交通事故コラム

交通事故の過失割合の争いにおけるドライブレコーダーの有効性

交通事故の過失割合の争いにおけるドライブレコーダーの有効性

交通事故の被害に遭った時、特に自動車同士の事故では過失割合が争いになることがあります。自動車が完全に止まっている状態で追突されたといったケースでは10対0となっても、交差点でお互いの自動車が動いているときの事故では、被害者であっても過失割合が生じ、どの程度の割合になるかで双方の意見が食い違い、話し合いが滞ってしまいます。

近年ではドライブレコーダーが普及し、設置も手軽にできるようになったことから、万一に備えて搭載される方も年を追う毎に増えています。また、国土交通省でもドライブレコーダーの推進に向けた啓蒙活動が行われています。

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ここでは、交通事故被害に遭われた際の過失割合とドライブレコーダーの有効性について解説します。

この記事の内容

交通事故の過失割合はどのようにして決まるのか?

過失割合とは、損害の発生についてのお互いの責任の程度を割合で表したものです。

交通事故の被害者が、加害者に対して請求できるのは、全損害額からご自身の過失割合分の損害額を差し引いた金額になります。これを過失相殺といい、民法722条2項に定められています。過失相殺の趣旨は、被害者と加害者とで損害を公平に分担することです。

ふだん「過失」という言葉を耳にするのは「業務上過失致死傷」といった刑事事件関係のニュースなどが多いですが、「過失割合」「過失相殺」は民事上の概念で、「被害者が悪いことをした」という意味ではありません。

では、過失割合はどのように決まるのでしょうか?

過失割合を決める際、一般的に使われるのは「別冊判例タイムズ38 民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」という本です。通称「緑本」とも呼ばれます。

この本では、代表的な事故の態様について、過失割合が定められています。事故態様ごとに「基本割合」が図で示され、さらにそれぞれの図ごとに割合を上下させる「修正要素」が設けられています。

例として、直進車・右折車がともに青信号で交差点に入って衝突した事故の場合、基本割合は直進車:右折車=20:80です。例えば、右折車がウインカーを出さずに右折してきた場合には、「合図なし」の修正要素が適用され、最終的な過失割合は直進車:右折車=10:90となります。

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もちろん、実際の過失割合は、1つひとつの事故の事情を見て判断することになりますが、保険会社や裁判所なども、基本的にはこの緑本に沿って過失割合を決めています。

被害者・加害者が、同じような事故の態様を記憶していれば、どの図に則って過失割合を決めるか問題は少ないですが、記憶の食い違いが出ることはよくあります。

重いケガで損害額が大きいケースでは、過失が5%動くだけで100万円単位の金額差が生じることもあり、過失割合の上下は看過できない問題です。

ドライブレコーダーの映像は過失割合において証拠となるのか?

ドライブレコーダー映像の提出は任意であり、相手方が開示を拒否する場合に強制することはできません。もっとも、データを保管している相手方保険会社も、客観的な映像から過失を確定することに役立つため、ドライブレコーダーの開示には応じてくれることが多いです。

また、事故の捜査を行った警察が、ドライブレコーダーのデータを取得していることもあります。起訴処分となった事件であれば、被害者から刑事記録の開示を請求することで、ドライブレコーダーの映像や静止画像を見られる場合もあります。

裁判所の命令があった場合は映像を提出しなければならない

民事訴訟の中で、裁判所が「文書提出命令」を出して、ドライブレコーダーのデータ提出を命じた場合には、映像を提供しなければなりません。当事者が文書提出命令に従わない場合には、裁判所はドライブレコーダー映像について、もう一方の当事者の主張が真実だと認める認定ができます。また、第三者が従わないときは、20万円以下の過料という制裁がなされます。

映像提出がご自身にとって過失割合が不利となることもある

ドライブレコーダー映像は客観的な証拠です。そのため、当事者の主張と映像が食い違う場合、映像の方が正しいという認定がされやすいといえます。ご自身の主張よりも不利な事故の態様が録画されていた場合、映像を提出することで、自身に不利な過失割合が認定されることもあります。

どのような場面でドライブレコーダーは有効になるか

交通事故は、突発的で、しかも一瞬の出来事なので、事故時の細かな状況がわからない場合があります。また、事故で頭に外傷を負ったり、意識を失った場合、そもそも事故時の記憶がないこともあり得ます。

また、ご自身は事故時の状況をはっきり覚えているのに、相手方の話と食い違うといったことも起こり得ます。

このような場合、事故時の状況が客観的に記録されているドライブレコーダーの映像が、重要な証拠になります。

まず、ドライブレコーダー映像があることで、過失割合について合意でき、速やかに示談できるというメリットがあります。

当法人で実際に扱った事例でも、当初、加害者の認識している事故状況が、ご依頼者の認識している状況と食い違い、依頼者に20%の過失があるとの主張をされたことがあります。この件では、ご依頼者の車両のドライブレコーダーが、事故時の映像を記録していました。相手方保険会社に映像を提供したところ、ご依頼者の言う事故態様が正しいと認めてもらえ、早期に過失0%での示談ができました。

また、民事裁判の証拠としてドライブレコーダー映像を活用することもあります。ドライブレコーダー映像が、被害者の主張に合致すれば、主張が正しいと認定してもらえる可能性が高まります。また、例えば刑事記録上の供述調書の内容とドライブレコーダー映像が整合すると主張することで、証拠同士で補強し合うといった活用方法もあります。

ドライブレコーダーの解像度には注意が必要

ドライブレコーダーの普及により、機種性能も多様化して近年のモデルは解像度もあがり、鮮明に記録がとれるようになりましたが、古い機種では低解像度で記録データが粗く、事故の状況がわかりにくいこともあります。

特に古い機種のドライブレコーダーを搭載しているときは、映像の解像度をきちんと確認しておくとよいでしょう。

低解像度の映像では、証拠としての価値が低下するため、ドライブレコーダーの解像度に問題がないか事前に確認しておきましょう。

また、データの状態によっては、交通事故鑑定の専門家による映像鮮明化処理を行える場合もあります。弁護士の調査の一環として行う場合、自動車保険附帯の弁護士特約を使って、自己負担なしで鑑定できるケースもあります。映像が不鮮明な場合でも、データをすぐ消去せずに保管しておきましょう。

データの上書きや消去、電源オフにも注意する

せっかく事故時の映像が録画されていても、「事故から時間が経って上書きされてしまった」「データが消えてしまった」ということがしばしば起こります。事故時のデータは他のデバイスにコピーするなどし、保全しておきましょう。

また、レコーダーの電源が入っていなかったり、バッテリーが切れていたりして、事故時の録画がされていなかったという例もあります。

万一の事故に備えて、日ごろから車両とともにドライブレコーダーのメンテナンスもしておきましょう。

ドライブレコーダーが最も役立つ場面について

ドライブレコーダーがあることで役に立つのは、どのような場面においてでしょうか。ここでは具体的な例をご紹介します。

加害者の特定に繋がる

本来あってはならないことですが、轢き逃げ・当て逃げで加害者がわからない場合があります。このようなときに、ドライブレコーダーの映像から、逃走の方向や車両ナンバーを割り出すことができ、加害者の判明につながることがあります。

警察が、被害者の車両だけでなく、目撃者車両のドライブレコーダーを解析し、犯人を特定することもあります。

事故態様の早期解明に繋がる

基本割合の早期確定

事故態様について、被害者・加害者の言い分が食い違う場合、そもそも冒頭でご紹介した緑本のどの図が当てはまる事故かが確定できず、示談交渉が膠着してしまうことがあります。

特に次のようなケースでは、ドライブレコーダーの記録の有無が、事故解明のポイントになる可能性もあります。

  • お互いに「相手の方の信号が赤だった」と主張している
  • お互いに、相手が中央線を越えて反対車線にはみ出してきた(センターラインオーバー)と主張している
  • お互いに自車は停止していて相手がぶつかってきたと主張している

これらはいずれも0:100の事故のため、どちらの言い分が正しいかを確定しないと、被害者に損害賠償がなされないことになります。裁判で尋問をして決着するような方法では、当座必要な治療費や休業損害が受け取れず困難な状況になりかねません。

このような場合に、ドライブレコーダーに映像が残っていれば、どちらの言い分が正しいかがわかり、早期に損害賠償を受けることにつながります。

また、当事者が死亡・意識不明で事故時の状況を証言することができないときにも、ドライブレコーダー映像が事故状況の証拠になります。

修正要素の確定に役立つ

事故状況の大枠に争いはないものの、修正要素となる細かな点が食い違うという場合があります。次に掲げた点には注意が必要です。

  • 右左折や車線変更時に適切にウインカー(合図)を出したか
  • 徐行したか
  • 一時停止したか
  • 先に交差点に進入していたか
  • 歩行者のふらふら歩きがなかったか

これらの要素は、5~20%程度過失割合を上下させるものです。しかし、事故は一瞬の出来事であり、しかも当事者は突然のことに動揺していることも多いため、互いにこれらの要素を記憶していないこともままあります。

このようなときに、ドライブレコーダーの映像があると、修正要素の確定に役立ちます。

スピード超過の程度を知るのに役立つ

修正要素の代表的な例として、速度超過があります。基本割合によりますが、制限速度15㎞超過で5~10%、30㎞超過で10~20%の修正が加わります。

このように、スピードは、過失割合を決めるうえで大きな要素です。しかし、速さの感覚は人によってかなり開きがあり、「相手の車はだいぶスピードが出ていたと思う」というだけでは、速度超過の修正をすることは困難です。

ドライブレコーダーの種類によっては、映像とともにスピード(瞬間時速)を表示してくれるものがあります。また、スピードの表示がない場合でも、コマ送りにした画像を解析することで、スピードを割り出すことができます。

スピードについても、交通事故鑑定の専門家による解析を行える場合があります。弁護士の調査の一環として行う場合、自動車保険附帯の弁護士特約で、鑑定費用を支払ってもらえることもあります。スピード解析などのドライブレコーダー分析をご希望されている際には、一度弁護士にご相談されるとよいでしょう。

万一に備えてドライブレコーダーを搭載することでトラブルを避ける

ドライブレコーダーの普及により、交通事故被害に遭われた際は映像記録が有効となる場面もあるため、万一に備えてドライブレコーダーを搭載することが身を守ることにもつながります。

冒頭でもお伝えしましたが、国土交通省の調査でもドライブレコーダーの搭載数は年々増えていることからも、そのように考える方が増えていると考えられます。

交通事故被害に遭い、過失割合で揉めているときは、交通事故被害に詳しい弁護士に相談し、どのように進めるべきか検討されるのもよいでしょう。

交通事故被害による示談交渉は弁護士にご相談ください

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この記事の監修

交通事故の被害者の方は、ただでさえケガの痛みで苦しい思いをされているなかで、初めての諸手続きの大変さや先の見通しの不安を抱えて生活されています。弁護士は医者と違い、ケガの痛みを癒すことはできませんが、不安を取り除くともに、適正な賠償を受ける手助けをできれば幸いです。

弁護士三浦 知草

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