交通事故の入院治療で当面の生活費に不安があるときの対応について
calendar_today公開日:
event_repeat最終更新日:2023年06月19日
交通事故被害におけるケガの治療について
交通事故被害に遭い、事故で負ったケガの程度が重く、入院して治療しなければならないとき、多くの被害者にとって、ケガの完治までどの程度時間がかかるのか、強い不安を感じると思います。
入院となれば、お仕事をお休みして治療に当たる必要があり、当面の生活費など、被害者によっては経済面での心配もでてきます。
当面の生活費に関する賠償、ケガの治癒・症状固定後に相手方保険会社と交渉することになるため、本来はすぐ受け取ることができません。
こうしたケースで当面の生活費など、経済的な不安を解消するにはどのような方法があるのかについて解説します。
- この記事の内容
自賠責保険の仮渡金制度を利用する
当座の生活のためのお金が急ぎで必要な場合には、自賠責保険の仮渡金制度を利用することができます。
仮渡金制度とは何か?
仮渡金制度は、被害者の当座の費用を賄うために、加害車両の自賠責保険に仮に保険金を請求できる制度です。
必要書類は、自賠責保険所定の仮渡金支払請求書・事故発生状況報告書の他、交通事故証明書・医師の診断書・印鑑証明書などです。
仮渡金は、申請から1週間程度の短期間で支払われます。
仮渡金請求で受け取れる金額について
仮渡金の金額は、ケガの程度によって異なります。
入院が必要なケガの場合、負傷内容や入院が必要とされる日数によって、40万円または20万円の仮渡金が受け取れます。
具体的なケガの内容と仮渡金の金額は以下のとおりです。
- 仮渡金の金額:40万円
- 脊柱の骨折で脊髄を損傷したと認められる症状を有するもの
- 上腕又は前腕の骨折で合併症を有するもの
- 大腿又は下腿の骨折
- 内臓の破裂で腹膜炎を併発したもの
- 14日以上病院に入院することを要する傷害で、医師の治療を要する期間が30日以上のもの
- 仮渡金の金額:20万円
- 脊柱の骨折
- 上腕又は前腕の骨折
- 内臓の破裂
- 病院に入院することを要する傷害で、医師の治療を要する期間が30日以上のもの
- 4日以上病院に入院することを要する傷害
- 仮渡金の金額:5万円
- 11日以上医師の治療を要する傷害(上記のものを除く)を受けた者
仮渡金制度を利用する場合の注意点
仮渡金は、保険金の一部の前払いという位置付けであり、最終的な賠償金を確定する際に、一緒に清算されることになります。そのため、被害者の過失が大きく、賠償金額が仮渡金よりも少ないことが判明した場合には、差額分の仮渡金を返金する必要があります。また、最終的に加害者とされた当事者の過失が0%だった場合には、仮渡金全額を返金しなければなりません。
また、仮渡金請求の時効は、事故日から3年であり、期限を過ぎると請求が行えなくなる点にもご留意ください。
相手方保険会社が内払い対応をしているか確認する
交通事故でケガをした場合、相手方保険会社が治療費を直接病院に支払う「一括払い対応」をとってくれることが一般的です。それに加えて、重傷で長期の休業が必要となるような場合、相手方保険会社から賠償金の一部を先払いしてもらう、いわゆる「内払い」を受けることがあります。
内払いの対象となる費目
内払いを受けやすい費目としては、次のようなものがあります。
- 立て替え払いした分の治療費
- 入院中の休業損害
- 病衣代、おむつ代などの入院雑費
- コルセットや歩行器などの装具・器具代
立替費用については金額のわかる明細書・領収書、休業損害については、お勤め先の作成する休業損害証明書と源泉徴収票を提出して内払いを依頼します。
また、ケガの程度や過失割合によっては、慰謝料の一部先払いなどの対応をしてもらえる場合もあります。
内払いを受ける際の注意点
ここでは、内払いを受ける際の注意点をご説明します。
- 内払いは保険会社の義務ではない
内払いは、特別な申請手続きも必要なく、被害者にとって利用しやすいものではあります。しかし、内払いは、保険会社の義務ではありません。あくまでサービスとして賠償金の一部を先払いしているにすぎず、内払いをいつまで続けてもらえるかは保険会社次第です。そのため、生活維持に必要なお金を内払いに依存すると、被害者は非常に不安定な立場に置かれることになります。
被害者としては、後で説明するような健康保険や労災保険などの公的制度の他、ご自身で加入している保険を活用して、内払いに頼りすぎないようにすることが大切です。
- 内払いを継続してほしい場合には、費用を圧縮すること
保険会社が内払いするかどうかを決定する際には、治療費なども含め、被害者への総支払額がいくらになるかを計算しています。また、保険会社は、120万円を上限に、被害者への支払い分を自賠責保険から回収できますので、この枠内に賠償額が収まる見込みが立つ場合には、比較的内払いに応じてくれやすくなります。
ご自身の健康保険や労災保険を利用して治療費を圧縮することで、保険会社が負担する金額が減る結果、保険会社が内払いをしてもよいと考える金額が増え、支払いに応じてもらいやすくなります。
ご自身の人身傷害保険を利用できないか確認する
ご自身が事故に遭われた場合、ご自身が加入している人身傷害保険を利用できないかを確認しましょう。
人身傷害保険は、保険契約の対象となっている車両に乗っているときに事故に遭った場合、その車両の搭乗者のケガや後遺障害に対して支払われる保険です。治療費や休業損害が支払われる他、契約に定められた基準に従って慰謝料なども受け取れます。
その保険をかけている車両以外の車両に乗っているときに起きた事故や、歩行中や自転車運転中に自動車事故に遭った際にも利用できる場合があります。ご自身の保険の具体的な適用範囲については、保険会社の担当者に問い合わせてみましょう。また、ご家族加入の自動車保険についている人身傷害保険が使えることもあります。ご自身加入の保険に人身傷害保険がない場合には、併せてご家族の保険も確認してみましょう。
なお、人身傷害保険と同じくご自身のケガに使える保険として、搭乗者傷害保険があります。搭乗者傷害保険は、具体的なケガの程度や傷病名によらず、一定額が給付される保険になります。実際に生じた損害額を算定して補償を行うわけではないので、金額は人身傷害保険よりも少なくなることが多い一方、支払いは早期に行われます。
人身傷害保険を利用するメリット
ここでは、人身傷害保険を利用するメリットについてご説明します。
- 示談を待たずに受け取れる
ご自身の保険ですので、相手方との示談を待たずに保険金を受け取ることができます。人身傷害保険から、治療費の一括払い対応や休業損害の補償も受けられるため、安心して治療を行うことができます。
加害者から、被害者の側の過失の方が大きいことを主張されているような場合、相手方保険会社の一括払い対応を受けることはできず、治療終了後に民事裁判を行って損害賠償請求をしなければなりません。人身傷害保険を利用することで、裁判で損害額や過失割合が確定するまでの間、被害者の生活を守ることにつながります。
- 過失割合に関係なく補償を受けることができる
人身傷害保険では、ご自身の過失割合に関わらず、契約で定められた基準に従って算定された保険金を受け取ることができます(危険運転や酒酔い運転など故意・重過失の場合は除きます)。
被害者にも過失がある事故の場合、先に人身傷害保険を受け取る方が、加害者の保険会社のみに請求を行うよりも、受け取れる総額が増えることがあります。相手方の保険も利用できる場合に、人身傷害保険を利用すべきかどうかは事案により異なりますので、ご利用を迷われている方は、一度弁護士に相談してみましょう。
ご自身の健康保険を活用すること
ご自身の健康保険(社会保険・国民健康保険)を利用することで、入院中の費用を賄うことも、生活を守る方法の1つです。ここでは、健康保険を利用するメリットなどについてご説明します。
交通事故でも健康保険は利用できる
ときどき病院の窓口などで「交通事故には健康保険は使えません。」と誤った説明がなされることがあります。しかし、交通事故の場合でも「第三者行為による傷病届」を提出することで、健康保険が問題なく利用できます。
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社会保険に加入している場合、傷病手当金を申請できる
社会保険に加入している人がケガで休業した場合、ご加入の健康保険組合に「傷病手当金」を請求できます。
傷病手当金は、病気やケガにより働くことができない期間が3日以上続く場合に支給されるお金です。給与額の3分の2の金額を、休業4日目以降分から受け取ることができます。
傷病手当金は、相手方との交渉状況に左右されずに申請できるため、生活保障として役割を果たします。
なお、最終的な賠償額確定の際には、加害者(相手方保険会社)が支払うべき休業損害から傷病手当金の金額が差し引かれて調整されます。
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健康保険を利用して治療費を減らせる
保険会社が治療費の一括払い対応をする場合には、治療は自由診療とされるのは一般的です。自由診療は健康保険を利用した保険診療よりも高額になり、保険会社が負担する金額も大きくなります。そのため、内払いに回してもらえる金額をより多く確保するためにも、健康保険を利用することが有効です。保険会社の担当者から、健康保険を利用してほしいと頼まれる場合もありますので、その場合には利用に応じるようにしましょう。
健康保険を利用することのデメリットはあるか?
健康保険を利用する法的なデメリットは特にありません。
事実上のデメリットとしては、健康保険を利用する場合、多くの病院では保険会社からの直接の治療費支払いを受け付けてもらえないという点があります。健康保険を利用する場合、ご自身でいったん自己負担額の立替払いをし、保険会社からご自身の指定口座に立替分を振り込んでもらうという手順を踏む必要があります。
こうした手間がかかるというデメリットはありますが、被害者にとって、健康保険を利用することの利益は大きく、通常デメリットを上回るといえます。
労災保険を活用すること
業務中や通勤中に交通事故に遭ってケガをした場合、労災保険を利用しましょう。
労災保険からは、治療費、休業補償、介護の補償、障害補償などが支払われます。
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ここでは、入院治療をする場合に申請を行うことの多い休業(補償)給付と療養(補償)給付についてご説明します。
労災の休業(補償)給付について
業務中・通勤中の交通事故でケガをして休業した場合、労災保険に「休業(補償)給付」を請求することができます。
傷病手当金と同じく、病気やケガにより働くことができない期間が3日以上続く場合に、休業4日目以降分から補償を受けることができます。
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労災保険からは、休業補償給付・休業給付として給与の60%分、休業特別支給金として給与の20%分の計80%分の補償が受け取れます。このうち、休業補償給付・休業給付(60%分)は、最終的に加害者(相手方保険会社)が支払うべき休業損害と調整されますが、休業特別支給金(20%)分は、差し引きの対象となりません。そのため、労災保険の申請をした方が、受け取れる休業損害の合計金額は多くなります。
療養(補償)給付について
労災保険を利用する場合、治療費は労災保険からの「療養(補償)給付」として直接病院に支払われます。また、ご自身で治療費の立替をした場合には、労災保険に「療養の費用の請求」ができ、立替分の保険金を受け取ることができます。
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労災保険を利用することで、治療費の負担がなくなるとともに、保険会社からの治療費の打ち切りを気にすることなく治療に専念することができます。また、労災保険が支払った分の治療費は、最終的に労働基準監督署から保険会社に請求される(求償される)ことになりますが、その場合の治療費は、通常自由診療よりも低額になります。そのため、保険会社の側から、労災保険を利用してほしいと頼まれることがあります。この場合には、内払いを受けやすくなる点も含め、労災保険を利用するメリットが大きいので、利用に応じるようにしましょう。
労災保険適用事故の注意点
労災保険が適用されるケガの場合、健康保険を利用することはできません。本来労災となるべきケガに健康保険を使ってしまった場合には、労災保険への切り替え手続きを行う必要があります。病院によっては、いったん治療費の全額(10割分)を被害者が立替払いした上で、その分の治療費を労災保険に請求するという手順を踏まなくてはなりません。
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業務中・通勤中に事故に遭った場合には、健康保険証を出す前に、労災保険が使えないかを勤務先に確認するようにしましょう。
相手方の保険が使えない場合の対応について
多くの事故では、被害者のケガには、相手方の加入している保険が使えますが、被害者の過失の方が大きいと主張される場合や、そもそも相手方が保険に加入していない場合には、入院中の治療費や生活費を確保するための方法を考えなければなりません。ここでは、相手方の保険が使えない場合の対応を説明します。
ご自身の保険が使えないかを確認する
まずは、ご自身やご家族の入っている保険の中に、事故でのケガに適用されるものはないかを確認しましょう。すでに説明した人身傷害保険や搭乗者傷害保険、公的な労災保険や健康保険の他、傷害保険、ケガの補償のある医療保険などはないでしょうか。また、一見交通事故と関係のない保険の特約として、補償が付帯していることもあります。
事故により生じた損害は、最終的には民事裁判やADRなどの手段で加害者(あれば加害者の保険会社)に請求することになります。しかし、裁判を行うためには、基本的には治療をすべて終え、損害が確定していることが必要です。また、裁判自体にも、短くとも数か月以上の時間がかかります。ご自身で使える保険を利用して、損害確定までの生活を守りましょう。
加害車両の自賠責保険を使う
加害車両の自賠責保険が有効であれば、自賠責保険への被害者請求を行います。これを仮渡金請求と比較して「本請求」ともいいます。
自賠責保険には、ケガの場合には120万円、後遺障害の場合には等級に応じて、保険金の上限額が設定されています。入院が必要な重いケガの場合、この自賠責保険の上限を超える損害が発生することが多いです。自賠責保険の枠を有効に利用するために、労災保険や健康保険を利用し、治療費など自賠責保険が支払う金額を抑えることで、実際に手元に入る保険金額を確保するようにしましょう。
その他の場合について
相手方の自賠責保険が有効期限切れで任意保険のみ加入の状態の場合、自賠責保険分を超えた金額のみを保険会社に請求できます。
相手方が完全に無保険の場合、ひき逃げなどで相手方が不明の場合には、政府補償事業制度を利用して最低限の補償を受けるといった方法が取れます。
相手方保険会社の一括払い対応を受けられない事故の場合、ご自身だけで対応するのは大変なケースが多いので、一度弁護士に相談してみましょう。
入院治療で保険会社との交渉や手続きでお困りなら一度弁護士に相談する
ここまで交通事故被害に遭い、入院を要するケガを負われ、生活費の不安を抱えている方に向けて、その対応方法について解説してきました。
自賠責保険の仮渡金制度をはじめ、当面の生活費に不安を抱えず済むような仕組みがある反面、ケガの状態によってはご本人でこうした手続きを行うことが難しいこともあります。
ご親族の方による代行が難しければ、弁護士に依頼をすることで仮渡金制度の手続き対応を行うこともできるため、交通事故被害による生活費や手続きに不安があれば、一度弁護士にご相談されるとよいでしょう。
ケガの状況からご本人から直接ご連絡いただくことが難しい場合は、ご親族の方からのご相談もお受けしていますので、お悩みを抱える前にお問い合わせください。
交通事故被害による示談交渉は弁護士にご相談ください
この記事の監修
交通事故の被害者の方は、ただでさえケガの痛みで苦しい思いをされているなかで、初めての諸手続きの大変さや先の見通しの不安を抱えて生活されています。弁護士は医者と違い、ケガの痛みを癒すことはできませんが、不安を取り除くともに、適正な賠償を受ける手助けをできれば幸いです。
弁護士三浦 知草
-
上野法律事務所
- 東京弁護士会
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