離婚・不倫慰謝料の基礎知識

熟年離婚の財産分与について

熟年離婚の財産分与について

現在では共働きの夫婦が増え、2010年以降は共働き世帯数が急激な伸びを示すなか、60歳以上のご夫婦では、夫が家計を支え、妻が専業主婦で家庭を支える世帯、いわゆる「男性雇用者と無業の妻から成る世帯」が当時は一般的で、現在の社会事情とは大きく異なりました。

熟年離婚を検討している、主に女性の方のなかにはこうした事情から、年金をはじめ、財産分与のことを考えるとご自身にとって不利なものとなり、離婚をためらってしまう方もおります。

ここでは、熟年離婚において問題となる財産分与で注意すべき点について解説します。

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この記事の内容

財産分与で対象となる財産とは?

財産分与の対象となる財産は、婚姻中に夫婦が協力して得た財産です。婚姻中に取得した財産は、基本的に夫婦で協力して得た財産であり、財産を得るための貢献度も平等だったものとして扱われます。

具体的な対象財産には、現金・預貯金・不動産・有価証券・車両・家財道具・退職金・企業年金・生命保険などがあります。

夫婦いずれかの名義のもの・共有名義のものを分与していきます。

お子さん名義での積立預金や家族経営の会社の財産など、夫婦名義でないものは、原則対象外です。もっとも、個別のケースによっては財産分与の対象になることもあります。

婚姻中取得した財産であっても、例外として「特有財産」は財産分与の対象にはなりません。

特有財産は、夫婦の協力とは無関係に得た財産で、結婚前から持っている財産のほか、相続した財産・親族などから贈与された財産などが代表例です。

財産分与の割合について

基本的な財産分与の割合は「2分の1ルール」に基づきます。

対象となる財産全体を見て、夫・妻それぞれの取り分が2分の1となるように財産を分けるのが2分の1ルールです。

2分の1ルールの例外としては、財産形成への貢献度に夫婦で大きく差がある場合が挙げられます。夫婦の一方が、芸術家や株式ディーラーなど、特殊な才能が必要とされるお仕事で多額の財産を築いたケースなどです。

もっとも、2分の1ルールの例外が認められるケースはかなり少なく、「自分より稼ぎが少ない」「家事労働や家計管理を任せきりにしている」といった事情で認められるのは困難です。

また、細かくいえば、2分の1ルールが適用されるのは、「清算的財産分与」についてです。清算的財産分与とは、夫婦が婚姻期間中に形成した財産について、離婚後、夫・妻どちらに所有させるかを処理し、清算を図るものです。財産分与の中心は、この清算的財産分与になります。

離婚後の生活の面倒を見る趣旨の「扶養的財産分与」、精神的苦痛を考慮した「慰謝料的財産分与」などが加味され、2分の1ルールが一部修正されることもあります。

いつの時点の財産を分けるのか?

財産分与の対象は、夫婦が協力して作り上げた財産です。したがって、対象期間は、夫婦が協力していた期間、すなわち婚姻から別居までとするのが一般的です。

離婚に向けて別居した後は、夫婦が協力しているとはいえませんから、その後に増えた財産は、分与の範囲から外れます。

一方で、財産の「評価」を決めるのは、離婚裁判の口頭弁論終結時(主張や証拠をすべて出し終わった後)です。不動産や株式など、時価が上下するものの評価には注意が必要です。

現金以外の財産を分けるには?

実際に財産を分ける際には、まず、今ある財産を2分の1ずつになるように夫・妻それぞれに割り付けるという方法があります(現物分割)。

現金・預貯金などの切り分けできる財産が多い場合にはそれでよいのですが、不動産など切り分けできないものが財産の半分以上を占めるケースもあります。このような場合には、不動産をもらう側が、もらいすぎた分(全財産の2分の1を超えた分)を、代償金として相手に支払います。代償金の負担ができない場合や、お互いに不動産はいらない場合には、不動産を売却して、売却代金を財産分与します。

持ち家や自動車の財産分与について

では、持ち家や自動車などの高額な財産がある場合には、どのように財産分与を行えばよいでしょうか。

持ち家の財産分与について

夫を名義人として結婚後に自宅(土地・建物)を買い、ローン契約者も夫となっている例を使って、場合分けしていきます。

自宅を売りたい場合
アンダーローンの場合・別居前にローン完済の場合

自宅の価値がローン残額より大きい(アンダーローン)場合、自宅の売却代金でまずローンを完済し、残ったお金が財産分与の対象となります。ローンを組んでいない場合・離婚前に完済している場合には、売却代金がそのまま分与の対象です(売却の諸費用は除きます)。

後は、他の財産と合わせて2分の1ルールにのっとって分与を行います。

オーバーローンの場合

自宅の価値よりもローン残額が大きい(オーバーローン)場合、家を売ってローンを返済してもローンが残ってしまうことになります。この場合、自宅に関して、財産分与の対象となる財産は残りません。ほかに財産分与の対象となる財産があれば、対象財産の金額から残りのローンの金額を差し引き、なおプラスになれば2分の1ルールにより分与します。対象財産の全てよりも残りのローンの方が大きく、マイナスになる場合には、財産分与は発生しません。残ってしまったローンをどうするかは夫婦で協議が必要です。

どちらかが自宅に住み続けたい場合
夫(自宅名義人・ローン名義人)が住み続ける場合

夫がこれまでどおりローンを支払いながら自宅に住み続けることになります。アンダーローンの場合、自宅の評価額からローン残額を差し引いた金額分の財産分与を受けたものとして扱います。

オーバーローンの場合は、財産分与との関係では、自宅の価値はゼロになりますので、その他の財産について、2分の1ずつを分与していきます。

妻(自宅名義人でもローン名義人でもない)が住み続ける場合

妻が住む場合も、「2分の1ルール」を使った処理については、夫が住む場合と同様ですが、別途名義の処理の問題が出てきます。

残ローンの状況について
残ローンがない場合 単純に夫から妻へ名義人(所有者)を変更します。
残ローンがある場合 ①自宅を妻名義に変え、今後のローンは妻が支払う方法
②名義人・ローン契約者は夫のままで、夫がローンを支払い続ける方法(その分を他の財産分与の取り決めの中で考慮するか、妻が夫に賃料を支払う)
③ローン契約者は夫のままで、妻が自宅を取得し、夫にローン分を毎月支払う方法

①については、妻の収入が夫より少ない場合、通常銀行はローンの名義人変更に応じません。その場合には、他の金融機関で妻を名義人として借り換えをしたり、妻の親族などを保証人に立てたりする必要があります。
妻側としては、ローンを背負う不安から、②や③の方法をとりたいと希望する方も多くいます。しかし、②の場合、自宅とローンの扱いは、完全に夫の手に委ねることになります。夫が自宅を売却したり、ローンの支払いを止めて自宅が競売にかかってしまうおそれもあり、最悪の場合、住む場所を失ってしまうことにもなりかねません。③の場合にも、同じくローン滞納での競売リスクがあります。名義をそのままにする場合には、十分にリスクを検討しましょう。

共同ローン・連帯保証

自宅のローンを組む場合、しばしば夫婦でペアローン・共同ローンを組んでいることがあります。また、妻が夫の連帯保証人になっていることもあります。

離婚に伴い、妻がローン契約や保証から抜けるためには、銀行との間で、債務者・保証人の変更手続きが必要です。新たに保証人を立てたり担保を提供したりする必要があることが多いので、事前に銀行に相談をしましょう。

連帯債務者や保証人のままで離婚することも考えられますが、この場合、夫がローンを支払えなくなったとき、銀行は残ローン全額を妻に請求してきます。十分にリスクについて検討しましょう。

頭金の処理

自宅を購入する場合に、夫婦の一方が結婚前に貯めたお金を頭金に充てることがあります。また、どちらかの親族から頭金の援助を受けることもあります。これらの場合、頭金部分は支出した側の「特有財産」になります。

この場合、離婚時には、「頭金が自宅購入金額に占める割合」×「離婚時の自宅の評価額」で出た金額が、特有財産として扱われることが多いです。

自動車の財産分与について

自動車についても、家の場合と同様に、アンダーローンなら、時価からローン残額を引いた金額の2分の1を分与し、オーバーローンなら価値のないマイナスの財産として扱う方法を取ります。

自動車の価格やローン金額は、有名高級車のような例外を除けばそれほど多額ではないことから、どちらかが自動車の現物を取得し、預貯金・現金で不公平を調整する方法をとることが多いです。

年金の分割について

熟年離婚で財産関係に大きな影響を与えるテーマとして、財産分与のほかに年金分割があります。

夫婦が納めてきた厚生年金の保険料納付記録を分割することで、年金受取額の公平を図る制度です。

分与すべき財産がなくとも、年金分割することで、入ってくるお金が増えることがあります。ご自身が年金分割請求をすべきかどうかも検討しておくとよいでしょう。

ちなみに、「年金」という名前でも、企業年金や個人型確定拠出年金(iDeCo)は、年金分割ではなく、財産分与の対象となります。後で説明する退職金や生命保険と同じように分ける方法をとることが多いです。

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退職金の取り扱いについて

退職金は、婚姻期間中の労働に対する給与が後払いされたものとして、財産分与の対象になります。

配偶者の貢献で築き上げた財産といえるのは、婚姻期間中の退職金です。そのため、結婚前から同じ職場に勤務している場合、財産分与されるのは、退職金全額の2分の1ではなく、婚姻期間中分のみです。実際にいくらと評価するかは、その会社の退職金規定などに基づいて計算します。

すでに退職している人であれば、実際の退職金を分けるということに問題はありません。これに対して、まだ勤務を続けていて、将来退職金を受け取る予定である場合には、どのように財産分与をするかが問題になります。

まず、退職時期が間近に迫っている等、近い将来に退職金を受け取れる可能性が高い場合です。このケースでは、満額の退職金(のうち、婚姻期間の分)が財産分与の対象になります。公務員など、退職金がほぼ確実にもらえる職種の場合、退職までの時期が長くとも、この方法で算出できます。

次に、退職までにかなり時間がある場合など、将来退職金をきちんともらえるかどうか不確かなケースです。この場合、離婚時点や別居時点で自己都合退職したと仮定して算出される退職金(のうち、婚姻期間の分)を分与の対象にします。

支払いの方法としては、①ほかの分与財産とともに一括清算する方法と、②実際に退職した時点で支払う方法が考えられます。

問題となりやすいのは②の方法です。いったん離婚してしまうと、相手がいつ退職したかのか、退職金を受け取ったかどうかを知るのも通常難しいですし、支払いを確実に確保することができません。②の方法をとる場合には、支払い確保のリスクを慎重に考える必要があります。

株式等の有価証券の取り扱いについて

株式や投資信託などの有価証券は、裁判時(口頭弁論終結時)の価格で評価して分与します。上場株式など流通性の高いものであれば、市場価格で決定します。非上場の株式の場合には、どのように評価するか工夫が必要です。

なお、夫婦の一方だけが投資商品を運用して財産を増やした場合でも、元手が婚姻中に形成された財産(婚姻中の給料など)であれば、基本的に運用益も含めた全額が財産分与の対象です。

保険の取り扱いについて

生命保険について

貯蓄性のある保険(掛け捨てでない保険)は、財産分与の対象です。具体的には、別居時点(一括払い済みである場合には離婚時点)での解約返戻金を分与します。実際には解約しない場合も同様です。

結婚前から掛けている保険の場合には、別居時の解約返戻金の額のうち、婚姻期間中に相当する分が財産分与対象です。

学資保険について

お子さんのための学資保険も、通常夫婦の財産から保険料を支払っていますから、財産分与の対象です。

①解約して解約返戻金を分与する方法
②保険をそのまま残す方法

①のメリットは、お金を分けてしまえるので、後のトラブルが少ないことです。一方で、中途解約になるので元本割れするケースが多いこと、お子さんの年齢によっては再加入ができないことがデメリットです。

②の場合、お子さんの将来のために保険を残せるのがメリットです。この場合、保険契約者は親権者となる側の親にし、保険料の支払いも親権者が行うのが望ましいです。非親権者名義にしておくと、保険料の支払いが滞ったり、勝手に解約されて、せっかく残した保険をお子さんのために使えなくなるリスクがあります。夫婦の財産に学資保険がある場合、名義人をどうするかについても協議しておくとよいでしょう。

財産分与の時効(除斥期間)について

財産分与を求める権利は、離婚成立時から2年で消滅します。

法的にいうと、財産分与は2年間の「除斥期間」の経過によって消滅します。

除斥期間は、時効と似ていますが、時効のような進行を止める方法(完成猶予や更新)がありません。離婚から2年が近い場合には、早めに弁護士に相談し、財産分与の調停・審判を申し立てましょう。

財産分与に税金はかかる?

財産分与は、夫婦ふたりで作り上げた財産の清算なので、基本的に贈与税などはかかりません。ただし、2分の1ルールを大きく逸脱するような分与や、財産分与の形を借りた不正な財産の移転は、課税対象となることもあります。

また、不動産をこれまでの名義人から相手方配偶者に分与する場合、分与する側に譲渡所得課税がなされる場合もあります。

ご自身で考えている方法での財産分与に税金がかかるか否かは、税理士などの専門家に相談しましょう。

相手の財産はどのように知る?

交渉や調停の中で、相手が財産の開示を拒むことがあります。この場合には、弁護士が弁護士会を通じて銀行や保険・証券会社に照会をかけたり(弁護士会照会)、調停・訴訟中であれば裁判所から照会をかけてもらう(調査嘱託)ことで、分与されるべき財産を調べることができます。

もっとも、憶測や勘でこれらの調査を行うことはできません。また、裁判手続きでは、基本的に「相手にはもっと財産があるはずだ」と主張する側が、財産の存在を証明しなければなりません。

同居している間に、最低限どこの銀行の通帳があるか、保険会社や証券会社からハガキや封書が来ていないかなどを確認しておきましょう。

財産分与の手続きについて

協議での合意

夫婦で協議ができる場合には、財産分与の合意書を作成して財産を分与していきます。離婚協議書の中に、財産分与の項目を設けることが多いです。自分たちで作成した合意書でも合意の効果はありますが、可能なら公正証書を作成しましょう。公正証書があれば、万が一取り決め通りの分与がなされない場合に、強制執行をすることができます。

離婚と同時に扱うなら離婚調停・離婚訴訟

離婚に際し、財産分与以外にも合意できない部分がある場合、離婚手続きの中で財産分与を一緒にテーマにします(「附帯処分」といいます)。

離婚調停が成立した場合には調停調書、裁判離婚をした場合には判決書の中で、財産の分け方が記載されます。

財産分与だけを扱うなら財産分与調停・審判

離婚をした後、財産分与だけを請求するなら財産分与の調停を申し立てます。調停のなかでどのように財産を分けるかの合意を目指して協議します。合意ができない場合、最終的には裁判官が財産の分け方を定める審判を出します。

財産分与で折り合いがつかなければ弁護士に相談する

ここまで離婚時における財産分与の内容について解説してきましたが、特に熟年離婚を検討している専業主婦の方においては、財産分与で対応を誤ると経済的に困窮することもあるため、注意が必要です。

財産分与で離婚協議がまとまらない、財産分与で不利となれば、その後の人生が厳しいものになるので離婚に踏み出せないなど、財産分与に関することで離婚に不安があるときは、一度弁護士にご相談されることをおすすめします。

この記事の監修

離婚・不倫は、当事者の方を精神的に消耗させることが多い問題です。また、離婚は、過去の結婚生活についての清算を図るものであると同時に、将来の生活を左右するものであり、人生全体に関わる問題といえます。
各問題を少しでもよい解決に導き、新しい生活をスタートさせるお手伝いができれば幸いです。

弁護士三浦 知草

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