離婚の年金分割に関する問題について
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event_repeat最終更新日:2023年12月21日
熟年離婚について
厚生労働省が2022年8月24日に発表した「令和4年度 離婚に関する統計の概況」を読み解いていくと、離婚においては2002年(平成14年)の約29万組をピークに減少傾向が続いています。しかし、一方で、同居期間が20年以上のいわゆる「熟年離婚」と見られるケースでは上昇傾向が続き、2020年(令和2年)には全体の21.5%となっています。
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熟年離婚においては同居期間が長いことから、財産分与をはじめ、さまざまな協議を行う必要が出てきますが、年金の分割についても協議にあがると考えられます。しかし、「年金分割すれば、配偶者の年金を分けてもらえるのだろう。」というようなぼんやりした理解のまま離婚を進めると、思わぬ結果になってしまいかねません。
ここでは、離婚において年金分割の方法や仕組みについて解説します。
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離婚における年金分割とは?
熟年離婚となれば、年金分割についての検討をはじめ、その仕組みを理解しておく必要があります。ここでは、年金分割の内容について説明します。
年金分割の仕組みについて
年金分割制度は、厚生年金について、婚姻期間中の保険料の納付記録を夫婦で分割する制度です。そのため、年金分割制度の目的は、老後の生活での夫婦の公平を図ることにあります。
元来日本では、夫が外で働いて給料をもらい、妻は育児や家事をして夫を支えるという家庭生活が長く主流でした。そのため、男女間で、雇用や給与の格差が大きく開きました。現役時代のこれらの格差は、リタイア後の年金格差にもつながります。離婚後、夫は厚生年金を受け取れる一方で、妻は厚生年金が少額またはゼロという事態になりました。このような年金における不公平を是正し、婚姻期間中に夫の労働を支えた妻の貢献を年金にも反映させようというのが年金分割制度です。
年金分割されるのは厚生年金のみ
年金分割手続きで分割されるのは、いわゆる「2階部分」といわれる厚生年金のみです。
「1階部分」にあたる基礎年金の記録については分割されません。例えば、夫が自営業者で妻が専業主婦という夫婦の場合、夫は通常、国民年金にしか加入していませんから、妻は年金分割の請求ができないことになります。
また、企業年金などの「3階部分」も分割の対象ではありません。企業年金の分割は、財産分与の問題として扱われます。決まった分割の方法はありませんが、退職金や生命保険に近い分け方になるケースが多いです。財産分与の取り決めをするときには、企業年金を漏らさないよう注意が必要です。
年金の「金額」ではなく、「納付記録」を分割する
少しわかりにくいのが、年金分割は、年金保険料の「納付記録を分ける」ものだという点です。
妻(専業主婦)が夫(現役時代は会社員)に対する年金分割を請求し、50%ずつの割合で分割を行った例で説明します。
実際に厚生年金の保険料を支払っていたのは夫のみで、専業主婦で夫の扶養に入っていた妻は支払いをしていません。この夫婦が離婚すると、夫は、厚生年金をもらえる一方で、妻は基礎年金しかもらえないことになり、もらえる年金の金額に大きな不公平が生じます。
一方で、年金分割をすると、夫が支払ってきた保険料のうち、夫が50%、妻が50%を各自で支払ったものとして記録がなされます。納めてきた年金保険料が多ければ年金も増えますから、これにより妻が受け取れる年金の金額が増えることになります。
年金分割すれば、配偶者のもらっている年金の半額をもらえるようになる、と誤解されている方が多いので注意しましょう。実際にもらえる金額がいくらになるのかについては、後で述べる「情報通知書」で確認が必要です。
年金分割の進め方について
年金分割の手続きは、①離婚と同時に年金分割の問題も取り扱う方法と②離婚後に年金分割のみを行う方法があります。
①については、離婚協議のなかで年金分割について合意したり、離婚調停や裁判のなかで年金分割について取り決めたりする方法です。
②については、離婚から2年以内に年金分割請求を行わなければなりません。期限を過ぎると、年金分割請求ができなくなってしまうため注意が必要です。なお、離婚から2年以内に年金分割の調停・審判を申し立てた場合には、調停・審判の進行中に2年が経過しても年金分割の請求は可能です。請求期限が近い場合には、早めに弁護士に相談するなどし、調停・審判申立てを行いましょう。
年金分割の種類について
年金分割の仕組みや内容について説明しましたが、年金分割には「合意分割」と「3号分割」があります。2007年(平成19年)に「合意分割」の制度ができ、次いで2008年(平成20年)に「3号分割」の制度ができました。この二制度は、夫婦間の不公平を是正するという目的は同一ですが、制度としては別々に設計されたもので、「合意分割」から「3号分割」に切り替わったわけではなく併存しています。
「3号分割」を請求できるのは、2008年4月以降に、専業主婦(主夫)などの「第3号被保険者」だった期間がある人です。それ以外の場合には「合意分割」を請求することになります。なお、「合意分割」という名称ですが、実際に夫婦が合意することが必須なわけではありません。
合意分割について
合意分割は、3号分割できる場合以外のケースを対象とした、厚生年金記録を分割する制度です。「離婚分割」とも呼びます。
熟年夫婦の場合、2008年4月よりも前から婚姻している方も多いと思われますが、2008年4月より前の婚姻期間分の年金分割については、すべて合意分割で行います。また、夫婦がともに会社勤めで厚生年金に加入していた場合についても、厚生年金の保険料を多く支払った側から少ない側に年金記録を分割することになります。
制度の名称は「合意分割」ですが、離婚に際しては、必ずしも夫婦で合意できるケースばかりではありません。協議が整わない場合には、離婚手続きのなかで一緒に取り扱う(「附帯処分」といいます)か、年金分割のみを調停・審判で取り決めるか、いずれかの手続きにより年金分割を行います。
3号分割について
3号分割は、2008年4月以降に第3号被保険者だった方が対象です。分割してもらうべき側(被扶養者)が単独で請求でき、一律で50%の割合の分割がなされます。夫婦間の合意や、裁判所での手続きは必要なく、年金事務所での手続きのみで実施できます。
合意分割と3号分割の両方適用されるケースもある
婚姻期間中に、2008年4月以降に第3号被保険者だった期間と、そうではない期間がある場合、合意分割と3号分割の両方が適用されることになります。
具体的には、2008年4月以前から結婚している専業主婦(主夫)の方や、会社勤めをしていた時期と専業主婦(主夫)だった時期の両方がある方などのケースになります。
両方が適用される場合、合意分割の請求をすると、3号分割も同時に請求したものとみなされるので、別途3号分割の請求は不要です。
離婚の際は年金分割をした方がよいのか?
では、実際の離婚の際に年金分割をするべきなのでしょうか。ここでは、そのメリット・デメリットについて解説します。
年金分割を行うことのメリット・しないことのデメリット
年金分割は、夫婦間の厚生年金保険料の納付額を公平にする制度です。そのため、基本的には給与などでの収入が、配偶者よりも少なかった方・まったくなかった方にとって、メリットがある制度になります。現在の日本では、妻側が年金分割によって、もらえる年金額が増えるメリットを受けることが多くなっています。
年金分割を請求しなければ、会社勤めをせずに配偶者を支えてきた専業主婦(主夫)の老後の収入は基礎年金のみとなりかねません。月々の収入額に直結する問題ですので、請求する側にとっては年金分割を請求しないデメリットは大きいといえます。
また、給与等の収入が少ない側にとっては、基本的に年金分割をすることのデメリットは考えにくいです。
もっとも、あくまでも年金の「納付記録」の半分を分ける制度ですから、分割後にもらえる年金額が、予想よりも少ないということもあり得ます。
年金分割さえすればたくさん年金がもらえるはずと見込んで、財産分与額などの離婚条件を安易に妥協することには慎重になった方がよいでしょう。
また、会社勤めの時期と自営の時期とが双方にあるような夫婦や、互いに給与収入の増減が大きい夫婦の場合、どちらからどちらに年金の記録が分けられるのか明らかでないこともあります。年金分割請求を行う前には、必ず「情報通知書」の内容を確認して、分割した場合の見込み額を確かめましょう。
分配割合の合意をする場合
合意分割の場合には、当事者が50%以外の割合で合意することもできます。もっとも、大多数の方は50%で合意を行うようです。また、審判や離婚訴訟などで、裁判所が分割割合を決める際には、ほとんどの場合50%としています。年金記録を渡す側の相手から、50%より小さい割合でなければ合意しないと主張されるような場合には、無理に合意にこだわらず、調停・審判などの裁判所手続きを利用しましょう。
年金分割にあたってその他の注意点
ここまで年金分割に関するメリット・デメリットについて説明してきましたが、この他にも注意するべき点がいくつかありますので、簡単にまとめました。
- 受け取る側にも受給資格が必要
年金分割で記録を分けてもらう側の当事者は、年金受給資格を満たしていることが必要です。このため、年金保険料の滞納がある方などは注意してください。また、年金分割は国籍に関わりなく請求できますが、外国から移り住んできた方は、加入期間の要件を満たしているかをあらかじめ確認しましょう。
- 後で変更することはできない
いったん決められた年金分割の割合は、後から変えることができません。再婚などで事情が変わったとしても、割合を増減させたり、分割をやり直すことはできません。
- 清算条項を定めても年金分割はできる
協議や調停で離婚をする場合、協議書の最後に「本協議書に定めるもののほか、何らの債権債務がないことを相互に確認する」といった清算条項を入れることが一般的です。清算条項を設けると、後から財産分与や慰謝料などを請求することはできなくなります。
一方で、年金分割については、合意分割請求・3号分割請求ともに、清算条項によって妨げられないという見解が有力です。年金分割の請求権は公法上の請求(妻から夫(夫から妻)への請求ではなく、厚生労働大臣などへの請求)と考えられているためです。
「清算条項を入れたので、お金関係のことは全部終わった」というつもりでいると、思いがけず年金分割請求を受ける場合があるので注意が必要です。
年金分割の手続きについて
年金分割の手続きについて、合意分割と3号手続きそれぞれの流れについて説明します。
合意分割の手続き
- 1、情報通知書の取得
合意分割の場合、まずは年金事務所から「情報通知書」を取り寄せる必要があります。情報通知書は、年金記録を分ける割合を決めるために必要な情報を記載した書類です。情報通知書を請求する際、年金見込額の照会を希望すれば、分割後にもらえる年金がいくらになる見込みなのかを知ることができます。特に、財産関係に不安がある場合や、夫婦どちらの厚生年金支払額が多いのかわからない場合には、必ず見込み額を確認しましょう。
- 2-1、年金分割を合意できた場合
夫婦で協議し、分割割合の合意ができた場合には、合意したことを証明する書類を用意します。合意を証明する書類は3種類あります。
- 公正証書
- 公証人の認証を受けた私署証書
- 年金分割の合意書
2の公証人の認証を受けた私署証書を利用する場合には、公証役場で手続きが必要です。夫婦双方で公証役場に行くことが必要になるので、詳細は最寄りの公証役場にお問い合わせください。
3の年金分割の合意書(書式は日本年金機構のホームページなどで取得)を利用する場合には、夫婦ふたりで揃って年金事務所まで合意書を持参するのが原則です。
年金分割について口頭で合意したり、自分達で合意書を作ったりするだけでは手続きは進められませんので、注意が必要です。
- 2-2、年金分割を合意できない場合
離婚はしたが、年金分割の合意ができないという場合には、年金分割を求める調停・審判を行います。年金を分割する割合を定めた調停調書や審判書が、合意を証明する書類の代わりになります。また、裁判離婚をする場合には、裁判の中で年金分割の問題も扱うことを請求します。判決書や和解調書のなかに、年金分割の割合も記載してもらうことで、年金分割請求を行えます。
注意点としては、裁判所で取り決めるだけでは年金分割の請求をしたことにはならないことです。裁判所で作ってもらった書類(調停調書や判決書等)を、次に説明する3の手続きの際に提出してはじめて請求完了となります。
- 3、年金分割の請求
「年金分割を合意できた場合」・「年金分割を合意できない場合」で説明したような書類を揃えたところで、ようやく年金分割の請求をする準備が整います。「標準報酬改定請求書」に、「年金分割を合意できた場合」・「年金分割を合意できない場合」で説明した各書類、年金手帳等の基礎年金番号を明らかにすることができる書類(年金手帳など)や戸籍謄本を添付して、管轄の年金事務所に提出すれば、請求が完了します。「標準報酬改定請求書」の書式の取得は日本年金機構のホームページからも行えます。添付資料などの詳細は、お近くの年金事務所にお問い合わせください。
3号分割の手続き
3号分割のみを行う場合、分割を請求する方(第3号被保険者)が単独で手続きを行えます。離婚が成立した後に、「標準報酬改定請求書」に添付書類を添えて、管轄の年金事務所に提出します。詳細は、お近くの年金事務所にお問い合わせください。
離婚協議及び年金分割で折り合いがつかなければ弁護士に相談する
ここまで離婚時における年金分割の仕組みについて解説してきましたが、特に熟年離婚となるケースにおいては、老後に備えて年金分割に関する協議をしっかり詰めておく必要があるのかもしれません。
離婚協議がまとまらず、年金分割の話に辿り着けないなど、離婚協議の合意と年金分割の協議に不安があるときは、一度弁護士にご相談されることをおすすめします。
離婚・不貞に関する問題は弁護士へご相談ください
この記事の監修
離婚・不倫は、当事者の方を精神的に消耗させることが多い問題です。また、離婚は、過去の結婚生活についての清算を図るものであると同時に、将来の生活を左右するものであり、人生全体に関わる問題といえます。
各問題を少しでもよい解決に導き、新しい生活をスタートさせるお手伝いができれば幸いです。
弁護士三浦 知草
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上野法律事務所
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