相続トラブルの基礎知識
相続トラブルの基礎知識
相続人同士で相続について話し合う際に、どの程度相続財産があるのか、後々相続人間でトラブルにならないようきちんと把握しておくことが必要です。
ここでは、正確な相続財産の全貌把握から財産目録作成までの流れについてご紹介します。
遺産分割を始めるにあたって、そもそもどれだけの相続財産があるのかをしっかり把握しておくことが必要です。相続といえば、預貯金や不動産、証券、骨董品や絵画などの資産価値のある「プラスの財産」に注目しがちですが、借金などの「マイナスの財産」も相続財産となります。また、特許やマンションの賃貸人などの「地位」も相続の対象となります。相続財産の把握が疎かなままに遺産分割を行うと、後のトラブルを生みかねません。財産を誰がどう相続するのがベストかを適切に検討するためにも、財産調査はしっかり把握しておく必要があります。
相続財産はどのような種類に分類できるのかを確認しましょう。
①現金・預貯金
相続開始日現在での残高証明を銀行などに取り寄せします。口座の解約・引き出しには相続人全員の同意が必要とされており、実務上では相続人全員の代表者によって手続きを行うことが多いようです。
また、遺言書に遺言執行者が指定されているような場合は、遺言執行者が処分手続きを行うのが一般的です。銀行によって対応が異なり、相続人全員の同意書類が必要な場合もあります。なお、2019年7月1日より、相続人全員の同意がなくとも一部の引き出しが可能となる仮払い制度が施行されました。
②生命保険
生命保険は、受取人が「被相続人」となっている場合に相続財産となります。
③不動産
被相続人が所有していたことが判明している場合は、法務局で不動産登記簿謄本(不動産登記事項証明書)を、市役所で固定資産評価証明書を取り寄せます。
固定資産評価証明書とは、固定資産税を計算するために市区町村役場の資産税課などにある固定資産課税台帳の記載事項を証明した書類です。固定資産評価証明書を取り寄せる場合には「名寄せ」と呼ばれる、所有者である被相続人の氏名で照会をかけます。
登記手続きをしないかぎり、登記簿上の所有者は変更されません。そのため、遺言書や遺産分割協議書をもって特定の相続人による相続登記を行うか、相続人全員の共有で相続登記をします。
④債権
ゴルフ会員権や株券、他人への貸金債権、被相続人が交通事故で死亡した場合には、損害賠償請求権(遺族自身にも認められる請求権もあります)なども相続財産となります。
⑤動産
骨董品や絵画、自動車、バイクなども相続財産となります。お金に替えて分割したり、そのままの形で分けることも可能です。高価な動産はトラブルにもなりやすいため、遺産目録の作成の際には個別に記載する方がよいでしょう。
⑥祭祀財産
お墓や仏壇などは遺産分割の対象外ですが、これらを引き継ぐ「祭祀承継人」を決める必要があります。
⑦知的財産権
ソフトウェアや音楽、書籍などの著作権や、商品やサービスにおけるロゴなどの商標権は、相続の対象になります。
①債務
被相続人の個人的な借金や事業運営上の個人の保証債務などのことです。借金や保証債務は相続開始により、当然に相続分に応じて分割承継するとされています。また、被相続人が交通事故などの加害者で、被害者を死亡させた場合の損害賠償の義務もマイナスの財産として引き継がれます。
借金については、CICや日本信用情報機関などに照会をかけることができます。書式と照会にあたっての必要書類は各機関にお問い合わせください。また、口座の入出金履歴の引き落としなどから判明することもありますので、これらも確認する必要があります。
②遺贈
相続人や相続人以外への遺贈も消極財産となります。
①法的地位の承継
マンションや土地の貸主などの法的地位も原則として承継されます。
相続財産は丁寧に調べることが大切です。上記で述べたように、相続財産はプラスの財産とマイナスの財産、法的地位の承継などさまざまです。個人で行う場合には、各項目に記載したようにそれぞれの機関に一つひとつ問い合わせるなど、地道に行うしかありません。
弁護士に依頼することで手続きの手間が省けるほか、正確に相続財産の全貌を知ることができます。
それぞれの機関に照会をかける際に、何度も戸籍謄本を取得して提出するのは大変です。法定相続情報は、法務局に相続関係図、それを証明する戸籍謄本などを提出することで、登記官が相続関係図を無料で認証してくれる制度です。
不動産は、固定資産税評価額、路線価、国土交通省の地価公示、都道府県地価調査、不動産業による査定などの方法で評価をします。また、遺産分割協議や審判で相続人全員で合意が得られれば、その評価額となることもあります。
相続財産を調査して、マイナスの財産がプラスの財産を上回り、相続すると借金などの義務や負担を背負うような場合には、家庭裁判所に対して相続放棄をすることも検討しましょう。相続放棄には申し立て可能な期間が決められていますので、注意が必要です。
相続財産調査で判明した内容は、一覧化することで財産評価がしやすくなります。相続放棄の判断や相続税の申告の要否などの判断がしやすくなるため、財産目録を作成することをおすすめします。
財産目録の雛形については裁判所のホームページなどにも掲載されていますので、こちらを参考に作成することも検討してみてください。
相続財産調査でよくお受けするトラブルとして、次に挙げる事案があります。これらのトラブルも、弁護士が対応することで解決の糸口を見出せることがあります。
「生前、被相続人から確かに存在を聞いた相続財産がなくなっている」というご相談は少なくありません。預貯金の場合、何回かに分けて口座から移している場合もあります。こういったケースでは、口座の取引履歴を取り寄せるなどして細かく調べ、その証拠を明らかにしていく必要があります。また、財産の使い込みを疑われた場合は、その金額についての用途を説明し、必要に応じて寄与分などを主張していくことになります。
谷 靖介
Yasuyuki Tani
遺産分割協議や遺留分に関するトラブル、被相続人の預貯金使い込みや遺言内容の無効主張など、相続紛争問題を中心に、法律を通してご依頼者の方が「妥協のない」「後悔しない」解決を目指し、東京都を中心に活動を行っている。