浮気・不倫相手に慰謝料を請求する方法と流れについて
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浮気・不倫の慰謝料請求について
パートナーに浮気・不倫の不貞行為が発覚したら、多くの場合その行為に激怒し、痛憤と諦念の気持ちが入り乱れ、裏切られた思いも重なり呆然とされるかと思います。
こうした不貞行為に対し、不倫相手に慰謝料請求を検討される方は多く、当事務所でも多くの相談を受けております。
では、配偶者の不倫相手に慰謝料を請求するにはどのような準備が必要になるでしょうか。
ここでは、浮気・不倫で慰謝料請求を検討しているときに準備すべきことや実際の慰謝料請求の流れなどについて解説します。
- この記事の内容
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配偶者の不倫相手に慰謝料を請求するための条件とは?
不貞相手への慰謝料請求は、「不法行為による損害賠償請求」と呼ばれる請求の一種です。
不法行為による損害賠償請求が認められるためには、「故意・過失によって他人の権利を侵害して損害を発生させたこと」が要件となります。
不貞慰謝料に引き直して考えると、不貞相手が「既婚者であることを知っていたのに(または少し注意すれば知ることができたのに)、被害者の配偶者と肉体関係を持ち、被害者が平穏な結婚生活を送る権利を侵害して夫婦関係を破綻・悪化させ、被害者に精神的苦痛を与えた」ことが必要です。1つ1つの要素を少し詳しく見ていきます。
- 既婚者であることを知っていたこと・過失により知らなかったこと
不貞相手が、相手が既婚者であることを知ったうえで肉体関係を持っていることが必要です。
既婚者ではないと信じていた場合には、少し注意を払えば容易に既婚者であることがわかったといえることが必要になります。
配偶者が自らを独身だと偽って肉体関係を持っており、不貞相手がそれを信じることが状況からしてやむを得ないような場合、不貞相手に慰謝料を請求することはできなくなります。ただし、ご自身から配偶者に慰謝料を請求することは可能です。
- 肉体関係の存在
「不貞行為」であるといえるための前提として、肉体関係の存在が必要です。
手をつないでいる、親密そうなメールやLINEをしているといった事情だけでは慰謝料請求は困難です。
- 不貞のせいで夫婦関係が破綻・悪化したこと
不貞行為以外の原因で夫婦関係が破綻していたような場合、不貞と夫婦関係の破綻との間に因果関係がないため、慰謝料請求をすることはできません。不貞開始以前から、すでに離婚を前提とした別居や協議が行われていた場合、慰謝料請求はできない可能性が高いといえます。
なお、実際には不貞以前の夫婦関係が破綻していなくとも、不貞相手が破綻を信じており、信じるのもやむを得ない状況だった場合には、故意・過失がないとされて慰謝料請求ができない可能性もあります。もっとも、単に配偶者が「離婚しようと思っている」と言っていたという程度では、この反論は通りません。離婚調停や別居生活など、信じてもやむを得ないといえるだけの事情が必要になります。
浮気・不倫の慰謝料請求には証拠と相手の名前・住所が必要
不貞慰謝料を請求するためには、不貞行為の証拠が必要です。
証拠としては、不貞相手と配偶者が一緒にホテルに入っていく写真、肉体関係があることがわかるLINEやメールなどのやり取り等があります。単に手をつないで外出している写真や「好き」「愛してる」等のやりとりだけでは、肉体関係の証明としては不十分なことがほとんどです。
また、配偶者や不貞相手が、不貞行為を自白した録音や文書も証拠になります。写真などの客観的な証拠が乏しい場合には、配偶者に不貞行為を認める念書や謝罪文を書いてもらうといったことも考えられます。この際、「つきあっていた」「好意を持っていた」といった文面では、後に肉体関係まではないと言い逃れされることがあるので、表現には注意しましょう。
不貞の慰謝料請求には、原則として、相手方の名前と住所がわかっていることが必要です。裁判で慰謝料請求を行う場合、被告の住所に訴状送達ができる必要があるためです。
「前に住んでいた場所はわかるが、引っ越してしまった」「住所はわからず、携帯電話の番号しかわからない」などの場合には、弁護士が調査することができる場合もありますので、わかる限りの情報を集めて弁護士に相談してみましょう。
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浮気・不倫相手だけの慰謝料請求は求償権を行使されることがある
不貞行為は、不貞相手と配偶者とが共に責任を負うべきものですから、慰謝料支払い義務は、不貞相手と配偶者が全額連帯して負うことになります。したがって、不貞相手は、被害者との関係では、「私は自分の分を支払ったから、残りは配偶者に請求してくれ」ということはできません。
一方で、不貞相手と配偶者との間では、「私は自分の分を超えて、あなたが負担すべき分まで被害者に支払ったから、払い過ぎた分を私に支払ってほしい」と請求することができます。この権利が「求償権」です。
被害者としては、不貞相手から慰謝料全額を受け取る権利がありますが、全額を支払った不貞相手は、配偶者に求償権行使を行う可能性があります。
不貞後も配偶者と同一家計の場合など、求償権を行使されることを避けたい場合には、示談時に求償権放棄の条項を設けることが必要です。
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浮気・不倫相手に慰謝料を請求できないケースとは?
配偶者の浮気が発覚し、強い精神的苦痛を受けたとしても、次のような場合には慰謝料請求をすることはできません。
- 配偶者が既婚者であることを不貞相手が知らなかった
不貞相手が、「自分が肉体関係を持っているのは既婚者である」ということを知らない場合には、不貞を行う認識(故意)がないため、慰謝料請求は行えません。この場合、慰謝料請求できるのは配偶者に対してのみです。
なお、既婚者だと知らないことに過失がある場合には、慰謝料請求が認められます。もっとも、既婚者だと知っている場合に比べると、金額が低くなってしまうことが見込まれます。
- 肉体関係がない・証拠がない
そもそも肉体関係がない場合には慰謝料請求はできません。親密そうなLINEのやりとりや二人でのデートが発覚しただけでももちろん精神的な苦痛はあるでしょうが、慰謝料請求の対象となるような違法な行為とは評価してもらえません。
また、実際には肉体関係を持った疑いがあっても、本人たちが肉体関係の事実を認めず、かつ、肉体関係の証拠がない場合には、慰謝料請求は認められません。
- 不貞以前から夫婦関係が破綻していた
不貞が行われる以前から夫婦関係が破綻していた場合、不貞によって夫婦関係が破綻したとはいえないため、慰謝料請求はできません(最高第3小法廷判決平成8・3・26)。
不貞が行われた時点で、既に離婚を前提にした別居をしていたり、離婚調停が進んでいる場合には、慰謝料請求が認められない可能性が高くなります。
なお、不貞相手から「配偶者からもう夫婦関係が破綻していると聞いていた」と反論されることがしばしばありますが、それだけで慰謝料が認められなくなるわけではありません。
- 時効にかかっている
慰謝料請求権は、「損害及び加害者を知ったとき」から3年で時効にかかってしまいます。不貞慰謝料請求の場合、不貞発覚から3年が経ってしまうと請求できなくなります。
- 不貞相手が特定できない
不貞相手がどこの誰なのかが特定できないと慰謝料請求を行うことはできません。
連絡が取れれば請求の意思を伝えることは一応できますが、相手が連絡を絶ってしまうとそれ以上講じる手段がなくなってしまいます。
有効性の低い証拠しか集められない場合の対応について
不貞をしていることが疑われるが、手元に有効な証拠がない・相手方を特定できる情報がない場合、慎重な対応が必要です。
ひとたび請求を行ってしまうと、不貞相手は警戒を強め、自分の手元にある証拠を消してしまったり、これ以上証拠を取られないように言動に注意したりする可能性が高くなります。
したがって、時効の期限まで余裕がある場合には、いきなり請求を行う前に、まずは証拠集めを優先すべきケースが多いといえます。
ご自身で、あるいは探偵事務所を利用してホテルに入る現場の写真を押さえる、肉体関係があることのわかるLINEやメールを収集する、クレジットカードの利用履歴からホテルの利用を突き止めるといった方法が考えられます。
また、配偶者に不貞を認めさせることも有効な手段です。もっとも、不貞関係がまだ続いている場合、配偶者と不貞相手とが結託して証拠を隠してしまうリスクもあるので、状況を見極める必要があります。
不貞行為の立証に向けた証拠収集においての注意点
慰謝料請求を行う上で、不貞行為を証明できる証拠を集めることは非常に重要です。
もし不貞相手が肉体関係を持ったことを否定してきても、裁判で勝てるだけの証拠を集めておく必要があります。請求後に新たな証拠を手に入れるのは難しくなる場合が多いので、予め証拠収集は完了しておきましょう。
また、せっかく集めた証拠が、無用なトラブルの原因になったり、違法な証拠だという評価を受けてしまうことは避けなければなりません。
違法な証拠収集をすることのリスク
違法な手段で集めた証拠は、裁判で証拠能力が認められなくなるリスクがあります。
証拠能力がない証拠は、裁判官が、不貞があったかなかったかを判断する上で利用することができません。裁判で提出されているのに、存在しないものとして扱われてしまうのです。慰謝料請求のような民事事件では、刑事事件ほど厳格に違法収集証拠の排除は行われませんが、明らかに違法性がある証拠は排除されてしまうことになります。
また、証拠能力が否定されなくても、違法・不当な手段での証拠収集は、不貞相手の反発を招き、争いが激化してしまうおそれもあります。場合によっては、不貞相手側から、不貞被害者への逆に損害賠償請求や刑事告訴がなされてしまい、乱戦化するリスクもあります。
盗聴、不貞相手の持ち物や車にGPSを付けての追跡、ハッキングをしてスマートフォンやパソコンにあるデータを取る等の違法な証拠収集は、厳に控えましょう。
探偵事務所へ証拠収集を依頼するメリットと注意点について
不貞が疑われるが明確な証拠はない・そもそも誰が不貞相手なのかわからないケースでは、探偵事務所(興信所)に調査を依頼することも選択肢の1つです。
探偵事務所の張り込みによって、不貞相手と配偶者が一緒にホテルに入っていく写真といった有力な証拠が手に入ることがあります。また、誰なのかわからなかった不貞相手の特定に成功するケースもあります。いずれも不貞被害者がご自身で入手するのは難しい証拠です。
もっとも、探偵事務所に依頼しても、確実に必要な証拠を取れるというわけではありません。外でのデートシーンなど肉体関係の証明には不十分な写真しか撮影できていない、写真が不鮮明で不貞相手の顔がわからない、といった調査報告書も散見されます。
また、費用が非常に高額だったり、違法な方法で証拠を集めていたりする事務所もないわけではありません。探偵事務所に依頼をする場合には、事前に十分に情報を比較する方がよいでしょう。
なお、探偵に支払った費用を慰謝料と別に請求することは認められないケースが多いです。
費用の一部を慰謝料に上乗せしてくれる裁判例もありますが、要した費用全額を認めるものは少ないといえます。
浮気・不倫相手に慰謝料を請求する流れ
実際に浮気・不倫相手に慰謝料を請求する場合、どのような流れで進行するのか説明します。
浮気・不倫の慰謝料の相場について
いざ慰謝料を請求しようと準備をしても、具体的な金額をどのように設定するべきか判断がつかないかもしれません。
被害を受けた方の心情によって、1,000万円は請求したいと息巻いたり、とにかく高額な金額を請求しないと気持ちが収まらないと考える方もいるでしょう。
しかし、浮気・不倫の慰謝料額は事案により変動はあるものの、50〜300万円程度がひとつの目安となります。また、一般的に不貞が原因で離婚した事案では高額に、離婚にまでは至っていない事案では低額になる傾向があります。
相手に「内容証明郵便」などで慰謝料請求を行う
慰謝料請求の方法に決まりはありませんが、不貞相手に「内容証明郵便」を送るのが一般的です。
内容証明郵便は、書留郵便の一種で、いつ・どんな内容の郵便を誰から誰に対して出したのかを郵便局が証明してくれるものです。
特に、慰謝料の時効期限が近い場合には、時効にかかる前にきちんと請求をして時効の完成を止めていることを証明しなければなりませんので、内容証明郵便で慰謝料請求を行う必要があります。
内容証明郵便では、不貞行為により精神的苦痛を受けたことと、「不貞慰謝料として〇円を請求します」という内容を記載します。
浮気・不倫相手と直接交渉し、慰謝料を支払う意思を示す場合には示談合意を目指す
内容証明での請求後、まずはご自身で交渉に臨む方が多いといえます。もちろん最初から弁護士を立てて、直接接触を避けることもできます。
不貞相手が不貞を認め、慰謝料を支払う方向で話が進むのであれば、金額・支払い期限・支払方法や、その他の条件を調整する交渉を行います。
不貞相手が不貞の事実を否定したり、不合理な反論に終始したりする場合には、示談での解決は困難です。
また、不貞相手が、慰謝料支払いについてあいまいな態度を取り、交渉が進んでいかない場合もあります。誠実な返事がないことに腹立たしい気持ちになりますが、こちらから「〇日以内に返事がないなら裁判で解決する」「~の条件なら合意する」といった明確な案を提示して、進行をコントロールしていくことが必要です。
ご自身で直接交渉を行う場合の注意点
不貞相手との交渉では、怒りや悲しみの気持ちから、普段の自分であればしないような言動をとってしまうことがあります。ここでは、ご自身で交渉を行う場合の注意点を説明します。
- 脅迫的・違法な言動に注意
不貞相手に対して感情的になるあまり、慰謝料請求が脅迫のレベルに至ってしまわないよう注意が必要です。慰謝料請求権自体は正当な権利であっても、「支払わないと会社やあなたの配偶者にばらす」といった言動は脅迫に当たる可能性があります。違法な請求を行ってしまうと、逆に不貞相手から刑事や民事で訴えられるリスクもあります。
また、当然不貞相手に暴行を加えたり、不貞相手の持ち物を壊したりすることも厳に慎むべきです。
- 相手を家に呼ぶ・相手の家に行く場合の注意点
話し合いのために不貞相手の家に行くことや不貞相手を自宅に呼び出すことは、それ自体は問題のない行為です。
もっとも、無理やり家に入ったり、帰るように言われているのに居座る行為は、住居侵入罪や不退去罪に当たるおそれがあります。
また、家に呼び出した際、不貞相手が帰りたいという意思を示しているのに帰らせない場合、監禁罪に当たるおそれも出てきます。
自宅で話し合いを行う場合には、あくまでも不貞相手が自分の意思で応じている範囲内で行う必要があります。
- 同意なく関係者を巻き込まない
不貞相手が慰謝料請求に思うように対応してくれない場合、家族や会社などの第三者を関わらせることで、話し合いを進めたいと思う場合もあります。また、ご自身の家庭が壊された怒りから、不貞相手の配偶者にも不貞の事実を露見させたいと考える方もいるでしょう。
不貞相手が第三者を入れることに同意していれば問題ありませんが、そうでない場合には、関係者を巻き込むことは避けた方がよいといえます。
不貞相手の勤め先などに「○○さんは不倫している」という情報を伝えることは、名誉棄損に当たりうる行為です。不貞が事実であっても名誉棄損は成立しますので注意が必要です。
また、名誉棄損に当たらない場合であっても、関係のない家族や会社を巻き込むことには、不貞相手が強い拒否感を抱くことが多いです。不貞をして悪かったという気持ちから、徹底抗戦しようという気持ちに変化してしまうきっかけにもなりかねません。
- 自分の言動はよくも悪くも証拠になる
交渉時の手紙・メール・LINE・会話などは、全て証拠になるという意識を持ちましょう。相手が不貞を認める言動を獲得できれば有利な証拠になりますし、脅迫的な言動をした証拠が残ってしまうと逆にこちらに不利になります。
メールやLINEなど記録が残るやりとりはもちろんですが、電話や直接の会話についても、「録音されているかもしれない」という意識を持っておくことが望ましいです。怒りに任せて不適切な言動をとってしまわないよう、冷静な対応を心がけましょう。
相手が不誠実な態度で話し合いが進まないときは弁護士に相談する
ご自身で内容証明を送って請求しても、不貞相手が「このまま放っておけばあきらめるだろう」と、真剣に対応しようとしないことがあります。
このような場合には、弁護士に相談することが有効です。
弁護士から改めて慰謝料請求を行うことで、不貞相手が「このまま放置しておくことはできない」と観念して交渉に応じるケースもよくあります。もし弁護士が介入しても、なおきちんとした対応が取られないようであれば、弁護士が、交渉過程での不誠実な態度も含めて証拠化し、訴訟を見据えて動くことができます。
また、不貞相手がのらりくらりと対応しているうちに、時効の期限が近づいてくることもあり得ます。確実に時効を止め、慰謝料請求権を消滅させないためには、弁護士に依頼を行う方がよいでしょう。
話し合いで示談がまとまれば書面を取り交わす
話し合いで慰謝料の金額と条件が合意できた場合、合意書を取り交わすことになります。
合意書には、慰謝料をいくらとするかの他、支払の期限や方法を定めます。不貞相手の経済状況によっては分割払いなども選択肢です。
また、慰謝料そのもの以外の条件として、接触禁止条項(不貞相手が今後配偶者と会うことや連絡を取り合うことを禁じるもの)や口外禁止条項(互いに不貞に関する事情を他人に漏らさないことを約束するもの)を入れることが多いです。
合意書の形式に決まりはありませんが、合意内容をまとめた紙に、当事者双方が署名・押印する形が最もポピュラーです。内容に不安がある場合・複雑な内容にする場合には、弁護士に合意書を作ってもらうことも検討しましょう。
支払いに不安がある場合には公正証書にすることを検討する
不貞相手が近いうちに一括で慰謝料を支払ってくれる可能性が高い場合には、お互いがサインをするだけの私文書の形で問題ないでしょう。双方に弁護士がついて示談した場合や、相手に安定した仕事と収入がある場合などがこれに当たります。
一方で、相手方の収入や資産によっては、長期分割にせざるを得なかったり、支払い期限がかなり先の期日になってしまうこともあります。支払いがきちんとされるかどうかに不安がある場合には、単なる当事者間の合意書ではなく、公正証書にしておくのも選択肢です。
合意の内容を、「公証人」という公務員が公文書にしてくれるのが公正証書で、合意の存在を強く証明してくれる文書になります。公正証書に、支払いが滞ったときには「直ちに強制執行に服する」という文言を入れておくことで、裁判を経ずにダイレクトに強制執行(不貞相手の預貯金や給与の差押え等)を行うことが可能です。また、「きちんと支払わないと強制執行されてしまう」というプレッシャーがかかることで、結果的に支払いがきちんと行われることにも繋がります。
話し合い・交渉がまとまらなければ訴訟の検討または裁判を行う
不貞相手が不貞の否認や不合理な反論をしてきたり、そもそも請求を無視してくる場合もあります。そのような場合、慰謝料請求を実現するためには、訴訟を起こさなければなりません。
訴訟では、裁判官が不貞行為があったか・なかったか、不貞がどの程度悪質だったかを、証拠から判断します。裁判上で「不貞行為があった」と認定してもらうためには、被告自身が不貞行為をしたと認める(自白する)か、証拠から不貞行為があったことを証明できる必要があります。
このため、被告が不貞行為の事実を認めていないケースでは、肉体関係があったことを証明できる確実な証拠が必要です。
なお、被告が「不貞行為をしたこと自体は争わないが、言い分があり、金額には争いあり」という姿勢をとっている場合には、不貞の事実を一から全て証明できる証拠は必須ではありません。とはいえ、不貞の回数の多さや悪質性の高さを証明できる証拠があった方が、慰謝料額は高額になります。
訴訟を起こす場合には弁護士を立てるべき
交渉までであればご自身の力で進められる方もいらっしゃいますが、訴訟を起こすとなると、弁護士を入れずに進めるのは難しいことがほとんどです。
訴訟では、言い分を口頭でじっくり聞いてもらえる場はほとんどなく、基本的に主張はすべて書面で出さなければなりません。証拠も不足なく、期限までに提出しなければなりません。書面の形式なども裁判独自のルールがあるため、準備をすることには非常に労力がかかります。
また、裁判所は中立公平な立場であるため、仮に裁判官が「こういう主張や証拠を出してくれれば勝たせられるのに」と思ったとしても、それを教えてくれることはなく、当事者が自力で必要な活動を行う必要があります。
弁護士を代理人にすれば、必要十分な主張と証拠を準備して裁判で戦ってくれますので、訴訟を有利に進められる可能性が高まります。また、尋問期日などを除き、ご自身で裁判所に出向くことも不要です。
なお、「自分でできるところまで裁判を進めて、困ったら弁護士を入れよう」「一審で負けたら弁護士を入れよう」と考える方もおられます。しかし、このような方針はおすすめできません。訴訟では適時に適切な活動を行うことが必要ですので、手続きが進んでから弁護士が介入してもリカバリーは難しいことが多いです。また、控訴審で逆転勝訴することは非常に困難です。
最初に訴訟を起こすことを検討し始めた段階で、一度弁護士に相談するようにしましょう。
不貞慰謝料請求を行う場合の注意点
不貞が発覚すれば強い憤りを感じ、すぐにでも不貞相手に慰謝料を請求したいと考える方も多いでしょう。しかし、請求時に対応を間違えてしまうと、本来受け取るべき慰謝料が受け取れなくなってしまうことにもつながりかねません。ここでは、慰謝料請求時の注意点をご説明します。
- 証拠は請求までに集めきる
ひとたび慰謝料請求を行うと、それ以降、追加の証拠は手に入らないと考えておいた方がよいといえます。請求を受けると不貞相手も警戒し、証拠になる写真やLINEを隠したり、配偶者と会うのを控えたりする場合が多いためです。
証拠集めをやり切れていない場合には、すぐにでも請求したい気持ちを抑えて、まずは証拠集めを完遂する方が望ましいといえます。
- 時効が近い場合には速やかに請求する
既に述べたとおり、基本的には請求より先に証拠集めを完了すべきですが、時効が近い場合は例外です。
時効にかかると、慰謝料請求権は丸ごと消えてしまいます。時効が近い場合には、例え証拠集めの途中であっても、まずは内容証明郵便で請求をして、時効の完成を阻止することが先決です。
- 怒りに任せて違法な言動・不当な要求をしない
不貞相手に怒りを感じるのは至極当然ですが、感情に任せて違法な言動・不当な要求はしないようにしましょう。本来加害者である不貞相手から逆に訴えられてしまうようなことになりかねません。
相手が不倫をしたと触れ回る・相手の家に乗り込んで退去に応じないといった違法な言動、土下座を強いるなどの不当な要求は絶対に避けましょう。
- 示談後に追加請求はできない
示談合意書には「清算条項」(お互いにこれ以上請求するもの・されるものがないことを確認する条項)を設けることが一般的です。示談で最終的に紛争を解決し、トラブルが再燃することを防ぐための条項になります。
この条項を設けると、示談前の事情を理由として慰謝料請求を再度行うことはできなくなります。「示談した後になって、申告よりも不貞行為の回数が多かったことがわかった」というように、示談後に想定外の事情が発覚しても、追加で慰謝料請求を行うことはできません。なお、示談後にまた新たに肉体関係を持った場合には、慰謝料も新たに請求することが可能です。
「W不倫」の場合のリスク
既婚者同士の不貞関係(いわゆる「W不倫」)の場合、こちらが慰謝料請求をしたことが引き金となって、不貞相手の配偶者から、ご自身の配偶者に対する慰謝料請求がなされる可能性を意識しておく必要があります。特に、ご自身の配偶者の方が上の立場の場合(上司部下など)や、配偶者が不貞の誘いを積極的にしていた場合には、不貞相手がご自身に支払う慰謝料額よりも、ご自身の配偶者が不貞相手の配偶者に支払う慰謝料額の方が高額になるリスクが高いといえます。
「もう離婚するので、配偶者がいくら支払おうが関係ない」という場合には問題はありませんが、離婚する意思はない場合・配偶者と家計が同じ場合には、リスクを取ってでも慰謝料請求を行うか、十分な検討が必要です。
離婚を検討するのであれば、請求に向けて準備をする
不貞発覚をきっかけに離婚を検討される方も多いでしょう。不貞慰謝料の金額は、婚姻関係の悪化の程度が大きいほど高額になります。そのため、離婚という婚姻関係の破綻が明らかな事情がある方が、そうでない場合よりも慰謝料額は上がりやすいといえます。離婚が成立するには至っていなくとも、離婚のための別居をしている、離婚調停や離婚協議を進めているといった事情が慰謝料額に影響しますから、すでに離婚を決意している場合には、配偶者への請求に向けて行動を開始するとよいでしょう。
もちろん、離婚はご自身やお子さんの生活全般にかかわる事柄ですので、不貞慰謝料を増やすために離婚を進めた方がよいとは一概にはいえません。また、金銭面だけに限って考えても、慰謝料をもらうよりも、離婚せずに配偶者から婚姻費用(生活費や教育費)をもらい続ける方が有利だという可能性もあり得ます。
慰謝料額に離婚の有無が影響することも頭に入れたうえで、ご自身が重視したいのは何かを考えて離婚を検討するとよいでしょう。
配偶者からの慰謝料受け取りと不貞相手への慰謝料請求との関係
慰謝料を支払う義務は、配偶者と不貞相手とが連帯して負います。例えば、慰謝料の総額が300万円の場合、配偶者から200万円すでに受け取っていれば、不貞相手に請求できるのは100万円ということになります。後は、配偶者が不貞相手に対し、「私は自分の分を超えて支払ったから、50万円を私に支払え」というような求償請求を行うかどうかという、配偶者と不貞相手との間の問題になります。
したがって、不貞相手の側からできるだけ多くの金額をとりたいという気持ちが強いのであれば、配偶者から慰謝料を受け取るタイミングには注意が必要です。
また、配偶者から財産分与や生活費などの費目でお金を受け取るのであれば、慰謝料でないことの証拠(離婚合意書、「〇月分の生活費を受け取りました」とのメール等)を残しておくとよいでしょう。
不貞行為の慰謝料請求を相手に請求する場合、一度弁護士に相談する
不貞相手や配偶者が不貞行為を認めて反省してくれるケースであれば、被害者自身が交渉して慰謝料を獲得できる可能性もあります。しかし、残念ながら、請求を無視する、不貞行為を否認する、不合理な反論をする、著しく低い示談提示しかしてこないといった不誠実な対応を受けるケースもしばしばです。慰謝料は支払われず、精神的にも更に傷つけられることになってしまいます。
慰謝料請求を検討している場合には、実際に請求する前に一度弁護士に相談することをおすすめします。弁護士が、現状や手元にある証拠を確認して、今すぐに請求を行うべきか、証拠集めを優先すべきかなど、最適な対応をアドバイスしてくれます。
離婚・不貞に関する問題は弁護士へご相談ください
この記事の監修
離婚・不倫は、当事者の方を精神的に消耗させることが多い問題です。また、離婚は、過去の結婚生活についての清算を図るものであると同時に、将来の生活を左右するものであり、人生全体に関わる問題といえます。
各問題を少しでもよい解決に導き、新しい生活をスタートさせるお手伝いができれば幸いです。
弁護士三浦 知草
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