交通事故被害の基礎知識

交通事故における手指の後遺障害

交通事故における手指の後遺障害

手指の後遺障害は、大きく欠損障害・機能障害に分かれており、「障害内容」と「障害の残った指との組み合わせ」によって、様々な後遺障害等級が定められています。

手指の後遺障害では親指の機能を重視しているため、後遺障害等級表は、障害が発生した指の本数と、どの指に障害が発生しているかによって、複数の等級を定めています。

ここでは、手指に関する後遺障害の内容や等級について解説します。

この記事の内容

手の仕組みの概略

手指の構造を示したイメージイラスト

5本の手の指は、それぞれ母指(ぼし/親指)、示指(じし/人差し指)、中指(ちゅうし/なかゆび)、環指(かんし/薬指)、小指(しょうし/こゆび)と呼ばれます。

指の骨は、先端の方から順に、「末節骨」、「中節骨」、「基節骨」、「中手骨」といい、母指には中節骨がありません。中手骨の下には、「手根骨」があり、この部分が手首に当たります。

関節は、母指以外の4指については、先端から順に「遠位指節間関節(DIP関節)」、「近位指節間関節(PIP関節)」、「中手指節間関節(MP関節)」、母指では「指節間関節(IP関節)」、「中手指節間関節(MP関節)」といいます。

診断書やカルテなどでは、アルファベットの表記がなされていることも多いです。

手指の後遺障害について

交通事故では、転倒して手をついた際や、バイクや自転車のハンドルを握った状態で衝突した際に、手指を損傷することが多くあります。

手指に関する後遺障害ですが、手指の関節の可動域に制限が残ったり、動かなくなってしまった場合、いくつかの条件はありますが後遺障害として認定される可能性があります。

後遺障害の種類として、欠損障害、機能障害があり、ここではそれぞれの種類の内容について解説します。

手指の欠損障害

手指を欠損した場合、握る、摘まむ、押す、ねじるなどの日常動作に大きな支障を生じます。手指の欠損障害は、「手指を失ったもの(全部欠損)」と「手指の一部を失ったもの(一部欠損)」に大別され、それぞれについてさらに細かな等級が定められています。

手指を失ったもの

手指を失ったものの後遺障害は、失った指の場所・本数によって7等級が定められています。

後遺障害等級では、手の機能の半分近くを担う母指の欠損が最も重いとされています。また、小指の欠損は最も軽いとされていますが、小指がなくなると腕の力を十分に手に伝えることができなくなり、握る力が弱くなるため、日常生活への支障はやはり深刻です。

手指を失ったものの後遺障害等級と認定基準

等級 認定基準
第3級5号 両手の手指の全部を失ったもの
第6級8号 1手の5の手指又は親指を含み4の手指を失ったもの
第7級6号 1手の親指を含み3の手指を失ったもの又は親指以外の4の手指を失ったもの
第8級3号 1手の親指を含み2の手指を失ったもの又は親指以外の3の手指を失ったもの
第9級12号 1手の親指又は親指以外の2の手指を失ったもの
第11級8号 1手の人差し指、中指又は薬指を失ったもの
第12級9号 1手の小指を失ったもの

「手指を失ったもの」とは、母指は指節間関節、その他の手指は近位指節間関節以上を失った場合を指します。

具体的には以下の2つの場合です。

  • 手指を中手骨又は基節骨で切断したもの
  • 近位指節間関節(母指では指節間関節)において、基節骨と中節骨を離断したもの

なお、指の先端ではなく、中間部分の骨(基節骨や中手骨)が砕けて欠損してしまい、手術をした結果、指の長さが短縮した場合も、その短縮の程度に応じて欠損障害として扱われます。

手指の一部を失ったもの

「指骨の一部を失ったもの」とは、1指骨の一部を失っていることが、エックス線写真等の画像から確認できるものをいいます。完全に骨がなくなった場合だけでなく、骨が欠片の状態になって離れてしまう「遊離骨片」の状態を含みます。

また、後ほど説明する手指の用廃に該当する症状は、機能障害として扱い、手指の一部を失ったものには含みません。

手指の一部を失ったものの後遺障害等級と認定基準

等級 認定基準
第13級7号 1手の親指の指骨の一部を失ったもの
第14級6号 1手の親指以外の手指の指骨の一部を失ったもの

 

手指の機能障害

手指の骨折、脱臼、靭帯や伸筋腱・屈筋腱が損傷した場合、手指の動きを担う神経が損傷した場合には、手指の曲げ伸ばしができなくなるなどの機能障害が生じます。

手指の用を廃したもの

手指の機能を廃したもの(用廃)の後遺障害は、用廃した指の場所・本数によって7等級が定められています。

手指の機能障害の後遺障害等級と認定基準

等級 認定基準
第4級6号 両手の手指の全部の用を廃したもの
第7級7号 1手の5の手指または親指を含み4の手指の用を廃したもの
第8級4号 1手の親指を含み3の手指の用を廃したもの又は親指以外の4の手指の用を廃したもの
第9級13号 1手の親指を含み2の手指の用を廃したもの又は親指以外の3の手指の用を廃したもの
第10級7号 1手の親指又は親指以外の2の手指の用を廃したもの
第12級10号 1手の人差し指、中指又は薬指の用を廃したもの
第13級6号 1手の小指の用を廃したもの

「手指の用を廃したもの」とは、手指の末節骨の半分以上を失い、または、中手指節関節もしくは近位指節間関節(母指にあっては指節間関節)に著しい運動障害を残すものを指します。

具体的には、以下のいずれかの場合です。

手指の末節骨の長さの1/2以上を失ったもの

手指の一番先にある骨の長さの1/2以上を失った場合です。この要件に当てはまらない程度の指骨の欠損がある場合には、手指の一部を失ったものとして、先ほどご説明した第14級6号が認定されます。

中手指節関節又は近位指節間関節(母指にあっては指節間関節)の可動域が健側の可動域角度の1/2以下に制限されるもの

手指の可動域角度は、屈曲+伸展の角度で評価します。基本的には健側(ケガをしていない側)の指の可動域角度との比較をしますが、健側にも障害が生じているなど、比較対象として適切でない場合には、以下の参考可動域角度との比較を行います。

母指の運動方向と参考可動域角度

運動方向 参考可動域角度
屈曲(MP) 60
伸展(MP) 10
屈曲(IP) 80
伸展(IP)  10

母指以外の4指の運動方向と参考可動域角度

運動方向 参考可動域角度
屈曲(MCP) 90
伸展(MCP) 45
屈曲(PIP) 100
伸展(PIP)  0
屈曲(DIP) 80
伸展(DIP) 0
母指については、橈(とう)側外転又は掌側外転のいずれかが健側の1/2以下に制限されているもの

母指については、屈曲・伸展運動に加え、「橈側外転」、または、「掌側外転」についても、重要な動作であることから、可動域制限が定められています。ともに母指を示指から離す動きですが、「橈側外転」は、手のひらの面にそって、「掌側外転」は、手のひらと垂直方向に動かします。

母指の運動方向と参考可動域角度

運動方向 参考可動域角度
橈側外転 60
掌側外転 90
手指の末節の指腹部及び側部の深部感覚及び表在感覚が完全に脱失したもの

「表在感覚」とは、触覚や温度感覚などです。「深部感覚」は、自分の指がどのように動いているか(運動覚)、どこにあるか(位置覚)などです。表在感覚だけでなく、深部感覚まで消失したものを「感覚の完全脱失」といい、外傷によって感覚神経が断裂した場合に生じます。

この等級は、医学的に対象の指を支配する感覚神経が断裂し得ると判断しうるケガをした事実があり、かつ、感覚神経を皮膚の上から電気で刺激して波形を測定する「感覚神経伝導速度検査」を行い、感覚神経活動電位(SNAP)が検出されない場合に認定されます。

遠位指節間関節を屈伸することができないもの

小指については、一番先端の遠位指節間関節の機能障害について、さらに1等級が定められています。

手指の機能障害の後遺障害等級と認定基準

等級 認定基準
第14級7号 1手の親指以外の手指の遠位指節間関節を屈伸することができなくなったもの
a.遠位指節間関節が強直したもの
b.屈伸筋の損傷等原因が明らかなものであって、自動で屈伸ができないもの又はこれに近い状態にあるもの

aの「関節が強直したもの」とは、関節が完全強直した場合または、これに近い状態を指します。「完全強直」は、可動域0の状態で、「これに近い状態」は、可動域が健側の10%以下(または10度以下。いずれか大きい方で評価)になった状態です。

bは、強直はしていないものの、自分の力で関節の曲げ伸ばしができない状態です。屈伸筋の損傷などの原因が、画像で明らかになっていることが必要です。

手指における後遺障害の認定条件について

ここまで手指の欠損障害、機能障害について見てきましたが、これらの後遺障害が認められるためには、基本的にレントゲン、MRI、CTなどの画像から異常がわかること、すなわち「画像所見」が必要です。

画像所見がない場合、認められる可能性のある等級は、神経症状(痛み、しびれ)のみになります。

また、機能障害が認定されるためには、原則として他動運動での可動域制限があることが必要です。弛緩性マヒなど神経の損傷で自動運動ができない場合は除きます。

骨や筋肉などに問題がなく、「痛いので自分では動かせない」という状況にとどまる場合には、機能障害は認定されず、神経症状の等級獲得を目指すことになります。

手指の等級認定に向けた留意点について

ここまで見てきた手指の後遺障害の認定に向けて、留意すべき点をご説明します。

早期に画像を撮影すること

骨折や軟部組織(筋肉、靭帯など)の細かな損傷は、発生から時間がたつと、画像に写らなくなってしまうことがあります。また、画像で異常が見つかった場合でも、事故から時間が経つほど、事故と見つかった異常との因果関係が否定されてしまうリスクが高まります。

さらに、レントゲンでは発見できず、CTやMRIを撮影して初めて損傷が発見される場合もあります。

痛みが出た場合には、事故から時間が経たないうちに、CTやMRIでの画像撮影をするようにしましょう。

回復しない場合は速やかに専門医を受診すること

指のケガの場合、伸筋腱の断裂、剥離骨折、脱臼骨折などが見逃され、「突き指」との診断を受けることがあります。指に機能障害が残ると、被害者の方の生活に不便が生じることとなり、注意が必要です。

数週間経っても痛みが軽減しないような場合には、速やかに手の専門医を受診し、改めて検査を受けるようにしましょう。

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この記事の監修

交通事故の被害者の方は、ただでさえケガの痛みで苦しい思いをされているなかで、初めての諸手続きの大変さや先の見通しの不安を抱えて生活されています。弁護士は医者と違い、ケガの痛みを癒すことはできませんが、不安を取り除くともに、適正な賠償を受ける手助けをできれば幸いです。

弁護士三浦 知草

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