相続トラブルの基礎知識
相続トラブルの基礎知識
相続放棄は原則、一度行ってしまうと撤回することができません。容易に撤回ができるとなると、遺産分割のやり直しを何度も行うことになってしまうからです。そのため、深く考えずに求められるまま相続放棄をしてしまうと、後から悔いても撤回はできませんので、よく考えて行動することが大切です。
相手が相続放棄を一方的に求めてくるという状況は、すでに「相続トラブル」に発展している状況といっても過言ではないでしょう。そうした相手と冷静に話し合いをするのは大きな労力を伴います。
ここでは、一方的に相続放棄を求められた場合の注意点や、とるべき行動について解説します。
相続放棄は原則撤回できませんが、例外的に撤回できる場合が存在します。ただし、以下の条件を踏まえたうえでも、追認(騙されていたと気づいたときや無断で相続放棄が行われたと知ったとき)から6か月を経過した場合は時効によって、撤回することはできなくなります。また、相続放棄をしてから10年が経過した場合も取り消すことはできなくなります。
①相続放棄の手続きが受理される前
相続放棄の手続きを行ってから裁判所に受理されるまでには数日間かかります。その間であれば撤回することができます。
②詐欺や脅迫による相続放棄
「借金の方が多くて相続財産はない」と聞かされていた場合や「相続放棄をしないと危害を加える」と脅された場合は取り消すことができます。
③未成年者が法定代理人に無断で相続放棄した場合
未成年者の相続人が法定代理人に無断でしてしまった相続放棄は取り消すことができます。
④成年被後見人本人が相続放棄した場合
成年被後見人(精神的障害により判断能力を欠いていると判断され、成年後見人がいる人)本人の相続放棄は取り消すことができます。
他の相続人やその関係者らから強引に相続放棄を求められても、応じる必要はありません。どんな状況であっても、相続人である限り相続放棄をしなければならないという法律はありません。状況によっては、相続財産に借金が多く、善意で相続放棄を勧めている場合も考えられます。相続放棄に応じるべきかどうかを迷っている場合は、相続財産の調査などを行ったうえで、相続放棄をすべきか相続分を主張すべきかを検討することになります。判断が難しい場合は相続手続きに詳しい弁護士に相談されることをおすすめします。
相続放棄をせずにご自身の相続分を主張していきたい場合は、他の相続人と協議を行っていくことになります。その場合、ご自身が主張したい点を整理し、裏付けとなる資料を収集する必要があります。
相続をしたい場合、どのように行動するべきでしょうか。次に挙げる内容が主だったもので、ご自身で対応できるところもありますが、状況により弁護士への相談・依頼を検討する場面もあります。
①相続人調査・相続財産調査を行う
相続放棄を強く求められている場合、他の相続人にとって経済的な優位性などの可能性があります。そのため適切に遺産分割を行うために相続の全貌を把握する必要があります。
②ご自身の相続分の計算、主張をまとめる
相続人の範囲と相続財産が確定したら、ご自身の相続分を計算し、自分の希望や主張をまとめます。
③協議の目標と交渉回数を設定する
他の相続人に対して相続分の主張を行います。しかし、相続放棄を求められている状況ですので、当事者同士の協議段階では難航する可能性があります。交渉回数、期限を区切り、難航する場合は弁護士に相談・依頼することをおすすめします。
④遺産分割調停・審判を申し立てる
遺産分割協議が難航する場合は、裁判所での手続きによる解決を目指すのが一般的です。裁判所では感情面だけで主張を繰り広げることはむずかしく、根拠となる証拠資料や法的根拠に基づいた主張であることが大切です。裁判によるご自身での対応はむずかしいことも多いため、まずは弁護士にご相談されることをおすすめします。
冒頭でもお伝えしましたが、相手から一方的に相続放棄を求められた場合、この時点で相続トラブルに発展していることが多く、すでに協議が困難な状況にある可能性が高いといえます。
相続放棄は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内(熟慮期間)と定められているため、この期間内に相続放棄をすべきかどうかの判断をしつつ、相手の言い分に対して本音がどこにあるのかを分析していると、期限内の判断は大変難しいことが想定されます。
こうした点をふまえ、相手から一方的に相続放棄を求められたときは、早めに一度相続に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。
谷 靖介
Yasuyuki Tani
遺産分割協議や遺留分に関するトラブル、被相続人の預貯金使い込みや遺言内容の無効主張など、相続紛争問題を中心に、法律を通してご依頼者の方が「妥協のない」「後悔しない」解決を目指し、東京都を中心に活動を行っている。