相続トラブルの基礎知識
相続トラブルの基礎知識
相続人がいるはずなのに連絡が取れない。このようなとき、他の相続人はどう遺産分割を進めるべきでしょうか。
遺産分割協議を進めるためには、相続人全員の参加が必要です。しかし、相続人の中に行方不明の人がいる場合は相続人全員が揃わないため、相続手続きが止まってしまいます。こうした状況に陥った場合、「失踪宣告」や「不在者財産管理人選任審判申し立て」など、裁判所での手続きを行うことで相続手続きを進めることができるようになります。ここでは、相続人が行方不明のときの対策について解説します。
相続人調査は、被相続人の出生から死亡までの戸籍などを取り寄せて、相続人となる配偶者、子、直系尊属、兄弟姉妹を調査していきます。遺言書がなく遺産分割協議を行う場合には、相続人全員の参加が必要です。そのため、相続人調査を行って、判明した相続人全員と連絡を取り、遺産分割協議を進めることになります。
調査で判明した相続人のうち、附票の住所に手紙を出したものの連絡がとれない人や、長年音信不通で所在がわからない人がいる場合には、状況に応じて「失踪宣告」か「不在者財産管理人」を家庭裁判所で選任してもらうことで、相続手続きを進めることができます。
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行方不明の相続人がいる場合の多くは、行方不明の人の財産を管理する「不在者財産管理人」を家庭裁判所で選任してもらい、その管理人の合意を得ながら相続手続きを進めることになります。不在者財産管理人を選任してもらう手続きを「不在者財産管理人選任審判申立て」といいます。
対して「失踪宣告」は、行方不明から7年間(災害や遭難などの危機で生死不明の場合は、危難が去ってから1年間)経過したときにとれる手続きです。そのため、失踪の時点から一定の期間が必要なため、相続手続きを進めるなかでの各種制度の期限との兼ね合いや、遺産分割協議に時間がかかってしまうのを防ぎたいという考えから、多くの場合は不在者財産管理人選任によって相続手続きを進めることになります。
行方不明の相続人の財産を管理する人を「不在者財産管理人」といいます。不在者財産管理人は財産を管理するだけでなく、家庭裁判所の許可を得たうえで、行方不明の相続人の代わりに遺産分割を行うことができます。
なお、遺産分割をめぐって審判手続きを行うような場合でも、行方不明の相続人がいる場合には、審判手続きの途中で不在者財産管理人を選任して手続きを進めることが一般的です。
申立人 | 相続財産の利害関係人、検察官 |
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申立先 | 不在者の従来の住所地または居所地を管轄する裁判所 |
必要書類 | 申立書1通、被相続人の出生から死亡までの戸籍など、申立人の利害関係を証明する資料、不在者財産管理人候補者の住民票、相続関係図など |
選任までの期間 | 約3か月~(事案によって異なります) |
「失踪宣告」は、行方不明から7年間(災害や遭難などの危機で生死不明の場合は危難が去ってから1年間)経過した場合に、法律上で「死亡したもの」とみなされます。家庭裁判所に対して申し立てを行う必要があります。失踪宣告がなされると、遺産分割協議などで行方不明の相続人は死亡したものとして相続手続きが進められます。
不在者の生死が不明(普通失踪)
生死不明期間 | 7年間 |
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死亡したとみなされる時点 | 生死不明から7年経過したとき |
戦地に臨んだ者
生死不明期間 | 1年間 |
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死亡したとみなされる時点 | 危難が去ったとき |
沈没した船舶にいた者
生死不明期間 | 1年間 |
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死亡したとみなされる時点 | 危難が去ったとき |
そのほか死亡原因となる危難に遭遇した者
生死不明期間 | 1年間 |
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死亡したとみなされる時点 | 危難が去ったとき |
申立人 | 利害関係人(不在者の配偶者、相続人など) |
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申立先 | 不在者の従来の住所地または居所を管轄する家庭裁判所 |
必要書類 | 申立書、不在者の戸籍謄本・戸籍の附票、失踪を証明する資料、不在者との利害関係を証明する資料など |
宣告までの期間 | 約1年~(目安) |
水難や火災などで死亡の事実を確認できないものの、死亡が確実な場合に官公庁が取り調べをして死亡の認定をすることを「認定死亡制度」といいます。認定死亡制度によって報告を受けた市町村が戸籍にその旨を記載することで、死亡したと推定されることになります。
2011年の東日本大震災において、法務省は「遺体が発見されていない場合でも死亡届を提出できる」として、届出人の申述書などを提出、受理することで相続手続きを進めるための配慮を行った例があります。