離婚・不倫慰謝料の基礎知識

離婚における財産分与について

離婚における財産分与について

離婚の際には、子どもの親権・養育費をはじめ、夫婦で築いてきた財産をどのように分けるのかなど、取り決めるべき問題がいくつもあります。

特に、夫婦で購入した家・マンションや自動車、貯金や生命保険、年金など、これまで共有してきた財産の分け方で揉めることがしばしば起こります。

ここでは、財産分与の内容や仕組み、財産分与で揉めた場合の対処方法について解説します。

この記事の内容

財産分与とは?

離婚をした一方の当事者は、他方に対して財産の分与を請求することができます(民法768条)。

日本は夫婦別産制をとっており(民法762条1項)、夫婦であっても、一方が自分の名で取得した財産は個人の所有物になります。しかし、例えば、夫が外で働いて妻が家事育児を行う形での結婚生活をしていた夫婦においては、財産が夫名義のものに偏ってしまっており、各人名義の財産を取得してそのまま離婚してしまうと、夫婦に経済的格差が生じてしまいます。

このような夫婦間での経済的格差を調整するのが財産分与です。婚姻期間中に形成した財産を、実質的には夫婦共有の財産であるとみて、財産形成の貢献度に応じて分配します。

基本的には、財産を1/2ずつ分配することになりますが、後ほど説明する調整要素(扶養や慰謝料の要素)がある場合には別途考慮がなされます。

財産分与には3つの種類がある

財産分与は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与するかどうか・分与の額・分与の方法を決めるものとされています(民法768条3項)。そのときの状況に応じて調整を必要とする場合、状況内容を加味して調整を行います。次に財産分与の種類について説明します。

清算的財産分与

清算的財産分与は、婚姻中に夫婦で協力して築き上げた財産を、実質的に公平になるように分配する財産分与です。

3つの財産分与の中で中心に位置付けられ、単に「財産分与をする」という場合には清算的財産分与が念頭に置かれていることが多いといえます。

清算的財産分与は、「2分の1ルール」に基づいてなされます。2分の1ルールとは、婚姻期間中の財産形成への貢献度は、基本的に夫婦で等しいものとして、財産を2分1ずつ分与するというものです。

例えば、夫婦で築き上げた財産のうち、夫名義のものが2000万円、妻名義のものが500万円だった場合、

夫婦それぞれが取得すべき財産額=(夫名義の財産2000万円+妻名義の財産500万円)÷2=1250万円

1250万円-妻名義の財産500万円=750万円

となります。したがって、夫婦双方が1250万円ずつの財産を取得し、夫が妻に750万円を分与することになります。

夫婦の財産形成に対する貢献度は、特段の事情がない限り平等とされるのが原則です。

もっとも、夫婦の一方が、芸術家やプロスポーツ選手など、特殊な才能・努力によって高額な財産を形成したような場合には、2分の1ルールは修正されます。

しかし、2分の1ルールの修正は、例外に当たりますので、「自分の方がたくさん働いて高所得者だった。」「相手方が家事もせず財産形成に貢献しなかった。」といった事情で2分の1ルールを修正するのは難しいといえます。

財産分与の2つの基準時

財産分与の対象となる財産は、婚姻期間から別居までの間に形成された財産となります。そのため、対象財産の範囲を確定する基準となるのは、別居時です。

一方で、分与する財産の価値は、裁判時の時価で評価します。評価を確定する基準時は、裁判の口頭弁論終結時(判決を出すのに必要な証拠調べが終わった時点)となりますので、手続きを進めている間に不動産や有価証券の時価が変わり、分与の内容に影響が出ることもあります。

扶養的財産分与

扶養的財産分与は、清算的財産分与を行っても、一方の当事者の離婚後の生活が困窮してしまうような場合に補充的に行われる財産分与です。

配偶者が長期にわたり専業主婦をしていて、いきなり職を得て生活するのが難しい場合や、長期療養が必要な病気にかかっている場合などに認められます。

配偶者に対する扶養義務は離婚時になくなりますが、そのままでは過酷な状況に置かれてしまう配偶者が生活基盤を構築するまでの間、つなぎとしてなされるのが扶養的財産分与です。そのため、婚姻費用よりは低額とされることが多いといえます。

慰謝料的財産分与

相手方が「有責配偶者」、すなわち婚姻関係を破綻させる原因を自ら作った配偶者である場合、慰謝料の趣旨で財産分与額を上乗せするものです。不貞行為や暴力行為を行った配偶者が、典型的な有責配偶者です。

もっとも、実際の離婚訴訟では、慰謝料を独立の費目として請求することが多いため、慰謝料的財産分与がなされる例は多くありません。

注意が必要なのは、有責配偶者の側が、上乗せの趣旨を明らかにしないで、1/2を超える金額の財産を相手に分与した場合です。慰謝料的財産分与と慰謝料との二重取りをすることはできないので、離婚後に配偶者や不貞相手に改めて慰謝料を請求した際に、「慰謝料的財産分与をもらっているから、もう請求はできないはずだ。」という主張を受けることがあります。

財産分与の対象となる主な財産について

婚姻期間中に夫婦で形成した財産は、財産分与の対象となります。ここでは、代表的な財産である、預貯金、不動産、退職金、保険、有価証券、動産などについてご説明します。

預貯金の財産分与

婚姻してから別居するまでに取得した預貯金は、財産分与の対象です。

結婚前から貯めていた部分がある場合には、その部分は特有財産であり、財産分与の対象外となります。もっとも、特有財産に当たることは、主張する側が立証しなければなりません。婚姻期間が長いと、銀行の取引履歴などがもはや残っておらず、立証が難しいことも多いです。

預貯金は流動性が高く、分与する金額の調整にも用いやすいため、分与の対象となる財産に占める預貯金の割合が高い方が、分与はスムーズに進みやすいといえます。

不動産の財産分与

自宅の土地建物などの不動産が財産分与の対象となる場合、その評価や分与方法を巡って大きな争いになることがあります。

不動産の評価方法

財産分与の対象となる不動産を評価する際には、不動産仲介業者による売却見込み額の査定を行うのが一般的です。

固定資産税評価額や路線価といった公的に決められた金額は、不動産の実態を必ずしも反映したものではなく、一般に時価よりも低額になりやすいといえます。そのため、離婚の当事者双方が、査定を取得して評価額の主張を行うことが多いといえます。

もっとも、査定額は、当事者の都合(不動産を取得する側は安い方が、不動産以外を取得する側は高い方がよい)を反映したものになることが多いため、夫婦双方が提示した金額には大きな開きが出ることがあります。

交渉や調停の中で、例えば双方の査定額の中間価格などで合意できればよいのですが、合意が難しい場合には、裁判所の選任する不動産鑑定人による鑑定によって評価額を決定します。

不動産をどう分与するか

不動産の分け方は、住宅ローンがどの程度残っているか、当事者が住み続けるのか・売却するのか等によって異なります。

以下、いくつかのパターンを挙げてご説明します。

なお、算定例では、事案の簡略化のため、不動産はすべて夫名義の自宅、住宅ローン契約も夫名義とし、売買にかかる手数料などは考慮しないこととします。

ローンのない不動産の場合

ローンを組まずに購入したり、すでにローンを返済し終わっている不動産の場合、単純に現在の評価額の財産として扱います。

売却する場合には、売却代金から売買にかかる諸費用を差し引いた残りのお金を財産分与します。

一方が不動産に住み続ける場合、不動産の価格が夫婦の財産の1/2以下であれば、2分の1ルールにしたがって、現にある財産を半分ずつ分けることができます。一方、不動産が夫婦の財産の1/2を超える場合、不動産を取得する側は、相手方に代償金を支払う必要があります。

例えば、自宅の評価額4000万円、その他の財産が3000万円で、夫が自宅を取得して住み続ける場合、夫に自宅を、妻にその他の財産すべてを分与しても、なお妻の取り分が1000万円少ないことになります。この場合、家を維持したい夫は、自分の特有財産(結婚前からの財産など)や親族からの援助などによって、500万円を捻出して妻に支払う必要があります。代償金を支払う能力がない場合、自宅は手放さざるを得ないでしょう。

アンダーローンの不動産(不動産評価額>住宅ローン額)の場合

残っている住宅ローンの金額が不動産の評価額を下回っているいわゆる「アンダーローン」の場合、不動産の価値は、評価額から残ローンの金額を控除した金額となります。

不動産を売却する場合、売却代金をまずローンの完済に充て、残金を財産分与の対象にするのが一般的です。

一方が住み続けるのであれば、ローンのない場合と同様、不動産の価値(評価額-残ローン額)が夫婦の財産の1/2を超える場合には代償金を支払う必要があります。

自宅の評価額4000万円、残ローン500万円、その他の財産3000万円で、夫が自宅に住み続ける場合で考えてみます。この場合、夫は自宅の価値分の3500万円分(4000万円-500万円)の財産を取得し、妻はその他の財産3000万円を取得したことになりますから、夫は妻に対し代償金として250万円を支払う必要があります。

オーバーローンの不動産(不動産評価額<住宅ローン額)の場合

残ローンの金額が、不動産の評価額を上回るいわゆる「オーバーローン」の場合、財産分与における不動産の価値は0と評価されるため、裁判や審判では清算的財産分与の対象から外されることが一般的です。

そのため、オーバーローンの不動産以外に見るべき財産がない場合、財産分与はなされないことになります。残ったローンをどのように処理するかは別途夫婦で協議が必要です。

オーバーローンの場合、不動産の売却は難しいことも多いですが、売却ができた場合には、売却代金その他のプラスの財産からローン残額を差し引き、なおプラスがあれば財産分与を行うという処理が考えられます。

例えば、不動産評価額1000万円、残ローン2000万円、その他の財産3000万円の例で見てみましょう。不動産を売却してまずローン1000万円を返済し、妻がその他の財産1000万円、夫がその他の財産2000万円の分与を受けたうえでローン返済を続ける、あるいはその他の財産でまずはローンを完済し、1000万円ずつの財産分与を受けるといった処理が考えられます。

一方、上記と同じ事案で夫が自宅に住み続ける場合、財産分与の対象となる金額は、

不動産1000万円-ローン2000万円+その他の財産3000万円=2000万円

となります。

したがって、妻は1000万円の財産分与を受け、夫はローン付きの自宅とその他の財産2000万円の財産分与を受けたうえで、夫が単独でローンを返し続けるといった処理が考えられます。

また、不動産が1000万円、ローン2000万円、その他の財産500万円で夫が不動産を取得する場合、

不動産1000万円-ローン2000万円+その他の財産500万円=-500万円

となり、負債がプラスの財産を上回るため、妻への財産分与は0円で、夫がローン付き不動産を取得するといった処理が考えられます。残ローンの負担をどのように処理するかは夫婦で協議が必要です。

夫婦が連帯債務者・連帯保証人である場合にどうするか?

夫婦で家を買う場合、夫婦で連帯債務者となっていたり、一方が他方の連帯保証人になっていることがあります。

このような場合、家を取得しない側の当事者は、契約から抜けたいと考えます。

しかし、住宅ローンは金融機関との契約によって決められたものであるため、夫婦で合意した内容を当然に金融機関に対して主張できるわけではありません。連帯債務者・連帯保証人が契約から抜ければ、金融機関側にとっては回収不能のリスクがあがることになりますから、債務を夫婦の一方だけが引き受けることは、認めてもらえないのが通常です。

したがって、夫婦の一方が契約から抜けたい場合、新たに保証人や抵当不動産などの担保を提供したうえで金融機関の審査を受けるといった対応が必要です。

また、不動産を引き受ける側の当事者が、他の金融機関において借り換えを行うことも考えられます。

いずれにせよ、離婚をして自分がその不動産に住まなくなるからといって、簡単に住宅ローン契約から抜けられるわけではありません。契約から抜けることの実現可能性について、事前に金融機関と調整しておくようにしましょう。

特有財産による頭金の処理はどうするか?

不動産を購入する際に、夫婦の一方の結婚前の預貯金や、夫婦の親族から資金援助を用いて頭金を差し入れることがあります。

このような夫婦の一方の特有財産を用いて頭金を支払った分は、その人の個人的な財産であり、財産分与の対象から外れます。

購入時の不動産価格5000万円で、夫の親族から1000万円援助を受けて頭金を支払い、残り4000万円は夫婦で形成した財産から支払いをしたケースで、現在の不動産評価額が4000万円だとすると、1000万円/5000万円=不動産の20%分が夫の特有財産ということになり、財産分与の対象となるのは残り80%の4000万円×80%=3200万円分です。

したがって、

夫が受け取るべき金額=800万円(評価額の20%の特有財産)+3200万円÷2=2400万円

妻が受け取るべき金額=3200万円÷2=1600万円

となります。

 

同様のケースで、夫婦の財産から住宅ローンを支払っており、残ローンが1000万円あるとします。この場合の処理については、以下のような見解が有力です。

1000万円/5000万円=不動産の20%が夫の特有財産

財産分与における不動産の価値=4000万円(現在の評価額)-1000万円(ローン)=3000万円

夫の特有財産=3000万円×20%=600万円

財産分与の対象=3000万円(不動産の価値)-600万円(特有財産)=2400万円

夫が受け取るべき金額=特有財産600万円+財産分与2400万円÷2=1800万円

妻が受け取るべき金額=財産分与2400万円÷2=1200万円

相手方名義の不動産に居住し続ける場合の注意点

お子さんの生活環境を変えたくないなどの理由から、自宅の名義やローンの支払いを相手方にしたまま、これまで通り自宅に住み続けたいというご希望を持つ方もいらっしゃいます。

このような場合、自宅不動産の処分を相手方が勝手に行ってしまうことがあり、注意が必要です。元夫婦の場合、離婚後も無償で不動産を借りる使用貸借の形をとっていることも多いのですが、使用貸借の権利は、新しい所有者に対抗することができないため、自宅を退去せざるを得なくなる可能性があります。

また、相手方がローンの支払いを止めてしまったり、債務超過で破産してしまうような場合、抵当権が実行されて自宅が競売され、やはり退去せざるを得なくなることがあります。

住み慣れた自宅に住み続けたいという希望自体は否定されるものではないですが、相手方名義の不動産に居住し続けると、非常に生活基盤が不安定になることには気を付ける必要があります。

退職金の財産分与

退職金は、賃金の後払いという性質を持っています。したがって、婚姻期間中の労働によって得た退職金は、財産分与の対象となります。

退職金の財産分与については、すでに支給されている場合と、将来支給される予定がある場合で扱いが異なります。

退職金がすでに支給されている場合

すでに支給された退職金については、問題なく財産分与の対象となり、1/2が分与されます。

結婚前から勤めていた会社の退職金の場合、結婚前の期間に相当する分の金額を控除して財産分与することになります。

退職金が将来支給される予定である場合

定年退職が近い将来に予定される場合(5年以内程度)には、定年退職時に支給される予定の退職金から、結婚前と別居後の期間に相当する分を控除した金額の1/2が分与されます。公務員など、一定額の退職金がほぼ確実に支給されるような職業の場合には、定年退職までの時期がもう少し長くても、このような処理がなされます。

一方、退職までの期間が長いと、定年まで勤め上げて、満額の退職金が支給されることは確実とはいえません。このような場合には、別居時に自己都合で退職したと仮定した場合に支給される退職金額の1/2を分与するという処理をすることが多いといえます。

なお、分与される退職金の金額が少なくなることを嫌って、実際に退職したときに退職金の1/2を分与するという形の財産分与を希望される方もいらっしゃいます。しかし、離婚してしまうと、相手方がいつ退職して、いつ退職金が支給されるかという情報を得るのは困難ですし、相手方が受け取った退職金を隠匿してしまったような場合に、支払いを確保することが難しくなってしまいます。そのため、退職金以外に見るべき財産がないような場合を除いては、このような将来の約束の形をとることはおすすめできません。

企業年金の分与について

企業年金とは、働いている本人や勤務先の会社の負担でもって、公的年金に上積みする私的年金です。

名前は「年金」ですが、公的年金の年金分割のような制度はないため、退職金と同じような処理で財産分与を行うべきとする見解が有力です。

「年金分割の対象だから」と誤解して、企業年金の財産分与を遺漏しないように注意しましょう。

保険の財産分与

掛け捨てでない生命保険などの貯蓄性のある保険、学資保険などは財産分与の対象となります。

保険を分与する際には、一般的に、別居時点で解約したと仮定した場合の解約返戻金相当額の1/2を分与するという処理を行います。実際に解約をする必要はなく、生命保険会社から解約返戻金額のわかる証明書を取り付けることで足ります。

なお、保険の受取人が配偶者の名前のままになっていると、保険事由(被保険者の死亡など)が発生したときに、すでに離婚した元配偶者に保険金が支払われることになるため、受取人変更の手続きが必要です。

学資保険についても生命保険と同様の考え方をしますが、お子さんの教育資金などに充てるための保険であるため、親権者でない側が保険の名義人となっている場合、名義人の変更などの処理をしておくとよいといえます。実際に解約して返戻金を分与することもありえますが、返戻金額が払込元本を下回ることがある他、お子さんが大きくなっていると再加入ができない場合もあるため、注意が必要です。

株式・投資信託など有価証券の財産分与

婚姻期間中に取得して別居時に保有していた株式や投資信託などの有価証券については、裁判時(口頭弁論終結時)の市場価格でもって評価し、分与します。

多数の銘柄を保有して短期売買を繰り返している場合などは、逐一時価を算出することが難しいため、証券会社からの報告書の額でもって評価することがあります。

また、上場されている株式であれば市場価格を知ることは容易ですが、非上場の株式の場合、その客観的な評価額が争いになることがあります。

動産の財産分与

婚姻期間中に取得した動産についても財産分与の対象となります。一つひとつの動産について厳密に分与を行う夫婦は稀ですが、自動車や貴金属などの高価品については、査定を取得して財産分与の協議を行うこともあります。

自動車ローンを組んで購入した車両の場合、不動産と同じくアンダーローンであれば時価額から残ローン額を差し引いた金額を分与対象とし、オーバーローンであれば価値0として処理します。

また、婚姻期間中に飼い始めたペットについても動産として扱います。現在ではペットは自分の子ども同然と考える飼い主も多いですが、ペットについての面会交流や養育費支払いは法律上予定されておらず、他の動産と同じく時価での評価となります。

未払婚姻費用について調整はなされるか

離婚までの間に婚姻費用の未払いがある場合、財産分与の際に未払額が考慮されることがあります。もっとも、未払となっている金額がそのまま財産分与に上乗せされるとは限らないため、満額の婚姻費用を受け取るためには、離婚までの間に婚姻費用分担請求の調停・審判を行っておくことが望ましいといえます。

なお、財産分与請求と異なり、婚姻費用分担請求は離婚訴訟の手続き内で一緒に行うことができない点には注意が必要です。

財産分与と債務の処理

夫婦の共同生活のために借り入れた負債は、財産分与において考慮されます。例えば、生活費や病気の治療費、子の教育費などのための借金などです。

負債とプラスの財産の両方がある場合、プラスの財産の合計額から負債を差し引いた金額の1/2ずつを財産分与するという処理が一般的です。

プラスの財産がなく債務のみが残っている場合の処理は確立されていませんが、債務のみの場合には財産分与は行われないという見解が有力です。負債は債権者(金融機関など)との契約によるものですから、当然に夫婦が1/2ずつ引き受けることになるわけではありません。内部で負担割合を決める場合には夫婦で協議が必要です。

年金分割について

財産分与とは異なりますが、離婚後の経済的格差を調整する制度として、年金分割があります。

年金分割は、「厚生年金記録」を分割する手続きです。

現役時代の夫婦の給与収入額に格差があると、リタイア後に受け取ることができる厚生年金の金額に大きな格差が生じてしまうため、この格差を調整するための制度となっています。

年金分割によって分割されるのは、厚生年金(いわゆる「2階部分」)のみで、基礎年金の記録は分割されません。また、すでにご説明したとおり、企業年金などの私的年金は、年金分割の対象ではなく、財産分与の中で取り扱う必要があります。

また、あくまでも厚生年金を納付した「記録」を分割する仕組みですので、配偶者の厚生年金の1/2の金額を分けてもらうことができるわけではありません。年金分割を行った場合の見込み額については、「年金分割のための情報通知書」から知ることができます。情報通知書の取得は、最寄りの年金事務所に請求書を提出して行います。

年金分割については、離婚後2年以内に請求手続きを行う必要があります。

財産分与の対象とならない財産とは?

財産分与の対象となるのは、夫婦が婚姻期間中に協力して形成された財産で、実質的に夫婦共有の財産といえるものです。そのため、名実ともに個人が所有する財産である「特有財産」は、財産分与の対象とはなりません。

具体的には、以下のようなものは財産分与の対象外です。

婚姻前に取得していた財産

婚姻前に取得した財産は、夫婦で形成した財産ではないため、分与対象外です。

不動産などは婚姻前に取得したかどうか登記簿から明らかですが、預貯金など流動性が高い財産の場合、どこまでが婚姻前に取得した財産かが必ずしも明らかでないため、通帳や取引履歴などの資料によって特有財産の範囲を立証する必要があります。

別居後に取得した財産

別居した夫婦はもはや協力して財産を形成しているとはいえないため、別居以降に取得した財産は財産分与の対象から外れます。

第三者名義の財産

財産分与の対象となるのは、原則として当事者の名義の財産です。そのため、当事者が会社を経営しているような場合、会社名義の不動産や預貯金は、原則として財産分与の対象とはなりません。

ただし、配偶者の個人経営の会社で、実質的には会社財産が本人の財産と同視できるような場合には、例外的に第三者名義の財産も財産分与の対象となります。

なお、配偶者が自分の経営している会社の株式を保有しているような場合、その株式が財産分与の対象となります。もっとも、非上場の株式の場合、その評価額が争いになることが想定されます。

事故での慰謝料等

当事者が婚姻期間中の交通事故や労災事故などによる負傷などで、慰謝料を受け取ったような場合、あくまでも本人の精神的苦痛を慰謝する趣旨の金銭であるため、本人の特有財産となります。

一方で、休業損害や逸失利益など、収入に関する損害を填補する賠償金については、財産分与の対象となるという見解があります。

婚姻生活のためではない個人的な借金

教育資金や生活費など、婚姻生活の維持のために借り入れた債務については、財産分与において考慮されます。一方で、遊興費など専ら個人のために借り入れた債務については、財産分与を行う際に考慮されません。

財産分与取り決めに向けた手続きの流れ

財産分与について取り決める際には、最初に協議を行うことが多いです。離婚自体と同時に財産分与について争う場合には、離婚調停・離婚訴訟の付帯処分として財産分与に関する判決を求めます。協議離婚が成立しており、財産分与の問題のみが未解決の場合には、財産分与請求の調停・審判を行います。

財産分与の協議

相手方と話し合いが可能な場合には、双方が財産分与の対象となる財産の資料を出し合って、分与額や分与方法の合意を目指します。

協議では、分割払いで財産分与を行うだとか、債務の内部的な負担割合を決めておくといった、実情に応じた柔軟な処理が最もしやすいといえます。

財産分与の合意ができる場合には、合意書を作成し、合意を証拠に残しましょう。合意についての公正証書を作成しておくと、内容の疑義が解消されるほか、相手方が任意に財産分与を履行しない場合に強制執行を行うことができます。

分与についての意見の隔たりが大きく合意ができない場合には、離婚調停や財産分与調停に進みます。また、相手方が誠実に財産の資料を出そうとしない場合には、無理に合意にこだわるよりは、開示を促してもらったり、文書提出命令・文章送付嘱託などの手続きで開示を強制したりすることができるように、裁判所での手続きを選択する方がよいでしょう。

離婚調停における財産分与請求

まだ離婚をしていない場合には、離婚調停の中で財産分与について話をすることになります。調停は、裁判所での話し合いですので、ある程度柔軟に分与の条件を調整しやすいといえます。また、調停委員などを通じて財産の資料を出すように促してもらうことで、当事者間の協議よりも資料開示がスムーズに行くことが多いといえます。

離婚調停で合意ができない場合には、離婚訴訟を起こすことが一般的です。また、当事者双方が財産分与以外の争点には合意していて早期離婚を望んでいる場合には、調停離婚や協議離婚を先行して、財産分与のみ別途調停・審判を行うといった方法も考えられます。

離婚訴訟における財産分与請求

離婚訴訟では、財産分与が付帯処分の1つとして審理されます。離婚そのものに争いがないような場合、財産分与は、激しい対立点になりやすい部分です。

相手方による財産隠しが疑われるような事案では、資料開示の求釈明や、文書提出命令・文書送付嘱託・調査嘱託などの申し立てを積極的に行い、必要な証拠の獲得を目指すこともあります。

双方が主張と証拠を出し合い、最終的には裁判官が判決という形で結論を決めます。また、実際に判決が出される前に、裁判官が暫定的な心証を開示して、双方に和解をすすめることが多いです。

財産分与調停・審判における財産分与請求

すでに離婚自体は成立しているような場合、財産分与のみの調停・審判を行うことになります。「審判」は、裁判と同じように、主張と証拠を双方が出して、最終的な結論を裁判官が決める手続きです。

相手方の財産隠しが疑われる場合の対応

相手方が自分の財産の全てを開示していないと考えられる場合、調停・審判や離婚訴訟の中で開示を求めることになります。

裁判所に「文書提出命令」や「文書送付嘱託」、「文書送付嘱託」を行ってもらい、相手方自身や金融機関に、財産関係資料の開示を求めることになります。

もっとも、裁判所にこれらの手続きを行ってもらうためには、漠然と「財産隠しが疑われる」というのみでは難しいといえます。「○○銀行の○○支店に財産があるはずなのに開示していない。」というように、ある程度特定して申し立てを行う必要があります。

したがって、同居中から、自宅に金融機関や証券会社、生命保険会社などから配偶者宛の郵便が届いていないか、通帳から金融機関名などでの引き落としがないかなどを確認し、証拠確保を行うことが重要です。

なお、裁判所を通さず、弁護士が調査を行えるものに「弁護士会照会(23条照会)」の制度があります。弁護士が、弁護士会照会を用いて、金融機関に相手方名義の口座があるか等の照会をかけることもできますが、財産分与の対象となる財産を把握するための照会には、金融機関が応じてくれないケースが多いです。ちなみに、すでに調停・審判や離婚訴訟で財産分与について決定しているのに相手方が任意に支払いをしない、という強制執行の場面では開示に応じてくれる金融機関もあります。

相手方が財産を開示していない可能性が高い場合には、協議をまとめることにこだわらず、裁判所での手続きで適正な財産分与を受けることが望ましいといえます。

財産分与の取り決めにおける注意点

ここでは、財産分与について取り決める際の注意点をご説明します

財産分与が請求できるのは離婚から2年間

財産分与請求権は、離婚から2年で「除斥期間」により消滅します。

除斥期間は、時効とは異なり、完成猶予や更新を行うことができないため、離婚成立から2年が近い場合には、速やかに財産分与の調停・審判を申し立てるといった対応が必要です。

財産隠しの可能性がある場合の注意点

協議や調停で財産分与の合意をする場合、「ほかに何らの債権債務もないことを確認する」といった清算条項を設けることが一般的です。

清算条項は、紛争の蒸し返しを防ぐために設けるべき条項です。しかし、合意当時に知らなかった相手方の隠し財産が後から発覚した場合、清算条項があることによって、原則として追加の財産分与請求は行えなくなります。

隠匿していた財産の金額や夫婦の財産に占める割合が極めて大きい場合には、錯誤による合意の無効が認められる余地もありますが、基本的には合意を無効にするのは難しいと考えた方がよいでしょう。

そのため、隠し財産の可能性がある場合、合意書に記載されていない財産が発覚したときには別途財産分与の協議を行う、といった条項を設けておくことが有効です。

また、調停・審判や離婚訴訟では、すでにご説明したとおり文書提出命令などの開示手続きを行うことができますので、隠し財産のある疑いが濃厚な場合には、協議で合意することにこだわらず、裁判所での手続きを行う方がよいでしょう。

離婚訴訟や審判ではすべての問題を解決できないことがある

訴訟や審判は、裁判官が財産分与の結論を判断してくれる手続きなのですが、必ずしもすべての問題について解決をしてもらえるわけではありません。

例えば、オーバーローンの不動産は価値0とされ、分与の対象となる財産から外されてしまいます。また、夫婦の共同生活のために借り入れた負債についても、必ずしも判断をしてもらうことはできません。このように、審判や判決が出た後になお未解決の問題が残ってしまうことがあります。

このような裁判官が判断してくれない問題については、本来は協議や調停で柔軟に解決することに向いているといえますが、審判・判決時まで問題が残ってしまっている場合には、別途当事者間で協議をすることが必要になります。

財産分与は離婚前、離婚後のどちらで協議を進めるべき?

離婚を急ぎたい事情が特段ない場合、離婚と同時に財産分与を進める方が多いといえます。

離婚に際しては、子の養育費や慰謝料など、財産分与以外にも金銭的な取り決めをしなければならない事項があります。離婚のその他の条件と同時に、財産分与の条件を取り決めることで、後の紛争を残さずに一元的な解決ができます。また、お互いに条件を譲歩し合って和解を行うこともしやすくなります。

特に、以下のようなケースでは、離婚を先行させることはおすすめできず、離婚と同時に財産分与を進める方がよいといえます。

相手方が離婚を希望し、かつ相手方が分与すべき財産を多く持っている場合

相手方が離婚を強く望んでいて、かつ財産を多く所有しているような場合、離婚条件を交渉する中で、財産分与について請求する方がご自身に有利な結果になりやすいといえます。

離婚成立後に財産分与を請求すると、相手方にはもはや財産分与の協議や調停を進める動機がないため、手続きが停滞しやすくなります。

相手方から婚姻費用を支払ってもらっている

相手方から財産を分与してもらうまでの間は、ご自身名義の財産で生活を維持していかなければなりません。したがって、相手方の収入が高く、相手方名義の財産も多いような場合には、別居をして婚姻費用をもらい続けながら、離婚手続きのなかで財産分与についての手続きも進める方が、ご自身やお子さんの生活を守ることに資するといえます。

相手方が財産を隠匿・浪費したり、所在不明になるリスクがある

相手方が自分名義の財産を散逸・処分してしまったり、浪費してしまう可能性が高い場合には、離婚を待たず、速やかに財産分与手続きを進めることが望ましいといえます。相手方個人による浪費は、分与する財産を決める際に考慮されますが、現に残っている財産以上のものを分与させることはできません。

また、離婚後相手方が音信不通になり、所在がわからなくなってしまうと、財産分与を請求することが難しくなります。居場所のわからない状態のまま除斥期間の2年が経過してしまうと、財産分与の請求を行うことができなくなってしまいます。

離婚を先行させた方がよい場合はあるか?

財産分与は離婚と同時に行うことが多いですが、以下のような場合には、離婚を先行させることにメリットがあります。

離婚を急ぎたい理由がある

DV被害を受けて相手方から避難している場合、子が学校に上がる前に苗字を変えたい場合、再婚を希望している場合など、早期に離婚することを優先したい事情がある場合には、先に離婚を成立させるメリットがあります。

また、相手方が離婚請求には渋々応じるような態度を示しているが、財産分与の請求をすると離婚について態度を硬化させることが予想されるような場合、先に協議離婚を成立させ、財産分与については調停や審判で決めることも検討してよいでしょう。

婚姻費用を支払う側である

ご自身が婚姻費用を支払う側である場合、別居後離婚に至るまでの期間が長引くと、支払い額の負担が大きくなることが多くあります。相手方が協議離婚の先行に応じる場合には、先に離婚を成立させ、じっくり時間をかけて財産分与を進めることができます。もっとも、相手方は婚姻費用をもらえるというメリットを失うことになるので、相手方に離婚を急ぎたい事情がない限り応じてもらえない可能性が大きいといえます。

離婚における財産分与で不安があれば、一度弁護士に相談する

財産分与は、離婚後の生活基盤を左右する重要な手続きです。協議・調停・審判・訴訟で、取り扱える事柄が異なることもあり、未解決の問題を残したまま裁判所の判断がなされると、後から紛争が蒸し返されたりすることもないわけではありません。

また、実際に財産分与の履行をきちんと実現することが可能かといった観点からも、分与の内容を考える必要があります。そして、財産隠しなどの不安があるような場合には、裁判所での手続きの中で開示を要求していくことも必要です。

財産分与についてご自身で解決することに不安があるような場合には、一度弁護士に相談し、どのような手続きをとればご自身にとって最もよい流れになるのか、アドバイスを受けるとよいでしょう。

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この記事の監修

離婚・不倫は、当事者の方を精神的に消耗させることが多い問題です。また、離婚は、過去の結婚生活についての清算を図るものであると同時に、将来の生活を左右するものであり、人生全体に関わる問題といえます。
各問題を少しでもよい解決に導き、新しい生活をスタートさせるお手伝いができれば幸いです。

弁護士三浦 知草

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