相続トラブルの基礎知識
相続トラブルの基礎知識
「父の介護を献身的に行ったのは自分だけで、他の兄弟姉妹は何もしてくれなかったのに、相続は均等割なのは納得がいかない」
相続の際、被相続人の介護などを巡り、面倒をしっかり見ていた相続人とそうでなかった相続人の間でトラブルとなることがあります。
こうした不公平をなくすため、民法には「寄与分」という制度があります。
寄与分には、法定相続分のように民法で定められた限度や基準がありません。相続財産の総額や家族構成、寄与した内容、他の相続人との比較によって、まったく違った結果となります。
相場が決まっておらず、個々の相続人によって考え方や価値観が異なるため、寄与分についての主張はトラブルに発展することが多くあります。
ここでは、公平に遺産分割をするために、生前の被相続人への貢献度を図る寄与分についての基礎知識・情報について解説します。
生前、被相続人を献身的に介護していたり、被相続人の家業を無給で手伝ってきた人が相続人の中にいる場合、その貢献度を評価しないまま遺産分割を行うと不公平が生じてしまいます。そのため、被相続人の生前に、相続財産の増加や維持に特別に貢献した相続人に対し、その貢献度に応じて相続分を増やす制度を「寄与分」といいます。
寄与分は、遺産分割の際に相続人全員から認められる必要があります。しかし、寄与分はお金に換算しにくい性質を持つことと、適用されるとその相続人の相続分が増える一方で、他の相続人の相続分は減ってしまうので、トラブルに発展しがちです。遺産分割協議の中で主張しても認められない場合は、調停や審判(裁判)で第三者によって判断されることになります。そのため、寄与分を主張するには根拠となる証拠資料を集めることが大切です。
具体的にどのような行為が寄与分に当てはまるのか、大きく5つの行為に分類できます。
家事従事型 | 被相続人が営んでいた農業や漁業、他自営業を、無給及び薄給で手伝っていた場合。 |
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金銭出資型 | 被相続人のために不動産や多額の金銭を援助したり、無償で貸した場合。 |
療養介護型 | 被相続人を介護療養した場合。通常の生活を送りながら家族として当然の範囲での介護は認められません。 |
扶養型 | 被相続人の生活援助をしていた場合。実際に同居をしながら扶養していた場合も、生活費の援助も当てはまります。 |
財産管理型 | 被相続人の財産を管理することにより、財産の増加や維持に貢献した場合。不動産管理や売買交渉などが当てはまります。 |
寄与分が認められる主な要件は、次に挙げる3つの項目となります。
寄与分が認められるのは「法定相続人」だけです※。友人や家政婦などの第三者は、いくら財産の増加に貢献しても寄与分とは認められません。しかし、長男の妻といった相続人の配偶者が献身的に介護や生活の面倒を見ていたという場合には、その相続人によるものと見なし、寄与分が認められることもあります。
寄与分が認められるためには、その貢献が特別なものでなければなりません。例えば、被相続人が入院した場合、数日に一度お見舞いや身の回りの世話をすることは、家族として当然のことであり、寄与分とは認められません。具体的に何が特別かは一概には言えませんが、遺産分割協議においては相続人全員に「特別だ」と認められる必要があります。調停、審判(裁判)においては、10年以上に渡って被相続人の事業を無給もしくは薄給で手伝っていた場合や、生活の援助を行っていた場合などが寄与分として認められた例があります。
寄与分と認められるには、貢献した内容が相続財産の増加や維持と因果関係がなければなりません。介護療養型では、相続人が献身的に介護したことで、有料の介護サービスを利用せずに済んだ場合などが寄与分と認められます。
寄与分は他の相続人や第三者である裁判所に認められる必要があるため、証拠資料が重要となります。たとえば、被相続人である親の事業を手伝っていたような場合には事業に関する報告書、金銭を支援していた場合は振込の控えや銀行取引明細など、被相続人を介護していたような場合には、介護関係書類などが証拠となります。これらの資料原本を官公庁などに提出するような場合は、あらかじめコピーをとるなどしておきましょう。
寄与分の要件を満たし、証拠がある場合には、法定相続分に加えて「寄与分」を他の相続人に対して求めていくことになります。まずは遺産分割協議による話し合い、まとまらない場合は家庭裁判所での手続きである調停や審判による解決を求めていく流れになります。
遺産分割協議で相続人同士での話し合いがうまくいかない場合には、家庭裁判所の手続きである調停や審判を利用することになります。遺産分割調停の中で寄与分について話し合うこともできますが、寄与分のみを調停申し立てすることも可能です。調停が不成立に終わった場合には、自動的に審判に移行します。
調停の申立て方法
申立人 | 寄与分を主張したい相続人 |
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相手方 | すべての相続人 |
申立て先 | 相手方である相続人の住所地を管轄する家庭裁判所または相続人間で合意した家庭裁判所。遺産分割調停を行っている場合はその裁判所 |
必要書類 | ・申立書と写し(人数分) ・被相続人の出生から死亡時までのすべての戸籍謄本 ・相続人全員の戸籍謄本、住民票または戸籍附票 ・遺産に関する証明書 |
費用 | ・申立人1名につき収入印紙1,200円分 ・郵便切手(各裁判所によって異なる) |
寄与分を主張したい・主張された場合、どのように対応を進めるべきでしょうか。こうした主張に対し、相続に詳しい弁護士が対応することで解決の糸口を見出せることがあります。
寄与分を主張するためには、誰が見ても明らかとなる証拠資料を収集することが大切です。遺産分割協議の中でまとまらなければ、調停や審判(裁判)で寄与分を主張していくことになります。弁護士に依頼することで、証拠資料の収集のサポートのほか、法律的な側面から的確に主張できます。また、調停や審判の手続きもスムーズになります。
他の相続人が寄与分を主張した場合は、その根拠となる証拠資料が十分であるか、その貢献は特別なものであるか、因果関係があるかなどについて具体的に検証し、反論していくこととなります。
寄与分についての協議は揉めやすいため、感情的にならないよう第三者である弁護士に依頼することをおすすめします。調停や審判(裁判)に発展した場合にも、弁護士がサポートすることでスムーズになります。
寄与分が絡む遺産分割は、お互いが感情的になりがちで、揉めてしまうと収拾がつかず協議が進まなくなることがあります。
寄与分と認められる内容かどうか、相手の主張が正当性のあるものなのかを本人で判断することは大変難しいので、一度相続に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。
谷 靖介
Yasuyuki Tani
遺産分割協議や遺留分に関するトラブル、被相続人の預貯金使い込みや遺言内容の無効主張など、相続紛争問題を中心に、法律を通してご依頼者の方が「妥協のない」「後悔しない」解決を目指し、東京都を中心に活動を行っている。