離婚・不貞コラム

離婚における共同親権とは?今後の法整備の状況について

離婚における共同親権とは?今後の法整備の状況について

離婚後の子どもの親権について、これまでは父もしくは母のどちらかによる単独親権でしたが、父母双方で子どもの親権をもつ共同親権を加えた改正民法が、2024年5月17日に参議院本会議で可決・成立しました。

これを受けて、共同親権は2026年までに施行される運びとなりましたが、法案審議の段階から様々な問題点が指摘され、法案可決後もその運用や体制の整備について、引き続き検討が進められることとなっています。

離婚における子どもの親権の問題は、多くのケースで母親に有利な側面がありました。なかには母親が勝手に子どもを連れて別居をはじめ、父親側にとって納得しがたい結果となることも見受けられました。

こうした問題を解決できる可能性がある一方、DVやモラル・ハラスメントなどの問題を抱えての離婚では、共同親権を巡って不安を感じる当事者の声もマスコミなどで報じられています。

ここでは、共同親権についての仕組みをはじめ、そのメリット・デメリットや現状の問題点などについて解説します。

この記事の内容

共同親権とは?

親権とは、子どもの利益のために、監護・教育や子どもの財産の管理を行う権限であり、同時に義務でもあります。

これまでは、結婚している間は子どもに関することは父母で共同して決めることとされていた一方、離婚後は父母いずれか一方の単独親権となり、子どもに関することは専ら親権者となった側の親が決めることとされていました。

このたびの民法等の改正によって、離婚後も父母の共同親権が選択できるようになり、共同親権が選ばれた場合、離婚後も、子どもに関することは父母で共同して決めることになります。例えば、子どもをどこに住まわせるか、子どもの進学先をどうするか、子どもが大きな病気をした際に治療方針をどうするか、といった事柄について、子どもと同居している親だけで決断するのではなく、離れて暮らす親とも話し合った上で決定することが必要になってきます。

共同親権が議論されるようになった背景について

共同親権が議論されるようになったのには、次のような背景があります。

非親権者と子の関係の希薄化

現在の日本では、ひとたび離婚して子どもの親権者が決まると、親権者でない親と子の関係が希薄になってしまうケースが多いといえます。

両親ともに、「親権を取られれば親子関係が終わってしまう」という必死の思いから、親権争いが激化し、ときには子どもを連れ去ってでも親権を取ろうという行動に結びつくこともあります。

親権争いの激化・長期化により両親が疲弊するのはもちろんですが、何よりも父母の争いに巻き込まれた子を傷つけ、子の生活が不安定になることが問題です。

さらに、親子関係が希薄になることで、面会交流の断絶や養育費の不払いなど、離婚後に子の権利が守られなくなることも問題視されてきました。

夫婦や育児のあり方の社会変化

夫婦間での仕事や育児の分担体制が変わってきていることも、背景の1つです。

従来の日本では、父は外で働き、母が家にいて子の面倒を見るのを当たり前と見る社会風潮が強くありました。しかし、現在では、夫婦共働きが当たり前になり、子どもの面倒も父母両方で見ることも多くなっています。そのため、両親共に離婚後も子どもと関わりたい・関わる必要があるという考えが強まっているといえます。

国際的な背景

共同親権導入には、国際的な背景もあります。

まず、諸外国では共同親権を採用している国が多いことが挙げられます。また、国際結婚の夫婦が離婚した際に、日本人の父・母が、相手の同意なく子どもを日本に連れ帰ってしまい、相手に会わせないことが国際的に問題視されてきました。日本でハーグ条約が発効した後も、こうした国際的な連れ去り問題はなくなっておらず、国際社会から厳しい目に晒されていました。

このような様々な背景から、共同親権の導入が議論されるようになったのです。

共同親権に関する法改正で変わる点とは?

共同親権に関して、今回の法改正で重要なポイントは次の点になります。

親権者の定め方について

今回の法改正では、父母の「双方または一方を親権者と定める」とされており、共同親権・単独親権のいずれかを選ぶ形となっています。

離婚する際には、まずは父母が協議をして親権者を決めます。父母の話し合いで決着しない場合・そもそも話し合いができない場合には、最終的には裁判の中で、裁判官が共同親権・母単独親権・父単独親権のどれが適切かを判断することになります。

親権者決定の考慮要素

裁判所が共同親権を選ぶか、父母どちらかの単独親権を選ぶかを判断するにあたっては、父母と子との関係、父と母との関係その他一切の事情が考慮されます。

また、次に挙げるケースにおいては、単独親権を選ばなければならないとされています。

  • 父または母が子の心身に害悪を及ぼすおそれがあるとき(子への虐待等)
  • 父母の一方から他方へのDVのおそれ、父母間で協議が調わない理由等を考慮して、父母が共同して親権を行使することが困難なとき

親権者の変更

裁判所では、ひとたび決まった親権者を事後的に変更することも可能です。そのため、改正前の法制度のもとで既に単独親権に決まっている子についても、子の利益のために必要な場合には、共同親権に変更が可能です。

親権者の変更が子の利益のために必要といえるかは、次のような要素から判断されます。

  • 父母間での協議の経過
  • 父母の一方から他方へのDVの有無
  • 家事調停やADR(裁判外紛争解決手続)の利用の有無
  • 協議の結果について公正証書の作成の有無
  • 協議後の事情変更
  • その他の事情

共同親権でも単独で親権が行使できる場合

共同親権が選択された場合、基本的には父母で共同して親権を行使しなければなりません。

ただし、次のような場合には、例外的に、父母どちらか一方のみで親権を行使することができます。

  • 他の一方が親権を行うことができないとき
  • 子の利益のため急迫の事情があるとき
  • 監護及び教育に関する日常の行為にかかる親権の行使

「急迫の事情」や「日常の行為にかかる親権」が、具体的にどのような場合に認められるかは、まだ定まっていません。

今後、親権が単独行使された際に、これらの例外的な事情に当たるか否かの紛争が起こることも懸念されます。

共同親権のメリットと考えられる点について

共同親権の導入には、以下のようなメリットがあります。

親権を巡る紛争の緩和

現在、親権を巡る紛争が激化しやすい事情として、親権者側には子の監護養育についての全ての権限が認められる一方、非親権者側には権限がなくなり、面会交流の請求を行う程度しかできなくなってしまうということがあります。子との関係が0か100かになってしまうという思いから、父母が共に必死になって子を奪い合うことになるのです。

共同親権が導入されることで、子と同居していない親も子の監護養育の権限を持ち続けることができるようになるため、親権の奪い合いが緩和されることが期待されます。

離婚後も親子の交流を図れる

両方の親が親権を持つことで、離婚後も、子と別居親との交流が続き、親子関係が断絶してしまうことを防ぐことが期待できます。

離婚後しばらくすると途絶しがちな面会交流も、より安定的に続けられる可能性が高まります。

養育費支払いにつながる

親子関係がしっかりと続くことで、養育費不払いが減少することにつながります。

現在は、「会えない子どもにお金だけ支払っても仕方ない」という思いから、次第に支払いが滞ってしまう例も散見されますが、自分も子どもの親権者だとなれば、養育費を支払い続けるモチベーションも高まるといえます。

共同親権のデメリットと考えられる点について

共同親権のメリットをお伝えしてきましたが、必ずしもメリットばかりとは言えず、現状ではマイナス面があることにも注意が必要です。

離婚後もDV・虐待の被害から逃れられない

共同親権を導入した場合の大きな懸念点として、離婚後も元配偶者からのDVや子への虐待から逃れられないということがあります。

これまでは、ひどいDVがあっても、離婚まで耐えれば加害者との縁を切ることができましたが、共同親権の場合、離婚後も加害者からの支配に怯えて生活しなければならないことが懸念されます。

DVや虐待がある場合、まずは身を守ることを最優先にしなければならないため、十分な証拠を残せる事案ばかりではありません。また、精神的虐待・モラハラの場合、当事者は深刻な苦痛を受けますが、証拠はないことがほとんどです。

今回の法改正では、父母で協議がまとまらなければ裁判所が親権を決定しますので、証拠の乏しいDVなど個別の事情をどこまで汲み取って親権が決められるか、不安が残る部分です。

離婚後も紛争が継続・再生産される

単独親権の場合、父母が激しく争った場合でも、基本的に離婚成立をもって紛争は終了します。しかし、共同親権が選択されると、離婚後も、子どもの監護養育方針を巡る紛争が継続・再生産されることが懸念されます。

父母で話し合いができればよいですが、父母が何らかの理由で十分にコミュニケーションを取ることができないからこそ離婚に至っているケースがほとんどです。父母間で監護養育方針の合意をすることは現実的には難しいといえます。

父母で協議ができなければ、問題が起こるたびに逐一裁判所へ持ち込まなければ解決できなくなり、父母双方の要する時間も労力も過大なものになるでしょう。また、父母の争いに巻き込まれ続ける子どもが精神的に負担を被り、かえって子の利益を損なうおそれもあります。

子どもに関する決定の遅延

進学先をどうするか、大きな病気をした際の治療方針をどうするかといった、子どもに関する決定について、父母で協議がまとまらず、決定が遅れてしまうことも問題です。適切な時期に決定ができなければ、進学等の子どもにとって重要な局面で不利益が生じ、かえって子の利益に反することになりかねません。

もし「急迫の事情」があれば、一方の親が単独で決定を行うことができます。もっとも、どのような事情があれば「急迫の事情」が認められるかはまだ明らかでなく、事後的に「急迫の事情」の有無を巡る争いになったり、同居親が争いを恐れて緊急時に適切な判断を下せなくなることが懸念されます。

裁判所のキャパシティへの懸念

父母で協議がまとまらない場合には、親権行使についての判断を裁判所が行うことになります。しかし、裁判所の人的資源は現在でも十分足りているとはいえない状況であり、調停や裁判の日程が入らない・手続きがなかなか進まないといった事態が生じています。

親権行使を巡る紛争が大量に持ち込まれるようになると、ただでさえ忙しい裁判所がパンク状態になり、適切な時期に判断を下すこと・個々の事情を適切に考慮することが難しくなることが懸念されます。

離婚協議で親権の話し合いがまとまらないときは弁護士に相談する

共同親権に関する法改正は、2026年までに施行されることから、今後は離婚における親権に対する考え方も大きく変化していくものと思われます。共同親権のメリットをうまく捉え、それを活かした離婚後の子どもとの関係づくりに寄与するものであればよいのですが、「共同親権を申し入れたが、相手は単独親権を主張している」「共同親権にしたいが、正直相手とは今後あまり接点を持ちたくない」といった主張や考えのズレ、「共同親権にしたが再婚する場合はどうしたらよいか」など、新たな問題も出てくると考えられます。

今後の離婚協議のなかで、共同親権をはじめとした親権の帰趨で話し合いがまとまらないとき、一度弁護士などの専門家に相談してみることも検討するとよいでしょう。

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この記事の監修

離婚・不倫は、当事者の方を精神的に消耗させることが多い問題です。また、離婚は、過去の結婚生活についての清算を図るものであると同時に、将来の生活を左右するものであり、人生全体に関わる問題といえます。
各問題を少しでもよい解決に導き、新しい生活をスタートさせるお手伝いができれば幸いです。

弁護士三浦 知草

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