熟年離婚のメリット・デメリットについて
calendar_today公開日:
event_repeat最終更新日:2023年12月21日
熟年離婚について
結婚直後は不満のある相手の行動や態度に対して多少の我慢はできたものの、長年にわたりそうした不満が積み重なり、本当は離婚したかったが子どもが生まれたり、成長過程での経済的な負担や子どもの将来を考えると安易に離婚に踏み込めず、浮気・不倫といった離婚事由があったとしても、気持ちを抑えて婚姻生活を続けている方も多く見受けられます。
しかし、子どもが成人して独立するなど、これまでの負担からある程度開放され、パートナーと2人きりになったとき、離婚を真剣に検討する方も増えてきています。
同居期間が20年以上のいわゆる「熟年離婚」と見られるケースが上昇傾向にあることも、厚生労働省の調査でも見えてきていることから、当面はそうした傾向が続くと見られます。
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ただ、熟年離婚の場合、ご自身のお気持ちを貫き通して離婚に踏み切ることが結果としてよい方向に向かうこともあれば、経済面で新たな負荷がかかる可能性もあるため、離婚協議を進める前に、老後の生活に対するリスクについても注意しなければなりません。
ここでは、熟年離婚におけるメリット・デメリットや、離婚に向けて準備すべき事項について解説します。
- この記事の内容
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熟年離婚のメリットとは?
長年の婚姻生活を通じて相手に対する不満が蓄積していると、「子どもが社会人となり親の職責を果たした」、「定年退職をきっかけに自由になりたい」など、大きな節目を迎えたタイミングで、離婚の検討を本格的に始める方もおられるでしょう。
熟年離婚のメリットには、次のようなものがあります。
- DVやモラハラからの解放
熟年夫婦の場合、長年にわたるDVやモラハラの苦しみから解放されることは大きなメリットです。
配偶者のことを気にせず、自分のために時間やお金を使えることもメリットといえるでしょう。
- 将来の介護からの解放
将来配偶者の介護が必要となる場合に、ご自身が介護を担うことを免れることができます。
- 親族関係からの解放
配偶者の親族と折り合いが悪い場合や、親族に介護が必要な場合など、関係を断つことができます。
- ご自身の財産が配偶者に相続されない
離婚することで、万が一ご自身が配偶者より先立ってしまうような場合、配偶者が財産を相続してしまうのを防ぐことができます。特に、先祖代々の土地などがご自身の財産の中心となっている場合、きちんと遺言を作成しておかないと、その土地にゆかりのない配偶者に土地が渡り、処分されてしまう可能性もあります。
対して、ご自身の親からの相続財産などの「特有財産」は、離婚時の財産分与の対象とはなりません。離婚することで、先祖から受け継いだ土地などを配偶者が取得することを防ぐことができます。
熟年離婚のデメリットとは?
熟年離婚で得られるメリットも、それぞれの価値観や感じ方によって大きく変わるところもありますが、これまで抑圧されてきた気持ちを開放して自由に生きたいという想いが一番にあるのかもしれません。
しかし、熟年離婚の場合、老後の未来も見据えておかなければなりません。経済面やお体の面にも注意を払う必要が出てきます。
次に、熟年離婚のデメリットについて見ていきたいと思います。
- 経済的に不安定になる
熟年離婚の最大のデメリットは、経済的な不安定・困窮を招きやすいことです。
リタイアして収入が減少し、年金とこれまで貯めてきた財産の切り崩しとで生活している世帯が多くなります。現在は働いて男性並みの収入を得ている女性も増えつつありますが、熟年夫婦の場合、男性は外で働き女性は家庭を守るというスタイルで現役時代を送った世帯が多くあります。そのため、特に妻側は、きちんと財産を確保して離婚をしないと、困窮する可能性があるのです。
逆に夫側は、財産分与や年金分割によって、将来使えると見込んでいた財産が減り、老後の生活の目算が狂うことも考えられます。
- 配偶者からの扶養や介護が受けられなくなる
夫婦間には扶養義務がありますが、離婚することでお互いにこの義務がなくなります。
このため、自分に医療や介護が必要になったときに、配偶者からサポートを受けたり、費用を負担してもらったりすることができなくなります。
- 配偶者の財産を相続できなくなる
夫婦は互いに法定相続分を持っており、配偶者死亡時に残っている遺産を相続できます。また、「配偶者に相続させない」という遺言があった場合でも、遺留分が確保されます。
離婚する場合でも、財産の半分を分与してもらえるから相続と同じだと考える方もいらっしゃるかもしれません。この点、配偶者の方がご自身の親から相続したり、贈与を受けたりした「特有財産」は、相続の対象となりますが、財産分与の対象にはなりません。親から引き継いだ財産が多い場合、遺産分割と離婚の財産分与で大きな差がつくことも考えられます。
熟年離婚に向けた準備の進め方について
ここまで熟年離婚のメリット・デメリットについて見てきましたが、単純にメリット・デメリットを天秤にかけて離婚をする・しないを判断できるほど単純なものではないと思います。
離婚をして老後はストレスなく自由に生きたいという想いが強いとき、どのような準備や注意をしながら進めるべきでしょうか。
離婚に向けての準備で注意すべきこと
財産関係などで思わぬ不利益を被らないように、どのような準備をすればよいかを説明します。
なお、配偶者からの激しい暴力などで身の危険がある場合には、離婚準備よりも安全確保が最優先です。警察や女性サポートセンターなどにご相談ください。
- 財産を把握する
財産分与をきちんと受けるために、配偶者の財産を把握しておきましょう。のちに調停や裁判の中で開示を請求する場合にも、金融機関名や支店名は把握しておきたいところです。同居中であれば、次の項目を確認するようにしてください。
- どこの銀行のどこの支店の通帳・キャッシュカードがあるか
- 生命保険会社や証券会社からのハガキや封書が届いていないか
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- 年金見込み額を把握する
離婚した場合にいくら年金をもらえるのか、ご不安に感じる方も多いと思います。
離婚時には、「年金分割」の手続きをとることで、これまで夫婦が納めてきた厚生年金保険料の記録が分割されます。
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年金分割に必要な書類である「情報通知書」を請求する際に希望すれば、年金分割した場合の年金見込み額を知ることができます。離婚すると自分のもらえる年金がいくら増えるのか、減るのかをあらかじめ確認しておくとよいでしょう。
- 介護費用や医療費の負担を調べる
離婚して自分が病気をしたり、介護が必要になったりした場合のことに不安を感じる方も多いと思います。
離婚すると、配偶者から世話をしてもらうことはできなくなりますが、介護保険制度や、高額療養費還付といった健康保険の制度で、ご自身の金銭負担を圧縮することができます。医療費・介護費の漠然とした不安から離婚をためらっている方は、一度制度を調べてシミュレーションしておきましょう。
- 契約関係の切り替え
保険料や携帯電話などの契約の当事者が配偶者になっている場合、ご自身名義での契約に切り替える準備を進めましょう。配偶者のクレジットカードでの支払いや口座振替になっているものも同様です。配偶者名義のままにしておくと、解約されたり支払いが滞ったりして、思わぬトラブルになることがあります。
- 必要な荷物の持ち出し
離婚に向けて別居する際には、必要な荷物を全て持ち出しましょう。
別居後に、配偶者の住む元の住まいに勝手に荷物を取りに入るのはトラブルの原因となります。また、残念ながら、置いてきた荷物の引き渡しを拒否されたり、断りなく処分される例もあります。
離婚を拒否された場合の準備について
離婚を要求された配偶者は、長年慣れた生活を変えたくないといった気持ちから拒否することもあります。また、熟年離婚の場合、これまでに築き上げてきた財産が大きい一方で、これから財産を増やせる可能性は高くないことから、退職金や年金などの財産を分けることに難色を示されることもしばしばです。
ここでは、配偶者が離婚に応じない場合にすべき準備について説明します。
離婚するために別居する
離婚を拒否されても、自身の離婚の意思が揺らぐことがないのであれば、離婚の準備として別居の検討も必要になってきます。
配偶者がどうしても離婚に応じない場合、最終的には訴訟を起こし、裁判所から離婚を認める判決をもらうことが必要になります。
裁判の際、「暴力」「不貞行為」「家に帰らずお金も入れない」など、配偶者の側に明らかに婚姻関係を破綻させる事柄がある場合には、その有責性を理由に離婚が認められます。
対して、「性格の不一致」「配偶者の両親と折り合いが悪い」「家事や育児に非協力」などの理由であれば、それのみで離婚が認められるのは困難です。
熟年離婚の場合、長年にわたり言葉の暴力や束縛などで精神的苦痛を受けていることもあります。しかし、こうしたモラハラ行為は、証拠として残すことも難しく、離婚原因としてはなかなか認められません。また、何年も前に不貞や暴力行為があった場合でも、すでに証拠がなくなっているという熟年離婚特有の問題もあります。
こうした証拠のないケースで離婚が認められるために必要なのが、別居期間を置くことです。
お互いに有責性がない夫婦であっても、別居をすることで、婚姻関係の破綻が認められます。個別のケースで異なりますが、目安としては、裁判時までに3〜5年の別居が必要です。
逆に、いかに関係が冷え込んでいても同居したままだと、裁判所に破綻を認めてもらうのが非常に難しくなります。離婚を決意したら、別居の準備を進めましょう。
離婚に向けて証拠を確保する
配偶者が原因で婚姻関係が破綻したのであれば、その証拠を集める必要があります。
証拠にできる例として、以下のようなケースが挙げられます。
暴力を受けてケガをした、適応障害などに罹患した | 診断書をとる |
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配偶者が物に当たる、壁やガラスを壊す | 壊れた物や家の写真を撮る |
暴言・モラハラ発言 | 録音やライン・メールデータの確保 |
この他にも証拠になりそうなものは確保しておきましょう。一つひとつの証拠は小さくても、積み上げることで婚姻関係の破綻が証明できることもあります。配偶者からされた嫌なことを思い出すので捨ててしまいたいと感じるかもしれませんが、可能な限り保管しておきましょう。
遺言を作成する
離婚を拒否され、裁判で争うことになると、離婚成立までに年単位の時間を要することもあります。
離婚成立前にご自身や配偶者が亡くなってしまい、相続が起きることもないわけではありません。もし、配偶者にどうしても渡したくない財産がある場合、万が一に備え、遺言を作成しておきましよう。
また、婿養子のように、配偶者がご自身の両親と養子縁組している場合には、配偶者も両親の相続人になります。離婚係争中に両親が亡くなった場合、配偶者も財産を相続してしまいますので、配偶者に渡したくない財産については、両親に遺言を書いてもらうのが安心です。
婚姻費用の分担請求をする
別居後、収入の少ない側は、多い側に婚姻費用(毎月の生活のための費用)を支払うよう請求することができます。
婚姻費用分担請求の調停を申し立てた月から婚姻費用を受け取る権利が具体化しますので、配偶者が離婚に応じない場合には、できるだけ早く申し立てを行いましょう。
離婚に向けたその他の注意点
- 婚姻費用は、離婚が成立するまでの期間発生する
別居して夫婦としての実態がなくなった後も、収入の多い方は収入の少ない方に婚姻費用を支払い続ける義務が生じます。毎月数万円を支出することになるので注意しましょう。場合によっては、財産分与に少し上乗せをして支払った方が、配偶者に渡す総額が減るようなこともあり得ます。
- 慰謝料が認められないケースが多い
配偶者の長年にわたるモラハラや思いやりのない態度に対し、慰謝料を請求したいと希望される方も多いと思います。
しかし、暴力や不貞といった明らかな有責事由がないケースでは、裁判所に慰謝料を認めてもらうのはなかなか難しいのが現実です。「慰謝料」という名目に無理にこだわるよりも、財産分与や婚姻費用請求などでもらうべき金銭をしっかり受け取りましょう。
- 時効・除斥期間に注意する
離婚自体は先に成立させ、後から財産分与や年金分割を請求しようと考えている場合、時効に注意してください。
- 財産分与請求:離婚から2年
- 年金分割請求:離婚から2年(除斥期間)
- 離婚慰謝料請求:離婚から3年
なお、不貞による慰謝料請求の場合、不貞相手への請求は不貞発覚から3年で、配偶者に対する請求と時効にかかる時期が異なります
財産分与で折り合いがつかなければ弁護士に相談する
ここまで熟年離婚のメリット・デメリットを通じて離婚に向けた準備や注意点について説明してきましたが、一番注意しなければいけないのは、老後の経済面かもしれません。
離婚に際して、ときに妥協が求められることもありますが、熟年離婚において安易な妥協や将来の経済面を危うくする可能性もあるため、より慎重に行う必要があります。
熟年離婚協議でなかなか話し合いがまとまらないなど、協議が停滞して前に進まない場合は一度弁護士にご相談されることをおすすめします。
離婚・不貞に関する問題は弁護士へご相談ください
この記事の監修
離婚・不倫は、当事者の方を精神的に消耗させることが多い問題です。また、離婚は、過去の結婚生活についての清算を図るものであると同時に、将来の生活を左右するものであり、人生全体に関わる問題といえます。
各問題を少しでもよい解決に導き、新しい生活をスタートさせるお手伝いができれば幸いです。
弁護士三浦 知草
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上野法律事務所
- 東京弁護士会
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