共有物分割請求について

代償分割(価格賠償)とは?そのメリット・デメリットについて

共有物分割請求を共有者のひとりから求められた場合、共有者全員で協議を行い、解決を図る必要がありますが、その方法のひとつとして「代償分割」があります。

代償分割は価格賠償とも呼ばれ、特定の共有者が他の共有者の持分を買い取る(代償金を支払う)ことで共有の解消を図る方法です。

他の共有者の持分を取得したい共有者が、他の共有者にそれぞれの持分を買い取ることを提案し、買い取り金額(代償金)などにつき双方が合意に至ることで共有を解消します。

ここでは、代償分割におけるメリット・デメリットについて解説します。

この記事の内容

代償分割(価格賠償)の種類

代償分割には「一部価格賠償」と「全面的価格賠償」の2種類あります。なお、代償分割と価格賠償は同じ意味になりますので、ここでは、この2つの方法について説明します。

一部価格賠償

共有物を現物分割した際、それぞれ同じ割合で分けたが、価値に差があるような場合、この差を金銭の支払いで調整し、解消させる方法です。

例えば、100坪の土地を50坪ずつに現物分割し、それぞれの共有者が各土地を取得しました。しかし、片方の土地は同じ坪数ながら、大型車両の通行が多く騒音が発生する道路に面し、なおかつ土地が北向きなので、日当たりも考慮すると、決して同じ価値とはいえないケースになります。そこで、現物分割に、この価値分の差額を支払う調整を加えるかたちで分割することを一部価格賠償といいます。

全面的価格賠償

共有者のひとりが単独で共有持分すべてを取得する代わりに、持分を手放す他の共有者は単独所有する共有者から代償金(対価)を受け取ることで、共有を解消する方法です。

この方法は一定の要件を満たす必要があります。

全面的価格賠償の要件について

全面的価格賠償による共有物分割は、次の要件を満たすことが必要になります。

共有物のすべてを特定の共有者が取得する相当な理由があること

「特定の共有者が取得する相当な理由」について、例えば取得希望の共有者がその不動産に居住し、生活している場合は、認められる可能性が非常に高いといえます。

また、親の事業を引き継ぎ、共有地で経営・運営しているようなケースもこれに相当するといえるでしょう。

すべての共有物を取得する共有者に、代償金を支払う能力があること

代償金の支払い能力については、共有分をすべて取得したい共有者の預金通帳のコピーもしくは残高証明書を提出することで証明することができます。

持分の価値を適正に評価し、共有者間に不公平が生じないこと

共有不動産を適正に評価することも必要になります。不明瞭な評価で代償分割を行ってしまうと、当事者間で不公平が生じてトラブルとなるため、代償分割が認められなくなります。

代償分割(価格賠償)のメリット

共有不動産をすべて取得したい共有者と、持分を現金化したい共有者それぞれの利害が一致する場合、代償分割で共有を解消することはよい方法といえます。

また、代償分割は、共有者全員が平等に近いかたちで共有解消ができ、共有不動産も残せるため、共有者ごとの経済的な不公平感が出にくいというメリットもあります。

特に、共有者のひとりが親の事業を継続させるために共有不動産を取得しておきたいときなど、他の共有者に親の事業の理解があれば、代償金の支払いをスムーズに受け入れてもらえる可能性も十分あるため、解決への道筋がつきやすいといえます。

不動産を売却せずに解決できる

共有不動産を売却せずに残したい意思を持っている共有者がいる場合、他の共有者から持分を買い取ることで不動産はそのまま維持することができますので、先に述べたように、自分が住んでいる不動産をそのまま自分のものにできたり、親の事業を引き継ぐために不動産を残すなど、不動産を残したい共有者の気持ちに寄り添った解消方法になり得ます。

なお、不動産を売却し、売却益が発生した場合、譲渡所得税がかかりますが、共有不動産を売却しなければ、このような税負担も発生しません。

代償分割(価格賠償)のデメリット

しかし、代償分割にもいくつかのデメリットがあります。

全面的価格賠償の要件でも触れましたが、共有不動産を取得したい共有者に代償金を用意する資力がないと、他の共有者の持分を買い取ることができず、代償分割での共有解消が難しくなります。この場合、他の方法で解消の協議を進めるか、代償分割にこだわるのであれば、代償金の分割支払いなど、他の共有者の同意を得られるよう協議を詰めていく必要があります。

よく問題になるのは、共有持分の買い取り金額(代償金)です。共有不動産を取得したい共有者は、代償金の支払いを少しでも低くしたいと考えます。

一方、共有持分の不動産を売却したい共有者は、少しでも高い代償金を受け取りたいと考えます。これではお互いの利害がぶつかり、トラブルになってしまいます。

また、共有不動産を取得したい共有者が査定を依頼した不動産会社の査定額と、売却したい共有者が査定を依頼した不動産会社の査定額に大きな差がある場合、どちらの査定額で進めるべきか、揉めてしまう可能性が高くなります。

ここまで揉めてしまうと、調停や訴訟では不動産鑑定士へ評価を依頼するか、弁護士などに相談をして解決を図るなど、専門家への相談が不可欠となりますので、早めに弁護士へ相談して対応してもらうことも検討してよいでしょう。

代償金の算定方法について

全面的価格賠償を行うには、共有不動産の評価が必須となります。この評価が適切に行われないと、代償金の算定にも不公平が生じるため、代償分割が認められないことになります。

なお、共有状態にある不動産は取り扱いが難しいことから、通常は評価が低くなる傾向にあります。しかし、共有状態が解消されると不動産は単独所有となりますので、代償分割を前提とする場合は、低評価を受けることなく算定されます。

共有者間での合意

共有者同士で協議を行い、全員が納得のいく評価で合意していれば、この評価を基準に代償金の金額を、それぞれの持分割合に応じて決定します。

不動産鑑定士による評価

共有者同士で共有不動産の評価に関する協議がまとまらず、合意が難しい場合には、調停や訴訟手続きでは、裁判所が当事者と関係がない不動産鑑定士を指定・選任し、中立的な立場から共有不動産の評価を行い、鑑定結果を裁判所に提出してもらいます。

裁判所による評価の決定

不動産鑑定士により提出された鑑定書をもとに、裁判所が代償金を定めます。実際には、鑑定結果と裁判所が決定した評価額は、ほぼ同じであまり変わらないことが多いです。

共有不動産に抵当権などの担保権が設定されている場合

もし、共有不動産に抵当権などが設定されている状態で代償分割が成立すると、担保権はどのようになるのでしょうか。この場合、不動産を単独取得する共有者が負担することになりますが、担保権の内容により単独取得した共有者が不公平とならないよう、代償金を調整・反映させることになります。

代償金の支払いについて

代償分割(価格賠償)は、不動産を単独取得した共有者が他の共有者に代償金を支払います。このとき、単独取得者が代償金の支払いを確実に履行してもらうため、支払い方法を確保しておくことが重要です。代償金が分割支払いとなっている場合は特に注意が必要です。

代償金の先行支払い

単独取得者は先行して他の共有者に代償金を支払い、完了後に共有不動産の単独取得手続きを行います。

支払い担保の取り決め

代償金の支払いを分割払いとした場合、単独所有者からの支払いが滞ることのないよう、抵当権を設定するなど支払いを担保しておくことで、滞納を防止します。

代償金の支払いと移転登記を同時に行う

協議の場合、単独取得したい共有者と、代償金を受け取る共有者、弁護士や司法書士などの関係者が全員で集まり、移転登記に必要な書類の内容を確認し、指定口座に代償金を振り込むなどの支払い方法を確認・共有します。代償金を受け取る共有者が着金の確認をした後、移転登記の手続きを行い、同時並行的に処理することで、代償金が未納にも関わらず移転登記だけが処理されるようなリスクを回避します。

代償金の支払い期限を設定する

代償金の支払い期限を明確にしておかないと、お互いの認識違いから揉めてしまうことがあります。支払い期限を定め、期限を過ぎると代償分割が不成立になるなどの取り決めを行います。

代償金の分割払いについて

代償金の支払いは一括払いが原則ですが、共有者間で分割払いの合意が取れていれば、その限りではありません。

ただし、代償金の分割払いは途中で支払いが滞る可能性もあり、リスクが伴います。単独所有者が自己破産した場合、代償金の回収ができなくなる恐れもあるため、代償金の分割払いは、さまざまな事態を想定した上で取り決める必要があるでしょう。

共有不動産の単独所有を希望する共有者に代償金を支払う資力がないと、代償金の分割払いの提案をした段階で、代償分割による解決に難色を示される可能性もあります。

訴訟に発展すると、資力がないことで代償分割による解決がより厳しくなるため、代償分割による共有不動産の単独所有を希望する共有者は、事前に弁護士へ相談し、代理人として間に入ってもらうなど、共有者全員の合意を得られるように動く必要があります。

代償分割(価格賠償)での共有解消を進めたいときは?

ここまで、代償分割の内容やその条件、メリット・デメリットについてお伝えしましたが、代償分割は単独所有したい共有者と持分を売却したい共有者の利害がぶつかり、さまざまなところでトラブルになる可能性もあります。

親の事業承継で共有者同士の理解が得られ、調整ができているケースでは、土地の代償金問題についても、経営や税務処理と関連して手続きを進めることで、トラブルに発展することはほとんどありませんが、共有者同士が疎遠だったり、関係がうまくいっていないときは注意が必要です。

熟年離婚後に共有不動産の解消を進めたいが、一方が不動産に居住しており、共有状態の解消に向けて話ができないようなケースも代償分割がテーマとなります。

代償分割での解消を推し進めたいが共有者間で不満がくすぶり、話し合いがスムーズに進まない場合は、早めに共有物分割請求に詳しい弁護士へ相談されることをおすすめします。

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この記事の監修

谷 靖介

Yasuyuki Tani

  • 代表弁護士
  • 東京法律事務所
  • 東京弁護士会所属

相続や熟年離婚に絡む共有物分割請求をはじめ、遺産分割協議や遺留分に関するトラブルなど、共有物分割請求や相続紛争問題を中心に、法律を通してご依頼者の方が「妥協のない」「後悔しない」解決を目指し、東京都を中心に活動を行っている。

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