離婚・不倫慰謝料の基礎知識

離婚における養育費・慰謝料・財産分与の未払い・滞納における強制執行について

離婚における養育費・慰謝料・財産分与の未払い・滞納における強制執行について

離婚時に取り決めた子どもの養育費や慰謝料、財産分与の支払いが滞ったり、未払いの状態が続いてしまうと、受け取る側としては、子どもの生活費や教育費の支出に支障をきたしたり、家計全体に影響を及ぼしてしまうケースもあります。

相手と連絡がとりにくいようなケースでは、泣き寝入りしてしまう方もおりますが、取り決めを無視した一方的な滞納に対しては、いくつかの条件はありますが、強制執行により回収することも可能です。

ここでは、養育費・慰謝料・財産分与の未払い・滞納が発生したときの手段として、強制執行の内容や条件、手続きの流れなどについて解説します。

この記事の内容

離婚における強制執行とは?

強制執行は、調停・審判や裁判で決まった給付請求権(お金を支払うこと・物を引渡すこと・面会交流させること等)を、強制的に実現させるための手続です。

審判や判決で支払いを命じてもらっても、実際に支払いを確保できなければ、判決は画に描いた餅になってしまいます。

強制執行によって、債権者(給付をもらう側)は、債務者(支払い義務がある側)が協力を拒んでも、決められた内容を実現できることになります。

民事執行法改正(令和3年5月1日より全面施行)により、債務者の持っている財産を調べる手段が拡充され、以前よりも強制執行手続きが利用しやすくなりました。

また、子の引渡しの強制執行についても、新たに規定が新設されています。

強制執行の種類について

強制執行は、大きく2つに分けられます。

1つは、債務者がお金を支払わない場合に、お金を回収することを目指す「金銭執行」です。
離婚の場面では、次に挙げる事柄が起きた際に金銭執行を行います。

  • 婚姻費用・養育費の不払い
  • 財産分与としての金銭の不払い
  • 慰謝料の不払い

もう1つは、債務者が物を渡さない・すべきことをしないといったお金の取得以外の結果を目指す「非金銭執行」です。
離婚の場面では、次のようなトラブル解決のために用いられます。

  • 財産分与で債権者が取得することに決まった物や家を引き渡さない
  • 債権者が親権者になったのに債務者が子を引き渡さない
  • 子と面会交流をさせない

まずは、代表的な金銭執行について見ていきます。

不動産執行(強制競売)

債務者の所有している不動産(土地・建物)を差押えて売却し、売却代金から配当を受けて債権を回収する手続きです。

不動産執行を行うためには、裁判所に予納金を納付する必要があります。不動産の価格によって予納金額は変わり、例えば、東京地裁では80~200万円、千葉地裁では60~120万円の金額とされています。ご自身の事案における正確な予納金額は、裁判所に問い合わせましょう。

不動産執行は、高額な財産分与や慰謝料など、大きな金額を一気に回収することに向いている手続きです。予納金の負担の問題もあり、まだあまり滞納のない月々の婚姻費用や養育費を確保するための手続きには、給与差押えといった手続きの方が向いています。

債権執行

債務者の勤め先の給与、預貯金、個人事業主であれば売掛金などの債権を差し押さえる手続きです。

債権者は、差押えた債権を直接「第三債務者」(金融機関や勤め先など)から取り立てるか、「転付命令」により自分に債権を丸ごと移転させて、金銭の回収を行います。

婚姻費用や養育費の滞納による差押えにおいて使い勝手がよいのは、給与差押えです。後ほどご説明しますが、すでに滞納になっている養育費等だけでなく、将来分もまとめて差押えの効果を生じさせることができるため、給与のような定期的に発生する債権を差し押さえる意味は大きいといえます。

準不動産執行

離婚事件ではあまり行われませんが、自動車・船舶・航空機などの登録がなされている財産を競売してお金を回収する手続きです。離婚で想定されるのは自動車の競売ですが、市場価値の高い高級車を除き、債権回収の効果はあまり高くありません。

動産執行

執行官が債務者の自宅などに立ち入って、債務者が占有している物を取り上げ、その物を売却して得たお金を債権者が回収する手続きです。「差押え」という言葉から、動産執行のシーンをイメージする方も多いかもしれません。

多額の現金や貴金属を自宅の金庫に置いているような場合には、動産執行の効果は高いですが、多くの場合、債権を満足させるだけの動産は回収できません。自宅に立ち入って無理やりにでも財産を持ってくる手続きであることから、強制執行の中でも非常に荒れやすい手続きであり、他に差押えができるものがない場合の最終手段として行われることもしばしばです。

次に、離婚の場面で見られる非金銭執行について見ていきます。

不動産の引渡し・明渡しの執行

自宅がこちらに財産分与されたにも関わらず相手方が出て行かないというような、不動産が占有されている場合に、債権者に不動産を引渡し・明渡しする執行手続きです。

「明渡しの催告」をしても債務者が退去しない場合には、明渡しの「断行」が行われ、執行官が債務者を立ち退かせ、家財道具も強制的に運び出します。

動産の引渡しの執行

こちらに財産分与された動産を相手方が引き渡さない場合、執行官がその動産を取り上げて、債権者に引渡す執行手続きです。

離婚事件で行われる頻度はそれほど高くない手続きといえます。

子の引き渡しの強制執行

こちらが子の親権者や別居中の監護者に指定されているにも関わらず、相手方が子を渡すことを拒む場合には、子の引渡しの強制執行を行う場合があります。

後ほどご説明する「間接強制」による方法と、執行官が債務者の自宅などに赴いて子の引渡しを実施する方法があります。執行官はまずは債務者に子を引渡すよう説得を行いますが、抵抗を受ける場合には、威力を用いることも可能です。もっとも、子に対しては威力を用いることは禁止されている他、子の心身に悪影響を与えるような場合には、子以外の関係者に対しても威力を用いることはできません。

子の引渡しの強制執行は、当事者の感情対立が非常に激しくなるうえ、物の引渡しと異なり、子自身の感情にも左右されますので、強制執行の中でも最もハードな手続きであるといえます。

間接強制

債務者が、債務を履行しない場合に、履行を行わせるために金銭の支払いを命じ、心理的なプレッシャーをかけて履行を行わせる強制執行です。

調停で合意しているにも関わらず、監護親が面会交流を拒否する場合や、裁判所から命じられた子の引渡しを拒否する場合などに用いられることが多い手続きです。

意思表示義務の強制執行

債務者が、特定の法的効果を生じさせる意思表示をすることに協力しない場合に、債務者が意思表示を行ったのと同一の効果を生じさせる強制執行です。

実際に利用される場面のほとんどは、不動産の登記移転についてです。債務者が不動産の登記の移転に協力してくれない場合に、裁判所の登記移転を命じる判決を得ることができれば、債務者が登記移転の意思表示を行ったのと同じ効果を生じ、債権者単独で登記を移転することができます。

強制執行を行うための条件とは?

強制執行は、公的機関が強制的に債務者の財産を処分する手続きであるため、執行のための要件が厳格に定められています。

ここでは、強制執行を行うための条件について解説します。

強制執行には「債務名義」が必要

強制執行を行うためには、まずは「債務名義」を取得する必要があります。

債務名義とは、強制執行を行う前提となる公的な文書です。

債務名義の種類は、民事執行法22条各号で定められています。離婚の場面でよく使われる債務名義には、以下のようなものがあります。

  • 確定した判決
  • 仮執行宣言を付した判決
  • 執行証書(執行認諾文言付きの公正証書)
  • 和解調書
  • 調停調書
  • 確定した審判書

強制執行を行うための債務名義を得る方法について見ると、

  • 離婚訴訟や慰謝料請求訴訟で判決をもらう
  • 離婚訴訟や慰謝料請求訴訟で裁判上の和解を成立させる
  • 離婚・婚姻費用分担・財産分与などの調停を成立させる
  • 婚姻費用分担・養育費・財産分与などの審判手続きで、審判を出してもらう
  • 執行認諾文言付きの公正証書を作成する

といった手続きがあります。

公正証書は、裁判所での手続きを経由することなく、当事者が債務名義を作成できる唯一の方法です。

債務名義は、いずれも「正本」が必要です。正本は、原本と同じ効力を与えられた写しです。調停調書等に「謄本」の記載がある場合には、改めて「正本」の取得が必要です。

また、強制執行を開始するためには、債務名義の正本が相手方に送達されている必要があります。送達の事実は、送達証明書によって証明します。

債務名義を取得したい場合や、債務名義がすでに手元にあるが次に行うべき手続きがわからない場合には、弁護士に相談してみましょう。

債務者の住所を特定できること

強制執行を行う場合、相手方(債務者)に、裁判所から書類の送達を行う必要がありますので、原則として住所が特定できている必要があります。

弁護士は、強制執行事件の処理に必要な場合には、相手方の戸籍の附票や住民票を取得することができます。したがって、過去に住民票があった住所(夫婦が同居していた際の住所など)がわかれば、現在までの住所を追うことが可能です。転居しているにも関わらず住民票が移動されていない場合には、住所の把握は難しくなりますが、携帯番号などの把握できている情報から、弁護士会照会を用いて住所を調査することになります。

執行する財産を特定できていること

強制執行を行うためには、執行の対象となる財産を特定している必要があります。

相手方と疎遠で財産関係がわからないような場合、先に財産関係を調査する必要があります。財産関係の情報取得の方法については、この後の「債務者の持つ財産を把握できていない場合」で詳しくご説明します。

債務者名義の財産があること

強制執行を行えるのは、原則として債務者自身の名義の財産に限られます。例えば、債務者が、自分の財産を個人経営の会社名義にしているような場合には、個人を債務者とする債務名義で差押えることはできないため、債務名義を得る際に注意が必要です。

また、支払いを命じる判決や審判を取得できても、相手方に目ぼしい財産がない場合には、強制執行は空振りしてしまいます。

強制執行の対象となる財産について

強制執行の対象となる財産は、金銭執行と非金銭執行とで分けられます。

金銭執行の対象財産

金銭執行の対象となるのは、預貯金や給与債権などの金銭債権そのもの、または、売却してお金に換えることのできる財産(不動産、貴金属など)です。

また、執行の対象となる財産は、原則として債務者自身の持ち物であることが必要です。

非金銭執行の対象財産

非金銭執行対象は、債務名義に記載された財産です。

債務名義で、不動産の明渡しやお子さんの引渡しが命じられた場合、その財産やお子さんが執行の対象となります。

非金銭執行は、対象となる「もの」それ自体の確保が目的ですので、市場価値がないものや、差押禁止財産に当たるものにも執行を行うことができます。

強制執行の対象とならない財産

強制執行では、債務者が最低限生きていくための財産を守るとともに、公的機関が強制的に財産を処分する範囲を最小限にとどめる必要があることから、強制執行の対象外となる財産が定められています。

差押禁止財産について

債務者が最低限の生活を送ることや就労・就学のために必要な財産等については、差押えが禁止されています。

民事執行法が差押えを禁止している動産・債権は以下のとおりです。

差押禁止財産
動産
(民事執行法131条)
債務者等の生活に欠くことができない衣服、寝具、家具、台所用品、畳、建具
債務者等の1ヶ月の生活に必要な食料・燃料
66万円までの金銭(=標準的な世帯の2ヶ月間の必要生計費を勘案して政令で定める額の金銭)
主として自己の労力により農業を営む者の農業に欠くことができない器具、肥料、労役の用に供する家畜及びその飼料並びに次の収穫まで農業を続行するために欠くことができない種子その他これに類する農産物
主として自己の労力により漁業を営む者の水産物の採捕又は養殖に欠くことができない漁網その他の漁具、えさ及び稚魚その他これに類する水産物
技術者、職人、労務者その他の主として自己の知的又は肉体的な労働により職業又は営業に従事する者(農業・漁業を営む者を除く。)のその業務に欠くことができない器具その他の物(商品を除く。)
実印その他の印で職業又は生活に欠くことができないもの
仏像、位牌その他礼拝又は祭祀に直接供するため欠くことができない物
債務者に必要な系譜、日記、商業帳簿及びこれらに類する書類
債務者又はその親族が受けた勲章その他の名誉を表章する物
債務者等の学校その他の教育施設における学習に必要な書類及び器具
発明又は著作に係る物で、まだ公表していないもの
債務者等に必要な義手、義足その他の身体の補足に供する物
建物その他の工作物について、災害の防止又は保安のため法令の規定により設備しなければならない消防用の機械又は器具、避難器具その他の備品
債権
(民事執行法152条1項・2項)
債務者が私人から生計を維持するために支給を受ける継続的給付に係る債権については、その支払期に受けるべき給付の3/4に相当する部分
なお、その額が標準的な世帯の必要生計費を勘案して政令で定める額(=月払いの場合月額33万円)を超えるときは、政令で定める額に相当する部分
給料、賃金、俸給、退職年金及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る債権については、その支払期に受けるべき給付の3/4に相当する部分
なお、その額が標準的な世帯の必要生計費を勘案して政令で定める額(=月払いの場合月額33万円)を超えるときは、政令で定める額に相当する部分
退職手当及びその性質を有する給与に係る債権については、その給付の3/4に相当する部分

離婚の場面で、差押禁止財産の定めが関わることが多いのは、給与の差押禁止の範囲です。

給与については、総支給額から所得税・地方税・社会保険料を差し引いた手取額を基準に、その3/4が差押禁止財産とされ、差押えできるのは1/4までとなります。

例えば、手取月収が20万円であれば、1ヶ月に差押えができる金額は、5万円までとなります。

また、手取額33万円を超える月収がある場合には、33万円を超える部分は全て差押え可能です。手取月額50万円であれば、50万円-33万円=17万円まで差押えを行うことができます。

その他、生活保護費や児童手当・児童扶養手当、公的年金などの給付については、特別法によって差押えが禁止されています。

無剰余執行の禁止

差押えた不動産の価値が低く、手続費用で赤字になってしまう見込みの場合には、強制執行を行うことはできません。優先債権(滞納した税金の債権など)があり、不動産を売却しても差押えた債権者にお金が回ってくるだけの剰余(あまり)がない場合も同様です。これを無剰余執行(無益執行)の禁止といいます。

動産の差押えについても、不動産同様、手続費用で赤字になってしまう執行は認められません。

超過差押え・超過売却の禁止

強制執行は、債権の回収を図るためになされるものであり、その必要を超えて債務者の財産を処分することはできません。

動産を差し押さえる場合、債権者の債権と手続費用を賄うのに必要な限度を超過する差し押さえを行うことはできません。差押え後に超過差押えが明らかになった場合には、超過部分の差押えは取り消されます。

また、複数の不動産を差し押さえた場合、一部を売却して債権を満足させられた場合には、残りの不動産を売却することはできなくなります。

債務名義に記載されていない者への強制執行について

強制執行が可能なのは、原則として、債務名義に表示された債務者の財産に対してのみです。債務名義に記載されていない第三者の所有する財産への強制執行は、以下の「承継執行文」を得た場合を除き原則としてできません。

承継執行文とは?

債務名義の効力(執行力)は、第三者が訴訟担当をした場合の債務者や、債務名義が成立した後の承継人に及びます。

例えば、債務名義成立後に、債務者が死亡した場合の相続人や、債務名義の対象となる財産の譲渡を受けた人は、承継人となり、債務名義の効力が及びます。

承継のない場合の強制執行

債務名義が成立する前に、対象となる財産の譲渡が行われていた場合には、承継執行文を受けることはできません。例えば、不動産の引渡しが命じられた後で、債務者が他人にその不動産を引き渡した場合には、承継執行文を受けて強制執行を行うことができます。対して、引渡しが命じられる前に同様の引渡しが行われてしまうと、別に訴訟を起こして債務名義を取らなければ、強制執行を行うことはできません。

また、金銭執行を行う場合に、差押えることができるのも、執行時に債務者に属している財産のみです。例えば、債務者が元配偶者に財産分与がなされるのを嫌って自分の親族に財産を譲渡してしまった場合には、譲渡された財産に、強制執行を行うことはできなくなってしまいます。

譲渡が債権者に対する「詐害行為」に当たる場合には、取消しを行える余地もありますが、認められるのは簡単ではありません。

債務者が、財産を散逸・隠匿してしまうリスクが高い場合には、あらかじめ財産を保全する手続きを取っておく必要があるといえます。

強制執行手続きの流れ

強制執行では、まず申立てを行いますが、その後の手続きの流れは執行する内容によって異なります。

ここでは、代表的な強制執行である不動産執行(強制競売)、動産執行、債権執行、不動産の引渡しの流れについて簡単に見ていきます。

強制執行の申立て

強制執行を行う場合には、まずは判決や審判などの債務名義を取得します。また、承継執行文などの必要な執行文の付与と、債務者への債務名義の送達(「送達証明書」の取得)が必要です。

必要な書類を集めることができたら、各種強制執行の申立てを行い、必要な手続費用を予納します。特に、不動産執行の場合、100万円を超える予納金を裁判所に納めなければならないことがあるので、申立前にお金を準備しておくことも必要です。

不動産執行(強制競売)の概略

不動産の強制競売の手続きは、大まかに「差押え→換価→満足」の順に進んでいきます。

裁判所によって強制競売の開始決定がなされると、差押えの登記がなされます。差押登記により、債務者が不動産を売却してしまうといった処分を防ぐことができます。

その後、不動産の売却(換価)のため、「現況調査」や「評価」が行われ、「売却基準価格」が決定されます。売却は、期間入札・期日入札・競り売り・特別売却のいずれかの方法で行われます。売却を実施して買受人が決まると、代金が納付され、不動産の所有権は債務者から買受人に移ります。

売却代金は、差押債権者に配当され、債権を満足させます。

動産執行の概略

動産執行についても、大まかに「差押え→換価→満足」の順に進んでいきます。

動産については、登記制度が設けられていないので、執行官による占有により差押えを行います。執行官がその動産を債務者から取り上げる方法の他に、封印その他の方法で差押えの表示をしたうえで、債務者に保管させる方法によることも可能です。

差押えをした動産は、ほとんどが競り売りの方法で換価されます。他に、入札・特別売却・委託売却の方法もありますが、利用頻度は多くありません。

動産を売却できた場合には、売却代金が差押債権者に配当され、債権を満足させます。

債権執行の概略

債権執行では、主に給与や預貯金などの金銭債権を差押えの対象にします。

債権執行の申立てがなされた後、差押命令が債務者と第三債務者(債務者の勤め先や金融機関)に送達されます。差押えの効力は、第三債務者への送達が完了したときに生じます。

差押えがなされると、債務者はその債権を取り立てることができなくなり、第三債務者は債務者に弁済を行うことができなくなります。

差押命令が債務者に送達されて1週間が経過すると、差押債権者は、差押えた債権を第三債務者から直接取り立てることができるようになり、第三債務者からの支払いにより債権を満足させます。金融機関や大手企業の場合には、通常は任意に支払いに応じてくれますが、第三債務者が支払いに応じない場合には、債権者は第三債務者を相手取って取立訴訟を起こし、債権回収を図ることになります。

また、債権者は、取立てを行うのでなく、「転付命令」を求めることもできます。転付命令が出されると、債務者が第三債務者に対して有していた特定の債権が、そのまま債権者に移転します。他の債権者との競合があっても、特定の債権を独占できるメリットがありますが、一方で、第三債務者が無資力だった場合のリスクを負うというデメリットもあります。

不動産の引渡しの概略

不動産の引渡しは、債務者による対象不動産の占有を解いて、債権者に引き渡すことにより行われます。

執行官は、まず、1ヶ月の期限を定めて、債務者に「明渡しの催告」を行います。明渡しを求める不動産に債務者が居住している場合も多いことから、立ち退きの準備をさせる趣旨です。また、明渡しの催告により、債務者は不動産の占有を移転することができなくなり、仮に催告後に占有者が変わっても、承継執行文を取得することなしに明渡しを進めることができます。これにより、占有者を変えることによる執行妨害を防ぐことができます。

期限が経過した後、明渡しの「断行」がなされます。断行日には、執行官は強制的に不動産に立ち入ります。債務者が戸を開けない場合には、鍵を強制的に開錠し、中に入ることができます。執行官は、債務者や同居人に立ち退きを求めるとともに、家財道具を搬出します。また、債務者らから抵抗を受ける場合には、執行官は威力を用いることができますし、警察に援助を求めることもできます。人の立ち退きと物の運び出しが完了し、不動産が明け渡されると、不動産は債務者に引き渡されます。

養育費・婚姻費用でもって差押えをする場合の特例

養育費・婚姻費用は、子や配偶者の生活を維持するために重要な債権であることから、差押えの場面で、以下の特例が設けられています。

将来分も含めて差押えの効力を生じさせることができる

強制執行ができるのは、原則として、すでに支払い時期が過ぎて滞納になった債権です。もっとも、養育費・婚姻費用は、月数万円程度の少額の債権が毎月発生するという特質を持っています。滞納になるたびに差押えを行わなければいけないとすれば債権者に大きな負担になりますし、まとまった滞納額になるまで強制執行を控えていると、債権者や子の生活が困窮してしまうおそれがあります。

このため、養育費・婚姻費用については、差押えの特例が設けられています。

養育費・婚姻費用が、月払いなどで定期的に支払われることになっている場合、一部でも滞納があれば、支払い期限がまだ来ていない部分についても債権執行を開始することができるとされています。

例えば、月5万円の婚姻費用を支払うとする調停が成立しているにも関わらず、2ヶ月間滞納があった場合には、債権者は、まず、すでに滞納になっている10万円について差押えを行って回収することができます。さらに、今後定期的に支払われるべき月5万円ずつについても、1回の差押えで効力を及ぼすことができ、債務者の毎月の給与債権などから直接取り立てることができるようになります。

なお、慰謝料を分割払いにした場合には、この特例は適用されず、原則どおり、すでに支払い時期が過ぎた部分のみ強制執行が可能です。1回の差押えできちんと効果を上げるためには、和解する際に「〇回滞納があった場合には、当然に期限の利益を失い、直ちに債務の全額を弁済しなければならない。」といった「期限の利益喪失条項」を設けておく必要があります。

差押禁止債権の範囲が緩和される

すでにご説明したとおり、給与などの債権は3/4が差押禁止債権とされていますが、養育費・婚姻費用の滞納により差押えを行う場合には、差押禁止の範囲は手取額の1/2に減額されます。

債務者の持つ財産を把握できていない場合

別居や離婚から長期間経過しているような場合、債権者は、債務者の勤め先や財産の所在を把握していないことがあります。

民事執行法改正以前は、債権者が口座を有していそうな銀行を推測して差押えを試みるといった方法を取らざるを得ず、せっかく差押えを申立てても空振りになるケースがありました。弁護士が、弁護士会照会によって、金融機関に債務者の口座の有無を照会することもありましたが、金融機関の回答が必ずし得られるとは限らない状況でした。

また、職場については情報を得る手段がありませんでした。

民事執行法改正により、「財産開示手続」の改善がなされるとともに、「第三者情報取得手続」が新設され、債権者は債務者の財産情報にアクセスしやすくなりました。特に、第三者情報取得手続の新設により、かなり強制執行は行いやすくなったといえます。

財産開示手続

財産開示手続は、債務者(開示義務者)が財産開示期日に裁判所に出頭し、債務者の財産状況を陳述する手続です。債務者が出頭しなかったり、虚偽の陳述をした場合には刑事罰が科されることがあります。

給与及び不動産について、後述の第三者情報取得手続を利用するためには、この財産開示手続を先行させることが必要とされています(預貯金・株式に関して財産開示手続の先行は要件とはされていません)。

法改正により、財産開示手続に使える債務名義の範囲が拡大し、不出頭・虚偽の陳述の場合の刑事罰が重くなるという改正がありました。

もっとも、あくまでも債務者の陳述内容に頼るものであるため、強制執行を行う側にとってはあまり使い勝手のよくない手続きであるといえます。

第三者情報取得手続

第三者情報取得手続は、次の4種類の情報を取得することができる手続です。

第三者情報取得手続
取得できる情報 回答する第三者 利用できる請求権の種類
土地・建物に関する情報 登記所(法務局) 制限なし
給与の支給者に関する情報
(債務者がどこから給与をもらっているか)
市町村、年金機構 ①養育費・婚姻費用その他扶養義務
②人の生命・身体の侵害による損害賠償請求権
預貯金口座の情報 金融機関(銀行、信用金庫、農協等) 制限なし
株式・国債等の口座情報 金融機関(銀行、証券会社等) 制限なし

債権者から申立てがあると、裁判所は金融機関等の「第三者」に情報を提供するよう命令を出します。第三者は、それに応じて情報を回答してくれるため、債権者は、債務者の持っている財産についての情報を得たうえで強制執行を行うことができます。

また、第三者情報取得手続が行われたことが債務者に通知されるのは、最後の第三者から回答が来てから1か月後なので、速やかに強制執行に着手すれば、債務者に財産隠しをされることなく差押えが可能です。

養育費や慰謝料の滞納が発生したら一度弁護士へ相談する

養育費や財産分与、慰謝料などの支払いがきちんと履行されない場合には、様々な強制執行の手段により、回収を図ることができます。特に、養育費の支払いが滞った場合などには、金額も大きくないからと不払いを諦めてしまう方も多くいらっしゃいますが、きちんと債務名義を取得し、強制執行を行うことで、回収が可能なケースが多くあります。

強制執行は、離婚調停などと異なり、申立ての決まり事や準備すべき書類も多いですし、財産を強制的に押さえるという性質上、債務者が感情的になることも多い手続きです。ご自身だけで行うのは大変な場合が多いといえますので、債務者からの支払いが滞る場合には、弁護士に相談してみましょう。

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この記事の監修

離婚・不倫は、当事者の方を精神的に消耗させることが多い問題です。また、離婚は、過去の結婚生活についての清算を図るものであると同時に、将来の生活を左右するものであり、人生全体に関わる問題といえます。
各問題を少しでもよい解決に導き、新しい生活をスタートさせるお手伝いができれば幸いです。

弁護士三浦 知草

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