離婚・不倫慰謝料の基礎知識

離婚に伴う慰謝料について

離婚に伴う慰謝料について

離婚の慰謝料というと、主に浮気・不倫の慰謝料を想像される方が多いと思います。たしかに浮気・不倫が原因で離婚となった場合、相手に慰謝料を請求できる可能性は高まりますが、離婚の慰謝料請求はこれだけではなく、いくつかのケースでも請求できる可能性があります。

ここでは、離婚における慰謝料請求できるケースや注意点、離婚慰謝料の相場などについて解説します。

この記事の内容

離婚の慰謝料は2種類ある

離婚に関する慰謝料は、「離婚原因による慰謝料」と「離婚そのものに対する慰謝料」の2つの種類があります。ここでは、それぞれの内容について説明します。

離婚原因による慰謝料

「不貞をしたこと」「暴力を振るったこと」といった、離婚の原因になる個々の違法な行為(不法行為)についての慰謝料です。

離婚のタイミングで配偶者に請求するケースが多いですが、必ずしも離婚と同時に請求しなければならないわけではありません。まだ婚姻関係は続いているが、不貞慰謝料を受け取るといったことも可能です。

また、不貞相手といった配偶者と一緒に違法な行為を行った相手がいる場合、配偶者とその相手は連帯して慰謝料を支払う責任を負います。

離婚そのものに対する慰謝料

配偶者のせいで離婚したことそれ自体についての慰謝料です。

配偶者の行った違法な行為(有責な行為)が原因となって離婚に至った場合に請求できます。

離婚そのものに対する慰謝料ですから、請求権が発生するのは離婚のタイミングです。

また、配偶者に対してのみ請求が可能であり、不貞相手等には原則として請求できません(最判平成31年2月19日。民集73・2・187)。

離婚で慰謝料を請求できるケースとは?

では、実際に離婚で慰謝料を請求できるケースはどのような事例があげられるでしょうか。ここではその主な内容についてご説明します。

配偶者の不貞行為(浮気・不倫)があった場合

配偶者の不貞行為が原因で離婚に至った場合、慰謝料請求ができます。

慰謝料額は、不貞の期間や回数によって上下します。

不貞を原因とする慰謝料が認められるためには、基本的には肉体関係があることが必要です。手をつないでいる、一緒に出かけているといった証拠のみでは慰謝料請求は難しいといえます。もっとも、肉体関係の証拠にプラスしてこれらの証拠を出すことで金額に影響を及ぼすことはあります。

配偶者を見捨てるような行為があった場合(悪意の遺棄)

夫婦として協力し合う義務・同居する義務・自分と同等レベルの生活をさせる義務(生活保持義務)に違反することを「悪意の遺棄」といいます。家族でありながら配偶者を見捨てて顧みない状態です。

具体的には、

  • 収入があるのに家計に生活費を入れない
  • 正当な理由もなく勝手に家を出て戻ってこない
  • 働ける能力はあるのに働かず、家事や育児にも協力しない

などが悪意の遺棄とされる可能性があります。

実際の裁判で認められている件数は、不貞や暴力に比べて少なく、悪意の遺棄を原因に慰謝料請求をする難易度は高めです。

暴力があった場合

配偶者から殴る・蹴るなどの暴力(身体的DV)を受けた場合も慰謝料請求ができます。

慰謝料額は、暴力の期間や頻度・回数、ケガの重さによって上下します。

その他のDVやモラハラ行為があった場合

暴言・罵倒、無視、行動の監視・束縛、金銭的に過度に締め付けるといったいわゆるモラハラ(モラルハラスメント)も、配偶者を精神的に苦しめる行為として、慰謝料発生原因になります。

もっとも、実際にモラハラを原因として、配偶者から慰謝料を支払ってもらう難易度は高いといえます。

不貞や暴力は、1回でも行われれば妻(夫)を傷つけることが明らかです。対して、モラハラ行為は、1回1回の言動は些細なことであっても、家庭内で日々積み重ねられることで、妻(夫)に大きな精神的苦痛を与えるという性質の行為です。そのため、慰謝料を請求するのに十分な証拠が残っていないことが多くあります。また、仮に暴言などの一部が証拠として残っていても、夫婦喧嘩や性格の不一致と区別がつかないこともあります。

そして、加害者側は通常モラハラをしている自覚がないため、慰謝料の支払いに合意してくれないケースが多いといえます。

もっとも、モラハラ単独での慰謝料請求が難しくとも、他の慰謝料発生原因にプラスして主張することで、金額を増額する要素となることもあります。例えば、殴られてケガをした上に、「お前が馬鹿だから殴ったんだ」と暴言を吐かれたという証拠があれば、より悪質と判断される余地があります。

その他の慰謝料発生原因

その他慰謝料発生原因となり得る要素として、

  • 過度な浪費やギャンブル
  • 自分の遊興費のために多額の借金をする
  • 悪質な子の連れ去り

等があります。

どのような事情が慰謝料発生原因となるか、慰謝料を増額させる要素となるかは個別のケースによって異なります。慰謝料の発生原因となるかもしれない、と感じる行為を配偶者から受けている場合には、できるだけ証拠を残しておくようにしましょう。

離婚で慰謝料を請求できないケースとは?

離婚で慰謝料を請求できるケースについてご説明しましたが、次に離婚で慰謝料を請求できないケースにどのようなものがあるのかご説明します。

お互いに離婚原因の責任がある場合

離婚慰謝料は、あくまでも「配偶者に違法な行為があったせいで離婚に至った精神的苦痛」を賠償するものです。離婚原因がお互いにある場合には請求を行うことはできません。

価値観の違いや性格の不一致

お互いの価値観や性格が違うことは、それ自体は何も違法なことではありません。そのため、価値観や性格が違うことで苦痛を感じているからといって慰謝料は請求できません。

離婚慰謝料の相場と算定方法について

裁判で認められている離婚慰謝料は、20~30万円程度のものから500~600万円程度のものまでかなりバラつきがあります。また、

  • 離婚に際しての他の給付(財産分与や養育費)がどの程度支払われているか
  • 当事者の経済状況(精神的苦痛を受けた側や子どもが困窮しないか)

などとのバランスを見ながら金額が決められている例もあります。

そのため、慰謝料の「相場」を具体的な金額で提示することは難しいのですが、例えば「不貞で肉体関係があったことがわかり、それが原因で離婚した」というようなケースでは、初回請求を300万円程度とするのが弁護士の経験上の感覚です。

慰謝料額を増減させる要素

慰謝料額を増やす要素としては、

  • 結婚生活が長い
  • 違法な行為(不貞や暴力)の頻度・回数が多い
  • 違法な行為の行われた期間が長い
  • 行為の悪質性が高い(暴力で大怪我をさせた等)
  • 反省がない・応訴態度が悪い
  • 請求者が幼い子を監護していたり、病気を患っている等、困難な状況に置かれている

などがあります。

逆に

  • 請求者側にもよくない言動があった
  • 違法な行為で夫婦関係が破綻する以前に、性格の不一致等で関係が悪化していた

といった事情は、慰謝料を減額する要素になります。

ここまで述べたようなものが、慰謝料額を増減させる事情になりますが、「この要素があれば◯◯円をプラスする」というような決まった算定方法があるわけではなく、裁判官が全事情を考慮して金額を決めることになります。

不貞、暴力、モラハラ行為など、全ての事情を合わせて最終的な離婚慰謝料額が決定されますので、少しでも金額を増やすためにも、可能な限り証拠を残しておくようにしましょう。

離婚慰謝料の請求は時効がある

慰謝料の請求権は3年で時効にかかります。

もっとも、離婚慰謝料の消滅時効は、「離婚時から」数えて3年です。

個々の不貞行為や暴力行為があってから3年以上が経っていても、離婚慰謝料の請求をすることができますので、証拠を保管しておくようにしましょう。

ちなみに、離婚原因による慰謝料も、時効の期間は同じく3年ですが、こちらは「損害及び加害者を知ったとき」から時効の期限がカウントされ始めます。例えば、不貞慰謝料の場合、不貞が発覚して3年たつと慰謝料請求権は時効にかかります。

不貞相手に対する慰謝料請求権は、配偶者への離婚慰謝料とは別に時効が進み、不貞発覚から3年以内に請求しなければならない点には注意が必要です。

請求権を時効にかけずに請求を行うためには、裁判や催告を行って、時効の完成を猶予すること(先延ばしにすること)が必要です。時効の完成が近い場合には、早めに弁護士に相談するようにしましょう。

離婚の慰謝料は課税対象になるのか?

離婚慰謝料を受け取っても、課税対象にはなりません。

慰謝料は、精神的な損害(マイナス)をゼロに戻すためのお金です。受け取った人に利益が出たとはいえないため、非課税になります。

離婚の慰謝料を請求する手続き等の流れについて

実際に離婚に関する慰謝料を請求するには、どのように行えばよいのでしょうか。ここでは、慰謝料を請求する場合の手続きの流れなどについてご説明します。

当事者同士で協議する

慰謝料を請求したい場合、まずは配偶者と話し合いを行うのが一般的です。

配偶者が自分の非を認め、慰謝料を支払う意思があるのであれば、金額や支払い方法を合意します。

後から約束を破られるリスクに備えて、約束内容は書面化するようにしましょう。その際、養育費や財産分与、あるいは夫婦間で貸し借りしたお金の清算等、他にも請求するべきお金がある場合には、「慰謝料としてもらった」ということを明示した方がよいです。

また、時効期限が近い場合には、内容証明郵便で通知書を送る等、請求(催告)して時効の完成が猶予されていることの証拠を残しておく必要があります。

調停で解決を図る

夫婦だけでの話し合いが難しい場合には、調停で慰謝料請求を行うことができます。

離婚調停の中で、他の離婚条件と併せて慰謝料についても話し合いを行う形が一般的です。

申立書を提出して調停を申し立てると、裁判所から相手方に呼び出しの通知が送られます。

調停期日では、調停委員に争点の整理をしてもらいながら配偶者と話し合いを進めます。

条件調整ができれば、調停が成立となり、合意内容が調停調書にまとめられます。調停調書は、判決書などと同じく、「債務名義」として強制執行を行う際に用いることができる書面です。

不貞や暴力があったことを相手方が認めている場合には、慰謝料支払いの合意ができる可能性が高くなります。この場合、「慰謝料」という合意項目を設けることもあれば、「解決金」としたり、事実上財産分与額に上乗せするといった形が取られるケースもあります。

一方で、配偶者が不貞などを否認している場合や、モラハラ行為等で配偶者にそもそも悪いことをしたという意識がない場合には、調停で慰謝料の合意を行うことは難しいといえます。

また、調停はあくまでも話し合いですので、違法な行為の証拠があっても、相手方が拒否すれば、慰謝料の支払いを強制することはできません。

条件に折り合いがつかず、合意ができない場合、調停は不成立(不調)となり、手続きが終了します。調停が不調になると、慰謝料を請求したい側は、改めて裁判を起こすことが必要です。

訴訟による解決

話し合いでの解決が望めない場合、慰謝料を請求する裁判を起こす必要があります。

離婚についても争っている場合、離婚訴訟の中で一緒に請求を行い、夫婦間の争いを一括して解決することを目指すケースが多いです。

すでに離婚している場合や、配偶者と不貞相手とを一緒に被告にする場合には、慰謝料請求のみの裁判を行います。

離婚請求と異なり、慰謝料請求は「調停前置主義」(裁判を起こす前に必ず調停を経なければならないというルール)が適用されませんので、話し合いが難しい場合には、調停を経ずに裁判を起こしても構いません。

裁判では主張書面と証拠の準備が必要

裁判で慰謝料請求を行う場合、訴状(請求内容をまとめた書面)と証拠を提出して訴訟提起を行います。訴状が被告(配偶者)に送達された後は、被告が答弁書(請求に対する回答や反論を記載した書面)を提出します。その後は主張と証拠が出揃うまで、原告・被告がお互いに反論、再反論…と書面を提出します。主張や証拠が一通り出尽くした段階で、裁判所から和解の打診がなされ、合意を目指すことが一般的です。合意ができなければ、尋問等を経て、判決が出されます。

裁判での主張は、基本的に書面で行うことが必要であり、調停のように、その場で話を聞いてもらえる場面はあまりありません。そして、裁判で慰謝料を認めてもらうためには、被告が違法な行為をした事実を認めるか、証拠によって違法な行為の事実を証明できるか、いずれかが必要です。

違法な行為の事実があっても、適切な主張と証拠を提出しなければ裁判で慰謝料をもらうことはできません。裁判での慰謝料請求を行いたい場合には、訴訟を起こす前に弁護士に相談することをおすすめします。

離婚の慰謝料で話し合いが難しければ弁護士に相談する

ご自身で配偶者と慰謝料について話し合うことが難しい場合、話し合っても解決できない場合には、弁護士に相談してみましょう。

弁護士は、現在ご自身の手元にある証拠や配偶者の主張の状況から、協議・調停・裁判の中から相応しい手続きを選択し、代理人として当事者に代わって慰謝料請求を行うことで、適切な慰謝料を受け取るサポートを行います。もし今ある証拠が不十分であれば、請求を行う前にどのような証拠を獲得することが必要かのアドバイスをすることもできます。

また、経済的な不安から「慰謝料をとりたい」とご相談に来られる方のなかには、婚姻費用や離婚時の財産分与・養育費など、慰謝料以外の権利をしっかり実現することで、よりよい結果になる方もおられます。

離婚の慰謝料についてうまく話し合いが進まず、どのように進めるべきかお悩みの場合には、一度弁護士に相談してみるようにしましょう。

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この記事の監修

離婚・不倫は、当事者の方を精神的に消耗させることが多い問題です。また、離婚は、過去の結婚生活についての清算を図るものであると同時に、将来の生活を左右するものであり、人生全体に関わる問題といえます。
各問題を少しでもよい解決に導き、新しい生活をスタートさせるお手伝いができれば幸いです。

弁護士三浦 知草

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