもよいか。」と、示談される方もかなりいるのではないかと思います。
しかし、専門家が確認することで大きく内容が変わることもあります。適正な賠償額とは600万円以上も差があり、N.Uさんもこのような金額になるとは思っていなかったのではないかと思います。解決した後に見ると、「これだけ変わるのだから、相談に行くはずだよね。」と思われがちですが、いざご自身が交通事故に遭ってしまうと、弁護士へ相談することを躊躇してしまう方が多いように感じています。
当法人では、交通事故被害の法律相談を初回無料で行っております。交通事故に遭われてしまった場合には、話を聞きたいというだけでも構いませんので、一度相談に来ていただけたらと思います。