相続トラブルの基礎知識
相続トラブルの基礎知識
自身の相続分を最低限確保するための制度である遺留分侵害額請求(遺留分減殺請求)は、法定相続人であるにも関わらず相続分が得られない場合に行うものです。そのため、相続人の中に「遺留分侵害額請求(遺留分減殺請求)をしたい」と考える方がいる時点で、既にその遺産分割には何らかの問題があるといえます。問題のある遺産分割でご自身の主張を他の相続人に理解してもらうには、法律というルールに基づいて話を進めることが大切です。
ここでは、遺留分侵害額請求(遺留分減殺請求)について、請求の意思表示や請求方法について解説します。
遺言書に自分の相続分がなかったというような場合でも、被相続人の配偶者や子ども、親には「遺留分」という法定相続分を最低限確保する制度があります。遺留分を請求することを、「遺留分侵害額請求※」といいます。
遺留分侵害額請求を行うには、遺言で贈与を受けた人(受遺者)や(遺言書の内容を実行する遺言執行者がいる場合には)遺言執行者に対して、まずは内容証明郵便で遺留分侵害額請求の意思表示を行います。
遺留分侵害額請求は相手方となる受遺者や遺言執行者に対して、口頭で意思表示を行っても有効とされていますが、遺留分侵害額請求には期限があることから、意思表示を確かに行ったという証拠を残すために内容証明郵便で行うことが一般的です。
遺留分侵害額請求は、相続開始または相続財産が贈与されたり遺贈されたことを知ったときから1年以内に行わなければ時効で消滅してしまいます。内容証明郵便で通知書を送ることで、請求をしたことが記録に残すことができ、不要な争いを防ぐことができます。
遺留分侵害額請求の意思表示を内容証明郵便で行った後、相手方である受遺者と交渉を行います。任意の話し合いで、遺留分に関する合意が成立すれば「合意書」を作成し、記録に残しておきます。合意に至らず、話し合いでは解決ができないような場合には、第三者である弁護士を入れて話し合いを継続するか、裁判所を通じて解決を図ることも視野に入れましょう。
遺留分侵害額請求には時効がありますので、たとえば相続開始を知ってから2か月以内に、話し合いでの解決を迎えていない場合など、話し合いが長引きそうであれば弁護士などに相談したうえで家庭裁判所での手続きである調停を申し立てるなど、次の行動に移りましょう。
裁判所を通して遺留分侵害額請求を行う場合には、まず調停を申し立てることになります。調停が決裂(調停不成立)して初めて訴訟を起こすことができます(調停前置主義)。調停手続きは、裁判所が当事者双方の意向や事情を聴き、解決案の提示や助言を行って話し合いを進めていくものです。
なお、遺留分侵害額による物件返還請求調停を申し立てただけでは遺留分侵害額請求の意思表示をしたことにはなりませんので、別途、内容証明郵便で意思表示を行う必要があります。
申立人 | 遺留分権利者(被相続人の配偶者・直系卑属・直系尊属) 遺留分の権利者の相続人 相続分の譲受人 |
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申し立て先 | 相手方の住所地を管轄する家庭裁判所または相手方と合意した家庭裁判所 |
要書類 | 申立書、写し1通 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本 相続人全員の戸籍謄本 遺言書の写しまたは検認調書謄本の写しなど |
遺留分侵害額による物件返還請求調停で成立に至らず決裂した場合、遺留分を請求したい人が原告となって訴訟を提起します。訴訟とは「裁判」のことで、訴訟の提起先は被相続人の最後の住所地を管轄する裁判所、又は相手方と合意した裁判所となります。遺留分侵害額請求の金額(訴額)が140万円以内であれば簡易裁判所、140万円以上の場合には地方裁判所に対して訴訟提起することになります。
訴訟では、双方が主張を戦わせ、裁判官が下す判決というかたちで裁判所が判断を行うことになります。勝訴判決を得れば、相手方が遺留分の履行をしない場合には強制執行手続きをとることができます。
谷 靖介
Yasuyuki Tani
遺産分割協議や遺留分に関するトラブル、被相続人の預貯金使い込みや遺言内容の無効主張など、相続紛争問題を中心に、法律を通してご依頼者の方が「妥協のない」「後悔しない」解決を目指し、東京都を中心に活動を行っている。