離婚における有責配偶者とは?
- 公開日:
- 2024年1月25日
離婚における有責配偶者とは、婚姻関係を破綻させる原因を作った配偶者のことをいいます。
離婚に至るには、さまざまな理由・原因があると思いますが、性格の不一致などどちらにも原因があるケースもあれば、上記のように配偶者のどちらかに大きな非があり、離婚するケースもあります。
有責配偶者は婚姻関係を破綻させた側ですので、相手に離婚を請求することは原則認められず、場合によっては慰謝料を請求されることもあります。
ここでは、どのような行為が有責配偶者に該当するのか、財産分与などはどうなるのか、有責配偶者の離婚に関する内容について説明します。
- この記事の内容
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有責配偶者に該当する事例について
民法770条1項は、法定離婚事由を定めていますが、有責配偶者に該当するか否かは、この条文の要件に当てはまるか否かと重なります。
たとえご自身が離婚を拒否していても、有責配偶者に当たるという認定がなされた場合、相手方配偶者からの離婚請求が認められる結果となります。また、同時に慰謝料請求も認められる可能性が高いといえます。
具体的には、以下のような行為をした配偶者が、有責配偶者に該当します。
- 不貞行為
いわゆる不倫をして結婚関係を破綻させた配偶者は、有責配偶者の典型例です。
- 悪意の遺棄
夫婦として協力し合う義務・同居する義務・ご自身と同等レベルの生活をさせる義務(生活保持義務)に違反することを「悪意の遺棄」といいます。
収入があるのに生活費を入れない、正当な理由もなく家を出て帰ってこないといった行為を行っていると、有責配偶者と認定される可能性があります。
- その他婚姻関係を破綻させるような事由
配偶者への暴力・脅迫、過度の浪費や遊興費のための借金、精神的虐待等の婚姻関係を維持できなくするような行為を行うと、有責配偶者と認定されることがあります。
有責配偶者からの離婚請求は原則認められない
有責配偶者からの離婚請求は原則として認められません。
自らが原因で婚姻関係を破綻させたにも関わらず、ご自身の側から離婚を求めることは、信義誠実の原則に反すると考えられているためです。
有責配偶者でも離婚請求することができるケースとは?
すでに述べたとおり、有責配偶者からの離婚請求は原則認められませんが、以下の場合には有責配偶者からでも離婚請求が可能です。
裁判所が有責配偶者からの離婚請求を認める要件
裁判所は、次の3要件を満たす場合には、有責配偶者からの離婚請求を認めています(最高裁大法廷判決S62・9・2民集41巻6号1423頁)。
- 夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当程度の長期間に及んでいること
- 夫婦の間に未成熟の子が存在しないこと
- 相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれるなど、離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情が認められないこと
これらの要件のうち、別居期間は特に重要です。あくまでも目安ですが、7~10年程度の別居期間が経過することが必要とされます。子が幼い場合や、病気などで相手方の生活状況が困難な場合にはさらに長期間が必要とされるケースも多いです。
ちなみに、夫婦のどちらにも有責事由がない場合、3~5年程度の別居期間で離婚が認められることが多いので、有責配偶者の場合、かなり長い別居期間が必要とされていることがわかります。
相手方が合意すれば離婚は可能
有責配偶者からの離婚請求に厳しい要件が課されるのは、あくまでも、相手方配偶者が離婚を拒絶している場合です。
協議や調停で相手方配偶者が離婚に合意してくれる場合には、有責配偶者から行った離婚請求は認められることになります。
相手方配偶者が「こういう条件であれば離婚する」という提示をしてくる場合には、長期間離婚ができないことの不利益(配偶者への扶養の義務が続く、再婚ができない等)と提示された条件とをよく比較して検討することが必要です。
有責配偶者からの離婚請求は拒否できる?
有責配偶者から離婚請求を受けた場合、相手方配偶者は離婚を拒否することができます。
もっとも、一生離婚を拒否し続けられるというわけではなく、別居を長期間続けていると、いずれは有責配偶者からの離婚請求が認められるようになる可能性が高いといえます。有責配偶者側もそのことを踏まえて、別居期間の目安である7~10年程度が経過したタイミングで離婚の請求をしてくることがあります。
また、有責配偶者であることの証拠がない場合や、婚姻関係を悪化させた原因がご自身の側にもある場合には、想定より短い別居年数で離婚が認められてしまう可能性もあります。別居をする場合には、別居が離婚請求に及ぼす影響に留意しておきましょう。
有責配偶者と離婚するには?
ここでは有責配偶者に対して離婚を請求する流れをご説明します。
まずは離婚に向けた協議を行う
有責配偶者との離婚の場合にも、その他の離婚と同じく、まずは協議で合意を目指すのが一般的です。
有責配偶者が、自分が悪かったことを認めて反省している場合には、慰謝料等も含めて有利な流れで合意できる可能性が高くなります。反対に、有責配偶者が、自らの有責行為を否認したり、開き直って協議に非協力的になってしまう場合には、協議離婚での解決は難しくなります。
また、有責行為の内容が、暴行・脅迫などの危険な行為の場合には、協議でやり取りを行うこと自体に危険が伴います。無理に協議で解決しようとせず、始めから調停を利用することを検討しましょう。
離婚調停での解決
協議での解決が難しい場合には、離婚調停での解決を目指します。
有責配偶者を相手方とする場合、他の離婚条件と併せて慰謝料についても話し合い、合意を目指すケースが多いです。
調停では、有責行為の証拠は必ずしもなくて構いません。相手方が離婚することや慰謝料の支払いに合意してくれるのであれば、調停での合意が可能です。裁判だと不利になる、早く解決したいと考えた有責配偶者が「解決金」などの名目でお金を支払ってくれる場合もあります。
離婚自体を拒絶される場合、求める離婚条件の隔たりが大きく、話し合いでの解決が難しい場合、調停は不成立となって終了します。
離婚訴訟での解決
調停で解決ができず不成立となった場合、離婚請求の裁判を起こすことが必要です。
離婚訴訟では、「私は不貞行為をしていない」など、有責配偶者であることを徹底的に争われるケースも多くなります。
被告が離婚を拒否していても、裁判官が、被告が有責配偶者であると認めてくれれば、離婚をすることができます。もっとも、有責配偶者だと認める判決を獲得するためには、有責行為の証拠が必要です。
相手方が離婚を断固拒否しており、かつ、有責配偶者であることの証拠が乏しい場合には、調停後すぐに訴訟を起こさずに、地道に別居期間を重ねるといった方法をとることもあります。
有責配偶者に対して慰謝料を請求できるか?
有責配偶者に慰謝料を請求できる典型例としては、
- 不貞行為
- 暴力・脅迫などのDV
- 悪意の遺棄(理由なく家出を続ける、生活費を入れない等の配偶者を見捨てて顧みない言動)
といった行為があります。
その他、
- 人格を否定するような暴言や無視などのモラルハラスメント
- 過度の浪費やギャンブル
- 個人の遊興費のための借金
なども慰謝料発生原因となる有責行為に当たりますが、慰謝料が認められるかどうかはケースバイケースです。
どの有責行為を主張する場合にも、慰謝料を得るためには、有責配偶者が自分の行為と慰謝料支払いを認めるか、または、有責配偶者であることを証拠で証明できるかのいずれかが必要です。
慰謝料請求には時効がある
慰謝料請求の時効は、3年間です。
離婚そのものの慰謝料(有責配偶者のせいで離婚に至ったことそれ自体の慰謝料)については、「離婚したとき」から3年で時効にかかります。
離婚原因慰謝料(不貞・暴力などの個々の有責行為による慰謝料)については、「損害及び加害者を知ったとき」から3年で時効にかかります。例えば、有責行為が不貞であれば、不貞発覚から3年が時効完成のタイミングです。配偶者と不貞相手を一緒に訴えるような場合には、離婚原因慰謝料の形をとることが必要です。
時効の完成を防ぎ、慰謝料請求権を消滅させないようにする(時効の完成猶予)には、内容証明郵便での催告(請求)や裁判を行う必要があります。
財産分与を有利な条件で進められるのか?
有責配偶者であることは、基本的には財産分与の割合には影響を与えません。もっとも、「慰謝料的財産分与」という形で影響を与えるケースもあります。
「清算的財産分与」は有責配偶者であっても1/2
結婚生活中に夫婦で築き上げた財産を平等に清算するための財産分与を「清算的財産分与」といいます。通常、夫婦の財産を1/2ずつ分ける形になります。
単に「財産分与」という場合、この清算的財産分与を指すことが一般的です。
あくまで夫婦の財産の清算であり、有責行為に対するペナルティの意味はないため、有責配偶者だからといって分与額が減らされることはありません。
したがって、有責配偶者の名義になっている財産が少ない場合、相手方配偶者の方から有責配偶者に対して分与を行わなければならないことになります。
「慰謝料的財産分与」の上乗せがなされる場合もある
財産分与のメインは清算的財産分与ですが、これに加えて「慰謝料的財産分与」が行われる場合もあります。その名のとおり、精神的苦痛を償う意味で、有責配偶者から相手方配偶者へ財産を分与するものです。
もっとも、慰謝料的財産分与をそもそも認めるかどうか、いくら認めるかは裁判官の裁量により決定されます。有責配偶者であっても確実に慰謝料的財産分与が命じられるわけではありません。
したがって、「向こうは有責配偶者だから財産分与で有利に扱ってもらえる」と考えるのではなく、精神的苦痛の賠償を求めたい場合には、しっかりと慰謝料を請求する方がよいといえます。
子どもの親権・養育費・面会交流を有利な条件で進められるのか?
裁判所は、夫(妻)として有責配偶者であることと、子どもの親として適格であることとは別の問題と考えています。「不倫した配偶者に親権を渡したくない」「子どもに会わせたくない」と感じるのは当然の気持ちですが、子どもを巡る問題ではそのような希望がそのまま通るわけではないことには留意したいところです。
子どもの親権や監護を巡る問題(養育費・面会交流・監護権)で有利な条件を目指すためには、「相手方配偶者が子どもの親としてどうだったか」という視点から主張を行う必要があります。例えば、単に「不倫をしている有責配偶者だから親権者に相応しくない」と言うのではなく、「不倫相手と会うために子どもを置いて夜に外出している」と子どもへの影響を主張するのが効果的です。
なお、親権や監護を巡る問題に直接影響がある有責配偶者の行為としては、面前DV(子どもの見聞きしている前で配偶者へDVを行うこと)があります。子ども自身に手を挙げていなくとも、面前DVは子どもへの直接の虐待とみなされています。
子どもを巡る問題について個別にご説明します。
- 親権について
親権の決定は、監護の継続性、子どもの意思(特に年長の子の場合に重視)、環境や心身の状態などの要素が複合的に考慮されます。
有責配偶者がこれまで問題なく育児を担ってきており、子どもも有責配偶者のもとで健やかに生活しているのであれば、相手方配偶者が親権を獲得するのはかなり難しいことが多いでしょう。
- 養育費について
養育費は、あくまでも「子どものためのお金」であって、有責配偶者にペナルティを課すためのものではありません。そのため、子どもと同居している親が有責配偶者だから減らすということも、別居している親が有責配偶者だから増やすということもありません。なお、後で述べるとおり、婚姻費用には影響が生じる可能性があります。
- 面会交流について
面会交流はあくまでも子どものための権利ですので、有責配偶者であることは面会交流の可否に直接影響しません。もちろん面前DVがあったなど、面会交流が子どもの心身を害するおそれがある場合は別ですが、子ども自身が交流を望んでいるのであれば、基本的に有責配偶者との面会も実施する方向になります。
もっとも、別居している親が有責配偶者の場合、同居親の影響もあって子どもの悪感情が強くなってしまい、結果的に面会交流がうまくいかなくなってしまうことはあり得ます。
なお、面会交流を妨げるような言動をとることは、親権や監護権を決めるうえで、マイナスに評価されます(フレンドリーペアレントルール)。子どもを有責配偶者に会わせたくないご自身の気持ちをときには抑えることが必要です。
有責配偶者と婚姻費用
別居後から離婚するまでの生活費である婚姻費用について、夫婦の一方が有責配偶者の場合の留意点を説明します。
有責配偶者に婚姻費用を請求する場合
有責配偶者である相手方と別居した場合には、速やかに婚姻費用を請求するようにしましょう。
婚姻費用を遡って請求できるのは、請求をした時点(調停を起こしたり、内容証明が届いた時点)となります。例えば、1月に別居、2月に調停申立てをし、4月に調停が成立した場合、2~3月分は遡って支払ってもらえますが、1月分を受け取ることはできません。
また、特に有責配偶者からの離婚請求を拒否する場合には、婚姻費用を受け取る期間はかなりの長期間に及び、10年以上にわたることもあり得ます。金額について安易に妥協せず、適正な金額を取り決めるようにしましょう。
有責配偶者が婚姻費用を請求する場合
有責配偶者がご自身の分の婚姻費用を請求することは、権利濫用や信義誠実の原則違反とされ、許されない例が多いです。
一方で、有責配偶者が子どもと同居している場合、子どもの生活が害されることがあってはならないため、養育費相当額の婚姻費用の支払いが認められることになります。
なお、婚姻費用の調停では、離婚調停と異なり、離婚の原因は何かという話が出ないこともありますから、有責配偶者の権利濫用は、相手方配偶者が積極的に主張・立証しなければなりません。
有責配偶者との離婚でトラブルになっているときは弁護士に相談する
有責配偶者との離婚は、有責配偶者が非を認めていれば、当事者同士で穏便に解決できることが多いですが、そういったケースばかりではありません。
有責配偶者側が不貞や暴力の事実を否定してきたり、開き直って相手方配偶者や子どもを顧みなくなってしまうと、感情的な対立が一般的な離婚以上に激しくなり、夫婦での解決が難しくなりがちです。
有責配偶者と離婚したいが話し合いが難しい場合や、逆に有責配偶者から離婚請求を受けて困っている場合には、早めに弁護士に相談するようにしましょう。
弁護士が間に入ることで、感情的なやり取りで疲弊することを防げます。また、有責行為の証拠集めや主張の仕方、適切なタイミングで手続きを行うことの経験も弁護士は豊富ですから、ご自身に有利な形で離婚問題を進められる可能性が高まります。
有責配偶者との離婚がうまく進まず、悩んでいる場合には、一度弁護士に相談してみるとよいでしょう。
離婚・不貞に関する問題は弁護士へご相談ください
この記事の監修
離婚・不倫は、当事者の方を精神的に消耗させることが多い問題です。また、離婚は、過去の結婚生活についての清算を図るものであると同時に、将来の生活を左右するものであり、人生全体に関わる問題といえます。
各問題を少しでもよい解決に導き、新しい生活をスタートさせるお手伝いができれば幸いです。
弁護士三浦 知草
-
上野法律事務所
- 東京弁護士会
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